でも皆は地形破壊バトル好きでしょ?
たった二発。それしか殴られていないが、那由多のダメージは深刻であった。
「……がふっ、や、やはり保険はかけておいて正解だったね」
那由多はフラフラになりながら立ち上がった。ここからの逆転はよほどがない限り不可能だろうと言うことは誰の目にも明らかだった。
「(何だ、那由多からどこか余裕のようなものを感じる……?)」
桃は那由多の様子を訝しんだ。たった2発の鉄拳で追い詰められている那由多であるが、どこか自分たちと戦っている時のような雰囲気なのだ。
つまり余裕がある。
「保険だぁ?」
「そう、保険だよ。あると安心って言うだろう?」
「訳分かんねーことごちゃごちゃと……。テメーの胡散臭さにはもう飽き飽きだぜ」
幽助は指をボキボキ鳴らしながら那由多へ歩いて近づく。
絶望的な状況のはずなのに、那由多の表情は変化がない。むしろ愉快なものを見るような表情だった。
「(浦飯さんと那由多では実力差は圧倒的だ。それを埋める何か秘策でも……!?)」
考えているうちに桃は気づいた。自分自身の魔力では到底及ばないのであれば、別のところから魔力を持ってくる気ではないのかと。
そして実力差を逆転できるレベルの魔力が桜の木に集まっているのだ。人類を1つにするための魔力。だがそれを攻撃に転じるのであれば?
それに思い至った瞬間、桃は叫んだ。
「浦飯さん、トドメを!」
幽助は返事を返さなかった。桃の声に反応し、幽助は懐へ飛び込み妖気を集めた赤く光る右拳を那由多の顔面に向かって放った。
そのスピードは見守っている桃たち3人でも見逃すほどの速度だった。
幽助の拳が那由多に接触する直前、桜の木と那由多が黄金色に光る。
「きゃっ!?」
眩しい光に驚いたミカンの悲鳴。凄まじい光量が那由多から発せられても、幽助の拳はそのまま那由多に振い、凄まじい打撃音が辺りに響く。
「───間一髪だったよ。危うく死ぬところだった」
那由多は黄金色のオーラを纏い、幽助の拳を左手で受け止めていた。今まで吹き飛ばされていた那由多が、幽助の拳を受け止めても微動だにしていないのだ。
幽助は明らかに変わった那由多を激しく睨め付ける。
「テメェ……!」
幽助が拳を引き剥がそうとしても、那由多はガッチリと掴んでいて中々引き剥がせない。それはお互いのパワーが拮抗していることを示していた。
「……あの黄金色のオーラは初めて見た……!」
「那由多のあの魔力量、浦飯さんと妖力と互角ってこと!?」
桃は黄金色の魔力に驚き、ミカンは幽助の攻撃を真正面から受け止めるパワーに驚いていた。
リコは冷や汗をダラダラとかいている。リコには分かるのだ、那由多のあのパワーが今までと質が異なることが。
「いや、今の那由多の魔力は幽助はんの妖力以上や……!」
二発の強烈なパンチを受けた後にも関わらず、那由多はダメージを感じさせない笑みを浮かべた。幽助はその薄ら笑いが気に入らなかった。
「ケッ、聖光気かぁ?いや、違うみてーだな。何にしても、借り物の力で随分嬉しそうじゃねーか」
那由多が拳を離すと、幽助は後ろに飛び退き間を開けた。
「……聖光気なんてものは知らないが、確かにこの黄金色の魔力はぼく本来の魔力ではない。これは光の一族の魔力が再び一つになっただけなのさ」
「どーゆー意味だそりゃ?」
「まさか……!?」
それだけで桃は何か思い至ったらしい。一方他のメンバーは全く分かってなかった。
那由多は軽く笑って、語り始めた。
「古い話でね。かつて光の一族は神とか天使とか称されていた。
しかし彼らは長い年月を過ごす内に人々の中に消えたと言われている……だが完全に消えたわけじゃない。彼らの莫大な魔力は人々や生物に分散して残っていたのさ」
「だからシャミ子の先祖を使って魔力を集めて、その力をモノにしたってことか……!」
桃はかつて千代田桜の管理している山に封印されている蛟も同じようなことを言っていたことを思い出していた。
その昔話……否、過去にあった事実を那由多も知っていたのだ。
那由多は以前桃に魔力を削られたり、桜たちに邪魔されたりと計画が何度か失敗していた。
長い年月の中、何度やっても、世界中色々な場所でやろうとしても、いつも邪魔が入った……もしくは能力が足りなかった。
そこで那由多は考えた。いくらチマチマ魔族を狩って討伐ポイントを集めても、昔の桃の時のように無駄にさせられる可能性もある。別の道も探すべきだと。
そこで那由多は今回の計画を思いついた。ご先祖を使って魔力を世界中から集め、我が身で1つとする。そうすることで歴史の中に消えていったはずの神や天使などに匹敵する力を手にして計画に使おうと。
もちろん神や天使そのものを復活させるわけではない。彼らに匹敵する莫大な魔力を那由多がコントロールすることによって、神に近いレベルになるのだ。
そして全ての生物を1つにする。それを達成するために、ここまでの所業をやってのけたのだ。
そのためにはご先祖を手に入れる必要があったし、計画を悟られるわけにはいかなかった。だから目撃者は消し、洗脳し、記憶を消すことでここまで進めることができたのだ。
「……じゃあ何か?テメーは魔力を集めて神様にでもなろうとしたのか?」
「人と魔を一つにする偉業を成し遂げるためには、神になる程の魔力が必要だったと言うわけさ。
いわば魔法少女ゴッドというところかな?」
長い時を経てようやく計画が完成する目前まで来ていて、那由多は珍しく興奮していた。
悦に浸っている那由多をよそに、幽助は小指で耳の中をほじくっていた。いかにも興味ないと言いたげな表情だった。
「バカかテメーは、神だの何だの……気に入らねーなら皆殺しにすればよかったんじゃねーか?」
「……ふ。ぼくはね、人間が好きなんだよ。植物も動物も好きさ。魔族は嫌いだがね。
だが世界には悲しいことが多すぎるから、やり直したいと思っているだけなのさ」
結局のところ、ただ世界が嫌いなら皆殺しにすれば良かった話である。
しかし那由多が見たいのは誰もいない世界ではない。綺麗で優しい世界が見たいのだ。
「誰も頼んでねーっての。1人で死んでろボケ」
そんなことは知らないし、聞く気もない幽助は指を鳴らしている。もう我慢できないようだ。那由多も深呼吸して備えている。
「なら勝ってぼくを止めてみせろ。できるものならね」
「へっ、上等だ!!」
幽助は赤い妖力を、那由多は黄金色の魔力を強め、上空へ飛び上がった。
「はぁ!」
「オラァ!」
───爆発。拳と拳がぶつかり合った瞬間、大気が揺れた。
まるでミサイルの爆発音が響き渡るように、お互いが上空で拳をぶつけ合っている。
1秒で何十、何百を超える数の攻防。街の結界は攻防の余波で砕け散った。
「結界が!?」
「持つわけないわ、出鱈目よあの2人!?」
ミカンの言う通りす既に衝撃が地上にも来ており、夜にも関わらず街の住民は突然の出来事にパニックになっていた。
拳のラッシュで僅かに体勢を崩した幽助を真下の地上へ投げ飛ばした那由多。そしてそれをすぐ追撃する那由多。
幽助は着地した瞬間、弾かれるように飛んで後退した。その僅か後に那由多が蹴りを幽助がいた場所に繰り出すが、外れて着地する。
那由多が着地した瞬間、那由多は後退した幽助が既に右人差し指を構えているのを目撃した。
「霊丸!」
そして放たれる、小さな山以上の大きさの赤い霊丸。着地した瞬間の僅かな硬直を狙った一撃だ。
「(避けきれない!)」
硬直なんてほんの僅か……瞬きよりも短いだろう。
しかし那由多はその硬直のせいで霊丸を避けるのは不可能であると判断した。
那由多は咄嗟に───自分の胸に右手を当てて、自分自身へ向けて魔力弾を発射した。
「何!?」
自身の魔力弾を胸に直撃させた那由多は、自身の後方へ吹っ飛んでいく。そのおかげで霊丸の直撃コースから逃れることができた。
いや、完全には避け切っていない。霊丸は僅かに袖の一部分を破って通過した。
そして霊丸は雲を吹き飛ばしながら、遥か向こうの空へと消えていった。
「(…………世界中の魔力を集めて強化したぼくの守りをこうも簡単に突破するとは……直撃したら死ぬかもね)」
霊丸が当たった部分の服は完全に消滅していた。
高めた魔力で強化してあるはずの服をまるでティッシュのように崩された様を見て、那由多は冷や汗を一つたらりと垂らした。そうとも知らず、幽助は悔しがっていた。
「ちっくしょー、あんな方法で避けるとはな。やるじゃねーか」
「……そう簡単に負けるわけにはいかないからね」
「なぁ、ここだと狭いからよ。人の少ない、もっとだだっ広いところでやらねーか?やりづらいったらねーよ」
「それは同感だね。いいだろう」
一度魔力を取り込んでしまえば、桜の木から離れても問題はない。那由多はそう判断し、幽助の誘いに乗った。戦いの余波に人を巻き込みたくないという気持ちもあった。計画を考えている者が何を……と思うかもしれないが、むやみやたらに殺したいわけではないのだ。
もちろん幽助がそこまで計算していたわけではなく、ただの本心で提案しただけだ。邪魔がない方が喧嘩しやすい。それだけである。
お互いの思惑はともかくとして、2人はそれぞれ跳躍した。桃たち3人でも残像を追うのがやっとの速度で移動した幽助たち。
「っ!? どっち行ったの!?」
「あそこや!」
「……もう戦い始めている。出鱈目なスピードだ」
桃たち3人が移動したことを認識したすぐ後に、高尾山の向こう側で幽助たちの戦いはもう始まっていた。
上空で拳を交える余波で山が削れていき、その山が崩れている最中に別の場所へ跳躍し攻防を行なっていた。
幽助の攻めはシャミ子とあまり変わらない。シャミ子とは戦いの経験値が違うが、基本的には喧嘩殺法である。むしろ尻尾がない分、トリッキーさでは幽助はシャミ子に劣るかもしれない。
しかし那由多は非常にやりづらかった。本来であれば那由多の技術力に対してカモのような相手である。
「オラオラオラオラー!」
幽助は持ち前の勘と経験値で、那由多の技術力を上回る攻撃を繰り返していた。8ヶ月しか戦っていないシャミ子とは違い、昔から喧嘩に明け暮れていた男だ。喧嘩の場数が違う。
「ちぃ!」
幽助の攻撃を逸らされてもほぼ同時に別の攻撃が飛んでくる。しかも防御しにくい箇所にばかり攻撃がくるのだ。やりづらいことこの上ない。
捌いてばかりでは幽助に勝てない。そう思い始めた那由多は攻撃の割合を増やしていった。
いつしか同じくらい攻めを繰り出すようになった那由多と幽助は、山の頂上に着地してお互いの両手を掴み合った。力比べである。
「ぐぎィィ!」
「むうぅ!」
力比べによる魔力と妖力の放出で竜巻が複数発生し、余波で周辺の森は吹き飛び山も削れ平地となる。その余波はますます大きくなる。
「……近づいて見るのは無理だね。巻き込まれたら死ぬ」
「そうね。余波でも防御できないわ」
傷ついた体を動かし、なんとか戦いが見えるギリギリの距離まで近づいた歴戦の魔法少女である桃とミカンは彼らの戦いをそう判断した。
「凄いわぁ……♡」
まさに災害としか言いようのない2人の戦いを間近で見物することは不可能で、ミカンたちについてきたリコは憧れのような視線を彼らの戦いに向けていた。
「そーらよぉ!」
幽助は組み合った状態で頭突きをかます。彼の得意な攻撃だ。
「ふん!」
石頭による強烈な一撃を受けた那由多は吹き飛ばされる瞬間に幽助の腹に蹴りを入れていた。そのためお互い吹き飛んでいく。
距離が空き着地した両者は相手を見据えて構える。
しばらく睨み合っていたが、すっかり更地になった周辺を見渡して、幽助は軽く笑った。
「やるじゃねーかオメー。でもよ、その魔力……中々暴れ馬みてーだな」
「ふ、お見通しというわけかい」
幽助は那由多が集めた魔力をまだコントロールしきれてないことを指摘した。魔力の総量は幽助の妖力を超えていたが、その割には戦いはほぼ互角である。恐らく制御するので手一杯で、戦うのは困難なのだろうと幽助はあたりをつけていた。
那由多は隠す気がないのか、素直に認めた。
ご先祖から魔力を集めて那由多自身に宿した魔力は那由多本来の魔力とは桁違いにでかい。コントロールを誤れば那由多の体は針を刺した風船のように弾け飛ぶであろう。
そんな状況下で幽助と渡り合っているのだ。彼女の精神的疲労はかなりのものであった。
「中々コントロールが難しくてね。しかし少しずつ慣れてきたよ……」
「分かるぜその感覚。オレも昔そういうことがあったからな」
「ほぉ」
こんなケースはそうそうないはずだが、幽助が経験済みと聞いて那由多は驚いた。
「ちなみに君はどうやって慣れたんだい?」
「へへ、戦っていれば慣れてくるぜ」
「……なるほど、分かりやすいね」
何の参考にもならないな、こいつ。那由多は素直に思ってしまった。
しかし那由多自身戦っている内に慣れているので、人のことは言えない。
「だがぼくがこの力に慣れれば慣れるほど、君に勝ち目はない。それがわからない君ではないだろう?」
「へ、オレはなぁ……戦えば戦うほど強くなんだよ!」
まるで戦闘民族のような発言であるが、幽助は実際そうなのだ。
第1回魔界統一トーナメントで黄泉と戦った時もそうだ。
戦う前は黄泉と幽助では大人と子供ほど実力差があったのだ。しかし結果としては約60時間以上も戦い続けてギリギリのところで負けたのだ。
この男、本当に戦っている最中に強くなっていく。それは闘神雷禅の血によるのか、それとも幽助本人の特徴なのかは分からないが、いずれにしても事実なのだ。
「───行くぜ!!」
そう言った瞬間に幽助は那由多を殴り飛ばし、水平に飛んでいった那由多を追撃する。
那由多は足で無理やりブレーキをかけ、止まった瞬間に高速移動する。動きの緩急のせいで、幽助は那由多の姿を一瞬見失った。
ゾクリ、と悪寒を感じた幽助は振り向くと、那由多が腰だめに魔力弾を生成していた。
「ツアァ!」
黄金色の魔力弾が幽助の腹に直撃し、幽助を遥か後方へと吹き飛ばす。
「うおぁー!?」
木を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされる幽助。那由多はその幽助に追いつき、また同じ箇所に追撃の魔力弾を繰り出した。
「のわぁー!?」
幽助は後方にあった岩山の山頂部分に激突し、山頂部分を粉々にしてしまった。そこへ追撃をかける那由多。
「野郎ォ!」
だが幽助は妖気を噴出させることで空中で踏みとどまり、さらに空中で崩れた岩山の瓦礫を足場にしながら突撃をかける。
「でぇい!」
「はあぁ!」
またしても空中での攻防が始まる。その凄まじさは一発一発の応酬が遥か遠くの地まで音となって伝わっているほどだった。
蹴りが、拳が、お互いの体に直撃しても両者とも攻撃の手を緩めない。緩めた瞬間主導権を取られて取り返しがつかなくなる。彼らのレベルは、そういったものだった。
そして両者の腕が交差し、お互いの頬に拳がめり込む。上空から落下して地面が近づいていたのもあって、弾かれるように地面に着地する。
「はー、はー……」
「ふー、ふー……」
お互い息が荒い。だが表情は違っていた。幽助は楽しそうに笑い、那由多も笑っている。
「やるじゃねーか! 楽しくなってきたぜ!」
「ふっ、確かに……ッッ!?」
那由多は自身で何を言おうとしたのか、自分で驚いていた。
この戦いは那由多の長年の悲願の達成の邪魔者を排除するものだ。全ての生物のためにやっているのであって、決して楽しいなんて感情で始めたものではない。
自分は仲間を見捨てて、様々な者たちを殺してきてここまで計画を進めてきたのだ。
殺してきた者たちの中には、彼らの仲間のシャミ子も含まれているのだ。その証拠に桃たち3人は憎悪を抱えて殺しに来ていた。
なのにこの男は最初こそ怒りが感じられたが、今は純粋な闘気しか感じられない。それどころか、ぼくとの戦いを楽しんでいる。一体どういう精神構造をしているのだろうか?
「(───だが何よりおかしいのは、ぼく自身もこの男との戦いが楽しいと感じていたことだ)」
何を馬鹿な、と言いたかった。だが一度自覚してしまうと、もう否定しようがない。
「……初めてだよ。戦いが楽しいなんて感じたのは」
「そりゃよかった。確かにテメーはシャミ子を殺したムカつくやつで、ぶっ殺してーと思ってる。
だがテメーは強ぇ!戦っているとワクワクしてくんだよ……分かるだろ?」
那由多はそう言ってきた幽助の目を見た。
今まで腐るほど見てきた憎しみの目でも、恐れの目でもない……純粋なキラキラとした目であった。
目を見れば何となく相手の考えていることは分かる。那由多はこの男が本当に自分との戦いを楽しんでいるのだと理解してしまった。
「ふっふっふ、あーはっはっは!」
那由多はバカ笑いしてしまった。命をかけた勝負の最中にこんなことを言い始める奇妙な男に対して、そしてそれを悪くないと思っている自分に対して。
「へへへ」
幽助も那由多が楽しんでいるのを分かって、鼻の下を擦った。
「……確かに君との勝負はワクワクする───だが勝つのはぼくだ!」
「へ、面白れェ!!」
戦いはより激化していく。勝負の行方は、まだ誰にもわからない。
つづく
戦いの描写はアニメ版の黄泉VS幽助を見ると分かりやすいかも。
いずれにしても東京、神奈川、山梨方面のいくつかの山は消し飛んでます。余波で道路とかもダメになっている感じ。