まちカド☆白書   作:伝説の超浪人

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今回、ちょっと幽白っぽさあり。残酷描写のタグは必要ですかね?個人的にはまだ大丈夫と思うのですが。


6話「あなたは、それが食事っていうんですか……!?」

前回、魔法少女の生き血を捧げたことにより、封印が一部解除されました。

 

内容は浦飯さんが邪神像のままで喋れるようになったこと。そしてもう1つは我が家の1ヶ月4万円生活が解除されたことです。

 

つまり極貧生活から解放され、生活全般が向上するということです。

 

これだけでも、辛い修行に耐えた甲斐があったというものです……!まぁ、封印が解けた経緯はかなり納得いきませんが、結果を考えればよしとしましょう。

 

しかし封印が解けたことにより、問題も発生しました。

 

それはこの街の結界が弱まったことです。

 

封印解除に魔力を吸い取られた、つまり桃の魔力の総量が減ったことで桃の魔力で維持していた街を覆っていた結界が弱くなったことを意味していると、桃がベッドで寝ながら教えてくれました。

 

この街の結界は簡単にいうと「人間と魔族がゆるく暮らせるように争いをなくす」ような結界で、悪意がない魔族が移住してこれるような代物らしいです。

 

つまりこの結果が弱まるということは、悪意をもつ魔族が来るという可能性が高くなったと言えます。

 

桃曰く、最近は魔法少女も魔族も穏健派が増えて争いは少なくなっているらしいですが、油断できないそうです。

 

一応桃の知り合いの穏健派魔法少女を助っ人で呼んでくれるそうですが、私の修行はそのままで継続です。ええ、知っていましたとも。

 

だが今日だけは修行のことは忘れましょう。

 

何故なら今日は吉田家家訓!いいことがあったときは家族で鉄板を囲むのがテッパンだからです!

 

 

「優子、本当によくやってくれました……今日はお好み焼きです!!」

 

「やったー!本物の、それも肉が入っているお好み焼きなんて、なんて豪勢な……!」

 

「やったね、お姉!」

 

「……苦労かけますね……」

 

 

お母さんが寂しげですが、前は前。今日から食生活改善です。こんな食生活が毎日続くと思うと感動で涙が溢れそうです。

 

 

「清子さん、オレも参加していいすか?」

 

 

ふと声がした方向を見ると、邪神像、つまり浦飯さんがお母さんに話しかけてました。一応お母さんたちには浦飯さんの話は一通りしてあります。しかし浦飯さんが人をさん付けで呼ぶとすっごい違和感があります。

 

 

「もちろんです。優子を鍛えていただいたそうで……ありがとうございます。元々浦飯さんは我が家とは無関係にも関わらず、面倒を見ていただいて……」

 

「オレも早く封印解いて解放されてぇからな、そのためにはシャミ子を強くしねーと。ま、今日はそんな話はなしで、パーっとやろうぜ」

 

 

一見いい話に聞こえますけど、あの修行内容はないです。魔族にも人権はあると思います!

 

 

「そうですね。ビールと日本酒どちらにします?」

 

「お、話せるね。じゃあまずビールからで」

 

 

お母さんと浦飯さん、なんか大人の会話です。いや、お酒の話しているだけだから、気のせいでしょうか。お母さんはそのまま邪神像の前にビールを置きます。やっぱり単なるお供えにしか見えませんね。

 

 

「かーっ、うめぇ!シャミ子も飲むか?うめぇぞ?」

 

「未成年に飲酒勧めないでください……」

 

 

浦飯さんの表情は分かりませんが、邪神像の表情が柔らかくなってます。あれって変わるんですね。しかしそう言われると、ちょーっと飲んでみたい気がします。でもお母さんの目が怖いのでやめておきましょう。

 

 

「かてーこと言うなって。オレは10歳くらいの時から飲んでるから問題ねーよ」

 

「問題ありまくりです!」

 

 

小学生が飲むんじゃない!嫌ですよ、二日酔いの小学生なんて。少年誌でしたら掲載できない内容ですね。

 

 

「私くらいのときには飲んでたんだ……」

 

「ほら!良がマネするから駄目です!」

 

「浦飯さん、今日は大人だけで飲みましょう?」

 

「そうだな。んじゃ、飲むぞー!」

 

 

お母さんがやんわり窘めると、浦飯さんはそのまま飲み続けます。うーん、私が言っても浦飯さんは言うことを聞いてくれませんが、やはりお母さんはすごいです。

 

どういった経緯で今回封印が解けたかなどを話しながら、お好み焼きを作ります。そしてちょうど話が終わると完成しました。まぁあんまり長い話でもないですしね。

 

 

『いただきまーす!』

 

「美味しいね、お姉」

 

「はい!美味しい……すっごく美味しいです!」

 

「いやー美味いっすね。前から思ってたんだが、清子さん料理上手だな」

 

「ありがとうございます」

 

 

このお好み焼きの味だけでも今まで頑張った甲斐があったというものです。いつもは残りや米などを混ぜて誤魔化した、なんちゃって料理がメインですから、とっても感動です……!

 

美味しい料理に舌鼓を打ちつつ、これからの未来に思いをはせました。

 

このまま強くなって魔力を集められれば、普通の生活ができるんだと、この時は思ってました。

 

 

「まさか冷蔵庫が壊れるとは……!」

 

「ほんとーに封印解けてんのか?」

 

「た、多分……?」

 

 

……まぁ、冷蔵庫が使えなくなったというトラブルが発生して、大量に購入した食材の処理をしつつ、それでも余った料理を風邪ひいて寝込んでいる桃に届けることになりました。

 

こんな「がっかり調整」が入りましたが、まぁ今日だけでこれからは上手くいくものだと思ってました。

 

戦いは、魔族にとって隣り合わせだということを、私はこのとき理解してませんでした。

 

 

 

6話「あなたは、それが食事っていうんですか……!?」

 

 

 

来週から桃が登校予定ですが、それまでは修行です。修行と通学を何日か続けていると、変な話を杏里ちゃんから聞くことになりました。

 

 

「昏睡事件、ですか?」

 

「そうなんだよ。小学生低学年とか、それよりもっと下の子が昨日で数人昏睡状態で病院に運ばれたんだって。ちょっと普通じゃないよね」

 

 

杏里ちゃん曰く、昨日から小さな子供が突然倒れてたりなどの意識不明で病院に運ばれてくるケースが何件も起こったらしいです。しかも治療しても全く変化がなく、意識不明のままだそうです。朝はぎりぎりまで寝ているからニュース見てませんでした。

 

 

「変な話ですね?原因は?」

 

「それがさっぱり。意識不明ってところで話が終わってるね。どこまで本当なんだか」

 

 

むむぅ、なんだか事件の匂いがします。しかし何でそんな小さい子ばかりなんでしょうか?浦飯さんなら何か知っているかもしれません。

 

 

「浦飯さん、何かこういうので心当たりあります?」

 

「……仮病じゃねーか?オレもガキの頃から何度も学校サボってたからよ」

 

「聞いた私がバカでした」

 

「んだと!?このポンコツ魔族が!」

 

「むがー!誰がポンコツですか!」

 

「2人とも、どうどう」

 

 

バカなコメントした人にポンコツ言われたくありません。全く、普通じゃないことくらい何かわかるでしょうに。

 

しかし誰が何の目的でやっているんでしょう。うーん、そういうヤバい系の事件は遭遇したことがないですね。

 

 

「全く。ここはパトロールで怪しい人を見つけるしかないですね」

 

「そこでいい道具があるよ、シャミ子ちゃん」

 

「あ、小倉さん」

 

 

そこへ話に参加してきたのが小倉さんです。小倉さんはカバンから時計みたいなのを取り出しました。

 

 

「ジャーン、これは魔力計です!魔力を発している人をキャッチして、方角と距離を示してくれます!さらにその人の毛髪など体組織の一部を魔力計に取り入れれば、その人のいる方向だけを示してくれます!」

 

 

魔力計は何やら方位磁石にベルトを付けたような、時計みたいな形をしていました。小倉さん、いつの間にこのようなものを開発していたんでしょうか?

 

 

「シャミ子ちゃんの体に浦飯さんが入っているとき、七つ道具の話を聞いて、作ってみました!」

 

「オレが言ったやつ、もうできたのか。すげーな小倉!」

 

「七つ道具って何ですか、浦飯さん?私知らないです」

 

「簡単に言うとだな……」

 

 

浦飯さんが封印される前、中学生のときに霊界という閻魔大王がいる世界の霊界探偵をやっていた頃、霊界から預かった道具が霊界七つ道具だそうです。突っ込みどころは色々ありますが、今は置いておきましょう。

 

しかし浦飯さんは七つ道具をほぼ使わず、いくつかの事件を担当した後、霊界探偵をクビになったそうです。何でもほぼ探偵捜査じゃなくて、ガチンコの戦いだったそうです。探偵とは一体……。

 

というか話で聞いただけで作れる小倉さんはマジチートですね。これがあれば、魔族を容易に見つけられるでしょう。

 

 

「きっと今回の事件は悪い魔族がやっているに違いありません!私の勘がそう言ってます!小倉さん、魔力計を使って犯人を探し出してもいいですか?」

 

「うん、頑張ってねシャミ子ちゃん!」

 

「あれ?もうすでに魔族が犯人になってない?」

 

「すげー乗り気だなコイツ」

 

 

そこの2人うるさいですよ。わたしにもちゃんと考えはありますよ。全く、素直に応援してくれるのは小倉さんだけです……何か小倉さんのこちらを見る目が怖い気がしますが。

 

 

「もし今回の事件が魔族の仕業じゃなくて、人間だったり、単なる偶然でしたら警察に任せればいいです。警察に解決できないことを、このシャドウミぃ……シャドウミストレス優子が解決するのです!」

 

「おー、確かに。それならいいかもね。噛んだけど」

 

「実力が伴ってればな。噛んだけどな」

 

「一言多いんですよ、2人とも!あと噛んだことはスルーしてください!」

 

 

ということで気を取り直して、放課後、魔力計を左手に装着しパトロールに出発しました。うーん、何だか探偵みたいでドキドキしますね。

 

方位針の赤く塗っている部分が、魔力を発している人物がいる方向だそうです。とりあえず、示す方向に向かって行動します。

 

指示された方向に進むと、人通りの多いところに出ました。これだけ人が多いと、誰が魔族かなんて分かりませんね。帰宅ラッシュなのか、赤い方位針の直線上にも人が大勢います。距離はだいたい400m前後でしょうか?

 

「浦飯さんって霊界探偵だったと言ってましたが、こういう捜索みたいなことは経験ありますか?」

 

「何度かあるぜ。そーいや昔、盗賊3人組を追っているときに街中で角がうっすら見えるやつを見つけてな、そいつが魂吸い取って喰おうとしてた犯人だったよ」

 

「た、魂を喰らうって……それって魂抜かれた人はどうなっちゃうんですか?」

 

 

魔族にそんな恐ろしいことをする人が居るんですね。人を喰うなんて、どういう神経してるんでしょうか?

 

 

「魂抜かれた人間は昏睡状態になるって言ってたな。今日杏里のヤツが言ってた感じだ」

 

「まさかとは思いますが、今日の犯人もそうなんじゃ……?」

 

「毎回そうじゃねーと思うぜ?もしそういうやつが犯人だったとしても、喰う度に犠牲者が昏睡状態で発見されるなんて、すぐバレちまうからな。もっと普通はバレないようにやるだろ」

 

 

確かにその通りだ。場所を移動したとしても、毎回同じ手口じゃすぐにバレてしまうでしょう。だから浦飯さんは学校で否定したのか。

 

それに学校で魔族の仕業、なんて騒いだら大事になりますし……それを計算して?うーん、浦飯さんてそんなタイプでしたっけ……?

 

 

「ところで、その犯人てどんな感じの見た目だったんですか?」

 

「その犯人は剛鬼って鬼だったな。人間に擬態してたがレスラーみたいなガタイしててよ。でも人間に化けてても、額からうっすら角が見えてんだ」

 

「……もしかして、あんな感じの?」

 

 

私から見て左側に、頭からうっすら角が透けているように見える大男が居ました。春先なのに半そでにジーパンの、とてもガタイがいい人です。いや、あれはどう見ても魔族じゃないですか?魔力計もあの人をビンビン示していて、距離も30mとあの人の距離を示しています。

 

 

「そーそー、あんな感じだったな……つーか、あいつ怪しいな」

 

「ですよね。こっそり後をつけてみましょう」

 

「オメーの姿は目立つからな。物陰に隠れながら、妖力は絶てよ」

 

「分かりました」

 

 

妖力を絶つというのは全身から漏れる妖力の蓋を閉じるイメージで、体外へ一切漏らさないようにする技術です。この技術そのものは難しくないですが、これを応用した技術が難しいので、この技術はできて当たり前だそうです。てゆーか日々やらされてます。

 

この状態を保ったまま、こっそり後を尾行します。しばらくすると人気のないほうへ進んでいました。何でこんなところに来るんでしょうか?もしや犯人とは関係ないのでしょうか?

 

 

「……子供がいるな」

 

 

浦飯さんがボソッとつぶやいた言葉がよく聞こえなくて、聞き返そうとしました。すると大男は立ち止まり、近くにいた女の子……大体5歳くらいでしょうか?その子の前で立ち止まりました。どうやら近くに親はいないみたいです。

 

 

「お嬢ちゃん、こんなところに一人でいると危ないよ?」

 

「はーい!」

 

 

子供は手を挙げて、その場を立ち去ろうとしました。だが大男がさらに声をかけました。

 

 

「おっと、忘れ物だよ……」

 

 

何か光る玉みたいなものをかざすと、女の子の口から白いものが出て、玉に吸い込まれていき、女の子はその場で倒れました。

 

 

「魂のね……」

 

 

明らかに女の子の様子がおかしいです。ピクリとも動きません。しかも魂とか言っていたということは、もしかしてこの大男は本当に犯人なのでは……!?

 

私はたまらず、その場を飛び出し大男の前に姿を出しました。ち、近くで見ると私よりずっと大きいですね。

 

 

「おい!何をやっているんだ!」

 

「あん?……何だよ、魔族じゃねぇか。見て分かんだろ、食事だよ、食事」

 

「食事?」

 

 

大男は光る玉をつんつんと指でたたきます。その口元の端からはよだれも少し出ていて、不気味です。

 

「この前拾ったこの光る玉、名前は知らねぇが便利でな……人間の魂を肉体から抜き取ってくれるんだよ」

 

 

魂を抜く――昏睡状態――やっぱりこいつが――

 

 

「昨日から昏睡状態の子供が多いのも、キサマの仕業か!」

 

「察しがいいな。今まで魂は喰っても不味い肉体を引き裂いてから出していたんだ。いちいちぶっ殺してたんじゃ死体の処理も面倒だし、上手くいっても魔法少女の監視が強くなって面倒でな。これだと死体処理の手間がなく、そのまま魂を喰えるんでね。重宝してんのさ」

 

「あなたは、それが食事っていうんですか……!?」

 

「当たり前だろ。何言ってんだお前?」

 

 

こ、この大男、子供をこんな目に合わせているというのに何も感じていないのか……!?

 

私は不気味に感じると同時に、少し震えていた。まるで普通の食事メニューを語るかのように説明するこの大男の精神性に。

 

 

「おい、喰った子供の魂は何時間くらいで消化されんだ?」

 

「喋る像とは変わってんな……いいだろう、答えてやる。大体48時間、2日かけてゆっくり消化してるぜ。じっくり味わいたいからよぉ……」

 

 

浦飯さんが尋ねると、大男はそう答えました。たった2日しかないとすると、昨日昏睡状態になっている子はもうそろそろタイムアップということになります。

 

答えた後、大男は光る玉に右手の人差し指と親指を差し入れると白い塊を摘まんで出しました。先ほど見た、ここに倒れている女の子の魂だろう。

 

そして大男はそのままそれを、何のためらいもなく飲み込んだ。

 

 

「―――――」

 

「やっぱりガキの魂は踊り食いがサイコーだな!胃の中でグルグル暴れまわって活きがある……うんめぇ~……」

 

 

目の前の光景に、私は頭が真っ白になりました。こんなことを平然とできる、目の前の男が信じられませんでした。

 

 

「どうだ?オメーも喰いてぇって言うんなら考えなくも……」

 

「てめぇ!!!!」

 

 

その言葉に私は切れました。大男の懐に潜り込み、妖力を集中させた拳で腹を殴りつけました。

 

 

「吐き出せキサマー!」

 

 

殴りつけると大男の体勢が前のめりになり、口から白いものが出かかってました。あの女の子の魂でしょう。

 

 

「うらぁ!!!」

 

 

魂を口から吐き出させるために、私は右拳で大男の左頬を殴りつけました。そして魂は口から飛び出し、大男は地面に倒れ、魂はあの子の体へ戻ってきました。

 

良かった……これで助かったでしょう。その考えの通り、魂は女の子の体に戻り、女の子は立ち上がりました。

 

 

「あれ、ここどこ……?」

 

「もう大丈夫ですよ?お母さんのところに戻りましょう」

 

女の子の手を引いて、私はこの子のお母さんの元へ戻ろうとします。浦飯さんも拾うと、浦飯さんがまだ真剣な顔をしてました。

 

 

「シャミ子、何油断してんだ。まだ終わってねぇぞ」

 

「えぇ?だってこうして倒れているのに……」

 

「その変な像の言うとおりだ……」

 

「嘘ぉ!?」

 

 

全力で殴ったにも関わらず、大男は何でもないかのように立ち上がりました。いや、よく見ると口元から血が出てます。これしかダメージしか受けてないなんて……!

 

 

「食事の邪魔しやがって……!」

 

「こ、これは……!」

 

 

大男の服が破け、筋肉が肥大化し皮膚の色が赤黒く変色していきます。見えづらかった角が具現化し成長して、牙も生えてます。まんま鬼じゃないですかこの人!

 

 

「てめーを嬲った後喰らってくれるわ!この腕鬼様がな!」

 

「早く逃げてください!お母さんの元へ走って!」

 

「お、お姉ちゃんは……?」

 

「大丈夫です!早く!」

 

 

このままではこの子が戦いに巻き込まれます。その子はほぼ泣きかけてましたが、頷いて走り出しました……強い子です。

 

 

「よそ見してんじゃねー!」

 

「うわぁ!」

 

 

腕鬼が振るった腕を私は横っ飛びで回避しました。すると腕鬼の攻撃は、木をえぐり倒しました。ど、どういう攻撃力してんですか……!あんなもん体に受けたらやばいです。

 

 

「シャミ子!俺に変われ!」

 

 

左手に持っていた浦飯さんがそう言いました。そうか、浦飯さんならあんなやつイチコロです!よくぼこぼこにされている私にはわかります。これで勝てる!

 

 

「……でもどうやって変わるんですか?」

 

「あほかオメーは!スイッチだよ、底のスイッチ!」

 

「あ、そうでした!」

 

「お前ら、そんなことさせると思ってんのかぁ!」

 

「キャー!!」

 

 

振り下ろされた拳を回避するも、地面をえぐった際の衝撃で邪神像を手放してしまいました。浦飯さんが林の中へコロコロ転がっていきます。

 

「シャミ子のあほー!」なんて浦飯さんの声が響きましたが、返している余裕はありません。こうなったら、私が倒すしかないみたいですね……。

 

 

「さぁ、妙な真似は出来ねーぜ!大人しく喰われろや!」

 

「そんなことはご免です!」

 

「へ、声が震えてるぜ?」

 

「そんなことはない!」

 

 

見るからに強そうな外見です。魔力も十分に体を覆ってます。浦飯さんや桃以外で戦うのは初めてですが、まずぶん殴る!そう決めて、私は全身の妖力を解放しました。ええ、ビビってませんとも。

 

 

「いくぞぉー!」

 

 

右拳にやや妖力を集中させて腕鬼の腹を、最初のときのように殴りつけました。だがその体は先ほどとは違って硬くなっており、まるで分厚いタイヤを殴った感覚に似ています。

 

 

「か、硬い……!」

 

「効かねぇんだよ!」

 

 

振るわれる左手の爪は鋭く、魔力がみなぎっていました。咄嗟に体をそらして回避するも、奴は連続で繰り出します。

 

 

「ぐっ!」

 

「そら!どんどんいくぜ!」

 

 

爪の連撃を身長差を利用して回避しつつ、小さくなりつつ懐へ潜り込みます。そのまま数発腹に拳を叩き込みますが、ダメージは見受けられません。

 

 

「効かねぇっつんてんだろ!!」

 

 

だ、ダメです。このまま決定打を与えられなければ、私がやられてしまいます。

 

そんな余計な考えが浮かんだせいだからでしょうか、腕鬼が腕を振り下ろした際に巻き上げられた土が右目に入って、一瞬目を瞑ってしまいました。

 

その次の奴の左爪の攻撃が、少し私の左肩をえぐりました。

 

 

「ぐぅ!」

 

 

まるで焼けたかのような感覚が左肩を支配しました。その隙を奴は見逃さず、右足の蹴りを腹に繰り出しました。

 

何とかガードはできましたが、全身に衝撃が走り、左肩が余計に痛いです……ど、どうしよう……。

 

 

「ケー!このまま吹っ飛べや!」

 

 

少し離れた位置で腕鬼は折れた大きな木を片手で拾い、そのまま横なぎに振り回してきました。痛みを気にしていた私は回避しきれず、顔に迫る木を両腕でガードしましたが、そのまま吹き飛ばされました。

 

 

「ぐあぁ!」

 

 

何度も地面を転がり、木にぶつかってようやく止まりました。両腕でガードしたはずなのに衝撃が突き抜け、頭を揺さぶりました。せ、せっかく鍛えたのに、こんなことでやられちゃうの……?

 

 

「立てー!シャミ子ー!負けんじゃねー!」

 

 

弱気が顔を出したそのとき、浦飯さんの声が聞こえました。

 

そうです、ここで負けたらまたあの子が狙われるし、昨日の子たちも死んでしまいます。それに何より、このまま殺されるなんて嫌です。

 

せっかく妖力も鍛えて霊丸を撃てるようになったのに……霊丸?

 

 

「ま、まだだ……!」

 

「まだ立てんのか。んじゃ、もっといたぶってやらぁ……!」

 

 

私には必殺技の霊丸があることを忘れてました……。

 

しかし霊丸といえど、あいつの防御力は私の攻撃力を上回っている。霊丸が今の私のパンチの数倍の威力が出せるといっても、一撃で倒せるとは思えない。

 

ならばどうする?顔……それじゃ効かないかもしれないし、大きくなった奴の顔にはジャンプしないと届かない……そうだ!

 

私は攻略法を考えつき、全身の妖力を高めます。次の一撃がラスト!長期戦はタフさがあちらのほうが有利になる。ここで決める!

 

私は走り出しました。今出せる最高速度で突っ込みます。

 

 

「バカの一つ覚えみてーに突っ込みやがって!死ねぃ!」

 

「とあっ!」

 

「と、飛んだぁ!?」

 

 

私は足に妖力を集中し、ジャンプしました。これで普通ではでかくなった腕鬼の顔に拳は叩きこめませんでしたが、高さは足ります。

 

 

「バカが!空中では身動きとれねーだろ!」

 

「知ってます!」

 

 

それも承知の上で行動してます。さっき、土が目に入って行動が一瞬止まりました。ならばあなたはどうですかね……!

 

私は尻尾の先端を腕鬼の目に叩きつけました。もちろん妖力で強化した上でです。つまり、一瞬できる目くらまし!

 

 

「があっ!?」

 

 

目に衝撃を受けた腕鬼は、口を大きく開きました。その口へ、私は全妖力を集中させた右手の人差し指を向けます。

 

これで決まれ!

 

 

「くらえ!霊がーん!!!」

 

 

霊丸はそのまま腕鬼の口を突き抜け、その衝撃で頭が吹き飛びました。頭を失った体はそのまま地面へと倒れこみます。

 

そして、無くなった首から魂がいくつか飛び立っていきました。あれが昨日喰われた子供たちの魂でしょう。

 

 

「これで大丈夫かな……お、終わったぁ……」

 

 

私はそのまま大の字になって地面に倒れました。今頃になって、何だか震えがきました。戦い始めてたら震えはなくなっていたのに、変な感じです。

 

ちょっとミスしたら、殺されていたのは私の方だったのだろう。殺してしまったことの罪悪感が胸の中にありますが、それ以上に助かったことの安堵感のほうが大きいです。

 

こんな気持ちは初めてでした。そして、まともに戦ったのも初めてでした。桃や浦飯さんはこんな戦いを何度もしてきたのだろう。改めて、2人との差を感じました。

 

 

「よくやったなーシャミ子!生きてるかー?」

 

「あ、浦飯さん。今どこですかー?」

 

 

私は浦飯さんの声の方向へ歩き出しました。もう早く家に帰りたい気分でした。ちょうど草むらの中に隠れるような形で邪神像はありました。

 

 

「良い戦法だったな。勝ってよかったぜ」

 

「今頃になって震えてますよ……」

 

「オレも最初は1回負けて、もう一度挑んだ時は勝ったがフラフラだったぜ」

 

「浦飯さんが負けたんですか!?」

 

「オレだって最初の頃はよ……」

 

私は邪神像と腕鬼の持っていた光る玉を抱えて、フラフラしながら帰りました。今日は生き残ったこと、そして勝利したことだけ考えてました。

 

私の家の封印の解放が、結界の弱体化が、あんな連中を誘い出す結果になったことを、あまり考えないようにしながら。

 

 

頑張れシャミ子!戦闘経験を重ねて、強くなって封印解放を目指すんだ!

 

 

つづく




おまけ

シャミ子の道具

・魔力計

霊界七つ道具の1つである妖気計の話を聞いた小倉が自分なりに作った方位磁石型の腕輪。

装着している人物の魔力を利用して、その方向と距離を示してくれる。また探している人物の一部を入れることでその人物だけを示してくれる。

使用者の魔力の強さと相手の魔力の強さで捜索範囲が増す。ただし小倉が作ったのは試作品であり、強度や精度が高いわけではない。

なお小倉は他のもできれば作りたいと考えている。

ちなみに幽白本編で道具は七つ出てない。トランクとモニターを含めれば七つになるが、果たして含まれるかは謎。妖気計は剛鬼・飛影・乱童に使用。後にはほぼ出番なし。
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