ので、ヒーロー学の実技や身体測定は既に終わっています。
意味不明な出会いと、無理難題な編入試験を経て、ついに新しい制服を纏った登校初日。
「比企谷八幡でしゅっ……」
盛大に噛んだ。不幸だ。
自己紹介を早々に切り上げてくれた心優しき担任(単にめんどくさいから飛ばしただけ)に感謝しながら学科を受けた昼休み。
案の定、俺は質問攻めにあった。
「雄英高校に他校から編入とか聞いた事ねぇよ!お前すげぇな!」
「ねぇねぇ!?どこから来たの!?」
「どんな個性持ってるの?」
「なぁなぁ!相澤先生と互角に戦ったって本当か?」
赤髪をおっ立てた男子に、エイリアン系ピンク少女。隣にいたっては透明人間だし、もはや両腕の関節がセロハンテープの輪っかみたいになっている男子すらキャラが薄い。超人集団の万国びっくりショーかここは。
「待ちたまえ君たち!転校して早々に質問攻めをしては彼が困惑するだろう!」
そんな超人集団を、手をきびきびと動かしながらメガネが制す。すげぇな、メガネなのにキャラが薄くないわこいつ。
「僕は
「お、おう」
「あ、アタシは
「俺は
「私は
「俺は
その後も俺は私はと名乗っていく。いや覚えらんねぇから。
質問には適当に答えていった。そのうち興味を無くすだろう。
が、そうは行かず。飯田の提案で食堂に案内され、
いや、断ったんだよ?断ったんだが、うん、無理だった。こいつら押し強すぎ。
ちなみに飯は超美味かった。明日からも昼食は雄英の購買を使わせてもらう。もちろん一人で。
「ねぇー、ご飯一緒してもいいー?」
などと明日の予定を決めていると、早くも今日の昼から狂いだした。人増えちゃったよ。
やって来たのはトレーを持った、誰だっけ。
エイリアンピンクと、透明人間と、赤髪牙男と、紫頭のチビ。個性以前に個性的だ。これ名前覚えなくてもいいまであるな。
「あ、いいよ」
「おっじゃましまーす。ねぇねぇ、比企谷。比企谷の個性ってどんなの?」
「……え、いや、朝に言ったし」
何この子聞いてなかったの?そして近いんですけど。なんで返事した緑谷じゃなくて俺の隣に来るのん?
「いやー、何を言ってるのかよく分からなかったし。難しかったからさ、もっとこう、分かりやすく」
何言ってるか分かんないはひどくないか。俺そこまで語彙力ないとは思ってなかったわ。
つーか、こういうのって言わない方がいい場合もあるんじゃねぇの?
「まぁ、なんだ。人から認識されなくなるって感じだな。ファミレス行って一人だけ水が運ばれないとか、何故か自動ドアが開かないとか」
「じ、地味だー」
「ほっとけ」
こいつ、結構グイグイ来るな。あと地味なのは知ってるから。
「でも、今は認識できてるよね?ということは、自分で発動をコントロールできるってこと?」
と、エイリアンピンクよりも純粋に聞いてきたのは透明人間。表情がわからん。
「まぁな」
「ってことは私の上位互換ってこと?どうしよう、私この先ヒッキーより使えない子扱いに……」
「いや、それはないだろ」
つかその前にヒッキーて誰よ。引きこもりさん?
俺の疑問を、そいつの隣にいた赤髪牙男が代弁した。
「葉隠、ヒッキーってなんだ?」
「え?比企谷だから、ヒッキー。なんか可愛い感じしない?」
「あぁ!いいねそれ、ヒッキー、うん。しっくりくる」
「いや、こねぇから」
「ヒッキーくんか、いいね」
「いや、よくねぇから」
エイリアンピンクが同調し、何故か麗日がサムズアップしている。え、俺今日からヒッキーなの?引きこもりんなの?
そんなこんなで昼は終わり、俺は抗議もできぬまま午後の授業に向かった。
そして放課後。
「と、最後に比企谷。後で職員室に来るように」
え、やだ。
なんて思うと目が合った。相澤先生は、それはそれは血走った目で私を見ていた。
はい行きます。
というわけで職員室に入ると、
「私が、待っていた!」
ゴリゴリマッチョのスーパーヒーロー、オールマイトが俺を待っていた。
「何か用ですか」
「いやね、君途中から雄英に来たわけだろ?となるとやっぱり授業が遅れてるんだよ、多少。だからさ、今のうちに追いつこうぜ!というわけなんだけど、このあと暇?」
「いや、今日は色々ありますね、はい」
嘘である。
この俺、比企谷八幡に帰宅以外の予定は無い。だが帰宅するという予定は存在するわけであり、愛する妹の下へいち早く帰らねばならないという意味では、このあとは予定がありまくりとも言える。
適当にでっち上げて帰ろうとするが、俺は背後から頭に手の平を乗せられた。
「比企谷、編入である以上授業時間が少ないのは仕方ない。が、その遅れを取り戻そうとしないやつが、果たしてヒーロー免許の試験に受かれるのかねえ?」
ギギギ、と効果音が着きそうな首の動きで振り向くと、背後には我らが担任の相澤先生がおいでになられていた。
「なぁ、比企谷。これからの授業時間だけで遅れた分を取り戻そうとするより、今日ここで追い付いた方が合理的だとは思わないか?」
「い、イエスサー」
ならいい、と言い残して相澤先生はデスクに戻った。
「じゃあOKってことで、体育館αに移動だ!」
俺の放課後は、補習に決まった。
雄英高校指定のジャージに着替えた先には、何故かコスチューム姿のクラスメイトがいた。ぱっと見る限り全員ではないらしい。
「さて、比企谷少年のために集まってくれてありがとう。その思いやりと助け合いの精神、忘れないでくれよ」
高らかに笑うオールマイト。だが何の説明もないまま呼ばれた俺はただ困惑するばかりだった。
「と、比企谷少年にも説明しないとな。前のヒーロー科の授業で、A組は実践訓練を行った。その際に大凡ではあるが、クラスメイトの個性を知ったわけだ。でも、君だけ知らない知られていないってのはちょっと可哀想だろ?だから、君の個性を知りたい人は残ってくれと声をかけたら、これだけの人数が集まった。いやー愛されてるな、少年」
と何やら語ったが、おい。思いやりと助け合いの精神はどこいった。
まぁ要するに、補習に必要な人員を俺の個性の情報を餌に集めたわけだ。これはかなり合理的な自給自足だな。多分提案したのは我らが担任だろう。
「じゃ、訓練のルールを説明しよう。訓練はヒーローチームとヴィランチームに分かれて行う。ヴィランチームは核爆弾を持ち込んでビルに立てこもった設定だ。ヒーローチームはその核爆弾を確保、もしくはヴィランチームの無力化で勝利。ヴィランチームは核爆弾を制限時間守り抜く、もしくはヒーローチームの無力化で勝利だ。敵チームを拘束する際には、このテープを巻くことで無力化されたこととする。チームは二人一組、くじ引きで行う。ここまでで質問はあるかい?」
やや日本にはないだろうという設定にはツッコまない方がいいか。
ヒーローチームの勝利条件はわかりやすい。が、この設定だとヴィランチームは不自然ではないか。
「ヴィランの目的は何なんですか?」
「ん?それは、もちろん核爆弾によるテロ行為だ」
「なら、ヴィランの最終目的は核爆弾の爆発でいいんですね?」
「ああ、それで?」
「なら、最悪の場合制限時間ギリギリで核爆弾を爆発させた自爆行為でもヴィランの勝ちじゃないですか」
時が止まった。The World。
静寂仕切った中で、カエルのような女子が呟く。
「確かに設定上そうなるけれど、ルールを聞いてすぐにそれを思いつく比企谷ちゃん、怖いわ」
この子、まさかの毒ガエルだった。
「えーっと、この場合どうなの?いやさすがに……うん、よし。比企谷少年。今回の場合、あくまでもヴィランは時間稼ぎが目的ということで、その方法は無しだ」
「うす」
オールマイトの説明に頷くと、クラスメイトがザワついた。あれ、俺またなんかやっちゃいました?
「なるほど。確かにヴィランならそう考えるかもしれない。前の授業では誰もそんなことを考えなかった。凄いな比企谷君」
と、なんか委員長が言ってるけど、それ褒めてるの?暗にヴィランらしいって言ってない?
「じゃあ早速くじ引きだ。比企谷は決定として、ヴィランかヒーローのどちらかが入ったくじを引いてもらう。残りのみんなには、ハズレとアタリのくじを引いてもらおう」
そう言って出されたボックスに手を突っ込む。
なんの因果か、俺はヴィランらしい。うわー、てっきにーん(空元気)。
「比企谷少年はヴィランか……うーむ、まぁ大丈夫だろう!さて、残りのメンバーは──」
くじの結果、ヒーローチームは
ヴィランチームは俺と、
両チームは通信機とテープ、それからビルの見取り図を渡されスタート地点に着く。
まずはヴィランチーム。先にビルに入って爆弾の配置や作戦会議ができる時間を貰った。
「えっと、そっちの個性は、聞いていいか?」
「もちろんだ。オレの個性は『ダークシャドウ』。影のモンスターを体に宿している」
何この子、厨二?
なんてコメントは控えて説明を受ける。
大雑把に言えば、長距離中距離に秀でる伸縮自在の偶像、バンジーカゲということらしい。なんだそりゃ。
「で、比企谷の方は……」
「ステルス。まぁ誰にも認識されなくなるってやつだな。透明人間みたいな認識で問題ない」
「なるほどな」
「相手の二人の個性は分かるか?」
「八百万の個性は『創造』。体から無機物なら何でも創れる。耳郎は『イヤホンジャック』。耳にあるイヤホンジャックから集音したり、自分の心音を流したりできる」
敵さん、強くね?ヒーローは必ず勝つってことかしら。
索敵能力に秀でた個性と、武器防具何でもござれの万能個性。厄介すぎないか?
まぁこちらも戦闘能力が高そうな個性持ちはいるんだけどね。
「なら、作戦は決まりだな。常闇はここで爆弾の守備。耳郎の索敵を抜けれる俺が遊撃しながら時間稼ぎ。最低でも二人を分散させてダークシャドウで叩くって感じか」
「御意」
思ったよりあっさり頷いてくれたな。もっと言い合いになると思っていた。
今回はヴィランチーム。なんか皮肉が効いて逆に落ち着く。
そういやヒーロー科として他の人と個性のは初めてだ。イレイザーとの戦闘は話が別だろう。今回はお互いに本気でやりあえるってとこがみそなわけだし。
「んじゃ、俺は下の階に行く。一応、窓からハシゴで登ってくるかもしれないから気を付けろよ」
「…………っ」
「……なんだよ」
「いや、まさかそんな方法を取るとは考えなかった。未熟だな」
武士かよ。同い歳だと思うが。
こういう戦闘の場合大体は入口から遠い上階に爆弾を置くだろうし、その逆をついてハシゴを創造すれば上から奇襲できる。真っ先に思い付きそうなものだが。
「凄いな、比企谷」
「それさっきも言われたけど、別に普通だろ。つか、凄いのはお前らみたいな万能型の個性持ってる事だと思うんだが」
俺の個性は、応用こそ利くが万能じゃない。これなら単純な身体能力強化の方が個性の有能性では上だろう。
「いや、その分析力と思考力、感服だ。遊撃と言ったが、何か策はあるのだろう?」
「……初見殺しが俺の個性の武器だからな」
多少はある。逆に言うと失敗したら結構ピンチだけど。まぁそれでも、時間稼ぎ位はできるだろう。
部屋を出て階段を降り、目的の地点へ向かう。
女子相手だけど、多分戦闘能力は俺より上だ。そんな女の子を俺はか弱いとは呼ばない。むしろ体から剣や盾を創り出したり、動きを音で察知してくる女子がいたら、俺は間違いなく逃げる。個性使って本気で逃げる。
今回はそれができないわけだが、仕方ない。
精々足掻かせて貰おう。
最高に最低な、
《速報》比企谷、ヒッキーと呼ばれる。
由比ヶ浜がいないので、命名は葉隠ちゃんにしてもらいました。お茶子ちゃんと迷った…。
次回、ヒッキーの本領発揮発揮。
ちなみに補習不参加は轟と爆豪。理由は、二人とも「興味ないね」とのこと。
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