まちカド☆白書   作:伝説の超浪人

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今回の新キャラのイメージは陰の実力者になりたくて!のイータ


57話「それぞれの戦い(ミカン)です!」

どすん、と大きな音を立てて尻が地面へ着地した。

 

「あーもう、何なのよ!」

 

お尻を痛めた少女───ミカンは魔法陣で強制移動させられたせいで被害を被り、思わず文句が出た。

 

「で、どこかしらここ」

 

辺りを見渡すとかなり明るい。機材もたくさんあり、よく分からない肉のような物体がケースからはみ出ていた。

 

はっきり言って気持ちが悪い空間である。ミカンは嫌な予感がしまくっていた。

 

「……あー、もう来たんだ」

 

少し離れたところから声が聞こえる。

 

椅子に座っていた気怠げなスタイルの良い美少女は、ミカンを見るなりボサついている紫の長い髪をかきあげた。

 

外見はただの美少女にしか見えない。ミカンと同い年くらいだろうか。

 

魔法陣で転移させられて現れたミカンに対し、敵意がほぼない。むしろ厄介ごとが来たといった態度である。

 

しかし彼女から感じる力は妖気である。妖気ならば人間でなく、魔族か魔族のハーフ、そのどちらかだ。

 

「(那由多って確か魔族を殺しまくっていたはずなのに、なんでこの子は無事なのかしら?)」

 

魔族を憎み、喰って糧にしている那由多が自分の手元に魔族であろう彼女を置いておく。

 

あの那由多が生かしたままにしておく理由があるのだろう。

 

「あんたが私の相手ってわけね」

 

とはいえ敵には変わりない。ミカンが尋ねると、少女は頭を数回掻いた。

 

「……やらなきゃダメ?」

 

「はぁ?」

 

白衣を着た少女からは面倒臭いという態度がありありと出ていた。流石にこの状況でそんな言葉が出てくると思わず、ミカンは思わず口に出してしまった。

 

ただその態度も罠かもしれないので、ミカンは即座に変身する。

 

臨戦体勢に入っているミカンに対し、少女はあー……と声に出しながら面倒臭そうに何度か頭を掻く。

 

「あんた、那由多の仲間じゃないの?随分余裕かますわね」

 

「……あんたじゃない。イク」

 

「あら、ごめんなさい。私はミカン。陽夏木ミカンよ」

 

名前を呼ばれるとイクはうんうん頷いた。どうも名前は気に入っているらしい。

 

「……仲間、だと思う」

 

「思う?」

 

「……イクは色んな物を作りたい。でもイクの作り出すものは理解できない人が多いって那由多が言ってた。理解してくれない人ばかりの中で、イク1人だけじゃ場所も確保できないだろうって。

だから那由多は場所も資金も材料も用意してくれた。なので見返りとしてイクは色々発明して協力した。それだけ」

 

「……なるほどね。天才発明家ってやつ?」

 

もう説明からして那由多の怪しさが爆発しているが、当の本人はあまり気にしてないようだ。ため息を吐きたい気分を抑えてミカンは褒めた。

 

「えっへん」

 

どうにもミカンにはイクが嘘を言っているようには見えなかった。話すのさえ面倒くさそうにした少女は、褒められると鼻を高くして喜ぶほど素直だからだ。

 

そしてイクは先ほどまで作業していた机の上の何かをチラチラ見ている。どうやら作業に戻りたいようだ。

 

ミカンは迷っていた。戦いを挑むのは簡単である。

 

那由多は強い……シャミ子との攻防を見ていれば感じ取れる。急いでシャミ子の元に駆けつけなければ、シャミ子にとって厳しい勝負となるだろう。

 

ここで戦闘を避けて先に進めば時間的には有利になるが、その場合はその後イクがどういう行動に出るか分からない。

 

もし戦闘を避けた後しばらくしてからイクが後方から仕掛けてきて、那由多とイクの挟み撃ちになった場合が一番厄介である。それだけは避けたかった。

 

那由多に騙されているっぽい、この少女を味方に引き抜くというのはどうだろう?発明が好きそうだし、環境とかを整えて、那由多より好条件を出せば引き抜けるかもしれない。

 

資金力……ミカンは実家が工場をやっているので金はある。桃も金持ちだ。シャミ子はダメ。リコやマスターもダメ。小倉は住所不定、幽助はそれ以前の問題。なのでダメ。

 

では研究室になる建物はどうだろうか?

桃の家は多分ダメ、嫌がりそう。 ばんだ壮はギリギリ大丈夫か?

 

材料は……分からん。

 

結論としては……ダメじゃね?そう思った。

 

「ちなみに何を発明したの?」

 

「……色々。油汚れを一瞬で落とす洗剤とか、飲み込むと鉄にみたいに固くなる鉄丸、水を剣にできる魔道具、魂を抜き取る玉とか、催眠ペンライトとか」

 

「那由多が持ってたペンライトと餓鬼玉を作ったのはあんたかい!」

 

大きな声を出したせいか、イクはビクッとしている。

 

このイクという少女、外見はかなり大人びているのにどうも先ほどから反応が子供っぽいなぁとミカンは感じていた。

 

下手をするとシャミ子の妹の良子より子供っぽく感じる。

 

「(なんかチグハグなのよねぇ)」

 

ここでイクを怒鳴りつけるのは簡単だ。なんてものを作り出したんだと。

 

しかし今現在イクはミカンの質問に答えてくれている。那由多から情報を得るより、イクから情報を得た方が信憑性がありそうだとミカンは感じ取っていた。

 

故に優しく接することにした

 

「ああ、ごめんなさい。大きな声出して。那由多のやつ、あなたの発明品を悪いことにしか使ってないわよ?」

 

「……【催眠ペンライト】は那由多が作れって言ったから作っただけ。アレは催眠能力を持っていた魔族の心臓を那由多が持ってきたから、それを使った。作るの簡単だったから、アレにはあんまり興味ない」

 

「そっかぁ……」

 

簡単?あれが?

 

効果も凄いが、今言った作るための材料も酷い。何で心臓使うんだよ、そこは脳じゃねーのかよとミカンは内心突っ込んだ。

 

当のイク本人は首を捻って「変なこと言ったかな」と呟いていた。

 

イクからすれば、あの程度の魔導具は簡単に作れるものだったのだろう。

 

魔族があんなもんを簡単に作れるなら、昔はもっと人間の被害が拡大していただろう。イク自身が魔導具の価値に気づいてないようだ。

 

「そう言えば、さっき魂吸い取れる玉……餓鬼玉を作ったって言ってたわね。

那由多がさっき邪神像から魔族の魂を抜き取ったって言ってたけど、あなたの発明した道具を使ったのかしら?」

 

通常、邪神像に封印された魔族の魂を解放するには魔族と別の存在……魔法少女の魔力を捧げる必要がある。だがその血は膨大な量が必要だ。

 

以前邪神像から喋れる程度に封印を解いただけでも桃の魔力は結構持っていかれた。

 

そのことを考えると相当量の血を捧げないと完全解放は不可能である。それこそ魔法少女が消滅するレベルで血を捧げる必要が。

 

しかし血なしで中身だけ抜かれるなんて技術があれば、大抵の封印術が無意味になってしまう。今後のためにも聞く必要があった。

 

「……うん。それはイクが作った餓鬼玉の効果のおかげ」

 

イクの懐から出した玉はガラスを何枚も細かく貼り付けたようなもので、見た目はともかく嫌な魔力を発していた。

 

「……ちょっとインテリアとしては派手ね。それでどうやって中身抜き取ったっていうのよ?」

 

「……接触するほど近づければ勝手に魂を抜き取れる。封印されてたらダメだけど、基本は魔力が強い相手には効かない」

 

ちょっと自慢気にしながら言った内容は割ととんでもなく、ミカンは眉が片方上がる。

 

「随分物作りが上手みたいね。でも悪用されたり無くしたら大変じゃない?」

 

「……うん。実は試作品を前に無くした。魂だけ食う鬼の魔族が悪用してたらしいけど、黒影が魔眼で見つけた時はもうその魔族は死んでたって」

 

「管理はしっかりしなきゃダメよ!」

 

「……うっかり」

 

「反省すればいいわ。それに悪用した魔族はそいつはシャミ子が倒したわ」

 

「……ふーん」

 

あまり誰々が倒したとか、そういったことには興味ないようだ。

 

「でもそれじゃ取り出せるのは魂だけでしょ?シャミ子の先祖は肉体があったわ。それはどうしたのよ?」

 

「……那由多が持ち運んできた魔族の死体を色々掛け合わせて作った。イクの計算だと巨大な魔力を収集させても耐えられるように改造してある」

 

「(本当にこの子、なんでも作れるみたいね……)」

 

恐らく多くの魔族の肉体を使ったのだろう。部屋の隅などにはぱっと見でも色んな種類の肉があることから、間違いないだろう。普通でなくても嫌悪感が先にくる研究内容だ。

 

「那由多の計画が実行されると、あんた……イクは研究出来なくなるけどそれはいい訳?」

 

かなり表情は分かりづらいが、あんたと呼ばれると顔を顰めて、イクと名前を呼ぶと嬉しそうにするので切り替えて呼ぶ。

 

尋ねた内容にイクはうーんうーんと唸った。実際のところ、本人もこの状況はあまり好ましくないようだ。

 

「(なんかこの子、子供っぽいのよね)」

 

名前だったり、作った物を否定しなかったりすると表情は分かりにくいが嬉しそうなのだ。

 

見た目に反してかなり子供だ。というより反応が素直すぎる。その癖作るものはかなりグロい物で、内面とかけ離れている。

 

そのことにミカンは強い違和感を持った。

 

しばらく唸って、イクは大きくため息をついた。

 

「研究出来なくなるのは嫌。でも他じゃできないし、居場所もない。だから那由多に従う」

 

「居場所がないなんて……」

 

「他の場所を知らない。だから那由多が戦えって言うのなら戦う」

 

イクの白衣がドロリと溶け、黒いボディスーツとなる。魔法少女の変身とはまた違う、着ている物自体に変化する能力があるらしい。

 

「スライムの魔族を応用して作ったスーツで【スライムスーツ】っていう。伸び縮みも自由自在」

 

こんな感じで、とこちらに向けた左手の指が急速に伸びる。

 

「ちょっと!きちんと研究内容を発表してからやりなさいよ!」

 

「……見せた方がわかりやすいと思った。それに説明してもほとんどの人間は分からないって那由多は言ってた」

 

5本の左手の指が異常に伸びて、まるで蛇のように迫り来る。しかしミカンは余裕を持って避ける。

 

「凄い避ける。じゃあ次はこれ」

 

空いている右手で腰のポケットからビー玉みたいなものを取り出したかと思いきや、光った瞬間変なバズーカっぽい何かが握られていた。

 

「【怨霊バズーカくん】こいつで浮遊霊をセット」

 

「ちょっと!イクってば浮遊霊って言った!?」

 

「ふぁいやー」

 

バズーカの後ろから浮遊霊をセット。そして引き金を引くことで骸骨の顔だけのような霊が結構な速度で飛んでくる。

 

ミカンが避けると、壁に着弾。数十cmの穴ができた。

 

「やめなさい!危ないし洞窟が崩れるでしょ!」

 

「でもせっかく作ったのに……」

 

子供か!とミカンは叫びそうになる。

 

これ以上付き合っているともっと厄介な物が出てきそうだ。

 

「いい加減に……」

 

ミカンはジグザグに走り、背後へ回り込む。

 

「しなさい!」

 

手刀で意識を刈り取る。そのために首の後ろを狙った。

 

だが突然首元部分のスライムスーツが針のように伸びる。

 

「なっ……!?」

 

ミカンは反応できず、細い針のようになったスーツに左肩を貫かれる。

 

「がぁ……!」

 

「……サンダー」

 

「きゃあぁあ!?」

 

刺された部分へ電撃を浴びせると、ミカンは悲鳴を上げる。

 

しばらく電撃を浴びせるとスライムスーツは元の形へ戻る。それに伴い、ミカンはうつ伏せで倒れ込んだ。

 

イクには絶好のチャンスである。しかしイクはしゃがみ込んでミカンの様子を見るだけだ。

 

「……手加減したけど、大丈夫?」

 

ミカンはギリっと歯を食いしばった。

 

馬鹿にされている!そう思い込んでも仕方ない一言だった。

 

しかし一向に次の攻撃が来ない。ミカンは前より強く違和感を覚えていた。

言葉の端に、いちいち那由多が……とつけることがおかしすぎる。

 

「……凄いわね、あなたは」

 

故に言葉で探りを入れる。自身の怒りを飲み込んで、違和感の正体を探るために。

 

気づいているのか気づいてないのか、イクは嬉しそうだった。

 

「……えっへん」

 

「……こんだけ色々作れるんだから、いっぱい褒めてくれる人は世の中にはいっぱいいるわ。

特に油汚れを一瞬で落とす洗剤なんて世紀の発明よ。

もっと外に出れば、イクは皆から凄いって言われるわ。こんな暗くて人がいない洞窟なんかじゃなくてね」

 

些かママ目線で発明品の良さを語っているが、嘘偽りない感想である。するとイクはわずかに寂しそうな表情を浮かべた。

 

「……ないよ。那由多以外に褒められたこと」

 

「は?」

 

それはないだろう、と否定しようにもイクの目はどこまでも濁りがなかった。

 

「イクが1人だったところを那由多が拾ってくれた。周りに誰もいなかったから、イクはついていった。

那由多が欲しいもの作れば褒めてくれた。他の時間はずっと研究出来た。でも見せるのは那由多以外じゃミカンが初めて」

 

ミカンは絶句した。那由多はここにイクを閉じ込めて、利用していたのだ。それを本人がおかしなことだと思ってない。

 

これだ、違和感の正体は。自身の状況について何も疑問に思ってない。

 

今までの会話も、那由多が言ったから正しいと信じ込んでいる。

 

「……いつから那由多と一緒にいるの?」

 

「6歳の頃から多分10年くらい。あんまり外出しないから分かんない」

 

ミカンたちと同世代であった。年齢で言えば親の言うことに反して色んなことをしたい時期だ。にも関わらず、那由多はイクをここに閉じ込めている。

 

ミカンは沸々と怒りが沸いてきた。

 

「小さい頃、誰か女の人や男の人が褒めてくれたりしなかった?」

 

「小さい頃……?」

 

あえてミカンは親という単語を使わなかった。もしかしたら本当に孤児かもしれないから。

 

それでも6歳まで、那由多に連れて行かれる前は誰かがそばにいたはずだ。

 

イクは唸っていた。思い出そうとしても、誰も思い出せない。

 

白くて大きい家にいたことは覚えている。何かのおもちゃで遊んでいたことも覚えている。誰かが本も読み聞かせてくれたことも覚えている。

 

ただ遊んでいた誰か、読み聞かせてくれた誰かが思い出せない。思い出せるのは那由多の顔だけ。それ以外は抜け落ちていた。

 

「あれ、なんで……」

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫?」

 

イクは頭を抱えて蹲った。何故ミカンに言われるまで考えなかったのだろうか?

 

何かを忘れていることすら、何故忘れていたのだろうか?

 

記憶を探ろうとも何も思い出せなかった。那由多と出会ってからのことは細かいことまで覚えているのに、それ以前のことがまるで思い出せなかった。

 

思い出すのは那由多との薄っぺらい記憶のみ。それ以外はまるで白いペンキで塗られたように思い出せなかった。

 

まるで綺麗さっぱり消されたかのように。

 

「な、なんで思い出せないの……!?なんでぇ……!?」

 

イクは泣いていた。頭が痛かった。思い出そうとしても、何も出てこない。

 

自分がひとりぼっちで白い部屋にいたことしか思い出せない。絶対に誰かが隣にいたことは覚えているのに、誰かがわからない。

 

ミカンはもう戦いが終わったと感じていた。ここにいるのは那由多の仲間ではない。大切な記憶を失った少女だった。

 

自暴自棄になって暴れる可能性だってある。ミカンはそれを承知で、イクを抱きしめた。

 

「ごめんね、辛いこと思い出させてごめんね……」

 

「───ッッ!!!」

 

 

☆☆☆

 

 

しばらくして落ち着いたイク。

 

イクから怪我をさせてしまってごめんなさいと謝罪され、イクがポケットから出したビンのドロリとした緑の液体をミカンの傷口に垂らすと、あっという間に治癒したのだ。

 

「あなた、本当に凄いわね」

 

「……再生能力の高い妖怪の細胞を応用した治癒剤。害はないから大丈夫。色んなの作ったうちの一つ」

 

彼女の研究は多岐に渡るらしい。確かにこれは那由多が手放したくない訳だ、とミカンは思った。

 

少しして落ち着いたイクに那由多たちがやってきたことや能力のことを話すと、イクはとても驚いていた(とは言っても表情は分かりづらいが)。

 

イクは研究に夢中で、知っていたのは大まかな計画だけだったらしい。

 

那由多や他の連中の能力どころか素性もよく知らない有様であった。

 

恐らくではあるが、イクの能力に目をつけて那由多が魔族である両親を殺した後、イクの記憶を奪って都合の良いように誘導したのだろうと話す。

 

イクはしばらく黙った後、ミカンを真っ直ぐ見つめる。

 

「……那由多に会いたい。本当のことを聞きたい」

 

「協力するわ。着いてきて!」

 

ミカンとイクは走り出した。那由多の元へ。

 

つづく






イクとまともにやり合うと、道具の多彩さでミカンは負けるルートだった。
いわゆる説得が分岐点というやつですね。
これはミカンママにしか出来ない芸当。桃ならやばかったかも

イク 
C級上位クラスの半妖。父は人間、母は魔族のハーフである。
研究や発明を始めると寝食を忘れて没頭するタイプ。そこは母親そっくり。
那由多もそこの部分はちょいちょい気を配って面倒を見ていた。

手間がかかる部分もあったので、そこが黒影は気に入らなかった様子。
発明していると満足するため、対人関係はほぼなく、コミニュケーション能力はかなり低い。

発明品は多岐に渡る。
油汚れを一瞬で落とす洗剤。鉄丸、閻水、餓鬼玉、催眠ペンライト、怨霊バズーカくん、スライムスーツ、治癒剤などである。他にも多々あり。
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