爆速、ゴッドライター!!
休みを全て投げ打ってまさかの更新です。
ネーム
祭りの後は総じて静かなものだ。
体育祭で盛り上がったテンションは緩やかに平常運転に戻っていき、通行人の声や視線から逃げるのにも慣れた頃だ。
比企谷家の朝は、早くも遅くもなく始まる。
「あ、お兄ちゃん。おはよ」
「お~う、おはよう」
「朝から目つき悪いよ?そんなんでヒーローやってけるの?」
「俺は働く気はない。そういや、小町は将来どうするとか決めてんのか?」
「そうだね~。『プッシーキャッツ』に入ろっかなって」
「は?なんでだよ。あそこヒーロー事務所だろ」
「別にヒーローじゃなくても入れるでしょ。ほら、小町癒し系じゃん。戦いとか無理だけど活躍できると思うんだよね~」
「ならどこの事務所でもおーけーじゃねぇか。なんで醜いニャンコの子がいるとこ狙うんだよ」
「だって猫だよ、かわいいよ。小町にピッタリ!」
「さいで」
もう何言っても聞かねぇなこいつ。諦めるか。正直いい年してキャッツ!とかいうの恥ずかしそうだけどな。俺だったら絶対に嫌だ。
最愛の小町の作った朝食を頂くべく、いつもの席に腰を下ろす。
トーストと軽めのおかずを味わいながら、対面に座った小町の視線を感じていた。
「なに、なんか入れたの?」
「別になんにも。あ、そうだ。将来といえばさ、この前ヒーローネーム決めたんでしょ?」
「なんで知ってんだよ」
「梅雨ちゃんさんから聞いた。メールだけど」
「へ~、誰だよツユ・チャンさん」
ツユ・チャン、中国人か。
「いつの間にチャイニーズの知り合いができたんだ?つか、なんでチャンは雄英のスケジュール知ってんだよ」
「チャイニーズじゃないと思うけどね。雄英の体育祭で会った。医務室に行ったらお兄ちゃんのクラスメイトの人、他にもいっぱいいたよ」
「へー、チャンはクラスメイトなのか。そんな奴いたっけ」
「あのさ、チャンってあだ名なの?小町、梅雨ちゃんって呼んでって言われたけど」
「おい待て」
それ、ツユ・チャンじゃなくて梅雨ちゃんじゃねぇか。全くの別人じゃん。
んでなにか。俺が医務室運ばれた後に他の奴らも来てたと。そこで話して知り合ったと。
小町のコミュ力ならできなくないだろうが、知らぬ間に妹の知り合いが増えてるのにびっくりだわ。
「蛙吹と知り合ったのな。そいつの名前梅雨までだと思うんだけど」
「だって呼んでって言われたし、でも年上じゃん?」
「普通にさん付けでいいだろ」
「まぁまぁ。そんでさ、お兄ちゃん何て名前にしたの?」
「は、名前?」
ああ、そういやヒーロー名の話してたんだっけ。ツユ・チャンのキャラ強すぎて忘れてたわ。
「え、聞きたいの?」
「そりゃ聞きたいでしょ。あのお兄ちゃんが、あの雄英に入って、ヒーローになるって言ってるんだよ?妹としては~、気になるわけですよ」
ところどころにディスってるようなワードが聞こえたが、まいいか。
名前なんて、あだ名なんてなくていいのにな~。
「それでそれで、なんて名前?」
「……エイト」
「……へ?」
「だから、『エイト』」
「え……どうしたのお兄ちゃん」
「何がだよ」
「なんでお兄ちゃんが、まともなヒーロー名を……?」
こいついい加減失礼だな。
まぁこの名前は俺のセンスと呼ぶには大分改名を重ねてるんだがな。
「最初は『アサシン』って名前を出したんだよ」
「うん、そんで?」
「んで、ヒーローらしくないって没にされた」
「ま~、その名前だと完全に殺し屋だからね」
「次に好きなものってことで『マックス』にしたんだが……」
「動機がダメそ~」
「そういうことだ。そんで、仕方ねぇから名前からとって『エイト』になった」
「すっごい無難だね」
「だよな~、インスタに挙げられたカラフルなアイスくらい無難だよな~」
「その例えは分かんない」
え、分かんないの。ああそうか、これ無難っていうより不満だった。なんでああいう写真て自分の顔まで乗せるんだろうな。タイトルがアイスで映ってるのがほとんど顔とかもうそれ詐欺だろ。
ちなみに、開幕早々「俺、ヒーロー免許以外いらないんで名前なしでいいすか」と言った瞬間に眠ったはずの担任が目覚めた。マジで切れてそうだった。
あとマックス案が没になったときに危うく『ヒッキー』になりそうになった。全力で拒否った。何が、もうヒッキーでいいんじゃない?だポイズンエイリアン。
そんなこんなあったわけだが、ともかく日常は続いている。
ヒーローが暇なのは平和な証拠だ。
最近ではヒーロー殺しとかいうヴィランまで出ているらしいが、流石に雄英まできて大立ち回りを見せることはないだろう。
USJ襲撃事件がそもそもイレギュラー過ぎたのだから。
「──と、いうわけでお前らには職場体験に行ってもらう」
いえーい!という意味の分からない歓声が響いた。
なんでテンション上がるの?これ働くってことよ?嫌じゃないの。
担任の話では、雄英の生徒はヒーローとしての在り方を学ぶため、それぞれのヒーロー事務所に出向いて働き方を体験させて貰おうとしているらしい。
ただ、誰でもどこにでも行けるわけじゃない。
お世話になる事務所側からの指名もあるのだ。
指名の判断基準は先日の体育祭。順位が上位なほど、氏名件数も多い。
一応三位になったのだ。俺のところにもそれなりの数が申し込まれていた。まぁ、一位と二位の爆豪、轟はけた違いだったがな。
「それで、言い訳を聞こうか比企谷」
それで、なんで俺はまた職員室にいるんですかね。
相澤先生の前で、俺は既視感のある状況に置かれていた。
「いや、申請書の通りですけど」
「ほう?つまりお前は、ヒーロー科に在籍しながら、将来的には専業主夫を目指すため、職場体験の行き先を自宅としたい——と?」
「先生は知ってるでしょう。俺はあくまでもはヒーロー免許が欲しいだけなんですって」
「はぁ……お前な——」
相澤先生が文句を言うより先に、デスクの上にある電話が鳴った。
溜め息を吐いてから受話器を取る先生。分かりやすい社交辞令の後に、相手から要件を聞き出している。
俺、帰っていい?
なんて思っていると、持っていたその受話器を俺に差し出してきた。
「え?」
「お前に用があるらしい」
「どなたですか」
「新設したばかりのヒーロー事務所からだ。俺も初めて聞いた。なんでも、どうしてもお前に伝えたいことがあるんだと」
「はあ……もしもし?」
しぶしぶ受け取り、受話器を耳に当てる。
「やぁ——初めまして、比企谷君」
「────っ!」
聞いたことのない声。初対面なのだから当然だ。
だが、何故だ。覚えも記憶もないのに、俺はこの声に恐怖を感じている。
「……どうも」
「ぼくは『
「そうすか。いや、もう職場体験先は決めてるんで……」
「できれば変更してほしいなぁ。せっかく——妹さんも来ていることだしね」
「────……っ!!!」
体に電気が走ったようだった。
何故俺に妹がいることを知っている。いやそれ以前に、こいつは今なんて言った……?
来ている、小町が、そこに?
「……それは。それは、どういうことですかね」
「そのままの意味だよ。君にここに来て欲しい。だから、君が来る理由をつくった。それだけさ」
「なんで、そこまで俺に拘るんですか」
「それは君がここに来てから話そう。雄英に申請は出しているからね。大丈夫、手荒なことはしないと約束するよ。君がぼくのお願いを聞いてくれるならね」
「………………」
ぷつりと電話が切れる。
もう誰ともつながっていない受話器を、俺は力強く握りしめていた。
「比企谷……?何があった」
「せっかくのご指名なんで、職場体験してきます」
「大丈夫か?お前、なんか変だぞ」
「よく言われますよ。話して、ぜひとも聞きたいことができただけです」
相澤先生のデスクの上にある申請書をペンで上から書き換える。
そのまま紙を置いて、呼び止められるより先に職員室を出た。
まだ、怒りにも似た感情が収まらない。
一体何が起きている。なんで小町が狙われる。やつは何者だ。誰だ。
やつは、何を知っている。
分からないことだらけだ。
俺は一体、何に目を付けられたのだ。
それからは何にも集中できていない時間が過ぎた。
家に帰っても、小町の姿はない。
リビングには一つ、しばらく友達の家に泊まるという趣旨の手紙があるだけだった。
誰にも、両親だけでなく警察やヒーローにすら相談のできない案件だ。
俺は現状どこまで監視されているか分からない。下手な行動は小町の安全に関わる。
やつの狙いは小町じゃない。そうでなければ俺に連絡する必要はないのだ。
狙いは、俺。そのために小町が攫われた。
歯痒いにもほどがある。
俺はどこまで無力なのか。守りたいはずの妹を、俺の存在故に危険にさらしている。
本当に、自分が嫌になりそうだ。
職場体験が始まるまで、まだ時間がある。
普段通りに登校しても授業はまるで頭に入らなかった。
「比企谷ちゃん」
そんな益体のない日々を過ごしていたある日。一限が終わってすぐの休み時間、蛙吹が席にやって来た。
「最近、小町ちゃんから連絡がないのよ。何かあったのかしら?」
そういや連絡取り合う仲だったな。
変な勘を働かされるのは少々きつい。どうにか誤魔化そう。
「あぁ、多分あれだろ。携帯使い過ぎとか言われてな。親にこの前怒られてたわ」
「そうなの。しばらく禁止条例出ちゃったのね」
「みたいだな。まぁ気にすんな」
「分かったわ」
上手く言い訳になっていたか分からん。少なくとも違和感を持った様子はなかった。
蛙吹が離れた後、息をつく。
いよいよ明日からだ。
あの得たいの知れない事務所での体験学習。
小町を守るために、俺はすべきことをしよう。
ご愛読ありがとうございます。
赤バーになってテンションが上がりました。
今度こそ更新が遅くなると思います。
感想や高評価頂けると嬉しいです。