まちカド☆白書   作:伝説の超浪人

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ちょいグロ注意。また内容が短くなっております。


55話「それぞれの戦い(桃)です!」

桃が飛ばされた先は洞窟というには壁が酷く有機的……まるで内臓のような印象を受けた。

 

幸い、薄暗い場所であったため見えづらいのであまり気にならないのが救いか。生理的な気持ち悪さはあれど、戦い続けてきた桃からすれば気になるほどでもなかった。

 

近くに気配がひとつ。これは味方の気配ではない。

 

「………」

 

ほぼ足音がない。桃の目の前に佇む黒影という黒づくめの男は、存在感も含めて影のような印象を抱かせた。

 

「……各個撃破が目的ってことだね」

 

変身を済ませた桃は黒マントを翻し、黒い日本刀の柄に右手を添える。

 

「そうだ。あの魔族は那由多様自ら手を下すことを望まれた。ならば露払いをするのは俺の役目だ」

 

黒影もマントと眼帯を取る。

 

袖が破けたシャツに、黒ズボンと黒ブーツ。そして抜かれた刀は禍々しい魔力に満ち、だが刃は美しく銀色に輝いていた。

 

眼帯を外した目は赤く輝いており、魔力を秘めていることがよく分かる。

 

「……魔眼か」

 

「……そうだ。これがなければ那由多様に出会うこともなかった」

 

酷く生々しい、酔っているような言い方だった。

 

彼が那由多に心酔しているのは見れば分かる。那由多も彼の前で散々計画のことを喋っていた。那由多は彼が覚悟を決めているのを知っているし、裏切らないのを分かっているのだ。

 

もし桃が彼を辞めるよう説得したとしても聞く耳を持たないだろう。

 

「……君は人間に見えるけど」

 

「そうだ。俺は人間だ。ただ数世代前の先祖の魔法少女の力が宿った……そのためだ」

 

「隔世遺伝か……!いや、もっと離れているね」

 

隔世遺伝。祖父や祖母などの特徴が孫に現れることを指す。つまり一世代飛び越えている状態となる。

 

だが黒影の場合はそれよりもさらに数世代前の魔法少女の特徴を受け継いでいる。それこそ一族の者も忘れさられた人物の特徴を受け継いでいるのだ。通常の隔世遺伝よりも少し大きい程度か。

 

これは人間、魔族ともに現れる事例となっている。ただ極端な隔世遺伝……いわゆる大隔世遺伝の場合、元となった人物が凄まじい実力を持っているパターンが多い。

 

元が魔法少女で、隔世遺伝が発現した子孫が女の子の場合は、女の子の能力者=魔法少女として一般的にも認知されているからまだ周りが受け入れる空気もある。

 

しかし目の前の黒影のような男の子の場合はそうではないことが多い。魔法少女の認知度が高すぎて、男の子の能力者の認知度が低くなっているのだ。

 

両親ともにただの人間だったのに、突然自分の子供が強い能力者として生まれてしまった場合、素直に受け入れる人間が果たしてどの程度いるのだろうか?

 

少なくとも那由多と一緒にいる時点で黒影の周りは好ましい環境ではなかったことは明白だ。

 

「それだとナビゲーターとの契約はされてないってことか……ではその体は生身だね」

 

「その通りだ」

 

彼は人間だ。魔法少女と普通の人間の大きな違いは魔力と肉体だろう。

 

魔力の有無はそのまま戦闘力に現れる。

 

魔法少女の肉体はナビゲーターと契約し魔法少女となった時にエーテル体となる。

エーテル体……つまり魔力が元となって構成されているのだ。生身ではないのだ。

 

エーテル体は多少の欠損程度なら再生でき、桃自身も過去胴体真っ二つになるような大怪我を負っても復活できている。魔力さえ枯渇しなければ再生できるのだ。

 

魔法少女を完全に倒すには魔力を枯渇させるか、エーテル体を粉々にして露出したコアを破壊するしかない。

 

それに対して生身の肉体の場合は欠損すればそのままだし、心臓を刺されれば死ぬ。もちろん真っ二つになっても死ぬ。

再生できるか出来ないかで、攻撃への意気込みというか、踏み込みが大きく変わるのは何となく分かる人は多いだろう。

 

そんな彼の肉体には大小様々な傷跡があった。それだけ死線を潜り抜けてきたのだろう、その目に怯えなんてものはなかった。

 

「(……強敵だな)」

 

体から発する魔力の強さ。佇まい。桃の勘が目の前の男の強さを感じ取っていた。

 

「(殺さずに勝つのは無理だな)」

 

桃は深呼吸する。

 

「……引けば何もしない。私たちは那由多を止めたいだけだから」

 

「断る。誰かも知らぬ父親の種でクズの母親から生まれた俺はこの力があったから捨てられ、この力があったから那由多様の力になれたのだ。

あの方の命令は何よりも優先される……!」

 

望みが限りなく薄かった停戦の提案も、切って落とされた。その目にブレはない。

 

桃はどちらかが死ななければ決着がつきそうにもないことも感じ取っていた。

 

魔法少女でも魔族でもない人間を殺す。

 

そう決心した時、脳裏にチラついたのはシャミ子の顔だった。

 

もしシャミ子と出会う前なら斬ることに躊躇はなかったであろう。しかし人殺しをしたら、シャミ子はなんて思うのだろうか?

 

そんなことを考えてしまっている自分の甘さに、桃は内心笑っていた。

 

シャミ子だけじゃない。多くの人と関わって自分は変わった。もっとその先を、体験してみたい。

 

どう思われようと───やるべきことは一つ

 

「……勝負」

 

「応!」

 

桃は刀を抜いて、鞘を捨てる。だが構えは抜刀術の位置のままだ。

 

対して黒影も同じ構えであった。こちらも鞘は捨てている。

 

黒影の刀は長年生きてきた那由多が見つけた無銘の霊刀である。

 

霊刀は切り捨ててきた数多の妖怪の怨念と、命を落としてきた持ち主の魔力が合わさって禍々しいとまで言える雰囲気を持つ霊刀となっていた。

 

だが黒影は霊刀頼りの男ではない。彼から発せられる魔力の力強さを桃は肌でビリビリと感じ取っていた。

 

「(……剣での勝負は不利)」

 

剣の勝負では7対3……よくて6対4。桃は自身の方が不利であることを悟っていた。

 

那由多の陣営は時間を稼ぎにきている。長引かせることは実力的にも、状況的にも良くない。早期決着……桃にはそれが求められていた。

 

今までの桃ならば剣以外の戦いに持ち込んだであろう。勝つために工夫を凝らすことは当然だからだ。

 

だが今の桃はそのまま剣での勝負を挑んだ。

 

確実な勝算があるわけではない、ただの勘だった。

長年戦い続けた勘が、このまま勝負に挑めと叫んでいた。

 

───対峙は一瞬であった。

 

桃の踏み込みよりもさらに早く黒影は飛び込んできた。お互い横薙ぎの一閃。

 

速度が早ければ、その分威力も増す。お互いの踏み込んだ足が地面を割り、刀が激突する。

 

ミシッと桃の刀から嫌な音が発せられた。

 

弾かれた2人の距離が開く。桃は自身の刀にヒビが少し入っているのが分かった。対して黒影の霊刀は問題なし。

 

打ち合いに差が出た。その差は体勢の立て直しに現れ、僅かに黒影の方が体勢の立て直しが早かった。

 

弾かれた勢いのまま、黒影は桃の脳幹ごと断ち切ろうと左手一本で左薙ぎを放つ。

 

如何に再生力が高い魔法少女であろうとも、脳を斬られれば早々再生できない。黒影の戦闘経験からの一撃である。

 

桃が後退したとしても致命的なタイミングでの一閃。故に桃は左腕を防御として用いた。

 

「(左腕を捨てたか!)」

 

左腕が切られている時の肉の抵抗が、何もない時より時間を僅かに稼いでくれた。

 

左腕が鮮血とともに宙を舞う。

左腕が切られているうちに、桃は上体を右下に沈み込むようにすることで、剣閃からギリギリのところで逃れることが出来た。

 

沈み込んだ状態から右手に持った刀を振る。

真下から真上へ、顎から脳天まで真っ二つにせんとする剣閃。

黒影は考えるより早く顔を後ろに逸らしたことで、頬と魔眼を切り裂かれる程度に済んでしまった。

 

「(浅い)」

 

「(勝った!)」

 

黒影は霊刀を返して、桃の胴へ斬りかかった。

 

魔法少女でも脳を切り裂けばしばらく動けなくなる。それは胴を真っ二つにして動けなくしてからトドメを刺しても結果は同じ。

 

先ほどの脳への攻撃はこのための布石!

 

黒影は自分の霊刀が、桃の胴の肉を切り裂いていく感覚を手から感じ取っていた。

 

勝ちを確信した黒影は見た。

 

腹を切り裂かれているにも関わらず、斜め前に踏み込んでこちらの首に刀を振るう桃の姿を。

 

───混ざり合った血が辺りに飛び散った。

 

黒影の鼻から上の頭が明後日の方向へ飛んでいき、残った体から噴水の如く血が噴き出していた。

 

桃の胴はほぼ真っ二つにされかかっていた。腹から夥しい血が噴き出ている。

 

黒影は飛んでいく視界から、決着を理解できた。

 

「───お見事」

 

ただ称賛の言葉だけが、脳から切り離された黒影の口から出た。そして飛んでいた頭は地面へ転がり、残った胴体も倒れた。

 

───あぁ、終わっちゃった

 

桃は何処か寂しさを感じさせるような、そんな言葉を自然と吐こうとして、もう声が出なかった。もう体の自由が効かず、前に倒れ込むのを他人事のように感じていた。

 

お互い欲しい未来のために戦って、小細工なしの純粋な勝負が出来たことで何か彼にシンパシーを感じたのだろうか?

 

桃自身よく分からないまま、桃の意識は闇に堕ちていった。

 

「(……助けに、行かなきゃ……)」

 

心残りは、脳裏に浮かぶ楽しそうなシャミ子の笑顔だった。

 

つづく




というわけでかなり短いですが、飛影vs時雨のオマージュ戦。あの戦い好きなので書いてみたかったんですよ!!
ちなみに魔法少女って真っ二つになっても大丈夫ってミカンが原作で言ってた。もはや魔法少女じゃなくて別の生き物だと思う耐久性。

黒影
B級中位妖怪程度の魔法男子
魔眼を使って千里眼、抵抗力のない人間への呪縛、催眠などが可能。
しかし長時間の命令はできないので、那由多は一般人などへの長期間の命令の際は催眠ペンライトを用いた。

黒影の過去話をこの話で入れようと思ったんですが、長くなるし別に知ったところでへぇって感じなんでカット。

なのでちょびっとだけ。
黒影くんは元魔法少女の血筋で生まれた子で、最初から魔眼持ちの魔力持ち男子。つまり突然変異。
遠い先祖が魔法少女ってだけで母親はただの人間だし、誰が父親かも分からないくらい爛れた生活を送っていたため、生まれた後も碌でもない家庭環境で当然性格は捻じ曲がる結果に。
色々あって戦い続けたが那由多に拾われて心酔している感じ。ちなみに以前の話で闇御伽3人衆の依頼主を魔眼で操ってたのはこの子。
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