どうしてだろうか。浦飯やシャミ子と戦うと開放感に溢れていくのは。
ずっと誰かのために戦っていた。困っている人がいたら、悪いやつを倒し。災害が起きたら救助に向かい。願いを叶えたい人がいたら駆け回り。
ぼくはずっと誰かの幸せのために戦っていた。幸せになった人の笑顔を見ると、自分が満たされた気がするから。
けどそれは最初のうちだけだった。笑顔になった人より、不幸になっている人の方がよく目に入ってしまうようになっていった。
救っても、救っても、救っても、遠くで誰かが不幸になってしまっている。
いつの間にか達成感よりも義務感が勝り、救った人の顔が思い出せなくなっていった。代わりに目に入るのは汚いモノばかりだった。
どうして皆で綺麗に過ごせないんだろう?どうしてそんなことができるんだろう?
世の中にはそんなことばかり溢れていると気づいてしまってからは、どうしたら不幸をなくせるのだろうとばかり考えるようになった。
世の中はもっと単純だと思っていた。悪い魔族や人間がいて、それを倒せばハッピーエンド。ぼくはそれらを倒す正義の味方なのだと、信じていた。
だが違った。些細なことで人は加害者になれるし、自分の利益のためだけに多くの人を不幸へと導く権力者もいた。
単純ではないのだ。これを正すためには、1人の力だけではダメだ。だから多くの人を巻き込みたかった。同じ想いであるはずの魔法少女を説得して回った。
───だがダメだった。避けられる、攻撃される。
同じ魔法少女からも理解されないぼくはどうすればいいのだろうか?
そんな時、目についた博物館に行った。人類の叡智、そんな綺麗事は破壊の歴史だろうと思って入った。
その時、地球の誕生……そして生物の誕生の解説を読んでこう思った。
───なら、またやり直せばいいんじゃないか!
そんな義務感を持って始めた今回の計画も、後一歩のところで邪魔が入った。
今、その原因のシャミ子と拳を合わせている。
本来なら計画を邪魔された憎しみで殺さなければならないだろう、人類を救う手立てを潰そうという愚か者として裁かなければならないだろう。
しかし純粋に力比べを挑んでくる彼女や浦飯に対し、憎しみをぶつけることができなかった。
初めて、戦いが楽しいと思えるのだ。
こんな楽しいことを、ずっと続けたいなと思うくらいには、彼女と浦飯の拳はぼくの心を熱くさせるのだ。
☆☆☆
シャミ子と那由多の戦いは激しさを増していく。その戦いから少し離れた場所で幽助たちは観戦していた
幽助と戦っていた時より弱体化しているとは言え、それでも傷ついた幽助を含めてこの場の4人では勝てないくらい那由多は強い。
その那由多と互角の戦いを繰り広げているシャミ子のパワーアップには、幽助以外舌を巻いていた。
そしてその光景を驚いたのは彼女たちだけでない。誰もいないはずの後ろにいる人物もだ。
「いやー、あれ凄いね。もう介入できないわ」
『!?』
戦いの観戦に夢中になっていたせいか、接近されるまで気づかなかった桃たちは声が聞こえた瞬間に距離を取って構えをとる。
「ちょ、ちょっと!私よ私!」
だがやってきた人物を見て、別の意味で驚いた。
『姉さん(桜さん)!?』
「ハロー皆!魔法少女★千代田桜です!お久しぶり〜!
あ、そこの……浦飯さんは初めまして!」
「おう」
自己紹介のたびにポーズを決める桜。右目あたりで右腕を横にしピースして、左手は腰に当てるのが彼女のお気に入りのポーズらしい。
懐かしい魔力と行動に、桃とミカンの目は潤んでいた。リコと幽助はおもしれーやつと笑っていたが。
「本当に復活できたんだね、姉さん……良かったぁ」
「うんうん、昔の桜さんのままだわ!」
「ふふ、ありがとう。私も皆に会えて嬉しいわ。
……この状況でなければね」
実に10年ぶりとなる再会であるが、ずっと桜ばかり見ていられる状況ではない。桃とミカンはチラチラと桜を見つつ、シャミ子と那由多の戦いに視線を移した。
「シャミ子ちゃんのご先祖の洗脳は解いて弱体化しているはずなのに、アホみたいに強いわね那由多の奴」
それに対抗できるシャミ子ちゃんもやばいけど、と桜は呟いた。はっきり言って自分が戦えるレベルではないことは目の前の光景でよくわかる。
拳を振り上げれば衝撃波であらゆるものが吹き飛び、蹴りで地響きが起きる。それが環境破壊を目的とした一撃ではなく、相手を破壊するために集中させた力の余波なのだから笑えない。
「弱体化っつーよりは元に戻ったって感じだな。オレと戦っている時は魔力の制御に苦労してたみたいだが、今はそんな感じはねぇ」
「確かに、私たち3人と戦った時と同じと考えていいでしょう」
「皆、よく生きてたわね……」
現在の那由多の戦闘能力は弱体化というより、本来の実力100%で戦っていると言った方が正確だろう。戦った4人は正確に実力を判断できていた。
あの実力の那由多に対し冷静に分析できるほど生き残れた4人に、桜は心底驚いていた。
「シャミ子のやつは随分パワーアップしたが、まだ慣れてねぇな」
「魔族大隔世……よね?急速にパワーアップしたにしては随分扱いが上手いと思うけど
……?」
ミカンは素直にシャミ子を称賛した。桁違いにパワーアップしたシャミ子だが、特に妖気の扱いがうまく行かないなどは見受けられないからだ。
「完全に気を消したり、集中させたりはまだ難しいはずだ。あんな感じでな」
シャミ子は吹き飛ばされた後、後ろに回り込んで攻めようとする。しかし攻める前に居場所が発見され、奇襲はできず通常の接近戦になっていた。
幽助の言う通り妖気を完璧に消せれば奇襲はできた。だがそれはできない。
突然の急激なパワーアップは、例えれば125ccのバイクから1000c cのバイクに訓練なしで乗り換えたようなものだ。乗ること自体はできるがパワー差がありすぎて微細なコントロールができないのだ。
「……それじゃあ、シャミ子は勝てないってことですか?」
心配そうに聞く桃。正直シャミ子がダメだった場合、戦力的にこちらの勝ち目はかなり薄いだろう。それ以上に、またシャミ子が死ぬかもしれない。そのことを考えると、桃は震えた。
しかし幽助は首を横に振った。
「多分オレの予想が当たってれば、このまま勝てるかもしれねぇ」
「……それは魔族大隔世の魔族が手助けするからやろか?」
そのリコの問いにも、幽助は首を横に振った。
「那由多を見てれば分かるぜ」
その言葉に従って、全員那由多の動きにより注意を払った。だが今までと何が違うのか、今の段階では彼女たちには分からなかった。
私たちの戦いの衝撃波で更地になった土地。環境破壊もいいところですが、そんなこと気にしてられません。
私の攻撃が捌かれ、代わりに殴られて吹き飛んだ私。地面に転がると土煙が上がったので、その隙に地面を振り進んで那由多の後ろあたりに待機します。
少し待ってから攻撃を仕掛けようかな、どうしようかな……と考えていると那由多の声が響きました。
「ぼくの後ろにいるんだろう?出てこいよ」
ドキッとしますが、バレているなら仕方ない。素直に地面からモグラのように出ました。
「ふっふっふ、よく見破りましたね」
「妖気の消し方がまだ甘いね。パワーアップした分制御には不自由しているようじゃないか」
「まだ暴れ馬に乗った感じなんで中々コントロールが難しいんですよ」
私は土を落としながら立ち上がります。
「だけど戦っているうちに結構慣れてきましたよ!」
「なるほど……本当に浦飯に似ている。君たちと戦うのは楽しいよ」
「へへへ……褒めても敗北しかプレゼントできませんよ?」
「おっと、そう簡単には負けられないね」
お互い軽口を叩き合いつつ、少しずつ間合いを詰める。
「(さて、どう仕掛けようかな?)」
やれるようなことは結構やった。しかしほぼ対処されている。霊丸も死ぬ前に3回撃ってるから、残り1回。無茶はできない。そう考えていると……
───随分苦戦してるみたいだな
「こ、この声は!?」
内側から聞こえてくる、深い闇のような声。具体的に言うと、死んでいた時間に聞いていた声です。
───あんなやつに手こずってもらっては困るな。手伝ってやろうか?
雷禅さんの声が脳内に響きます。これは浦飯さんの時と一緒でしょう。雷禅さんが私の意識を乗っ取って代わりに戦って貰えば那由多には勝てるでしょう。
「もう復活という手助けをしてもらっているので結構です!」
「な、何を言っている?」
ですが私ははっきり断りました。那由多は突然独り言を始めた私を不審者を見る目で見てきますが、無視します。
「おーい!邪魔すんじゃねーぞ親父ィ!邪魔したらテメーぶっ飛ばすぞ!」
その時、遠くの方からあり得ないほどの大声が聞こえてきました。浦飯さんはどうやら雷禅さんのことに気付いたようです。
「そうです!それに一度殺されているので、自分の仇は自分で取りたいです!」
───テメェら2人とも強情なやつらだ。だったら勝ってみせろ
「言われずとも!」
雷禅さんの言葉を受け取り、私は呆けている那由多へ飛び込みました。那由多は表情を切り替えて、応戦します。
雷禅さんの言葉が聞いたのか、それとも後押ししてくれた浦飯さんの言葉が嬉しかったのか。理由は分かりませんが、先ほどより妖気が体内に満ちていくのが分かります。
というか、なんか体の至る所に刺青みたいな模様が浮かんでます。何だこりゃ!と叫びたい気分でしたが、何だか力が湧いてくるのでこのまま攻め続けます。
模様が浮かんでからどんどん早くなっていく私の攻撃に、那由多の捌き方がどんどん雑になってきて私の攻撃がより当たるようになっていきました。
「オラァ!」
「く、くそ!?」
右、左と那由多の顔に拳が命中し、那由多の反撃も避けてさらに攻撃をヒットさせます。
何度か繰り返していくうちに、那由多が変化していることに気づきました。
「(……那由多の動きがなんだが鈍くなっている?)」
攻撃を喰らっているからにしても、那由多の魔力の操作が結構雑になってきているような気がします。
何か大技の準備のために魔力を回しているから、制御が甘くなっている?とも考えましたが、考えたところで意味はありません。私にできることは、このまま押し切ることだけ!
「那由多の魔力操作が追いついてない?」
一番早く気付いたのは魔力操作が一番上手い桜だった。桜は皆の怪我の治療をしながら戦いを見ていた。
結界など街の誰も真似できないものを作り上げるほど魔力操作に長けた桜は、戦っている那由多の魔力操作が那由多自身の動きに追いついていないことを理解してしまった。
「言われてみれば確かに……」
それどころか、徐々に魔力が落ちてきている。放出系の技を使ったわけでもないから、急激に消費するとは考えにくい。
しかし体を纏う魔力の光がだんだん落ちてきているのが、他の者たちの目にも映るようになってきた。それだけ弱体化し始めたのだ。
「……もしかして浦飯さんが言っていたのはこういうこと?」
「ああ、そうだ」
「理由を聞いてもえぇ?」
「……那由多の奴はオレと戦っている時、すげぇ魔力をコントロールしながら戦ってた。
世界中の魔力だぜ?普通ならコントロールできずに体が破裂して終わりなはずだ」
そこでミカンは一つ疑問が生まれる。
「あれ?でも魔力を集めているのはご先祖だったのよね?集めることができたのだから、コントロールできてるんじゃないの?」
「ミカンちゃん、それは違うわ。ご先祖ができたのは世界中から魔力を集めることだけ。
確かに那由多に流す魔力量は調整できるかもしれないけど、受け皿の那由多はずっと魔力を受け止めなくちゃいけない。その上で自分で使っていたのよ」
早い話が、世界中の水を集めて那由多という巨大な容器に流し込むまでがご先祖。
そこから溜まっていく水を上手く外に流して(魔力の使用)、容器が壊れないようにコントロールしていたのが那由多本人。
しかしご先祖から送られてくる魔力という水があまりに勢いが強く大量だったため、容器そのものが傷ついてしまった。しかも幽助に何度も致命傷に近い怪我を負わせられて、その回復もしなければいけない。やることが多すぎたのだ。
そして元に戻ってしまったために、傷ついた容器を治す手段がなくなってしまった。だから今現在の状況になっているのだ。
本来ご先祖から魔力を受け取るときには、すでに敵を排除して全てを一つにする計画だけに使う予定だったのだ。それが幽助という強敵の出現により、使わなくてはいけない状況になってしまった。それが原因だった。
それを桜が全員に説明すると、全員納得した。幽助までも。
「ちょっと浦飯さん、あなた分かっていたんじゃないの?」
「はは、何となくは分かっていたんだがよ!そんな詳しく言えないって!」
ははは、と笑って誤魔化す幽助。全員幽助らしいと苦笑いし、戦いへと向き直る。
「つまり、決着が近いってことだ」
「ま、負けない!ぼくは負けない!」
那由多の攻防は目に見えるくらいキレが落ちていました。
繰り出す拳のスピードに魔力が追いついてない。防御も全身をくまなく魔力で覆うことで何とか防いでましたが、今までのような捌いたりなんて芸当はできなくなっていました。
「オラァ!」
「がっ!?」
恐らく限界が来たのでしょう。私が殴り飛ばすと、那由多は転がっていきます。立ち上がる際も足は震えており、ダメージがありありと残ってました。
「はー、はー、はー……」
那由多は立ち上がって、両手を頭上に掲げました。恐らく、大技が来るのでしょう。
私はそれを見て自然と左手を右手首に添えて、右人差し指に妖気を込め始めました。ここでお互い決着をつける。何となく、それが感じ取れました。
「……浦飯、そしてシャミ子。君たちとはいつまでも戦っていたい。そう思えたのは初めてだったよ」
あの那由多がそんなことを言うなんて、正直驚きました。
「……でもいつかは終わりがきます」
しかしじゃあやめる、と言えない。それはお互い分かってました。
「そうだ。だからこれで終わりにしよう」
那由多は両手の中に巨大な魔力弾を生成していきます。魔力弾はだんだん大きくなり、見上げるほど大きくなっていきます。
私も右人差し指を那由多に向けて、全ての妖気を霊丸にすべく集中します。
「(私の中の全ての妖気よ、集まってください!2度と妖気が使えなくなってもいい!だからありったけを───!)」
今まで見たことないくらいの巨大な霊丸が私の指に集中してました。お互い最後の一発。これで全てが決まる!
「いくぞシャミ子!」
「くらえー!」
「魔光烈弾!」 「霊丸!」
魔力弾と、赤い霊丸。家どころか小さな山さえ包んでしまいそうな巨大な2つの力は真正面からぶつかった。
衝撃波は離れた幽助たちにも届き、踏ん張るのも力がいるほどだった。
互角に見える2つの力。しかしずっと同じというわけにはいかなかった。
「パワーはほぼ互角!」
「決まって!そうでないとシャミ子は……!」
「いや、お互いにもう動く力が残ってない!」
己の全てを賭けて渾身の一撃を放った両者はすでに動く力を失っている。均衡の破った方の勝利は明白だった。
「シャミ子の霊丸が……!」
桃は叫んだ。シャミ子の霊丸が徐々に押し進んでいたからだ。
「いけ!」
「いけ……!」
「いくんや!」
桜、ミカン、リコは次々と叫ぶ。その声に応えるように、シャミ子の霊丸は魔力弾を押し除けて前へ進む。
「いけぇー!シャミ子ぉー!」
そして幽助の渾身の叫びと共に、霊丸は魔力弾を吹き飛ばした。
粉々に消える魔力弾。そして那由多の目に映ったのは大きな赤い霊丸だった。
「(あぁ───)」
那由多の体が霊丸に飲み込まれる。光の一族にとって、闇の一族である魔族の攻撃は毒だ。
霊丸が那由多の体を削り取り、粉々にしていく。
那由多は今までの出来事を思い出していた。願いのために駆け回った日々を。
だがその日々がどうでも良くなるくらい、今日という日の戦いは楽しかった。初めて、楽しく戦えたのだ。
「(悔しいけど、楽しか───)」
粉々になった肉体から出てきたコアも霊丸が粉砕し、霊丸は空の彼方へ消えていった。
何もなくなった。まるで今までの戦いが嘘のように、静寂が訪れたのだ。
「……那由多の奴の魔力が完全に消えたな」
幽助は……いや、生き残った全員が感じ取っていた。そう、那由多は完全に消滅したのだ。
それを聞いた途端、桃たちは走り出した。勝者の元へ
そしてその勝者は呆然とした様子で空を見上げた。すると朝日がその者を照らしたのだ。
眩しい……と感じると、何だか夢から覚めたような気がした。走ってくる仲間たちに、勝者は手を挙げる。
「勝ちましたよー!!」
シャミ子はようやく長い1日が終わったことを実感したのだった。
つづく
夕方に那由多に出会って、そこから洞窟。那由多と出会ってからは実は十数時間程度しか経ってないで決着です。
書いてる方は長いけど、作中時間は詰め込みすぎ!