ぼっちのヒーローアカデミア   作:江波界司

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思い付き、です。


入学試験編
やはり俺のアカデミアはまちがっている。


 俺はヴィランという存在に否定的ではない。

 もしもヴィランがいなければ、ヒーローは存在できないだろう。

 むしろ俺はヒーローが存在悪だとすら思う。

 ヒーローは常に誰かを助ける。だがそれは、あくまでも一個人からの視点に過ぎない。

 ヒーローが誰かを助けるのは、結局のところ自己の存在証明でしかない。自分の個性を使って誰かを助けて、救って、人に社会に貢献する。

 そうすることで、自らを肯定しているだけではないかと俺は思う。

 平和の象徴、オールマイト。

 日本で、いや世界で彼の名を知らぬ者はいないだろう。

 世界最強のナチュラルボーンヒーロー。

 強個性至上主義の現代で、ヴィラン犯罪の強力な抑止力となっている彼は、確かに平和の象徴であり、最高のヒーローだ。

 だが、俺はヒーローを信じられない。

 実力は知っている。功績も認める。こんな思いは筋違いだと理解もしている。

 それでも俺は、たった一人の少女も守れないヒーローになど、なりたくはない。

 

 

 

 

 

 

 

 (わたくし)、比企谷八幡も今や高校生です。

 はい、普通科です。一般的な普通の高校です。

 当たり前だろ。ヒーロー向きじゃねえんだよ、俺の個性。

 というか、これが原因でどれだけいじめられたか。不幸だ。

 どうせ不幸なら全異能無力化くらいぶっ壊れの個性か右手をくれよ。割に合わねぇから。

 ……まぁ、個性云々がなくても、ヒーローにはならなかっただろうけど。

 ピカピカの一年生(15歳)らしくチャリを漕ぎ、登校ルートをひた走る。

 まだ全く通い慣れていない道の最中、コンビニが爆発した。うん、爆発した。大事な事なので二回言いました。

 なんならと三回目を言おうとした時、割れたガラスを踏みながら大男が硝煙の中から出てきた。男の手にはどういう訳かレジスターと、泣きじゃくる女の子があった。ランドセルを背負っているあたり、登校中に巻き込まれたのか。

 これはヴィランというやつだ。

 現代は『個性』と呼ばれるものを持って生まれる超人社会である。そんな中には、法律的や社会的に使うことすら禁止されかねない個性もある。

 だからこうして、個性を持て余した者が時折悪さをするのだ。

 そして、(ヴィラン)がいるのなら英雄(ヒーロー)がいるのもまた道理。

 

「わ〜た〜し〜がぁ〜、来たぁっ!!!」

 

 上空から突如、パッツパツのスーツを着た金髪のマッチョが降り立った。

「オールマイトだ!」

「うおぉぉぉ!」

「オールマイト〜!」

 文字通りのヒーローの登場に、足を止めていた住民が騒ぐ。

 彼は平和の象徴と呼ばれる、No.1ヒーローなのだ。

 

「さて、大人しくその()を解放してくれるかな?」

 

 臨戦態勢を取りながら、オールマイトは一応の交渉をとる。

 

「ハッ、誰が離すかよ!てめぇこそ変な動きすんじゃねえぞゴラァ」

 

 口を塞ぐようにしながら左の脇に少女を抱えるヴィランは、レジスターを持った右手を突き出す。

 するとレジスターはジュウジュウと音を立てながら形を変形させていく。

 多分だが、手のひらから高熱を出す類の個性なんだろう。

 溶けだしたレジスターを目にし、顔を手で覆われている少女は涙を浮かべた。

 さすがに、これはまずい。

 どれだけオールマイトが強くても、個性を一切発動させずに少女を無傷で救出するのは不可能ではないか。

 たとえ一瞬だろうと鉄を融解させる程の高熱に顔を晒せば……。

 何より、少女のあの怯えた表情が──妹と重なった。

 

「分かったらさっさと道を開けやがれ!」

 

 ヴィランが騒ぐ一方で、俺は息を大きく吸い込んで、止める。

 自転車から降りて、ゆっくりヴィランがいるところまで進む。

 ヴィランは大男だ。腕もがっちりとしていて、レジスターを片手で持てるくらいには力もある。

 だが、油断しているならばそれは論外だ。

 俺は気付かれることなくヴィランの左側に回り込むと、少女を掴んでいる左手に自分の左手を添える。

 そのまま右手で少女の体を支えながら、思いきりヴィランの左手を引いた。

 人は想定外の事に弱い。

 左手が外れたことで、ホールドされていた少女は俺の右手に乗ることになる。

 が、流石に重い。小学生とはいえ人一人を片腕で支えられるほど俺はマッチョでもオールマイトでもない。

 落下の衝撃を抑える程度には抵抗しながら、少女を地面に落とした。

 あとはいいだろう。

 急いで右手を少女の下から引っこ抜くと、できるだけ体力を使わないように歩いて路地に入った。

 

「スゥマァッシュ!」

 

 ヒーローの叫び声と衝撃音が、商店街に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 ようやく取り込んだ酸素は美味い。

 30秒もないほどだが息を止めていたのだ。少しずつ呼吸を整えながら、俺はスマホを取り出そうとポケットに手を突っ込む。

 

「やあ、少年」

 

 聞き覚えのある、ついさっき聞いた気のする声に思わず体が強ばった。

 声の方を見るとそこには案の定、彼がいた。

 

「オールマイト……」

「ハッハッ、私が、来た!」

 

 お決まりなのか、それ。さっきも聞いたし。

 俺は彼を無言で睨む。

 うん、だってこの状況はまずい。

 男子高校生が、薄暗い路地で、息を荒立てながら、ポケットに手を入れている。

 やべぇ、通報される。それもヒーローの中のヒーローに。

 

「まあ、そんな硬くなるなよ。お礼を言いに来たんだ、少年」

 

 そんな杞憂が伝わったのか、オールマイトは笑顔で言う。この人基本ずっと笑顔だけど。

 

「君のおかげで助かった。ありがとう」

「は、はぁ、そうすか。なんのことか分かりませんけど」

 

 あくまで知らぬ存ぜぬで通す。それができるのだ。俺はそういう『個性』を持っている。

 

「恍けることはないさ。君だろ?さっき、少女を助けたのは」

「なんのことやら、さっぱり分かりませんね」

「さっきあるヴィランを倒したんたが、その事件現場の近くに自転車が放置されていた。その自転車に貼ってあったステッカー、君の高校と一致するんだよね」

 

 俺を、というか俺の制服を指さしながら彼は言う。

 なるほど、状況証拠は揃ってる。なんならすぐに警察が来て特定されるだろう。

 仕方ない。

 

「あー、置きっぱにしてましたね、そういえば」

「じゃ、改めて礼を言おう。ありがとう、少年」

 

 俺がやったと認めたと解釈したのか、オールマイトはそう手を差し出す。

 適当に対応しようと「うす」と俺も手を伸ばす。

 

「けど、こういう危ないことは、もうしないでくれよ?」

 

 けれど、その手が触れることはなかった。

 止めてしまった手を引っ込めながら、俺はため息をつく。

 いい機会だと思ったのだろうか。魔が差しただけだろうか。オールマイトが相手だからだろうか。

 分からないが、俺は口を開いていた。

 

「じゃあそれは、救える人を救うなってことですか」

 

 多分、俺は相当酷い目をしていたと思う。

 オールマイトは、一瞬間を置くと茶化すような素振りを見せる。

 そのことが気に食わない。

 

「いや──」

「あなたは最高のヒーローだ。俺も、憧れてました」

 

 過去の話だ。

 幼い頃、俺はヒーローに、オールマイトに憧れていた。

 けど個性が弱くて、諦めた。が、それだけではない。

 俺は失望したのだ。

 無力な自分に、そしてヒーローに。

 

「俺はあなたに助けを求めた。あなたは、来た。そして救った。俺を、俺達を」

 

 そんな経験、彼には山ほどあるだろう。

 俺はその中の一つの例で、大したものじゃない。

 でも俺にとっては、妹にとっては違うのだ。

 

「ヒーローは遅れてやって来る。仕方ないです。事件の方が先におきるんですから」

 

 ヒーローが遅いのではない。ヒーローが悪いのではないのだ。

 

「事件を解決するのはヒーローだ。そのために個性を使う」

 

 ヒーローとは、個性を誰かを守るために使うことを許された存在だ。

 

「けど、もしそれなら、ヒーローじゃない俺は個性を使っちゃいけないんですか」

 

 ガキの頃、俺は本気でヒーローを目指していた。そのためにできそうなことを必死でやった。

 そして見つけてしまった。ある法律を。

 ヒーロー免許無しに個性を使ってはならない。

 もちろん細かな注意書きはあるが、それでも俺は、もう手遅れだった。

 

「許可のない個性は、全部悪ですか。全員(ヴィラン)ですか」

 

 俺はヒーローじゃない。

 俺はヴィランかもしれない。

 いや、ヴィランなのだろう。

 ヴィランだ。

 そう思えてしまう。考えてしまう。

 否、そうなのだ。

 ヒーローには許可がいる。そしてルールがある。

 ルールは守るもので、大事なもので、絶対的なものだ。

 だが、絶対的であってはならないものでもある。

 俺は積極的にルールを破って暴れたい訳ではない。そういう意味じゃ一般的なヴィランの定義からは外れると思う。

 問題は、未曾有の事態に追い込まれた場合だ。

 本当に異常で、非常で、天変地異なできごとが起きた時、そこにルールは絶対性を保って居られるだろうか。

 断じて否だろう。

 歴史を見ても、一体どれだけの反逆と反抗が繰り返されてきたか。その度に、ルールは絶対性を失っている。

 現代のヒーローのルールは、個性の私的使用は度が過ぎれば犯罪となる。

 他人を傷付けるのは正しくその度が過ぎた分類だ。

 もしも、もしも仮に、小町に何かあったとしたら。

 俺は間違いなく、迷いなく、躊躇いなく個性を使うだろう。

 そしてその行いは、ヒーローと呼ぶにはあまりにも私欲に満ちている。

 だから。

 だから俺は、ヒーローになれない。

 

「……少年」

 

 オールマイトは、静かに応える。

 

「私は、君の行いを褒めることはできない。たとえ正しい目的の為でも、その行いが正しいとは限らないんだ」

 

 当然の否定。

 そうだろうと、俯きかけた時。

 

「けどね、私は君の行いを尊敬する」

 

 どうしようもなく、驚いた。

 お世辞だろとか、口だけだろとか思う前に、彼が本心から言っていると感じたからだ。

 

「君はあの()を助ける為に個性を使った。私よりも先に、彼女を救った。君は正しいことをしたし、あの瞬間、きっと誰も君を見ていないだろうけれど、君は間違いなくあの場で誰よりもヒーローだった」

 

 平和の象徴が、最高のヒーローがそう言った。

 あんたよりすげえヒーローはいないだろ。

 

「だから、きっと君は良いヒーローになれる。今日のことは私と君だけの秘密にしよう」

 

 ありがとう、と言うべきなのだろう。

 けれど言えない。それを言ったら、俺は結局ヴィランのままなのだ。

 

「俺は、無許可で個性を使いました。過去にも。それはもう、ヴィランでしょう」

 

 ルールの守れぬ者が誰を、何を守れるというのか。

 

「君は、相当ひねくれてるなぁ」

 

 仕方ないなぁと言うように、オールマイトは胸ポケットからメモ帳を取り出すと、何かを書いてページを切り離した。

 

「どうやら君は自分を許せないタイプと見た。だから、どうしても許せないなら、放課後ここに来てくれ」

 

 簡易的な地図を渡すと、オールマイトは踵を返す。

 

「じゃ、私も出勤しないといけないんでね」

 

 俺から数歩な離れると、彼はどこかへ飛んでいった。うん、飛んでいった。あの人、ホントに人間か?

 しばらく立ち尽くしていると、頭が冷静になってきた。

 そんで、死にたくなってきた。

 俺はなんて恥ずかしいことを……、それもあのオールマイトに向かって。

 叫びたい衝動を必死に抑えながら、どうにか精神状況を立て直す。

 メモをポケットに入れ、反対の方からスマホを取り出した。

 

「は……遅刻だ」

 

 オールマイト、許すまじ。




ヒッキーの個性はまた後ほど。

なんでオールマイトはヒッキーの高校のエンブレムまで知ってるの?
細かいことは気にしない

2020/05/01
色々と表現が足りなかったので修正しました。

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