オリ展開なんで結構大変でしたが何とか書き上げました。
週一くらいで更新していきたいなと思います。
今回、ついに先生が登場です。
ヒーロー事務所への職場体験。
各々が野望や希望や絶望を胸に現地へ向かう駅。
「比企谷」
「先生。なんすか」
「……お前はまだ、ヒーローのタマゴにすらなり切れていない子どもだ」
「職場体験初日に非情な現実見せないでくださいよ」
「だから、何かあったら頼れ。俺じゃなくてもいい、大人に頼ればいい」
「……先生、意外と優しいですよね」
「意外は余計だ。それに、俺はお前をヒヨコにしてやらなきゃならんからな」
「仕事なら仕方ないっすね」
「そうだ。だからお前も、役目を果たせ」
「うす」
クラスメイトの集団から最速で離れ、個性を解除。相澤先生に渡された地図を頼りに目的地へ。
小一時間電車に揺られる。
役目を果たせ、か。
先生が、どこまで俺の現状を理解してあの言葉を言ったのか分からない。だからもっと素直な気持ちで受け取るべきなのだろう。
子どもだから、まだ幼いのだから、頼っていいのだと。それがお前の役目なのだと。
けれど、それはできない。
今は誰も頼れないのだ。
俺の役目は、小町を守ること。それ以外の要素など今はいらない。
住所も地図も間違いないのだが、どう贔屓目に見ても事務所には見えんな。
俺が間接的に案内された先は、人気のない廃工場だった。
大きな引き扉を動かすと、ギギっという音がする。長い間使われていないようだ。
僅かに空いた隙間から、そっと中を伺う。
小さな光の先には、見たとこのある人影──いや、靄があった。
「お久しぶりです、比企谷八幡さん」
「ワープ野郎……」
間違いない。以前USJを襲撃した時にいたあの黒い霧だ。
ということは、小町を攫ったのはヴィラン連合とかいうやつらか。
「お迎えにあがりました」
「……俺を呼んだのは、あの手まみれの奴か」
「いいえ、死柄木弔ではありませんよ。あなたを呼んだのは、先生です」
「先生……?」
「詳しく話すのは後にしましょう。どうぞ」
そういって、奴は俺の目の前にワープホールを出してみせる。入れってことか。
選択権はないな。
俺は一度深呼吸し、足を踏み入れる。
非物理的なトンネルを抜けた先は、またも薄暗い工場の中。
だがさっきの人気のない静かさとは別物の、圧力を感じさせる静寂がそこにはあった。
「ようこそ、比企谷八幡君」
その冷たい空気を一層重くする、高らかなのに気持ち悪い声。
吐き気を催す邪悪とかゲロ以下の臭いってのはこういうことなんだか。
暗くてよく見えないが、奥には確かに誰か人の影がある。
「あんたが『ONE』……いや、偽名か」
「当たらずとも遠からずかなぁ。僕はこう呼ばれているよ──『
こいつが、先生……。
全くそんな気がしねぇな。ただのやべぇ奴に見える。うちの担任の爪の垢を煎じて飲んでアレルギーで死なねぇかなこいつ。
「小町は無事だろうな」
「安心していいよ。彼女なら、既に家に帰っているからね」
今のどこに安心できる情報があるんだよ。誰か教えてくれ。
小町は既にここにはいない。どこにいるか定かではない。仮に家にいたとしても、いつでもまた手を出すことはできる。
人質解放になってねぇんだよちくしょう。
「じゃあ、俺は何をすればいい。俺を呼んだ理由は聞かせてくれるのか?」
「もちろんさ。僕は君のことを、ずっと前から知っているんだよ」
「で?俺は知らないけどな」
「僕は君を知っている。そして、君の妹ちゃんのこともね」
話が見えねぇ。
俺を前々から狙っていた?だとしたら何故、今この場面で俺をここに呼ぶのか。
「要点まとめてから話せよ」
「せっかちだなぁ。まぁ、そうだね、簡潔に言おうか。僕はね──いい個性を見ると、つい欲しくなっちゃうんだよ」
きっと、やつはとんでもなく邪悪な笑顔を浮かべているのだろう。
初めて声を聞いた時からなんとなく分かっていた。こいつは本物だ。
本物の化け物だ。
USJであった黒いヤツとか、巷を賑わせるヒーロー殺しすら小物扱いになるほどの、完全なる悪。
それが個性故なのか、それとも性格そのものなのか。
どちらにせよ、その悪質さの一片を俺は知った。
そして、同時に理解した。
奴が何者で、何を狙っているのかを。
「あんたの個性は、『個性を奪う個性』ってことか」
「話が早い。やはり君は、とても優秀だ」
「俺史上最高に嬉しくない褒められ方だな」
こいつはさながら魔王、ヴィランの中のヴィランだ。
そんなやつに褒められるとか、君はヴィランに向いているよと言われてるのと何ら変わらねぇわ。
個性を奪う個性、規格外もいいとこだな。
こいつの狙いは俺の個性を奪うこと。それが一番理解できる答えだった。
俺の個性は戦闘向きじゃない。その理由は圧倒的なまでの火力不足。
だがその弱点を埋めることができれば、ステルスは最悪の個性へと変わる。
奴は個性を奪うことができる。そして恐らく、それをストックできる。
無数の個性を合わせれば、一撃必殺を生み出すこともできるだろう。
それにステルスが加わったとしたら、不可視にして不可避、最悪にして最凶の攻撃が完成する。
そうなれば誰も、オールマイトですらこいつを止めることはできない。
「いくつか、聞きたいことがある」
「いいよ。君が望む質問に、僕はできる限り答えよう」
「んじゃあ、まず一つ目。個性を奪われたらどうなる?」
「漠然とした質問だね」
「そうだな、例えば死ぬのか?」
「そんなことはないよ。僕の個性はあくまでの個性を奪うこと。命を奪う力じゃない」
命を奪うことのできる個性だろうけどな。
「次。個性を奪ったら、俺はどうなる」
「そうだねぇ。僕は君の個性以外に興味はない、とだけ言っておこうかな」
「最後だ。俺が個性を差し出したら、小町には絶対に手を出さないと約束できるか?」
「もちろんだとも。君達兄妹に関わる理由はないからね」
よかった。
こいつは、俺が思った通りの人物だった。
オール・フォー・ワン。こいつはただの悪党じゃない。ただ破壊の限りを尽くすような、脳の無い化物じゃない。
こいつには知性があり、理性があり、プライドがある。
だからこそ、信じることができる。
「あんた、かなりの嘘つきだろ」
「言っている意味が分からないなぁ。僕はこれでも、真剣に答えたつもりだったんだけど」
「ああ、言い方が悪かったな。あんた、俺のこと好き過ぎだろ」
何も、こいつははじめから本当のことを話すとは言っていない。だから真実を言おうと虚偽を言おうと、嘘じゃない。
ただ、最初から本当のことを言っていないだけだ。
目的を言っていない。それだけのことだ。
「あんたの目的は、俺の個性だけじゃない」
「ほう?どうしてそう思うのかな」
「明らかに手間がかかり過ぎてるんだよ」
俺のようなやつから個性を奪う。こいつならコンビニでちょっと高めのカップラーメン買うくらいの難易度なはずだ。
それなのにわざわざ身内を攫い、俺の連絡を入れ、ヒーローの振りをしてまでここに呼びつけた。
手段と成果のつり合いが取れていない。
仮にこいつが過程を楽しむタイプだったとしても、雄英に電話をするリスクに対する報酬が俺と小町の個性だけでは流石に天秤は傾くはずだ。
「今だって、俺とこうして話す理由もない。普通に考えりゃ、さっさと拘束して個性を奪って、あとは煮るなり焼くなりクッキングするだろ」
「僕がそこまで猟奇的な趣味を持っているように見えるかい?」
「俺が考える数十倍は惨いことされると思ってるよ」
「そうか。それじゃあ、——君に聞こうかな」
その声は、今まででもっとも冷たく、重く、禍々しかった。
殺気というのだろうか。
俺は鼓膜で捉えたその音に、死を感じた。
「質問だよ。君は妹ちゃんの安全のために、何をすべきかな?」
俺は、誰に聞かれているのだろうか。
相手はヴィランだ。それもトップオブトップの、最悪のヴィラン。
だが俺に問うやつの言葉は、まるで指導者のような雰囲気を醸し出す。
先生。あの黒い霧はそう呼んでいた。
じゃあ、こいつは何がしたくてこんなことを……。
いや、論点はすでにそこじゃない。
この返答次第じゃ、俺は命を落としかねない。それどころか、今度こそ小町に被害が及ぶまである。
考えろ。
やつの気にいる答えは何か。正解を導け。
計算なんてできねぇ。理系とか捨ててんだよ。
なら読み取れ。言動、目的、性格、地位、個性、権力、比喩、隠語。全てから奴の真意を汲み取って解読しろ。
こいつは先生と呼ばれていた。
このバケモンが先生であるなら、こいつが生徒に求める回答はなんだ。
自論でも空論でも、正論でも暴論でもなんでもいい。
奴がもっとも欲しがること、欲している言葉、答え。
「……俺を、ヴィラン連合に入れろ」
俺の個性だけが目的じゃない。
俺自身、比企谷八幡という一人の人間を構成する全要素をもって俺は応えた。
「それが、君の答えかい?」
「ああ」
「…………」
薄暗くて顔は見えない。
ただ、静かに奴は笑う。
やがて堪えきれなくなった笑い声は暗闇にこだまし、パチパチと手を打つ音がついてきた。
「やっぱり、君を呼んで正解だった」
「は……?」
「言ったろう?僕は君を知っていたんだよ。そして待っていたんだ。君が見つけられ、見いだされ、そしてここに来ることを」
見つけられる、誰に?何を見いだされると?
疑問を表情に出している俺に、
「君はオールマイトに見いだされ、もう一度ヒーローを目指した。それは彼が、絶望の中にいる君に手を差し伸べようとしたからだ」
もう、何故知っているなんてことも思わなかった。
オールマイトが俺に声を掛け、雄英に招待した。それは行き過ぎたお節介であり、同情からくる行為だった。
薄々分かっていた。
彼は、ヒーローになるという道を示すことで、俺のヒーローに対する感情を変えようとしたからだろう。
「でもね、君には遅すぎたんだ。道にすらいない者に手を差し伸べても、拾い上げても、その子は道を歩むことはできない」
俺は一度、ヒーローに絶望した。
ヒーローとはヴィランがいて初めて成立する存在悪であり、たった一人の少女を守るために免許が必要な不合理の塊なのだと。
「でも、大丈夫。——僕がいる」
今俺は、ヒーローか、ヴィランか。
そんな曖昧な存在定義の中で、こいつは手を差し伸べる。
「僕は君のいる道を知っている。僕なら教えてあげられる。君が今いる道の歩き方を」
差し出した手は大きく、邪悪な慈愛を浮かべていた。
けれど俺は、その手に応えない。
「別に、教えを乞う気はねぇよ」
「なら君は、どうしてこっち側に来ようとしているんだい?」
「あんたがさっき言った通りだ」
ヒーローだとかヴィランだとか、そういう括りはとっくに捨てている。
俺はただ、俺が一番大事なもののために動いている。
その信念が、覚悟が、原点がヒーローだというのならそれでいい。
その行動が、発言が、在り方がヴィランだというならそれでもいい。
「俺は、小町を守るためにここに来たんだよ」
たった一つ、それだけのために俺はいる。
「それじゃあ黒霧、あとのことは頼んだよ」
「かしこまりました」
二人は短い会話を済ませると、また俺の前にワープホールを用意した。
結局、オール・フォー・ワンは俺に何も言わなかった。
俺は今、雄英生なのか、ヴィラン連合なのかも分からん。
「えっと、黒霧であってるか」
「はい。何か?」
「この霧はどこに繋がってるんだ?」
「私達の拠点です。あなたにはそこで、死柄木弔に会って頂きます」
しがらき、とむら。確か、あのUSJに来た手まみれの男。
オール・フォー・ワンをヴィラン連合のボスとするなら、死柄木はリーダーって感じか。
それとも、生徒か。
どちらにせよ、一度やりあった仲だ。穏便に済むとは思えねぇな。
「ところで、あなたをなんとお呼びしましょうか」
「は?何って、名前知ってるだろ」
「今やあなたは反社会勢力に属しています。それで本名を名乗るのもどうかと思いませんか?」
まぁ、確かに。どうせ死柄木弔ってのもヴィラン名みたいなものなんだろうし。
しかし、ヴィラン名か。ヒーロー名より先にそっちを呼んでもらうことになるってのは皮肉だな。
名前を考えろとか言われるとやっぱり悩む。
アサシンとか没案を使うのもありか?けど呼ばれた段階で俺のクラスメイトに即バレだな。
何も思い浮かばず、俺の知っているヴィランの名前を思い出していく。
しばらくなやんで、ふと思い浮かんだ名がやけにしっくりと馴染む気がした。
「そうだな。──『
「理由を聞いても?」
「『エイト』を名乗れなくなるくらい、色んなもんを捨ててるからな」
我ながら、いい呼び名だと思うわ。
ご愛読ありがとうございます!
ついに先生が動き出し、ヒッキーは名を変えました。
ここからはヴィラン連合の職場体験になります。
あと個人的にですがヒッキーのヴィラン名、ちょっと気に入ってます笑
それと、恐らくこれが最終章になります。
まだまだ話数はかなりありますが、この先どれだけ書けるか分からないので一区切りにしようと思います。
感想や高評価いただけるとうれしいです。