ぼっちのヒーローアカデミア   作:江波界司

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ヴィランに襲われトラウマを負ったぼっち、ヒッキー
VS
ブチ切れ合理主義プロヒーロー、イレイザーヘッド。
勝負の行方は如何にっ!?
CV.プレゼントマイク


やはり俺の編入試験はまちがっている。

 マジギレしているプロヒーロー、イレイザーヘッド。

 誰だよ、この人選んじゃったの。俺です。

 

「それでは、いざ尋常に──始め!」

 

 ミッドナイトが上げた手を振り下ろし、試合は始まる。

 

 開幕と同時。

 イレイザーヘッドが走ってくる。流石にやばい。速いよこの人。

 とにかくガードしようと身構える。

 攻撃は、モーションは速いが、大振りの回し蹴り。

 脇腹を腕でガードする。しかしパワーがある。

 ダメージを受けてよろめいた。

 

「……どうした。もうへばったか?」

 

 追撃はなし。最初は様子見ということだろうか。

 まずは下がり、息を整える。

 大丈夫、そこまで痛くはなかった。悶絶しそうだけど、多分大丈夫。

 分かってたことだが、スペックが違う。そもそも身体能力は負けているのだ。

 正攻法じゃどうしようもない。

 だから、『個性』を使おう。

 

 深呼吸し、構える。

 目指すは正面。一気に走り出す。

 イレイザーヘッドは臨戦態勢に入る。恐らくまともな攻撃は通用しないだろう。

 相手はプロ、個性による戦闘経験には大きな差がある。没個性なら有効打はまず無理だ。

 だが、今回はそれが仇になる。

 俺の個性は、破壊力も機動力も派手さもない。

 むしろ──逆。

 イレイザーヘッドの眼前で、俺は両手を鳴らす。

 猫騙しである。

 防御の体勢をとっていたイレイザーヘッドは、一瞬反応に遅れる。が、直ぐに理解して一歩引いた。追撃を避けるためだろう。

 

「なに……っ!?」

 

 けど、あんたはもう俺を捉えられない。

 拳を握り、足を踏み込み、腰を捻り、打ち出す。

 なんの変哲もないパンチを、無防備なボディに叩き込んだ。

 

「ぐっ……」

 

 鈍いうめき声と共に、イレイザーヘッドはしゃがみ込む。

 俺はふぅと息を吐き出した。

 いくらプロでも全く無防備なところに攻撃されてはどうしようもないだろ。

 これが俺の個性『ステルス』。

 自分への認識を限界まで無くせる。ただし呼吸を止めている間だけ。

 

「なるほど、今のがステルスか」

「凄い個性ね。目の前にいたのに、見失っちゃったわ」

 

 壁の方で観戦しているブラドキングとミッドナイトが感想を言い合っている。

 まぁ確かに、使いようによってはこうなる。けど……。

 

「で、それで終わりか?」

 

 当然のようにイレイザーヘッドは立ち上がった。いくらノーガードだったと言っても一般人がワンパンはないわな。

 さて、どうするか。正直この先どうにかできる気がしない。

 というのも、俺の個性には大きな欠点がある。

 

「確かに初見は対応できなかった。が、それだけだ。消えると分かっているなら、それを踏まえて戦えばいい」

 

 俺の個性は認識できなくすること。

 つまり高速移動でもなければ攻撃通過でもない。

 範囲攻撃にも束縛にも弱いし、なんなら異形型みたいなのが相手になったら詰む。

 まぁこれが、俺がヒーローを諦めかけた理由だ。

 俺の個性は隠密型であって、戦闘向きではない。ましてやそんなんでアピールとか、誰も見れねぇぞ。

 

「みなさんの反応を見るに、俺の個性は知ってたってことでいいんですかね」

 

 とにかく考えろ。そのために、無駄話で時間を稼ぐ。

 

「そりゃ、資料くらいは貰っている。もっとも、これといった対策は用意していない」

「フェアプレイってやつですか」

「実力を見るだけならそれで十分だと判断した。が、今からでも対策はできそうだな」

 

 言うと、イレイザーヘッドが突進してくる。作戦がバレたのか、単にブチ切れてるからなのか。

 真っ向勝負じゃ話にならない。ここは、逃げるんだよ〜スモーキー。

 息を止めて相手の意識から消える。これでイレイザーヘッドは俺を追えない。

 案の定、足を止めて警戒に入るイレイザー。といっても、俺から攻撃はまずできない。

 理由は二つ。

 一つは不意を突けていないこと。さっきの攻撃で、不意打ちでも決定打にならないことは分かっている。それで警戒度MAXの相手にど突くとか愚策もいいところだ。

 二つ目は、これが問題なのだが、俺の個性の本質がバレる恐れがあること。

 俺の個性はあくまでも認識できなくすることであり、決して存在そのものを消すわけではない。さっきも言ったが、息を止めていても攻撃自体は当たるのだ。

 今はまだだが、この事実がバレたらいよいよ俺にできることはなくなる。イレイザーの持ってるマフラーで拘束された時点で俺は行動不能になるからだ。

 迂闊に近付けばバレかねない弱点。攻撃力は一般人で、持続時間もかなり短い。

 ギャンブル依存症かってくらい博打なスキルだなおい。

 

「……攻撃しないところを見ると、相当追い込まれているらしいな、比企谷」

「さて、どうっすかね」

 

 追い詰められてるよ。

 結局俺は数メートル横に移動した時点で姿を現した。

 

「攻め手がない、だろ!」

 

 返事を待たず、イレイザーは再び突進する。

 やべえ、呼吸のタイミングが悪かった。

 あがった息を整えることができず、俺は生身でイレイザーの攻撃を受けることになる。

 打撃による肉弾戦。

 純粋な近接戦はあちらに分があるため、俺は一方的に殴られ、蹴られ、追い詰められる。

 背中に壁が近付いて来た。距離も取れないし、息も切れる。

 個性の発動すらままならぬ猛攻に、俺は必死の思いで左方向に逃走を図る。

 

「遅い」

 

 右の回し蹴り。

 抵抗虚しく、俺は地面に倒れ込んだ。

 

「個性すら使っていない相手に、不意打ちで一発のみ……。いくら自分の個性が戦闘向きではないと言っても、そんなんでこの先ヒーローとしてやっていくのは、無理だ」

 

 体に残った打撃の感触を消そうと抗っている俺に、イレイザーはそう突きつける。

 俺は、ヒーローになれないと。

 

「オールマイトからの推薦だからこそ特別措置を取ったが、結局無駄な時間だったな。合理的じゃない。ここで降りるべきだ」

 

 確かに、俺はここに来てから一度とて、自らの優位性を証明できていない。これではヒーロー科の試験を受ける資格すらない。

 

「まぁ、別に試験に落ちて何かを失う訳じゃない。今まで通り、普通に高校に通うんだな」

 

 それは俺が自らに相応しいと思った道だ。

 ヒーローにすらなれないのなら、いっその事適当に高校を卒業して、自分を守ってくれそうな人の下で専業主夫として生きる。ああ何と素晴らしいことか。

 

「……俺は」

 

 だが──。

 

「俺は将来、専業主夫になりますよ」

 

「「「え?」」」

 

 ギャラリーが困惑している。知るか。それだけは譲れない。

 

「俺は働く気は、ないです」

「……お前、なんでこれ(・・)受けた?」

「ですけどね……」

 

 俺は働かない。絶対にだ。

 だけどこれだけは、専業主夫という夢と同じくらい、それ以上に譲れないものがある。

 

「俺は、ヒーロー免許が欲しいんですよ」

「…………」

「「「え、えぇ……」」」

 

 イレイザーは、なんだコイツと言うような表情で。

 他の三人は、ダメだろコイツと言うような表情で。

 まぁそうっすよね、普通。うん、俺でもそんな顔をするわ。

 それでも譲れないのなら仕方がない。譲れないし、曲げられないし、負けられない。絶対に負けられない戦いがここにある。

 

「……一応、理由は聞こうか比企谷」

「ヒーロー免許があれば、個性が自由に使えますよね」

「……まぁ、それなりにはな」

「ヒーロー免許を持ってるだけで、結婚できる可能性も増えますよね」

「そう、なのか?俺は未婚だが……」

「つまり、一石二鳥なわけですよ」

「…………」

「ヒーロー免許を取ることが、俺の夢の為に最も『合理的』なんですよ」

「お前……」

 

 いつも間にか俺は立ち上がり、胸を張って言い放っていた。

 

「俺は専業主夫になる為に、ヒーローを目指します」

 

 誰もが思い、もはや口にするだろう。

 何言ってんだこいつ、と。

 大丈夫だ問題ない、ノープロブレムだ。

 たとえ矛盾しようと狂っていようと、俺の目標はもう変わらない。

 

「オールマイトに貰ったチャンスは、必ず掴むつもりです」

 

 俺は、夢の為に走り続ける。できるペースで。

 

「お前、まさか……」

 

 ありえない宣言に、イレイザーはたじろぐ。どうやら俺の完全無欠の論法(パーフェクト・ロジック)に驚いているようだ。

 

「お前まさか……それを本気で言ってるんじゃないだろうな?」

「え、本気ですけど」

 

 即答した。

 

「そうか」

 

 何か思うところがあったのか、イレイザーはため息を吐くと、今まで上に上げていたアイマスクを下ろす。え、なんで?

 

「お前がヒーローを舐め腐っていることはよーく分かった」

「ん?」

「お前みたいなガキには、一度本気で教えてやるべきだ。──ヒーローってのは甘くないと」

「は……」

 

 明らかにイレイザーの雰囲気が変わった。

 まるで気合いに連動するかの如く髪がふわりと立ち上がり、イレイザーは拳を握る。

 俺は危険を感じて咄嗟に息を止めるが、個性が発動しない──?

 状況判断すらできないまま、俺はイレイザーから腹部を殴られた。

 ぐっ……と呻き声を上げる。

 すぐさま、仰け反った顎を肘鉄で打ち上げられた。

 そこからは倒れることすら許されぬように、腕や足の多種多様な攻撃が俺を襲った。

 

「ちょっ……イレイザー?あれ本気じゃないですか?」

「さすがにこれは……校長」

「いや、ここは彼に任せよう」

 

 任せちゃダメでしょ。

 文句すら言う暇もなく、俺は再び地面に倒された。

 痛てぇ。最初の攻撃がいかに手加減されていたか身にしみてわかった。

 つか、やっぱこの人俺のこと嫌いだろ。分かってたことだけども。

 

「まだ、立つか?」

 

 俺はよろよろと、体を支えながら立ち上がる。

 怪我の功名というか、一つだけ分かった。

 イレイザーの個性は、『相手の個性を使えなくする』ということ。

 まぁそれだけなんだけどね。むしろだからなんだって話だし、余計に勝ち筋がなくなった気すらしてきたんだが。

 

「聞いといて何だが、お前が立つ理由がどこにある?」

 

 まるで諭すように、彼は問うた。

 

「聞いた限り、お前は最高のヒーローになりたいわけでも、ヒーローとして活動したいわけでもない。ただ楽をしたいそれだけの意思で、何故立ち上がる?」

 

 なるほど、当然の疑問だ。

 俺の目標も動機も、周りから見れば不純なものだろう。ましてここはヒーローの名門校。ヒーローを目指す者として入学するには、俺の目標はあまりにも歪だ。

 だが、それは俺が夢を諦める理由にはならない。俺が折れる理由にはなりえない。

 

「俺は、ヒーロー免許が欲しいんですよ。欲しくなったんですよ、あの時、オールマイトに言われて」

 

 オールマイトに責任を押し付ける気はない。そもそもあの人に責任はないのだ。

 あるのは全て、俺一人。

 ヒーローを目指すのも、専業主夫を目指すのも、雄英高校を目指すのも全て、俺の意思であり、目標だ。

 だから──。

 

「不純でも不当でも、たとえ誰一人俺をヒーローと呼ばなくても、俺は俺の夢の為に戦います」

 

「…………」

 

 イレイザーは何も言わない。そして何もしない。

 分かっている、これが最後だ。

 彼は俺に最後のチャンスをくれたのだ。

 俺は、それに応えるつもりはない。

 チャンスなど、もう既に貰っているのだから。

 俺は気付かれないように伸ばしていた手をポケットの中で握る。その中には、試験前に入れていたものがあった。

 

 息を止めて、手を引き抜くと、フルスイングでそれを投擲する。

 想像だにしない攻撃に反応は遅れる。

 構えていたイレイザーは、俺が投げた物を顔面で受けることになった。

 

「……財布だと」

 

 威力はそこまでない。

 当たったものを確認している隙に、俺はイレイザーを中心に反時計回りに移動する。

 一度個性を解き、大きく吐いて、大きく吸い込む。

 1秒間のリロードで、イレイザーは俺の位置を特定した。

 そんな事などお構いなしに、俺は投擲する。

 俺の手から離れ、イレイザーに到達するまでの間に、俺のスマホは認識できる。

 イレイザーは難なく俺のスマホを片手で受け止めた。

 

「躊躇いなくスマホを投げる辺り、取られるのは計算の内か……」

 

 既に意識外にいる俺は、全速力でイレイザーに接近する。

 そして、こちらを向いている彼に正面から突進。

 もちろん俺の全力タックルで与えられるダメージなどタカが知れている。精々体勢を崩して押し倒すくらいだ。

 だが、その先はどうだろうか。

 

 俺のタックルで、予想通りイレイザーは背中を地面に付けることになった。

 もちろん相手はプロだ。ここからの反撃など難しくはないだろう。

 

「……考えたな、比企谷」

 

 俺が息を吐き出したと同時、イレイザーは賞賛を送った。

 今、彼には俺が見えていないだろう。それは個性によるものではなく、物理的に。

 

「自分のジャージで俺の視界を塞ぐとはな」

 

 そう、俺はイレイザーに突進する際に、着ていたジャージを脱いで両手に持っていた。

 あとはそのまま、不可視の上着をタックルと同時に頭から被せる。

 これで視界の制限と拘束を同時に行えるのだ。

 

「あんたの個性は目に関係してる。目薬もそうだし、個性を使う時にアイマスクしたのも理由があるはずですから。逆に言えば、視界を奪ってしまえば、あんたは個性を消せない」

 

 息を切らしながらも俺の思考をワザと伝える。これが少しでもアピールになればいいが……。

 これは俺の推測でしかない。

 イレイザーヘッドの個性は、見た相手の個性を消す。だから視認できない俺、つまり個性を発動している状態の俺をキャンセルすることはできなかった。

 今度こそ動きを封じた。

 さすがに反撃はないだろうと、油断した俺が馬鹿だった。

 

「いい読みだが、やはり甘い──!」

 

 突如として俺は背中を蹴られる。

 イレイザーは足を振り上げ、その反動のまま俺を巻き込んで縦に半回転した。

 蹴飛ばされた俺は飛ばされ、イレイザーは立ち上がる。また振り出しかよ……。

 今度こそ手はない。詰みもいいところだ。

 打開策が完全に失われたと同時に、声が響いた。

 

「そこまで!試験終了!」

 

 ミッドナイトが宣言し、イレイザーは髪を下ろす。もしかして今、俺個性消されてた?

 というか、そうだこれ試験だった。相手が本気過ぎて忘れてたわ。

 

「ってことは、俺不合格っすか?」

「とか言ってるけど、どうイレイザー?」

 

 ミッドナイトは俺には応えず、視線をイレイザーヘッドに向けた。

 え、あの人が試験官長なの?先に言ってよ。

 

「ヒーローを目指す者として、心構えがなってない。おまけに動機も不純であり、性格も個性も得意もひねくれたもの」

 

 ひでぇ。性格はともかく個性は自分でどうにかできるもんじゃないでしょうに。あと全部否定できないところがなおひどい。

 しかし、とイレイザーは続ける。

 

「圧倒的に不利な中で、それでも挫けずに打開策を探し、見つけ、実行した。そこは評価する。あとは知らん」

 

 投げたよこの人。ツンデレかと思ったら単にめんどくさくなって適当に投げっぱなしジャーマン決めやがったよ。キレやすい性格といいこの人、ヒーローからプロレスラーに転職できるまである。

 

「と、言うことで合格よ。比企谷くん」

「……え?いや、あの、結局あやふやな評価受けただけなんすけど」

「あれはイレイザーの評価。実際に手合わせしてのね。それで、残り三人の評価を合わせれば、あなたは十分、雄英に相応しい実力を持っていると言えるわ」

「え?」

 

 藤原〇也ばりの「え?」である。私はギャンブラーでしょうか。

 他の面々を見ると、ネズミもゴリラもうんと頷いた。えー、会議とかないの?こんなすんなり決まるものなの雄英。ちょっと不安になる。

 

「比企谷」

 

 アイマスクを仕舞いながら、イレイザーが近付いてきた。あ、これもしかして試験とか無しに殴られるパターン?

 

「ひとまず合格おめでとうと言っておこう。明日からお前は俺のクラスだ」

「……はい?」

 

 振り上げられた手は、俺の肩にぽんと置かれた。え、何この人、ツンデレ?

 

「あの、怒ってないんすか?」

「何がだ?」

 

 何がって、この人マジで言ってんの?

 

「いや、あなたを選んだ云々で色々と……」

「……あぁ、あれか。あれはお前を試しただけだ。まぁ要するに、本気を出してもらうための合理的虚偽だな」

「あ、そうすか……」

 

 ちくしょう、殴りたい。いっそ個性使って殴ってしまおうか。消されるな、二つの意味で。

 つか、嘘であれだけ怒ったフリして殴ってくるとか、暴力団教師もいいところだろ。

 などと思っていると、イレイザーは踵を返しながら言う。

 

「安心しろ、あれでも手加減している。というか、本気で殴ってたらお前、多分そこで立ってないぞ」

 

 ですよねー。

 改めてプロヒーローの、というより大人の怖さを知った。そして、俺は絶対に担任を怒らせないと誓った。




比企谷八幡の個性『ステルス』
自分と自分が触れている物(衣類など)を、呼吸を止めている間だけ他人から認識できなくするぞ!ただしそこに存在はするので、攻撃されればダメージを受けてしまう。要するに、影が超薄くなる個性だ。

別名『神の不在証明(パーフェクトプラン)
HUNTER × HUNTERの登場人物、メレオロンが使う念能力。彼自体は登場しません。
ということでタグ増やします。

感想頂けると嬉しいです。

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