那由多誰何との初戦闘。私の繰り出す攻撃はかすりもせず、逆に大きく吹き飛ばされてしまいました。
しかし那由多は追撃せず、その場に余裕を持って立ったままでした。
「……さっきの受け流しといい、今の技はまさか……あれは合気道?」
桃がボソリと那由多の戦い方について呟きます。
「合気道だぁ〜?」
合気道。敵の力を使って投げたりするとか聞いたことがありますが……誰も今まで使ってこなかったので私にとっては未知の武術です。
しかし桃の言葉に、那由多は少し不服そうにしてました。
「ちょっと心外だな。合気道はさほど長い歴史を持つ武術ではない。
歴史的に言えば合気道よりボクの方が古いし、長年戦っていると敵の力の流れがよく見えるから、自然とこういう形になるのさ」
その言葉は自信に満ち溢れていて、そして私の攻撃が良く見えると宣言しているようでした。事実私の2回の攻撃はいずれも完璧に捌かれてます。
「……まずい。シャミ子が最も苦手な相手」
「シャミ子は霊丸以外は接近戦主体だし、もろ喧嘩殺法だものね……」
「それもあるが、あいつはああいう受け流すタイプは初めてだろ。やらせときゃーよかったぜ」
そう、私の今まで戦ってきた相手はいずれもぶつかり合いが得意な人たちばかりでした。
師匠(浦飯さん)も良く組み手してくれる人(桃)も基本正面からの殴り合いが得意なタイプ。テクニカルなタイプではありません。
なので今までの相手は攻撃を受け止めるか避けるかで、こうも綺麗に捌いて同時に攻撃を繰り出してくる敵は初めてなのです。
「しかし、これでは本当に商店街から移動しなくてもよかったかもね。人に迷惑かからないまま勝てそうだ」
那由多は私の様子を見た後、そう呟きました。なんて嫌味なやつ……!
私は妖気を強め、拳を握ります。
「なら当たるまで攻撃するまでですー!」
那由多がチラリと桃たちの方をよそ見した隙に、私は接近します。
単発の攻撃では上手く捌かれてしまうのであれば、もっとフェイントを混ぜてやります!
接近した私は拳と蹴りを織り交ぜて攻撃します。足刀、手刀、突き、回し蹴り、フック、アッパー……。
今までよりかなりスピードを上げて攻撃を繰り出しますが、しかし全ての攻撃を軽く逸らされ、避けられます。
「(やはり当たらない!でも本命は喉への左足の蹴り!)」
今までの攻撃は当てる気ではありますが、実は目眩し。本命は喉へ左足のつま先が真っ直ぐ向かっていく、つま先による喉を突く攻撃です。
そして突きを繰り出す。タイミング的には文句なしでした。
「これだね」
しかし蹴りは那由多の首の捻りだけで避けられました。捻ると同時に私の足に添えられた那由多の右手が、私の足を跳ね上げるように上へと持ち上げます。
「それ」
那由多の左手は私の顔を覆うように掴んできました。
不味い、と思った時には後頭部から地面に叩きつけられる寸前でした。
考えるより早く、私はさらに自ら回転することによって叩きつけられるのを回避し、両足で着地できました。
「うりゃぁ!」
多少驚いた表情を見せる那由多へ左の下突き。左拳で下から鳩尾を狙う突きを繰り出しました。
「がッ……!?」
「甘いね」
しかし拳が届く前に、私の顎に衝撃が走ります。掌底をまともに受けたようで、一瞬脳が明後日の方向に吹き飛んだような感覚。
「おのれ……!」
掌底による攻撃で距離が空いた私は那由多を睨みつけますが、那由多は攻撃した位置から動こうとしません。
「フェイントを使ったつもりだろうけど、戦い方がお粗末すぎる。はっきり言って技術不足だね。基本からやり直した方がいい」
「何ですと〜!?」
反論したいところではありますが、一撃すら入れられない私は焦ってそれどころではありません。
ここまでの僅かな攻防ですが、明らかに技術的には那由多の方が上です。というかこのまま戦っても当てられる気がしません。
「まず当てることを意識しろー!そーじゃねーと話になんねーぞ!」
「(浦飯さんのいう通り、まずは一発ぶち込まないと話にならないですね)分かってますよー!」
今のこの状況は勝負になる以前のレベルです。まず一発攻撃を当てて流れを変えなければ。
幸い相手の攻撃は一撃で私を戦闘不能にするような理不尽レベルではありません。そういう意味ではチャンスはまだあります。
「なら次はこうだ!」
高速でやつの周りを動き回ることによって目を誤魔化す方法!単純だけど試す価値ありです!
「シャミ子ってば、前より更に速くなったわね」
「かなりのスピード。でも……」
「関係ねぇ!ぶっ殺せシャミ子ー!」
動きの強弱をつけながらやつの周りを移動し、徐々に近づく私。那由多は一歩も動かず、あくまで自然体のまま立ったままでした。
斜め背後からのローキック。ローキックならさっきみたいな足を掬ったりしにくいでしょう。
しかしローキックが来るのをわかっていたかのように、半歩後ろにズレた那由多はローキックのほとんどを避けつつ、また足を掬ってきました。
崩された体勢に対し、繰り出してくる掌底を、腕でガードします。
「もう少し頭を使った方がいい」
「うるさいですよ!」
その余裕たっぷりな表情を何としても崩してやる!
平面の移動がダメならば、近くの大きな木を足場に利用して、上からの攻撃!
上からくる攻撃に対しての投げ技なんて聞いたことありませんからね!
斜め上から飛んで拳を振るう私。しかし奴は軽い笑みさえ浮かべたまま、私の手首を浮かんで投げ飛ばします。
投げ飛ばされた私はその勢いを利用して木の後ろを回り込み、顔面へ右足での飛び蹴りを仕掛けます。
「単純だなぁ」
先ほどの攻防から、那由多は紙一重で避けるパターンが多い。つまり間合いはほとんど開けず、こちらの攻撃範囲にいるのがほとんど!
私の狙い通り、やはり今まで通りに紙一重で飛び蹴りを避ける那由多。
飛び蹴りは空中で身動きが取れないので、外されると大きな隙が生まれる。
だから那由多も紙一重で避けて、那由多からはガラ空きになった私の背中に掌底を叩き込もうと魔力を手に集中しているのがわかります。
そこで蹴りの体勢のまま、私の体は空中で止まりました。
「!?」
そう!先ほど回り込んだ木に尻尾を巻き付けておくことで、蹴りの途中で体が止まるように位置をコントロールしたのです!
そうすることで驚いた那由多の前で私の体が止まり、妖気を集中させた左足裏を奴の顔面へ叩きつけました。
「グ!?」
那由多が思い切り吹き飛ぶ手応えを感じた私は木から尻尾を外して着地します。
「どーですか!見事に決まりましたよ!」
「よし、ナイスだシャミ子!」
「ナイスよーシャミ子!」
「間違いなくクリーンヒットした」
そう、桃の言う通り間違いなく顔面へ直撃したはずです。ようやく一発まともに入ったのですが、どれほどのダメージになったのでしょうか?
公園の端まで吹っ飛んだ那由多は、ゆっくりと立ち上がります。
「尻尾をロープ代わりに使うとは、中々面白い戦闘方法だね」
服についた埃を落としながら現れた那由多は、鼻血どころか傷ひとつありませんでした。
まさかとは思ってましたが、あのタイミングで直撃した攻撃でも傷なしというのはいささかショックです。
「発想力という意味では悪くないが、いかんせん威力がない。そんな程度の妖気で勝てると思っているのかな?」
那由多から増した魔力は、物理的な攻撃となって私の肌を傷つけます。魔力を軽く放出しただけでこちらの妖気に覆われた守りを突破してくるとは……!
「もう少しできるようになっていたかと思ったが、少々買い被りだったようだ。
───君もそう思うだろ、佐田杏里?」
「───は?」
那由多が何故か急に杏里ちゃんのフルネームを言い始めました。恐らく私だけでなく、ここにいる全員が何故?と思ったはずです。
そして呼ばれた杏里ちゃんはいつの間にか那由多の隣にいました。
「何やってるんですか杏里ちゃん!そんな奴に近寄ったら危ないですよ!」
早くこっちに来るように手招きをしても、邪神像を持ったまま杏里ちゃんはピクリとも動きませんでした。それどころかどこかぼーっとしているかのような表情です。
「おいテメェ!杏里に何かしやがったな!」
那由多の隣にきてしまった邪神像から浦飯さんの怒声が那由多へ放たれますが、奴は軽く笑うだけでした。
「今は何もしてないよ。今はね」
「何言ってんですかアンタは!現に杏里ちゃんの様子がおかしいじゃないですか!」
まるで何もしてないかのように振る舞う那由多。那由多は隣にいる杏里ちゃんの頬を右手で撫でます。気持ち悪いことをしているんじゃない!
「待って那由多誰何。今は、と言った?」
「そうだよ桃ちゃん。よく考えてね」
黙り込んで考え始める桃。私は先ほどの戦闘から来る汗ではない、別の汗が背中を伝って落ちていきます。
今までの言動を考えると、どうしても嫌な想像しか頭に浮かびません。
今日奴に出会った瞬間に杏里ちゃんは何らかの能力を受けた?いや、それなら誰かしら気づいているはず。今日ではないのは確かです、ならば一体いつから……。
「桃、私すごく嫌な予想ができたんだけど」
ミカンさんが心底嫌そうな表情を浮かべ、桃は冷や汗を流してました。
「私もだよミカン」
桃は今まで見たことが無いほど表情をきつくし、殺気も出し始めました。その表情からは嫌悪と怒りが感じ取れます。
「……私が杏里と出会う前から仕込んでいたのか!答えろ、那由多誰何!?」
「な!」
「にぃ!?」
桃が杏里ちゃんと出会ったのは中学生の時のはず。そんな前から能力をかけていたなんて、能力の持続を考えれば普通あり得ないはず!
私と浦飯さんは驚き、那由多の顔を見ます。
そして那由多の表情を、とても楽しそうで。
嫌でも、それが真実であると分からされてしまいました。
つづく
原作見ていた時から、杏里ちゃんはシャミ子と桃が出会うために必要な人物でした。てか彼女が大体重要な人物への橋渡しをしてます。
しかも喫茶あすらの橋渡しも彼女。他の人たちが魔族を忘れているのに、ねぇ。
こんなピンポイントで便利な友人いる?と考えたところでこんな感じに。