ぼっちのヒーローアカデミア   作:江波界司

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ご愛読ありがとうございます。
一日でお気に入りが100個くらい付いて、評価人数が10人くらい増えてました。
ふぁ!?っとなりました。ここは桃源郷ですか。
嬉しくなって更新です。


やはり俺の武器はまちがっている。

 第5試合が終わり、俺はバックヤードでマッ缶を飲んでいた。

 普通なら保健室にでも寄るんだろうけど、大した負傷がないのだから行く必要もない。

 表の会場は今も沸き立っている。

 俺のせいでかなりテンション下げちゃったと思ってたが、やはりオリンピックの代わりともなると客の期待値も高いか。

 缶を小さく振ってから、底に少し残ったMAXコーヒーを一気に飲み下す。

 

「おつかれ、お兄ちゃん!」

 

 背後から来た衝撃によって、予想以上の勢いでコーヒーが喉に流れ込む。

 当然むせた。

 

「って、小町?なんでお前ここにいんの」

「え、そりゃあ応援に来たからに決まってるじゃん」

 

 ド平日だぞ。まぁこんなイベントがあれば休校にもなんのかね。

 

「にしてもさ。すごいねお兄ちゃん。女の子相手に容赦なしで」

「いやしてるから。十分気遣ったから」

「そうなの?あ、ていうかさ。途中何か話してたよね。あれ何?」

「いや、まぁ、あれだ。ちょっと交渉をな」

「交渉?負けてくれーって?それで負ける人いないでしょ」

「実際それで負けてくれたんだけど」

「どうせお兄ちゃんのことだし、なんか怖いこと言って脅迫紛いなことしたんじゃないの?」

「なんで知ってんの。もしかして聞こえてた?キミ個性『地獄耳』?」

「うわーまじかーこの人まじかー」

 

 まさかの誘導尋問かよ。小町、いつの間にそんな賢くなったんだ。お兄ちゃんちょっと怖いよ。

 しかし、応援してくれるってのは照れくさいものがある。

 今までは兄として小町のあれこれを応援して来たんだが、逆になってんな。

 

「会場には、一人で来たのか?」

「ううん、友達と」

「それ、男子?年上年下?変なことされなかった?」

「女子だよ、クラスメイトだよ。あとお兄ちゃんの方が変だからちょっとキモイから」

「キモイはやめろよ。マジで傷付くし死にたくなる」

「あーはいはい。それだけ返せれば当分大丈夫だよ」

「扱いがひでえ」

「小町そろそろ戻るね。二回戦も頑張ってね、お兄ちゃん」

「おう」

「今度はもっとド派手に決めてよ!」

「それはちょっと無理かも」

 

 ド派手って、イオナズンとかメドローアとかマダンテ使うようなヤツらがいるのにどうやって?

 小町は山奥に住む仙人でもしないであろう無茶ぶりを言い残して走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が観戦席に戻った時、リングの上では個性ダダ被りの二人が文字通り殴り合っていた。

 一番後ろの席に座ると、おいおいと言いながら峰田が距離を縮めて来た。

 

「なんだよ」

「比企谷さお前さ、もっとこう、あっただろやりようがさ!」

「できるかぎり穏便に済ませたつもりなんだけど」

「お前あそこは!あそこは喉元じゃなくて胸もt……」

「ちょっと黙れ」

「とぎゃあああああ!!」

 

 峰田のセクハラ発言に、耳郎のイヤホンジャックが飛んできた。容赦ねぇ。

 

「比企谷おつかれ。そいつの言ったことは気にしなくていいから」

「おう。何も聞こえなかったわ」

 

 耳郎は軽く手を振って応えた。

 待てよ、今戦ってるのは切島とB組の奴だよな。ってことは第6試合終わってんじゃん。おのれ小町、お前のせいで見逃したじゃねぇか。

 

「なあ、第6試合はどっちが勝ったんだ?」

「見てなかったの?次の相手なのに。常闇だよ」

「まぁちょっと野暮用でな。ありがとよ」

「ん」

 

 常闇か。個性の説明自体は聞いているが、本気で戦っているところを見たことねぇな。

 ダークシャドウ。名前からして強そうだ。

 

 結局、硬化と鉄化の戦いは引き分けに終わり、一回戦は最終ラウンド。

 カードは、麗日VS爆豪だった。

 途中、ブーイングとかあったけど、麗日の作戦を正面から最大火力でねじ伏せる形で爆豪の勝利となった。

 あいつ女子相手に容赦ねぇな。あれが全国放送されてるとなると、これはある種の公開指名手配になるんじゃねえか?

 

 昼休みを挟んで、二回戦第一試合。

 轟焦凍と緑谷出久の一戦は、マジュニア参加の天下一武道会並に荒れていた。

 氷しか使わかなった轟と個性を使う度に負傷する緑谷。

 轟は炎を解放し、緑谷も限界突破級の一撃を繰り出す。

 メドローアとマダンテはぶつかり合い、大量の負傷が原因か緑谷の敗退に終わった。

 試合はかなり激しく、リングの修理に少しばかりの時間を費やした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──第三者視点──

 

 

 

 

 

 

 波乱と激闘からスタートした雄英体育祭、一年の部トーナメント二回戦。

 第二試合で飯田がB組の塩崎茨を完封した次の試合。

 比企谷八幡の前に立ちはだかるのは常闇踏陰。『ダークシャドウ』という存在が厨二の個性を持った相手だ。

 その強みはリーチの長さと機動力。常闇は一回戦で、雄英に推薦で入った八百万を完封している、まさに破格の強さを誇る。

 

「緑谷ちゃん。次の試合、どうなると思う?」

「そうだね……間合いが勝負のカギだと思う」

 

 蛙吹梅雨の問いに答える緑谷出久。

 その言葉にクラスメイトのほぼ全員が興味を示した。

 

「デクくん、どゆこと?」

「うん。常闇くんのダークシャドウは長距離中距離でこそ真価を発揮する。それに対して比企谷くんは、遠距離からの攻撃手段が殆どないんだ」

 

 遠距離はないと断言しなかったのは、芦戸戦で見せたステルスからの投擲があること。

 しかし靴や衣類を投げるだけでは決定打に欠け、ダークシャドウを掻い潜っての接近には向かないと考えられる。

 

「けど、逆に接近戦になれば比企谷くんに分がある。一度離したダークシャドウを戻す時間もあることから、近接格闘にダークシャドウは向かない」

 

 比企谷はこの一週間をより対人に特化した格闘技術の上昇に費やしている。

 接近戦になった場合、間合いを取らなければならない常闇とステルスを持った比企谷では勝負にならない。

 

「けど、それならダークシャドウを離さなければいいんじゃないかしら?」

「確かに。ダークシャドウを常に素早く戻せる距離感で戦わせれば比企谷くんの接近にも対応できる。常闇くんなら気付くかもしれないし、やっぱり勝負は相手と自分の距離感だと思う」

 

 なるほどとA組一同は納得する。

 

『さぁ!二回戦目、第三試合。常闇踏陰VS比企谷八幡の一戦だ!』

 

 プレゼントマイクが騒ぎ、会場が声援で応える。

 比企谷と常闇。勝負のスタート地点はそれなりにあるが、声が届かないわけではない。

 

「常闇」

「……なんだ?」

「次の試合、爆豪と切島だよな。どっちが勝つと思う」

「さぁな。今は目の前の試合に集中すべきだ」

「そうか?俺としては次の相手の方が余程大事なんだが」

「……それは、オレを倒せると確信しているということか」

「マラソン大会でカラーコーンの色とか気にしないだろ」

 

 単純な戦闘では比企谷が不利。特に距離の開いたこの間合いは最悪と言っていい。

 勝つには、接近が絶対条件。

 そのために、まずは揺さぶる。

 

『試合、開始〜!』

「ダークシャドウ!」

「アイヨ!」

 

 自我のある影のモンスターは、数秒で比企谷と常闇の間にあった距離をゼロにする。

 

『まずは常闇!ダークシャドウによる先制だ〜!』

 

 初期位置から、ダークシャドウは加速しながら比企谷へと伸びる。

 対して比企谷は素早く息を止め、直線的な攻撃を避けた。

 ダークシャドウは確かに汎用性の高い個性だが、弱点もある。その一つは、爆豪や轟のようなオールレンジ攻撃がないこと。

 あらゆる感覚から感知されない状態なら、人型の物を素通りすることなどなんの苦労もない。

 問題は時間。この距離では、比企谷が常闇に一撃入れる前に一度息が切れる。

 どこで呼吸をするか。近付き過ぎれば常闇本体から逃げられる。

 故に比企谷は──。

 

『消えた比企谷が姿を現した!けどこりゃあ……』

「後ろだ!ダークシャドウ!」

「アン?」

 

 比企谷が息を吐いたのは、ダークシャドウのすぐ背後。

 まるで焦った様子のない比企谷に、常闇は小さく歯噛みした。

 

「だから言ってんだろ。お前はただの通過点だ」

「ダークシャドウ!」

「ウラァ!」

 

 完全に下に見た常闇は、素早く自らの影に指示を出す。

 ダークシャドウは、裏拳で比企谷の頭部を狙った。

 しかし攻撃が届く頃には既に、彼は姿を消している。

 今の迎撃とも言える行動。これ自体はなんの問題もなく、むしろ正攻法だろう。

 だが、常闇の中で一つの感情が芽生えていた。

 さっきの一連の言動、まるで余裕な表情。そして比企谷八幡のポテンシャル。

 常闇は心のどこかで、この行動を誘導されているのではないかと考えてしまった。

 

 故に、一瞬迷う。

 

「ぐっ!」

『ここで常闇に謎のダメージ!今度は何されたんだ!?』

「ボディ狙い……?体勢を崩させるのが狙いかな……いや、もしそうでも頭を狙いそうな……ブツブツ……」

「緑谷ちゃん……」

 

 ダークシャドウを戻すか、それとも周囲に攻撃させるか。

 その行動の迷いを見逃さずに接近戦した比企谷は、靴の裏で常闇の腹を蹴りつけた。

 比企谷が腹部を狙った理由は、単に最も遠い距離で素早く打てる技だから。

 しかし常闇には更なる追加のデバフが掛かっていた。

 靴の感触を受ければ、普通は蹴りだと考える。だが、先の戦いで比企谷は靴を脱ぐという荒業をやっている。

 全く相手の見えない常闇からすれば、蹴られたのか靴を投げられたのか。それとも靴を持ったまま殴ったのか。

 無いだろうと思うが否定しきれない選択肢が頭をよぎる。

 この迷いは致命的なまでの隙を生む。

 相手が怯んだ隙に呼吸をする比企谷。

 攻撃され、眼前に敵が現れたのなら常闇が取る行動は一つだけ。

 

「戻れ、ダークシャドウ!」

(させねぇよ)

 

 バックステップしながら距離を取る常闇と、主を守るべく後方へ急ぐダークシャドウ。

 だが位置関係からいっても、ステルス状態の比企谷の方が先に常闇を捕まえる。

 至近距離で、見えない相手から逃げるのは至難の業だ。

 今の常闇には迎撃手段がない。せめてもの足掻きとして前方へと闇雲な攻撃程度。

 当然、常闇は呆気なく比企谷に拘束された。

 

『ようやく見つけたぜ比企谷!そんでこれは、まさかのヘッドロック!ゲスい!エグい!これ本当に雄英体育祭か!?』

『お前、もうちょい言葉選べよ』

 

 イレイザーのツッコミをプレゼントマイクは華麗にスルー。

 リングの上、常闇は後ろから首を締められていた。

 完璧に入ったチョークスリーパーを外すのは容易ではなく、常闇はできる限りの抵抗で逃れようと努力する。

 

「やめとけ。流石に同級生の首は折りたくねぇ」

「この距離なら、ダークシャドウで攻撃することはできるぞ」

「どっちが速いか比べるか?人の骨って結構簡単に折れんだぞ」

「……」

「それに、仮にここで離したとしてだ。この間合いならステルスで逃げながら一方的にお前を殴ることもできる。ダークシャドウを先行させたお前の負けだ」

「…………そう、だな。降参だ」

 

「常闇君、降参!比企谷君、三回戦進出!!」

『比企谷の相手降参ばっかだなおい!?』

 

 手を解き、比企谷は退場するべく出口へ向かう。

 それを呼び止めた常闇は、真剣な眼差しで聞いた。

 

「最初の言葉。まさかここまで読んでの発言だったのか?」

「完全なブラフだ。お前強いし、真っ向勝負したら普通にボロ負けだったぞ」

「そうか。まだまだ未熟、だな」

 

 個性同士の決戦である雄英体育祭のトーナメント。

 その二回戦第2試合は、心理戦によって決した。

 

 

 ──第三者視点、終了──

 

 

 

 

 

 

 




芦戸戦は、ステルスと酸の個性同士のバトル。
対する常闇戦は、ブラフや誘導による心理戦。
今作のトーナメントに、比企谷を青山の代わりに出場させています。
ということで次の相手は……ネタバレですね。

高評価やお気に入りの他、沢山の感想ありがとうございます。
個性『駄文』な作者ですが、こうして読んで頂けると分かるだけで嬉しいです。
感想や誤字報告など、これからもどうぞよろしくお願いします。

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