ぼっちのヒーローアカデミア   作:江波界司

2 / 18
やはり俺のオリジンはまちがっている。

 俺の家族は、過去にヴィランに襲われている。

 その際俺は、怯える妹を守ろうと個性を使った。

 とは言っても当時小学生三年生。いい歳して暴れたい盛りの大人に勝てるわけもない。

 結局、駆け付けたオールマイトの活躍で難を逃れた。

 事件の後、俺は一躍ヒーローに……はならなかった。

 まぁ俺が人気者になるわけないわな。普段からヴィランだのやべぇ個性だの言われてたわけだし。

 それとは別に、考えなければならないことがある。

 俺は個性を使った。子供だからと言ってしまえばそれまでだろう。

 けれど、それでも俺はルールを破った。

 ヒーローになりたいクセに、ヒーローが守るべきルールすら守れなかった。

 俺はその時、自分がヴィランと同じだと感じた。

 更に救いようがないことなんだが。

 今となれば、俺はヒーローのルール自体にすら疑問を持っている。反社会的勢力になるのも夢じゃないなこれ。

 まぁさすがに、こういう事を表立って言ったりはしないがな。どっちにしろ、もう俺はヒーローにはなれないし。

 妹の小町(こまち)は、今も元気に中学校生活に勤しんでいる。中学二年とか一番楽しい時期だろうな。

 あの時以来、ルールを破った俺に、気にしすぎとよく言っていた。

 違うのだ。

 俺はただ、許せなかっただけなのだ。

 ルールを守れなかった自分も、妹を守れなかった自分も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 指定された海沿いの公園に、俺は足を運んだ。

 そこには一人、夕日に向かって仁王立ちする金髪のマッチョがいた。

 

「やぁ、待っていたぞ少年」

「……どうも」

 

 やはり来たかと言うように、振り向くオールマイトは笑顔だった。この人、作画違うんだよなぁ。

 

「で、何をする気ですか」

「そのまえに。知ってるか?ここ一帯には、不法投棄されたゴミが水平線を隠していたんだ」

 

 何の話だ。

 

「それをある一人の少年が全て片付けた。その少年は、ヒーローに憧れていたからだ」

 

 何の英雄譚だ。

 

「それが、あなただと」

「いいや、違う。その少年は、ただのヒーローオタクさ」

 

 何の武勇伝だ。

 

「でね。彼は弱かったんだ。それで、それでもヒーローになりたかった。だから彼は努力したんだ。必死に、無力でも無駄だと思っても必死にね」

 

 何が言いたいのかさっぱり分からない。

 日本一豪華な説教をこの先も聞こうか迷っていると、オールマイトは俺の肩に手置く。

 

「そして彼は、誰よりもヒーローだった」

 

 今日、つい今朝、同じセリフを聞いた。

 

「だから私は、言ったんだ。彼に、君はヒーローになれると」

 

 ようやく、言いたいことが分かった。

 今朝の言葉と、今聞いた話。どちらにも言えること。

 彼はヒーローを求めている。最高のヒーローは、更なるヒーローを欲しているのだ。

 

「君に感じたんだ。ヒーローとしての素質を。だから、私に応援させてくれないか」

 

 そう言って、彼は一枚の紙を差し出す。

 それはメモ切れではなく、正式な用紙だった。

 

「編入、届……」

「雄英に来ないか、少年っ!」

 

 力強く、そして優しく肩が握られる。

 こんなにも、ありえないくらいにありがたい申し出があるだろうか。

 あのオールマイトが、平和の象徴が、俺はヒーローになれると言ったのだ。

 こんなにも光栄なことがあるだろうか。

 

 しかし。

 けれど。

 だけど。

 でも。

 否定の言葉は、消えてくれない。

 

「……俺は、俺のやって来たことは、考え方は、ヴィランと変わらないんですよ」

「だからなんだよ」

「はぁ……?」

 

 オールマイトは、笑顔で言う。

 

「君はまだ、ヴィランでもヒーローでもない。決めるのは自分さ。だから

 決めちまえよ。誰かが君をヴィランにするより先に──君が、最高のヒーローだってさ」

 

 確かに、結局のところ世間は俺をヴィランと呼んではないない。

 あくまでも子供の判断だと、必死に生きようとした結果だと。

 その本質は違えど、まだ定義はされていないか。

 だが。

 だが、人は簡単には変われない。

 もしも変わったというのなら、それはその程度のものでしかない、自分と呼ぶにはあまりにも薄いものなのだろう。

 本当の自分とか、アイデンティティとか、そんな仮称の話はどうでもよくて。

 本当に重要なのは変わることではなく、変わらない自分を肯定することなのだと思う。

 それは過去を肯定することだ。

 過去の成功を、失敗を、栄光を、挫折を、行動を、発言を、その全てを認める行為だ。

 どれほど難しいか、俺はよく知っている。

 結局、俺は一度も、あの時の自分を肯定できなかった。

 それはこの世界が、ヒーローという存在が、どうしようもなく俺とは相容れない考えでできていたからだ。

 俺はあの時から何も変わっていない。変わるはずのない何かを抱えながら生きている。

 もう子供だからと、必死だからと許されることはない。

 俺のその考え方は、あり方は、生き方は、ヴィランそのもの。

 どうしようもなく、ヒーローとは呼べない。

 けれどもし、もし仮に、俺がヒーローなら。

 (ヴィラン)ではなく、英雄(ヒーロー)なら。ヒーローになれるのなら。その考え方すら変えて、自らをヒーローと定義できるのなら。

 あの時の自分を許せるだろうか。

 多分、それはできない。俺はこれからずっと、どこかで自分を責めながら生きていくのだと思う。

 守れなかった自分自身を。

 だから、だからせめて、そんな俺にも一つだけ願ってもいいのなら。こんな俺でも、願うことが許されるなら。

 

 守れる力が欲しい。今度こそ、妹を守れる力が。

 

 その為になら、ヒーローにもヴィランにも、何者にだろうと俺はなろう。

 

 俺は、紙を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、いきなり話が飛んでるね、オールマイト」

「いやはや、迷惑をかけます。校長」

「いいさ。君の判断だ。何か思うところがあったんだろう?」

「はい。彼は、脆い。いつかどこかで自分を見失い、道を踏み外してしまうかもしれない。まだそうなっていないのは、彼が強いからでしょう」

「硬いダイヤは砕けやすい、か」

「私にできることは、これくらいしかありませんでした」

「受け取ってはくれたんだろう?」

「ですが、受けるか、そして受かるかは彼次第……」

「信じてあげなよ。君が見込んだ男だろう?」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、俺は高校生になって一週間もしない内に編入試験を受けることになった。

 急展開過ぎてオリエントで特急にでも乗った気分だぜ。誰か死んじゃう!?

 緊張した面持ちで、俺は事前に送られたコネを使って校舎に入った。

 

「やあ、待っていたよ。比企谷八幡くんだね?」

「あ、はい」

 

 ネズミがいた。

 しかも明らかにネズミにサイズじゃないし、喋ってる。ここはもしかしたら夢の国かもしれない。

 

「ボクは校長の根津(ねず)、よろしくね」

「う、うす」

 

 さすが雄英。出会い頭にラビットパンチ食らったわ。それ反則じゃん。

 いや高校に入ってまずネズミと遭遇するのは普通に反則でしょ。

 

「いきなりで悪いけど、編入試験を行うから動きやすい服装に着替えてくれるかな」

 

 そう言われて更衣室に案内され、俺はまだそんなに着ていない学校指定のジャージに着替える。一応、貴重品くらいは持ってていいよね。

 再度ネズミ校長が現れ、俺は運動場らしき所に案内された。

 

「さて、さっそく編入試験をしていくんだけど」

 

 校長の説明の前に、ここにいるメンツが紹介された。

 試験官である先生は三人。

 超変態的格好の女性教師、ヒーロー名ミッドナイト。

 ゴリゴリの銀髪マッチョ、ヒーロー名ブラドキング。

 黒い服にボサボサの黒髪、ヒーロー名イレイザーヘッド。

 全員、プロのヒーローである。

 なんつーか、個性的だな、うん。キャラが強い。

 

「君にはこの3人のうちの誰かを一人と戦闘をしてもらう」

「は?」

 

 まさかの殺し合い宣言。雄英高校は夢の国じゃなくて監禁ゲーム部屋だった。

 

「いや戦闘って、勝てるわけないでしょ」

「戦闘、といっても試験は試験さ。実技の方だけどね」

「だから無理でしょって」

「別に勝つ必要はないわ」

 

 俺の校長への抗議に、ミッドナイトが割って入った。

 

「ただ実力を見せて欲しいだけ。試験だもの」

「お、おす」

「もちろんこちらも手加減はする。が、本気でかかって来て問題ない」

 

 ブラドキングがそう続けた。

 となるとこの人からも一言あるのかな、と目をやる。

 

「……なんだ」

「いえ、なんでもないです」

 

 睨まれた。

 

「さっそく始めようか。比企谷くん。一人、好きな先生を指名するといい」

 

 相手が選べるのか。

 といっても、あんまし変わんない気がする。

 俺は相手の個性が分からないし、逆にあっちは対策する用意があるかもしれないし。

 となると……。

 

「じゃあ、イレイザーヘッドさんで」

「…………分かった」

 

 そう言って、イレイザーヘッドは目薬を差すと、ヒーローとしてのアイテムなのか格子状のアイマスクを取り出した。

 

「それじゃあ準備しようか」

 

 校長の言葉と共に、俺は立ち位置へと移動した。

 イレイザーヘッドは数メートル先。特に何をするでもなく立っている。

 俺は、一応準備運動くらいはしておこう。

 

「ルールを確認するわ。まず、個性の使用は自由。敷地内だから思いっ切りやりなさい。それから急所への攻撃は禁止。目とか喉とかね。それ以外はなんでもあり!存分に暴れちゃっていいわよ!」

 

 ウキウキと言わんばかりに説明するミッドナイト。この人、もしかして変態さん?

 よし、と取り敢えず気合いだけは入れて相手を見る。どんな個性なんだろ、この人。

 

「始める前に、一ついいか?比企谷」

「え、あ、はい。なんですか」

 

 アイマスクを上にズラしながら、イレイザーヘッドが問うた。

 

「お前、何故あの三人の内、俺を選んだ?」

 

 正直に答えないと殺す、と目が言っている。やだ怖い、ここ本当に高校?あんた本当にヒーローですか?

 

「いや、えっと、女性と戦うのはちょっと……」

「ヴィランにだって女はいるぞ……。まぁ、試験ならベストを尽くしたいか。それで?」

「えっと、ですね……ブラドキングさんは、強そうだなと。筋肉モリモリですし」

「ほう、つまり──」

 

 スラリと伸びた腕が曲げられ、胸の辺りで手が組まれる。

 

「俺が一番、弱そうだったってことか」

 

 ポキポキと手を鳴らしながら、今になって準備運動を始めるイレイザーヘッド。

 いや、まぁ確かにそうは思いましたけど。けどまさか言えるわけないじゃん。言えとか言われると思わないじゃん。

 

「別にそういうことは……」

「さっき、ミッドナイトが言ってたルール、聞いてたな?」

「え、あ、はい」

「急所以外何でもあり、だそうだ」

「え……」

 

 いや、まさかね。

 

「ブラドは手加減、なんてこと言っていたが、そういう行為は面倒だ。合理的に行こう」

 

 一応ここは高校で、この人に至っては先生である以前にヒーローだし……。

 

「五体満足で帰れるといいなぁ?比企谷」

 

 そこには男子高校生相手にマジギレするヒーローの姿があった。

 ごめん、小町。お兄ちゃん、帰れないかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、ヒッキーの個性が明らかに!
感想頂けると嬉しいです。

緑谷はオールマイトに『髪』をもらい、比企谷は『紙』をもらう。
気付いた人、いますかね。

2020/05/02
かなり表現が足りなかったので大きめに修正しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。