まちカドまぞくなのに、この展開はめっちゃ怒られそうでビクビクです。
それでもOKな方はどうぞ!
「どうだい、いい場所だろ?」
3人組の青年が廃工場に足を踏み入れる。ここは多魔市と隣の府厨市の境にある元マネキン工場である。懐中電灯を照らさなければ、昼間でも視界が悪いほど暗い場所である。
「……えらく薄気味悪いところだぜ。黒焦げた人形がゴロゴロしてるしよ……」
男は転がっている人形の頭を蹴飛ばす。視界が悪いせいか、本物に見えなくもない。
「怖いのか?」
「バ、バカ言うな……」
「格好の隠れ家だぜ。人目につかねぇ廃墟だ」
「マネキンの工場だったらしいが、10年前の火災で閉鎖したってよ。そん時何人も死んで、「出る」らしいぜ?」
1人の男は唾を飲み込む。暗さと不気味さ、そしてきつい臭いがよりリアリティを高めていた。
「わ!後ろ!!」
「ヒッ!?」
「ギャハハ、見たかよ今の面!」
「オメービビりすぎだっての!!」
「う、うっせー!」
「情けねー。それよりもよ、夏だし早くここで心霊スポットだよー!とか言って女呼び込んでよー」
「結構いけそうだな。冴えてんなー」
「だろー?」
「あ、あ……!」
「ケケ、こいつ俺のマネして脅かそーとしてやがる!」
「んなことより、早く女をよー」
「後ろぉー!」
「んだよー……」
それが3人の最後の光景であった。
9話「廃工場の決戦です!」
「聞いてください杏里ちゃん!私、ついに霊丸が4発撃てるようになりました!!」
この1学期、辛い修行を続けた甲斐がありました。なんと、1発しか撃てなかった霊丸が4発も撃てるようになったのです。しかも威力は以前よりパワーアップした上でです。
これも妖力の総量が増えたおかげですね。
「すごいじゃんシャミ子!でもなんで4発?」
「浦飯さんが4発の設定でして。弾数制限すると、妖力が上がればその分威力が増えていくので切り札としていいとか何とか。こんな感じです」
私は杏里ちゃんに右手の親指以外の指先が、妖力で赤く光っているのを見せました。これで弾数は分かりやすいと思います。
ちなみに一昨日は本当に4発撃てました。1発じゃないのは精神的に本当に助かります。1発だと外したら終わりですしね。
「おおー、本当に4つ光ってる。なるほど、強敵用に設定しているってことだね」
「そういうことだな。もちろん弱く撃つこともできるから多少は調節できるがな」
浦飯さんの言う通り弱く撃つこともできますが、今のところ弱く撃つ場面がありません。あれから戦いもないし、平和ですからね。
「浦飯さん!何かいい感じのアイテム案とかあります?特に魔界のやつとかがいいです」
3人で話していると、小倉さんが席にやってきました。
しかし内容がぶっ飛んでますね。魔力計作ったのは小倉さんですし、そういったものを作るのが趣味なんでしょうか?
「魔界のやつねー。結構あるっちゃあるが、材料が手に入らないと思うぞ?」
さらっと魔界なんて言ってますが、浦飯さんに聞く限り相当やばいところらしいですね。私は一瞬で死ねそうです。
「いえいえ、発想とかだけでもいいんですよ」
「そうだな~。蔵馬が使ってたのは少し汁を吸ったりしたら赤ん坊以前にまで若返る「トキタダレ花の果実」とかだな。
桑原の奴は持つ者の気を吸い取り成長するヒル杉を使った「試しの剣」とかあるな。
あとは黄泉のやつが目が見えない者でも脳を通し視覚情報を送る「頭伝針」とかあるって言ってたぜ」
「なんですかそのラインナップ。ツッコミどころしかないんですが」
「ぶっちゃけオレもそう思う」
それぞれあり得ない効果ばかりです。若返るって言ったって、赤ん坊以前まで戻るとか死ぬだけじゃないですか。
ヒル杉も成長の仕方がアレだし、そんなもんよく使いますね。でも頭伝針は良さそうですね。色んな人が助かると思います。
「うーん……やはり研究あるのみですね」
やはり小倉さんも難しい顔をしてます。しかし作れるもんじゃないと思いますが、作る気満々のようです。
「そういや霊界七つ道具はどうなった?そっちはまだできてねぇのか?」
「あ、そっちはイタコ笛ができましたね。これです」
小倉さんはポケットから笛を出してきました。一見何でもない普通の笛に見えますが、どんな効果なのでしょうか?1回聞いた気がしますが、覚えてません。
「おー、やるじゃねぇか小倉」
「一体どんな効果ですか?」
小倉さんは目を輝かせて、素早く黒板に書き込みを始めました。大半何書いてあるかわかりませんが、これが天才なのだろうと気にしないことにします。ええ、材料に鳥とか書いていても気にしませんとも。
「簡単に言うと、魔力のある者が吹くと魔力持っていない人間には聞こえない音が広範囲に渡って広がるの。その範囲は魔力の大きさに左右される……と思う」
「思う?」
「実際まだ他の人に協力してもらってないから、ちょっとね」
珍しく小倉さんが自信なさげでした。むしろこの前の魔力計作った時点でチートだと思うんですが、求める基準が高いのでしょうか?
「じゃあ試しにシャミ子が吹いてみればいいんじゃない?話の通りなら浦飯さんは聞こえるだろうし」
「そうだね、シャミ子ちゃん、お願いしてもいい?」
「良いですよ。それじゃあ、せーの……!」
杏里ちゃんの提案通り、私が吹くことになりました。2人だけでなく、クラスメイトの皆さんにも耳を抑えてもらうよう説明します。
皆さん耳を抑えたのが確認できたので、頑張って肺を膨らませて、思い切り吹くと、凄まじい音が響き渡りました。小倉さんと杏里ちゃんは耳を抑えてましたが、少し呆けた表情をしています。
「えー、何も聞こえないんだけど」
「私もー」
「結構でけー音だったな」
3人とも違う答えでした。この中では浦飯さんのみ聞こえたようです。どうやらクラスメイトの皆さんも聞こえなかったようです。
私と浦飯さんが聞こえたので、どうやら本当に魔力を持っている者にしか聞こえないようです。しかしもう1人くらい聞いたという人が居れば本物と断定できそうなんですが……。
「シャミ子、今の音は!?」
そんなことを考えていると、飛び込むように桃がうちの教室に駆け込んできました。あ、魔力持ちなら桃にも聞こえますね。失念してました。
珍しく焦っている感じの桃にイタコ笛の説明をすると、桃はため息をつきました。
「相談なしでいきなりやるのはやめてほしい。何かあったんじゃないかと心配したよ」
『ごめんなさい』
素直に3人で謝りました。謝ってないのは浦飯さんだけです。
この後、桃の提案でこの笛は私が持つことになりました。現状私が実力が低いので、腕鬼のときのような緊急時に使うために持つように言われました。
何かちょっと不本意ですけど、実力が低いのは認めているのでそのまま受け取りました。
そして学校が終わり、帰宅して良にイタコ笛の話をすると、見せてほしいとせがまれました。
「これがその笛なんだ」
「普通の笛みたいに見えますけどね」
家事を終えたお母さんも話に加わり、2人もイタコ笛を手に取って観察してます。まぁ確かにどこをどう見ても外見は普通の笛ですしね。
「おいシャミ子、1回吹いてみろ。2人が聞ければ、それは2人とも使えるってことだからな。オメーが持つより2人が持つほうがいいだろ。何かあったとき用によ」
2人からイタコ笛を返してもらった時、浦飯さんがそう提案してきました。
確かに2人が聞ければ何かあったとき誰かに知らせることができますね。ちょっと強くなったし、私がお助け用にイタコ笛を持つのはちょっと抵抗ありますしね。
そう思って私は浦飯さんの提案に乗り、1回吹いてみることにしました。
「じゃあ1回吹いてみますね。2人とも聞けるかもしれませんし。耳は塞いどいてください」
2人とも頷き耳を塞いだのを確認して、私はイタコ笛を吹きました。やっぱり音が大きいですね。
「す、すごい音」
「……………私は、聞こえませんでしたね」
良がしかめっ面で耳を抑えており、結果として良は聞こえることが分かりました。良は魔力持ちということになります。やはり魔族の子孫だから、潜在的には魔力があるということでしょう。
お母さんは表情が変わらず、聞こえなかったようです。お母さんは魔力持ちではないようですね。
しかし気のせいでしょうか、お母さんの表情が何となく硬い気がします。まぁ、聞こえなかったから拍子抜けしただけでしょう。
「……んじゃ、良子にイタコ笛を持たすってことでいいか?清子さんよ」
「……ええ、それがいいでしょう。優子、お願いします」
浦飯さんがお母さんに許可を取ると、少し間が開いてお母さんは許可しました。
しかし何でしょう、今の2人の言い方は何か引っかかります。でもお母さんは笛の音が聞こえなかったんだし、気にすることではないでしょう。
そう考えた私は良にイタコ笛を手渡して握らせました。この子なら変なことには使わないでしょう。
「それじゃ良、何かあったときこのイタコ笛を吹きなさい。最近物騒ですし。聞こえたらお姉ちゃんが助けに行きます!」
「どちらかっつーとオメーは助けられる側の実力だけどな」
「良いじゃないですかカッコつけたって!」
「ううん、ありがとうお姉!」
良がまぶしい笑顔を見せてくれました。もちろん笛を使う事態にならないのが一番ですが、何があるか分かりませんから、念には念をです。
まぁそんな渡した次の日に事件が起きるとか、そんな漫画みたいな展開にはならないでしょう。
☆☆☆
翌日。
私が学校から帰ってきて、お母さんは不安そうな表情をしていたので尋ねました。
「え?まだ良が帰ってないんですか?」
「そうなんです。あの子、いつもこのくらいには帰っているのですが……」
良はいつもなら家の手伝いをしてくれるため早く帰ってくることが多いのですが、今日に限って夕方遅くになっても帰ってきませんでした。何かあったんでしょうか?
「遊びに出かけてんじゃねーのか?」
「それでもいつも夕方5時前後には帰ってますので……何かあったんじゃ……?」
「行先とかは聞いてないんですか?」
「いいえ、今日は友達と遊んでくるとは言っていたのですが……どこにいるかまでは、さすがに……」
どうやら良はお母さんに行先を告げず遊んでいるようです。しっかりしていると思いましたが、やっぱり良も小学生なのでしょうか。
外も暗くなってきたことですし、このまま変な人に絡まれないとも限りません。
「お母さん。私、良を探しに行ってきます!」
「大丈夫ですか優子?浦飯さんを持って行ったほうがいいんじゃ……?」
お母さんは邪神像を両手で持ち上げてました。私だって少しはパワーアップしたんです。ちょっと危ない普通の人くらいでしたら、浦飯さんの力を借りなくても問題ないです。
「大丈夫です!浦飯さんの言う通り、遊びに行って遅くなっているだけかもしれないので、浦飯さん抜きでも大丈夫です!」
「あ、シャミ子。ついでに帰りにタバコ買ってきてくれよ」
ええい、今はそんなお願いを聞いている場合ではありません。
「未成年は購入できませんし、できたとしても家計に響くので指でもしゃぶってて下さい!行ってきまーす!」
「車と魔族と魔法少女に気を付けるんですよー」
「ねーと口が寂しいんだよなー」
浦飯さんとお母さんの声を背に、私は自宅を出ました。
普段良が遊んでそうなところは公園か図書館でしょうか。図書館はこの時間だと閉館していますし、とりあえず別の場所を探しに行きましょう。
鍛えたおかげか、妖力を使わなくてもずっと速く走れるようになったので、昔とは桁違いに速く心当たりのある場所に回れました。しかし良の姿は影も形もありません。
「一体どこにいるんでしょうか……誰か見ていたらいいんですが……」
とはいえ、私には知り合いは多くありません。とりあえず人通りが多く、小学生でも寄りそうな商店街へ向かいました。
商店街には買い物に来るので、知り合いの人が何人かいますし、杏里ちゃんの家がやっている精肉店もあります。杏里ちゃんのお母さんに聞いてみましょう。
「すいません杏里ちゃんのお母さん。うちの妹の良を見かけませんでしたか?」
「あらシャミ子ちゃん。良子ちゃんならさっき見たわよ」
「本当ですか!どこに行ったか知ってますか!?」
やはり杏里ちゃんのお母さんだけあって情報通です。早速場所を聞き出します。
「良子ちゃんはお友達2人と一緒に、市内の外れにある廃工場に行くとか言ってたわ。私は危ないから止めるように言ったんだけど……中には入らないからって言って、走って行っちゃったのよ」
「そ、その廃工場はどっちの方向にあるんですか?」
「商店街を抜けた先の、府厨市の境にあるわね。
良子ちゃんも友達に危ないから止めようって言ってたんだけど、他の子が言うこと聞かないで行くものだから、心配でついて行っちゃって……さっきシャミ子ちゃんの家に連絡したのよ?」
どうやら良は友達が心配でついて行ったらしい。しかも私の自宅への電話と、私が出て行ったときはちょうど入れ違いだったようだ。
こうなると大分時間が経っていると考えていいでしょう。
「ありがとうございます。お手数なんですけど、私がその廃工場に迎えに行くことを母に伝えていただけますか?携帯持ってないので……」
「分かったわ、気を付けてね」
「はい!」
杏里ちゃんのお母さんにお願いして、私は走り出しました。
杏里ちゃんのお母さんから聞いた話が確かなら、せいいき桜ケ丘から出て、市内の端っこの廃工場まで行っているみたいです。何でそんな遠くに行くんですか……!無事ならいいんですが。
私はかなり急いで走りました。長い距離を走る速度としては最高速度のつもりです。
いくらか走ると、ボロボロで不気味な廃工場が遠くに見えました。いかにもヤバ気な、ホラーものに出そうなレベルの建物です。
「嫌な予感、的中しちゃいました……!」
左腕につけている魔力計が廃工場に反応してます。この反応の強さは良ではなく、別物と考えたほうがいいでしょう。
しかし実際良とお友達が廃工場の中にいるかどうかすらわかりません。
廃工場に突入しようか迷っていた次の瞬間、凄まじい笛の音が響きます。
「これは、すごい笛の音です!」
普通の笛かと一瞬思いましたが、私の後ろの方で歩いているおじさんは、全く反応してませんでした。これは、まさかイタコ笛の音!
これが良の持つイタコ笛の音であるならば、あの子のことだ、本当に危機的状況でしか使わないだろう。そうなると、今良が危ない!
「良、今行きますよ!」
このとき私は桃やミカンさんを連れてくるという選択肢も若干頭の片隅にありました。
しかしそれはすぐに排除しました。もしせいいき桜ケ丘まで戻っていたら間に合わないかもしれないからです。
いざというときは、良を連れて脱出すればいい。そう考えて突撃しました。
廃工場の中はかなり不気味でした。電灯は全くついておらず、工場内は外の光だけでしかわかりません。しかもそれだけではありません。
「こ、これって人の腕……?」
そこら中に人形が転がってますが、よく見ると本物の人の腕や足やらが転がってました。
切断面からみて、切られたわけではなく噛みちぎられたような痕でした。つまり、これは喰い残しということでしょう。
「き、気持ち悪いぃ……」
およそスプラッタに耐性の無い私はかなり気持ちが悪くなってきましたが、良やそのお友達を助けないといけないので、吐くのをこらえて進みました。
もしこの惨劇の原因の魔族に見つかっていたら……その予想をあえてしないよう私は頭を横に振りました。もし喰われているのだったら、笛は吹けないはずです。
少し走ると、開けた場所に出ました。ソファーもあるので、もしやここが寝床かもしれません。しかし良の姿は見つかりませんでした。
「一体どこに……」
「今日は客の多い日だ」
暗闇から現れたのは、ひどく大柄な魔族でした。
大柄な魔族は2mは優に超えているだろう。特徴的なのは、通常耳に該当する部分から腕が左右1本ずつ、肩から左右2本ずつ腕が生えている。そして足も、足というより手の様な発達をしていました。
腰ミノをつけており、それを止める部分には髑髏がいくつも並んでました。かなり悪趣味です。
「誰です、あなたは」
「オレはここを根城にしている八つ手だ。魔族が何しに来た?」
「ここに来たであろう私の妹とそのお友達2人を連れ帰りにきました。どこにいるか知ってますか?」
八つ手は薄ら笑いを浮かべてました。気味の悪い笑顔でした。少し背筋がぞくっとします。
「ほぉ……あのガキどもの知り合いか?」
「私は姉です」
「なるほどね……道理で魔力もあるレアモノが混じってたわけだ」
もうすでに良とこの魔族は出会っている。最悪の想像が脳裏をよぎりますが、まだわかりません。
場所を教えない八つ手に苛立ち、私は全身の妖力を高めました。
「どこにいるんですか!」
「焦るなよ。よーし、じゃあヒントをやろう」
八つ手は頭についている右腕を自身の後頭部に回し、何かを取り出しました。それを見た瞬間、私の血は沸騰しました。
「これ、な~~~~んだ?」
奴が見せつけてきたのは――――ちぎれて血が滴る足。
青白く変色した足を、まるでおもちゃの様に見せつけてきました。その光景は良がどうなったか明らかにするものであり、私は一瞬で怒りが頂点へ達しました。
いや、これは怒りではない。この感情は―――――殺意だ
「キサマぁーーーーー!!!」
真っ直ぐ突っ込んで、奴の顔に右拳を叩き込むべくジャンプし、そのまま拳を繰り出しました。
しかし奴は耳の部分にある腕で私のパンチを受け止めてみせました。私はその後の奴の左腕の払いのけるような拳をもろに食らってしまいました。
「がっ!」
「カスが!勝てると思ってんのかぁー!」
空中で回転することで勢いを殺し着地し、私は再度突撃しました。怒りで頭の中がグチャグチャで、戦術なんてものは思い浮かびません。
ただ目の前の相手を倒すことしか頭にありませんでした。
「キサマだけは許さん!!!」
「ケッ、テメーも殺して喰ってやらぁー!!」
私は正面から連続で殴り続けますが、全て八つ手の3本の腕で防がれます。八つ手は防いでいない余っている2本目の左腕で私の腹を殴り、私はそのまま後ろへ吹き飛びました。
「ぐふ……!」
接近戦では明らかに手数で負けてます。このままでは殴り殺されるのは間違いない。
怒りは残ってますが、殴られるたび頭のどこからか冷えていき、そのように考えられるようになってきました。
気配は上。八つ手は大きく跳躍し、その大きな体とともに落下攻撃を仕掛けてきました。
「くっ!」
地面のコンクリートが壊れる一撃を、横に飛んで回避します。
大きな体の割にスピードもあり、しかも接近戦も強力。このまま接近戦ばかりでは不利です。
ならば修行を経てパワーアップした新技を使います!
私は左手を右手首に添えて、左足を前に出して足を広げ、右拳を腰だめにし妖力を集中させます。そして右拳が赤く光ります。
「ちょこまかと!」
八つ手がこちらに向き直り、弾丸のように迫ります。離れすぎていないこの距離なら当たる!
「くらえー!ショットガン!!」
右拳から拡散するように、妖力の拳の弾幕ともいうべき放出系攻撃が八つ手を襲います。いくら奴の腕が6本あるとしても、たった6本ではすべて捌くことは不可能です。
「ぐおぉ!?」
とっさに八つ手は腕6本で体を覆いましたが、それでも全身にショットガンが当たり、そのまま後方へ吹き飛びました。
吹き飛んだ八つ手の体は埃だらけの物置に突っ込みました。それにより凄まじい埃が舞い上がり、煙となって辺りを覆います。
その煙は私の近くまで覆い、八つ手の姿が見えなくなりました。
吹き飛ばされてから、八つ手が動き出す様子がありません。先ほどまで感じられていた八つ手の魔力も感じられなくなっていました。
これだけで勝負が終わったとは思えないですが、かなりダメージを与えたんでしょうか。
様子を見ようと、警戒しつつ八つ手のそばに行こうとした瞬間、目の端の煙がわずかに動いたのが見えました。
次の瞬間、煙から飛び出す八つ手。
「(魔力はなかったはず……!)」
咄嗟に後ろへ飛びつつ、八つ手の2本同時の右拳の攻撃を、妖力を集中させた左腕で防ぎました。しかし、その代償として左腕から嫌な音がしました。
「クリーンヒットォ!」
受け身が取れず、地面に転がる私に対し、八つ手は勝ち誇るような表情を浮かべていました。不味いです、これは左腕が折れたか……!?
「よくガードしたな!オレはあの瞬間まで魔力を消していたが、恐らく目の端で煙の微妙な変化を捉えたな?見かけに反して中々やるじゃねーか」
「……貴様に褒められても、嬉しくない」
どうする、どうすれば八つ手に勝てる?
私は左腕の痛みが、思考を混乱させていることに気づきながらも、焦りを止められなかった。それは八つ手が予想外にも魔力断ちなどの細かい技術を使ってきたことも一因だった。
腕鬼のように霊丸を口の中に撃つ……ダメだ。奴の頭についている腕で防がれる。かといって体にぶち当てても、貫通できるか分からない。
八つ手も傷つき血を流しているが、ダメージはこちらのほうが大きいだろう。ショットガン、つまり散弾式では決定打にならない。
一発の威力だったら、霊丸のほうが上だが、あと3発。
「そう言うな。中々楽しめたからな、味わってやるよ。やっぱり喰うなら男より女だからな」
八つ手の魔力が体を満たしていく。決めるつもりだろう。
この傷ついた腕では接近戦では勝ち目がないだろう、八つ手も理解しているから、ここで一気に接近戦で勝負を決めるつもりだ。
足元にある人形が、八つ手に踏みつぶされて粉々になる。辺りには似たような人形がもう数体あった。
―――まて。接近戦では、勝ち目がない?
そうか!これがある!
私は作戦を決めて、右の人差し指に妖力を集中させる。これで決まらなければ次だ!
「霊丸!!」
発射音とともに、霊丸が八つ手に迫る。すぐさま、私は右手に妖力を集中させる。一番効果的なのは連射だが、それは私にはできない。ならば、頭を使う!
「ちぃ!?」
頭を狙った霊丸は、八つ手が咄嗟に躱すことにより、頭の左腕が吹っ飛ばす結果となった。
「(この攻撃で逆上すれば……!)」
「てめぇー!よくもオレの腕おぉー!!」
左腕で、ちぎれた腕から出血している部分を抑えて、八つ手は怒り叫ぶ。
―――食いついた!
元々最初から舐めてかかってきた相手だ。プライドは高いことは明白。霊丸で仕留められなかったが、冷静さは欠けたはず。
「ぶっ殺す!!」
力強く八つ手が踏み出し、あと2歩で私の間合いに入る瞬間、私は地面を妖力を集中させた赤い右手で殴りつけました。
巻き上がる土煙。視界は完全に遮られました。それと同時に妖力を断つ。
「目くらましか!この猿真似女が!」
そう、先ほど八つ手がやった奇襲の真似事です。でもここからは私がこの場で考えたものだ!
☆
八つ手は気配を断ったシャミ子の姿を追うのではなく、煙の変化を見ていた。
自身のスピードと相手の女魔族のスピードはそれほど差がないことは、最初の接近戦で理解している。
相手は遠距離技があるが、視界が悪い煙の中で、闇雲に撃ってくるのは考えにくい。
恐らく相手が狙っているのは、接近してからの先ほどの霊丸と言っていた一撃だろう。
先ほどの遠距離技は1発ではあったが、溜めが少なく避けるのがギリギリであったにも拘わらず、自身の腕を吹き飛ばすほどの一撃であった。直撃を喰らえば、こちらもダメージは必至!
だから接近しての一撃にかけてくるだろうと予感していた。
しかし間合いに飛び込んでくるというのであれば、こちらの全力攻撃を叩き込めるのも道理!
八つ手の攻撃力は、女魔族の防御力を上回っていることは先ほどの攻防で証明済み。
つまり、先に一撃入れたほうの勝利となる!
八つ手は集中した。もし敵が自身に接近する場合は、煙が激しく動くほどの高速移動であることを理解していたからだ。
「上かぁ!!」
煙が激しく動いたのは、八つ手から見て左斜め上であった。間違いなく人型。
認識したと同時に、八つ手は左腕2本による全力攻撃を繰り出していた。それは吹き飛ばされた頭の左腕の敵討ちでもあった。
しかし拳から伝わるのは人体を破壊した感覚ではない。冷たい、血が通っていない物体であった。
「これは、人形!?」
視線の先には、粉々になる人形。それと同時に飛び出してくるのは、シャミ子。
八つ手の対応は一手遅れる。その間に、シャミ子は懐へ潜り込んでいた。右拳が今までで一番大きく赤く光っている。
「しまっ……!?」
「ショットガーン!!」
今度は相手に接触させた上で放つ、つまりゼロ距離ショットガンである。ショットガンの威力が分散することなく直撃し、さらに突撃と拳の威力も加えての一撃であった。
その威力は八つ手の胴体に大きく穴をあけ、上下に胴体を分断させた。
辺りに飛び散る血が、その威力を物語っていた。
「やるな……褒美に教えてやるぜ」
「……褒美?」
崩れていく体を気にもせず、八つ手は喋り始めた。
倒してもなお上半身は残っているため、シャミ子は警戒を怠らなかった。というより、油断できる相手ではないのだ。それを気にすることなく、八つ手は口を開く。
「あのメスガキ3人は喰ってねぇ……今日のメインディッシュにしようと思っていたところよ」
八つ手は残っている左腕で、自身の左後ろを指示した。そこに3人いるということであろう。その内容は、シャミ子を安堵させると同時に、この戦いの意味を分からなくさせていた。
「何ぃ……!?じゃあ何であんなマネを!」
だがわざわざ足を見せて挑発してきたのは一体何故だったのか、シャミ子には理解できなかった。
「言っただろう、喰うなら女だってよ……魔力がデカい奴を喰ったほうがオレも強くなれる……テメェを殺して喰うつもりだっただけのことよ」
だが、と八つ手は続ける。
「先にあのガキ喰っておけば、テメェなんかに負けなかったのによ……」
そう言った八つ手の体は冷たくなり、動かなくなった。魔力も完全になくなったのを、シャミ子は感じ取っていた。
シャミ子は何か言おうとして口を開いたが、発することなく閉じる。
言われた通り、3人がいるであろう場所に向かうと、扉があった。
そこを開けると、良を含めた3人が1か所に身を寄せ合っていた。
「お姉……?」
「良……!無事だったんですね!」
「お姉ー!」
良はシャミ子の姿を見ると、泣きながら抱き着いた。よほど怖かったのであろう、いつも大人しい良がこれほど感情を出しているのは珍しいことであった。
「ごめんなさいー!」
「わ、私たちが、グス、いけなかったんです……!」
残り2人もシャミ子に抱き着いて泣き、ずっと謝っていた。
ごめんなさい、夏休みが近いから心霊スポットに興味があったのだと。良は止めたが自分たちがいけなかったのだと。
シャミ子は叱れなかった。無事でよかったという安堵しかないのと、すでに戦いの疲労と痛みで精いっぱいだったからだ。
泣き続けると緊張が続いたためか、友達2人はそのまま寝てしまった。思うところはあったが、まだ小学生だ。
どうやって出ようか迷っていると、魔力が2つ近づいて来ているのが感じ取れた。しかしこの魔力には覚えがある。
「シャミ子、良ちゃん、無事なの!?」
「助けに来たわ!」
「桃、ミカンさん……皆無事です」
駆け込んできたのは2人の魔法少女。2人が来たということはこの周辺で敵はいないということだ。ようやく気が抜けて、シャミ子は安堵のため息をついた。
杏里の母親がシャミ子の家に電話で伝え、さらに清子が桃の自宅へ電話したので駆け付けることができたのだ。たまたま引っ越しなどでこちらに来ていたミカンも合流できたとのことだ。
ついでに2人はシャミ子の家に寄っている暇はなく、廃工場に直行したので、幽助は吉田家に置いてけぼりである。
「ってシャミ子!あなた左腕どうしたの!?」
「ああ、これですか?ちょっとやられちゃって……」
折れているかもしれない左腕を見せると、皆顔を青くする。特にひどいのが良であった、
「ええ!お姉、大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよ。さ、帰りましょう」
全く大丈夫ではない怪我だ。それを見て桃は1人で向かったことを怒り、ミカンと良子は心配した。
怒った後、桃はシャミ子を褒めた。
よく間に合ったと。よく1人で戦い抜いて倒して助けたと。
それが嬉しくて、シャミ子は少し泣きそうになった。家族を、その友達を守ることができたのだと実感できたのだ。
帰り道、桃とミカンがそれぞれ2人の友達を背負って帰る中、シャミ子は右手で良と手を繋いで帰っていた。
良の2人の友達は、魔法少女の魔法で今日の出来事の記憶を消してもらうことになった。もちろんこのようなことが起きないよう、心霊スポットへの恐怖感は上手く残して。魔法様様である。
良も記憶を消すかどうか聞かれたが、拒否した。忘れないために、残しておきたいと。
「良は笛吹いたんですよね?どうして八つ手に何もされなかったんですか?」
「うるさいって怒られたけど、魔力が向かって来てるから、テメェに構っている暇はないって言われて、そのままアイツは部屋を出て行ったの」
「じゃあ私はナイスタイミングだったんですね」
その魔力はシャミ子のものだったのだろう。もし引き返していたりして、少しでも遅れていれば、良の命はなかったかもしれない。そう思うとシャミ子は少し身震いした。
「……お姉、本当にありがとう。やっぱりお姉はカッコイイね!」
本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる良に釣られ、シャミ子も笑顔を浮かべた。それだけで痛みがなくなるような気がした。
……ぶっちゃけて言うと気のせいであり、滅茶苦茶痛いままで、冷や汗かきまくりだが良には見せないよう頑張っているのだ。
「……そうですね。だって私はお姉ちゃんですから」
辛くも勝利を収めたシャミ子。頑張れシャミ子!もっと強くなって家族を守るのだ!
つづく
幽白成分濃いのに、原作主人公出番なし!
やめて、石を投げないで!シャミ子マジバトル2回目。こんな生臭いきららはどうかと思いますが、受け入れてくれるとすごく嬉しいです。
また今回一人称と三人称入り混じってますが、見逃してください!
今回の話の元
・八つ手
コミック第7巻 幽遊白書外伝 TWO SHOTS が初出。
OVAにもなったので皆見よう!(ステマ
展開は大体この話。ちなみに今回戦った廃工場は多魔市内ではあれど、せいいき桜ケ丘ではないので桃の管轄外のため察知が遅れた。
・指でもしゃぶってろ
桑原が御手洗に襲われる日、幽助がパチンコ行くとき母親の浦飯温子に言い返した言葉。
温子はパチンコの景品でタバコ1ダース欲しかったようだ。
・イタコ笛
霊界探偵七つ道具の一つ。霊力のある者が吹くと人間には聞こえない音(魔力持ちには聞こえる)が広範囲に渡って広がる。その範囲は吹いた者の魔力量に比例する。
念でいう円の音バージョンと想像するとイメージしやすいかも。