ぼっちのヒーローアカデミア   作:江波界司

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なんか長くなっています。


やはり俺の目標はまちがっている。

 目覚めたのは見慣れた天井だった。

 背中に柔らかい感触があることを鑑みると、ここはベッドの上らしい。

 視界を左右に揺らし、カーテンで仕切られたスペースであることを知る。

 つまり、保健室である。

 

 それにしても記憶が曖昧だ。

 ヴィランに襲われて、そっからどうしたんだっけ?

 いや、確か水の中にダイブした記憶はある。あれ?もしかして俺死んだ?ここ天国?

 流石に天国に保健室はないよな。つか、できればプレイヤーdeadルートも勘弁なんだけど。

 

「あら、起きたのね。比企谷ちゃん」

 

 そんな現実味のない妄想を引き剥がしたのは、知った少女の声だった。

 起き上がろうとしたが、体に力が入らん。

 ベッドの傍にいた蛙吹が言うには、俺は個性を使いすぎたらしい。

 個性は身体能力だ。使えば疲れるし、摩耗する。

 しかも俺は、自分でも自覚していなかった個性のもう一つの特性まで何度も使った。

 例えるなら、限界以上の速度で走ったことのない距離をマラソンした後だ。動けるわけがない。

 

 

「それで蛙吹。あの後どうなった?俺は何日寝てた」

「そんな大袈裟に眠ってないわよ」

 

 蛙吹はそう言うと、立ってカーテンを除ける。

 窓から入る日差しは既にオレンジに染まっており、夕陽は山の影に向かっていた。

 朝からあの騒ぎだったのだから、俺は半日寝てたって感じだろう。疲れが残ってるわけだしな。

 それから椅子に戻った蛙吹は、後日談というか今回のオチというか、あの騒ぎの顛末を話した。

 

 俺達が水中に逃げてから数秒後、最強の助っ人であるオールマイトが到着したらしい。

 ヴィランはオールマイトを殺すという目標は諦め、すぐに撤退したという。

 もっとも逃げたのはあの場にいた三人のヴィランだけで、散らばった有象無象は全員、後からきた警察に引き渡されたそうだ。

 怪我人は俺を含めれば二人。

 ボロボロになっていた担任の相澤先生は、現在治療中らしい。詳しくは蛙吹も分からないらしいのだが、命に別状はないそうだ。

 

「改めて、俺はうまく動けたのか不安になるな」

 

 俺が動かなかったらどうなったか。それは分からない。

 俺のコスチュームのポケットにはあの戦いで得たヴィランの髪の毛があるが、今思うとどこまで捜査の役に立つのか。

 俺の行動は間違いだったのか。

 

「比企谷ちゃん、ごめんなさい」

 

 俺は自問自答の最中に聞いた声に反応できなかった。

 何故か俺に頭を下げる蛙吹を見て、何か謝罪の言葉を聞いた気がしてようやくさっきの発言を思い出す。

 

「何がだよ。お前、別に何もしてねぇだろ」

「そうね、何もしてないわ。……何も、できなかったわ」

 

 俺は蛙吹梅雨という少女のことを何も知らない。

 名前や容姿、個性こそ知ってはいるが、それをそのまま蛙吹梅雨という一人の存在に置換するにはあまりにも情報不足だ。

 そんな何も知らない俺から見て、彼女は頭がいい。

 洞察力や冷静な判断力は、前に模擬戦で組んだ時も伺えた。

 だからあの時、彼女が加勢に入らなかったことは正しい判断だと思う。

 爆豪の攻撃も耐え、切島の防御も貫きかねない力を持った敵など立ち向かう方がおかしい。

 それに、むしろ。

 

「お前がいなかったら俺は、今頃全身複雑骨折で速攻入院だし、場合によっては棺桶直送だったぞ」

 

 あの時、飛ばされた俺を庇ってくれたのは助かった。

 

「だから、まぁ、なんだ。ありがとな」

 

 一応礼は言った。正直体が動かないから寝たままだし、誠意とか伝わるか怪しいけど、言うことは言った。

 

「……お友だちを助けるのは、当然でしょ?」

「友だちねぇ……そういうカテゴライズされたの初めてだわ」

「えっと、何かしら。今物凄く悲しいことを打ち明けられた気がしたけれど……」

「安心しろ。とっくに悲しいとか思うところは超えてる」

「余計に悲しいわ」

 

 軽口というか、いつもの毒舌が戻ってる気がする。

 心做し、落ち着いてくれたみたいだな。

 汐らしくされても困るのだ。まだ塩対応の方が慣れてるまである。

 首だけ動かして見た蛙吹の表情は。しかしまだ浮かばれない。

 

「私にも何かできたら、比企谷ちゃんが怪我をする事も無かったのかもしれないわ」

「怪我って、別に体は痛くないんだけど」

「保険の先生が治してくれたのよ。治癒する個性で」

 

 そういや居たんだっけか。最強ヒーラーのヒーローさん。

 怪我といえば、あのバケモノにぶん殴られたときの奴か。

 

「別に、この怪我は俺が俺の意思で動いて負ったもんだし。お前が気に病むことはねぇよ」

「それでも、嫌なのよ。お友だちが傷付くのを見るのは」

「それは、まぁそうだな」

 

 お友だちなんていた記憶がねぇし、蛙吹の価値観を測るだけの理解も持ち合わせていない。

 けれど、彼女の気持ちは何となく分かった。

 俺も、傷付いて欲しくない奴が、バカな妹がいるから。

 

「だから、こういうことは、もうしてないで欲しいわ」

「それ、ヒーローとしての活動全否定なんだけど」

「それは違うわ。自分を守ろうとしないことは、ヒーローとしても失格なのよ」

 

 俺は俺自身を捨て駒にしたつもりはない。

 ただあの場で、もっとも被害を少なくする手を選んだだけだ。全滅が前提だったのだから、このくらいの被害は許容範囲だろう。

 

「まぁ、俺も痛いのは嫌だからな。もうしねぇよ」

「そう。それなら良かったわ」

 

 そこまで言って、蛙吹は立ち上がる。時間も時間だし、そろそろ帰る頃合いだろう。

 カーテンの隙間に手を入れ、彼女は振り向いた。

 

「前に、梅雨ちゃんと呼んでって言ったの。覚えてる?」

「ん?あ、ああ、模擬戦の時な」

「私、お友だちになりたい人には、そう呼んで欲しいの」

 

 笑顔で言う蛙吹は、俺の返事も待たず足早に部屋を出た。

 お友だちになりたいとか、人生で初めて言われた気がした。

 蛙吹梅雨。ほんと、優しいやつだな。

 けれど俺は知っている。

 俺に優しいやつはみんなに優しくて、結局はそれだけの事でしかない。

 何度も経験して、見てきた。

 俺は今まで何度となく、ヴィランという不名誉な呼び名を付けられた。

 その度に、形だけでもヒーローを志すやつらが、守ろうと、救おうとした。

 けれど俺は知っている。

 そいつらが守りたいのは俺ではなく、守ろうとしている自分自身なのだと。

 ただ、ヒーローはこうするからと。そんなテンプレートに自らを投影させる行為そのものに価値を見出しているだけなのだ。

 きっと、優しさとは夢だ。幻だ。幻想だ。

 優しさの裏には常に、各々の事情と心情と都合がある。

 誰かを助ける行為に理由はいらない。理由など、他に求めることはないのだ。

 自分自身の都合という、もっとも合理的で独占的な理由があるからだ。

 だから、俺は優しい女の子は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日である。

 疲れた体を引きずって帰り、小町から親戚のばあちゃんかってくらい心配されて内心ハッピージャムをダンシングしてから一夜明けている。

 新聞にはデカデカと雄英のヴィラン襲撃事件の話が載っていた。

 いつもに増してうるさいマスコミを個性で避けながら登校した俺は、教室に入るや否やある男に呼び止められた。

 

「比企谷っ!昨日はスマンかったっ!」

 

 まったく暑苦しい。

 扉を開けて早々に切島の叫び声を聞く俺の身にもなって欲しい。あの比企谷八幡が目立ってるぞ。

 そんな暑苦しさの権化は、しかし何故か俺に頭を下げていた。

 なんだこれ、ドッキリか?もしかして昨日の蛙吹からネタ振りしてんの?これからクラスメイト全員が謝りに来る新手のいじめ?

 安心しろ雄英にいじめはない。

 

「は、何、昨日のヴィラン手引きでもしたの?」

「いやしてねーけど。そうじゃなくてっ!オレ、戦えなかった」

 

 切島らしくない暗い顔だ。

 別に親しい間柄でも知った間柄でもないが、こういう表情をされると流石に気を遣う。

 ほら、ぼっちは気遣いの達人だから。

 

「十分戦えてたろ。つか、俺の方が余っ程戦力外な個性なんだけど」

「全然だろっ!オレは、あのでけーヴィランが襲って来た時、怖くなった。そんで、体が動かなくて、そのせいで比企谷が……」

「待て待て、俺生きてるから。それ完全に故人を語る流れだから」

 

 つか何故そうなる。ヒーロー科ってのはみんな自責の念を持たなきゃいけない決まりでもあんのか。なら間違いなく俺が首席だろ。

 蛙吹にも言ったことだが、ああして怪我したのは俺の実力不足であって、俺以外の誰にも責任はない。

 というか、悪いのは全部あのヴィラン共だろうて。

 

「俺の戦闘力が低いのは認めるが、過保護を受けるほどとは思ってなかったぞ」

「あっ!悪ぃ、そういう意味じゃねーんだ。ただ、比企谷が戦ってんのに、オレは何もできなくて」

 

 何そのセリフ、デジャブなんだけど。

 こりゃドッキリ説が牛乳からヨーグルトに格上げになったな。多分ないけど。

 

「それが普通だろ。誰だって怖ぇし、初めて襲われて動けるやつなんざそうそういねぇよ」

「けどっ、比企谷はできたじゃねーか」

「俺は経験があっただけだ。だから気にするな。どうしても過去の自分が許せないなら今後に活かせ。過去はどうやっても変わらん」

 

 シン……と、教室が静まり返る。

 え、何これ、音声さんの故障?

 静寂を、古池が無いのに岩に染み入りそうな声が破った。

 

「比企谷ちゃん、先生みたいね」

 

 その一言から、再び教室に活気が戻った。

 なんてことはない。一つの話題ができただけだ。

 

「そーだよな……。ありがとうっ!比企谷っ!おかげで目覚めた!」

「おー、そうか」

「オレは、今度こそ逃げねー、負けねー、曲げさせねー。絶対に、護れる漢になるっ!」

「おー、そうか」

「ありがとうっ!比企谷先生っ!」

「おー、そう……じゃねぇな。先生じゃねぇな俺」

 

 俺のツッコミは華麗にスルーして、切島は満足したように席に向かった。

 誰が先生だ。あとであの毒ガエルには文句を言っておこう。心の中で。

 朝から悪目立ちしてしまった不機嫌さをどうにか紛らわせようと、俺も席に着く。

 その机の前で、一人の少女が止まった。

 

「ありがとね、比企谷」

「ん、芦戸か。いや、何が?」

「切島のやつ、結構気にしてたみたいでさ。今日も朝一で登校して比企谷のこと待ってたみたいだし」

「ほーん」

 

 まぁ、自分のせいで誰が怪我をしたとか考えてたならそういう行動を取るのもわかる。

 しかし、何故芦戸が礼を言う?仲良いの、彼女なの。

 もしも切島がリア充なら今すぐ俺がアサシンするところなのだが。

 流石にないか。もしあってもお友だちくらいだろう。もしくは都合のいい男、いい人。

 何それ悲しい。今すぐ俺がキャスターでヒールかけてあげたいくらい悲しい。

 

「おかげで元気になってくれたし、良かったよ」

 

 そういうと、芦戸はがっくりとしていた俺の顔を覗き込む。

 

「ありがとうね、ヒッキー先生」

「……っ」

 

 近い、近い近い近い近い近い近い近い近い。

 前から思ってたが、こいつにはパーソナルスペースって知らないの?今すぐググってページをお気に入りに追加してホーム画面に表示して欲しい。

 動揺を隠すように、ため息を混ぜながら顔を天井に向ける。

 

「俺は何もしてない。それと、俺は働く気はない」

「否定するとこ、そこなんだ……」

 

 誰が教師になんぞなるか。公式ブラック社員だぞあれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、来週に体育祭があります」

 

 ついさっき俺が存在を全否定した職業の方、我らが担任相澤先生よりそんな告知があった。

 相澤先生はミイラ取りに行ったのかと質問したくなるくらいにミイラだった。

 雄英高校体育祭。

 個性という超常現象によって、今までのスポーツの根底は覆った。それに伴うオリンピックという過去の人類スポーツ大会は衰退。

 有り余った活気を別ベクトルに活かそうとするように、今は雄英すなわちヒーローの卵による体育祭が現在日本で最も熱いスポーツの祭典となっている。

 そんな国規模のイベントの主役となるのが我々雄英生。

 この体育祭はプロのヒーロー事務所からスカウトを受けるなど、ヒーローとしての未来に関わるものだ。

 当然、俺は棄権したい。

 何が体育祭だ、ふざけんな。

 俺はプロのヒーローになる気はない。というか働く気がそもそもない。

 一億歩譲って俺がヒーロー志望だとして、目立つことこそ美とされる大会で、どうやってこの個性を活かせと?目立たないことが唯一無二の武器なんだけど。

 というわけで俺は当日仮病で休んで丸一日、本と惰眠と飯を貪って過ごすつもりだ。

 

「──というわけで話は以上だ。各々、自分がすべきことをして備えるように。あと、比企谷。放課後俺のところに来い」

「…………………………うす」

 

 そうは問屋が下ろさないらしい。

 

 というわけで放課後。

 重い足を空元気で動かしながら職員室を訪れた。

 相澤先生は自分のデスクではなく、隅にある応接間的なテーブルへと移動した。

 

「さて。まず聞いておきたい」

「なんすか」

「お前、過去にどれだけ個性を使ったことがある?」

 

 いきなりしんどい質問だ。

 一瞬、オールマイトの顔を思い出す。彼は俺の過去を話したのだろうか。

 いや仮に話したとして、ならこの質問の意味はなんだ。

 正直、嘘言ってバレてキレられてのパターンが一番怖い。ので、真実を話した。

 

「えっと、結構便利に使いました」

「頻度は?」

「まぁ、毎日ですかね」

「どれだけの時間だ?」

「授業中とか、声掛けられたくないんで。あ、いや、高校ではちゃんと受けてますよ」

「一つの授業に、何度だ?」

「何度というか、できる限り」

「それをいつから続けていた?」

「小一でいじめられた辺りからは気配消すようにしてました」

「……なるほどな」

 

 目を閉じながら、先生は納得したとだけ言った。

 

「何がですか」

「お前が、個性を応用できたことだ」

「応用?」

「普通、高校生なら自分の個性を使いこなすところまではできるようになっているもんだ。一部例外もいるがな」

 

 相澤先生の言う例外というのはどうやら緑谷のことらしいが、今はどうでもいいか。

 

「大体の生徒は個性の強さがほとんど同じだ。だがお前は、あのクラスで個性の強さが飛び抜けている」

「個性の強さ?いや、俺の個性はそこまで強力じゃないと思うんですが」

「そういう、力としての強さじゃない。強いて言うなら、質だ」

「質……」

「個性とは身体能力だ。腕を鍛えれば筋肉が付くように、個性も鍛えれば質が上がる。お前はその、個性を鍛えるという工程を他のクラスメイトよりも繰り返し積んできている状態なんだ」

 

 なるほどと思える話だった。

 概ねどこも一緒だと思うが、小中と校則として授業中の個性発動は禁止とされていた。そりゃ、爆豪みたいな危ねぇ個性が動いたら授業どころじゃないからな。

 俺はそのルールを破っているわけだが、まぁ証拠は残らないから問題なかった。

 しかしそのルール違反は、俺の知らぬところで成果となっていた。

 義務教育の9年間、毎日五時間以上、同級生より余分に個性を使っていたのだからその質とやらが変わるのも頷ける。

 その成果の一つが、物だけではなく者もステルスにできるのようになっていたことなのだろう。

 

「それが聞きたいことですか」

「ヴィラン襲撃の際、お前が個性を使いすぎて倒れたと聞いてな。少し気になっていた」

 

 よくよく思えば、倒れるほど個性を使ったの初めてだった。

 初めて使う新技を連射したのもあるが、俺はまだ自分のキャパシティを把握しきれていないらしい。

 

「じゃあ、用はそれだけで?」

「いや、本題はこれからだ」

「まぁ、そうですよね」

 

「お前には、体育祭で優秀な成績を残してもらう」

 

 嫌な予感はしていた。

 なんならこう来るんじゃないかと思っていた。

 もしかして俺の個性って『予知』だったりしない?

 

「できなかったら今度こそ退学ですか」

「よく分かったな」

「まぁ、そのやり口は体験済みなんで」

「今回はちゃんと書類も用意している」

 

 そう言って相澤先生が差し出したのは、正式な判と学校長の名前や相澤先生の本名が書かれた紙。

 その条文には、『体育祭での成績次第で、一年A組21番比企谷八幡を退学処分とする』とあった。

 

「なんでここまで」

「今受けた自供も踏まえ、ヴィラン襲撃の際の命令違反、雄英入学の特別措置。これらを総合しての判断だ」

 

 なるほど、俺は疑われているのか。

 今思えばあのヴィラン襲撃事件は、雄英の時間割を把握した上で行われている。ならば当然、内通者を考えるだろう。

 そういった中で、USJでの俺の行動や裏口からの入学は完全に犯人第一候補の判断材料になりうる。

 しかし俺は内通者じゃないし、ヒーローの免許取得までは雄英を辞めるわけにはいかないのだ。

 

「拒否権は、ないですよね」

「あくまでも報告だ」

「分かりました」

 

 ヒーローになりたくない俺が、なんで体育祭優勝を目指さないといけないのか。

 世界は謎と不条理と素敵じゃない何かでできているらしい。

 

 




どうも江波界司です。
久しぶりの更新で感想などを頂きテンションが上がっています。
おかげで少々長めの回になりました。
次回から体育祭編。
といっても軽く流します。
本当に描きたいオリジナル展開にさっさと進みたいんですごめんなさい。


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