ぼっちのヒーローアカデミア   作:江波界司

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比企谷&常闇
VS
耳郎、ヤオモモチーム。

っておいおい、こんな展開聞いてねぇぞ!
マジでありえねぇ!
CV プレゼントマイク


やはり俺の戦闘訓練はまちがっている。

 ──第三者視点──

 

 薄暗いビルの中で、比企谷は息を潜めていた。

 程なくしてオールマイトが試合開始の宣言をする。

 

「比企谷さんの個性は未知数。常闇さんのダークシャドウも強敵ですわ。警戒を」

「おっけ。ビルに入ったらすぐに索敵するから」

 

 八百万と耳郎は短いやり取りで最終確認を行った後、ビルの中へと足を踏み入れる。

 中は入口からの光が僅かに照らしているが、見通しは良くない。

 耳郎は耳から伸びたイヤホンジャックを壁に突き刺した。

 聞き取れる音は心音。上階に、一人だけいる。恐らくは常闇、爆弾の守備をしているのだろう。

(比企谷は……)

 いない。音が聞こえず、耳郎はこれが比企谷の個性であるステルスだと結論付けた。

 

「比企谷の反応が無かった。多分個性で隠してるんだと思う」

「ということは、常闇さんの気配はあるのですね?」

「うん、上階に確認した。一人でいるのか、比企谷が潜んでるのかは不明かな」

「やはりここは、二人で一気に攻め落とすべきでしょうか」

「かもね、罠かもしれないけど、そこはヤオモモの個性でどうにか……」

 

「拘束って、これでいいんだよな?」

 

 二人の背後で、比企谷は呟いた。

 

「「え……っ?」」

 

 反応すらできず、八百万と耳郎は振り向く。

 その動作中に、気が付いた。

 動きにくい。体が縛られたように、何故かパートナーと密着している……?

 そこでようやく、二人は自分達がテープを巻かれていることを理解する。

 

「そ、そこまでっ!……って、おいおいマジかよ」

 

 オールマイトは思わずマイクから零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──比企谷視点──

 

 

 

 

 訓練は速攻で終了し、参加した俺達は待機場所へ戻る。

 そこにいた面々は、静まり返っていた。つか、俺以外の三人も無言だし、何この状況。

 

「ひ……」

 

 俯いたエイリアンピンクが一言。

 

「ヒッキーつっよッ!?」

 

 ヒッキー呼びをどうにかしてくれませんかね。

 抗議の目を向ける最中、周囲の連中も興奮したように騒ぎ出す。

 

「いや速すぎだろっ!?開始何秒だよっ!?」

(とどろき)だってこんな速く無かったぞ?」

「というか、ヴィランチームなら最速ね、比企谷ちゃん」

「ありえねー、八百万と耳郎を一瞬で拘束とか」

「輝いてるね!ボク程じゃないけど!」

「私もやりようによってはできたのかな……?」

 

 赤髪、しょうゆ顔、毒ガエル、黄色筋肉、なんか光ってる奴、透明人間。

 その他が口々に感想を言う。おぉ、俺すごかった?いえーいぴーすぴーす。

 って、あんま思わないけど。あと俺は全然輝いてなかったと思うぞ。なんなら見えなかったまである。

 

「ナイスファイトだったぜ諸君。といっても、ほとんど比企谷少年の独壇場だったな!」

 

 オールマイトはそんな評価を出す。うん、これ戦った気がしないな。

 実際、俺はただ入口付近でテープを持って隠れていただけだ。あとは耳郎が個性を使っている間に二人の周りにテープを通して巻いただけ。完全に初見殺しの一発技だ。

 が、そんなことはどうでもいいのか、やけに俺を祭り上げるクラスメイト。いい迷惑である。

 

「何も、できませんでしたわ……」

「音も聞こえないとか、それ反則じゃん……」

「オレは、いる意味がなかったな……」

 

 一方戦闘参加済みのメンバーといえば、何故かパートナーだったやつすらため息をついている。すげー罪悪感湧くんですけど。あと常闇さん?なんであなたまでガッカリしてんのよ。

 

「ふむ、個性を最大限に活かした奇襲。これは見事な作戦さ少年。ただ思ったよりえげつないやり方だったけどな。それじゃあ訓練は……」

「センセー、俺も比企谷と戦いてぇ!」

「え?」

「は?」

 

 何この人戦闘民族?

 赤髪の一言で火がついたのか、クラスメイトのほぼ全員が再戦を要求し始めた。嘘だろ、やらないよねこれ。

 

「静かに!先生。クラスメイトの個性を知るという意味なら、もう1戦した方が比企谷君のためになるのではないでしょうかっ?」

 

 キリキリと手を動かしながら主張するメガネ。確かクラス委員の飯田か。

 うむー、と何やら考える姿勢に入るオールマイト。あー、これもう無理なやつだ。

 

「確かに、あれだけじゃ味気ないよなぁ!なら特別にもう1戦、やっていこうじゃないか!」

「いやいや、俺の個性知ってますよね?初見殺し専門なんすけど。知られてたら基本没個性なんすけど」

「ヒーローになったらそんなこと言ってられないぞ?自分の個性は知られてて当然、むしろそれが大前提の世界だ。それに、弱点を突かれたくらいでへこたれるな。要するに──」

 

「「「Plus ultra(プルスウルトラ)!!」」」

 

「ってわけさ!」

 

 声を揃えて叫ぶ皆の衆。準備してたんすかね。

 予想通り第二回戦は回避できず、俺はヒーローチームに固定された。

 リベンジを希望したが、八百万他三名は抽選ができず、残りのメンバーがくじを引いた。

 その結果──。

 

「よろしくね、比企谷ちゃん。ケロ」

 

 毒ガエルがパートナーになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィランチームは、緑谷と赤髪こと切島。双方戦闘向きの個性持ちらしい。

 対していえば……。

 

「あー、えっと……」

蛙吹梅雨(あすいつゆ)よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「お、おう。……んで、蛙吹」

「梅雨ちゃんでいいわよ」

「ははっ……で、蛙吹」

「……強情ね」

「お前が言うか」

 

 ケロ、とか言っちゃってるし。こいつまじでカエルなの?

 

「まぁいいわ。私の個性は『蛙』。飛んだり壁を登ったり、あと舌を伸ばしたりね。カエルができることは基本できるわ」

 

 まじでカエルだった。

 

「じゃあ、あれか。傷を癒す汗とかも出るのか」

「それは出ないわ。カエルはカエルでも、ガマガエルじゃないの」

「あ、そう」

 

 ヒーラーじゃないと。まぁそこまでカエルという個性に求める気はないから特に何も感じない。

 いや、つか多くね?明らかにスキルタンクの量が違うんですけど。俺、影薄くするしかできねぇぞ。

 

「うん、普通に強えなその個性」

「ありがと。それで、比企谷ちゃんの個性は……」

「見てた通りだ。見えたかは分からんが」

「見えなくなるのが個性ね。もっと言うなら、音とかの情報も消せるのかしら」

「そんなとこだな。だから基本、戦闘は無理」

 

 今度はヴィランチームの個性を蛙吹から聞く。

 緑谷出久、個性は超パワー、らしい。ちゃんと分類を聞いたわけではなく、戦闘訓練などで見た蛙吹の評価だ。文字通り、超パワーである。

 切島鋭児郎、個性は『硬化』。体を硬くできる。まんまだが、これは厄介だ。

 ヴィランチームは双方が戦闘向き、それも肉弾戦に秀でた個性だな。対しての俺達と言えば、多様に多用な個性ではあるが、タイマン戦闘の能力値は高くない。

 さて、どうするか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──第三者視点──

 

 

 

 

 

 

「多分だけど、比企谷くんの個性には致命的な弱点があると思うんだ」

 

 作戦会議の際、緑谷は切島にそう切り出した。

 

「どういうことだよ、緑谷」

「うん。この前、葉隠さんと比企谷くんの会話覚えてる?」

「ええっと……」

 

 確か、比企谷の個性が葉隠の個性の上位互換ではないかという話だった。

 

「そのとき、比企谷くんは否定したんだ。もちろん社交辞令って可能性もあるけど、それだけじゃない。と思う」

「さっきの試合でなんか分かったのか?」

「さっきの試合、比企谷くんは持っているテープまで消していた。これなら葉隠さんよりも強い個性って言える。でも、そうじゃないって言うなら、可能性は二つある」

 

 比企谷の個性が上位互換ではない理由。推測ではあるがと注釈し、緑谷は続ける。

 

「一つは時間制限。比企谷くんが個性を使うにはかなり体力を使うとか、何かしらのリミットがあるのかもしれない」

「おう、それは何となく分かるな。もう一つは?」

「もう一つは、これはかなり可能性としては低いんだけど、発動するために条件がある。比企谷くんと葉隠さんの個性を比べた時、もっとも分かりやすい違いは、常に発動しているか任意で発動するかってことだから……ブツブツ……」

 

 いつの間にか思考の海に入っている緑谷。それを切島は引き気味になりながら正気に戻させる。

 

「それで、何か対策とかあんのかよ」

「あ、うん。ここまではあくまで可能性の話で、ここからは確実に言えること。比企谷くんは、正面戦闘に弱い」

 

 根拠はある。

 先の戦いで八百万や耳郎を相手に戦闘を避けたこと。テープでの拘束を選んだことはバトル展開を避けているといえる。

 

「なるほど。じゃあ案外簡単に勝てるってことか」

「そうとも言えないけど、でも、切島くんは取り分けそうかもしれない」

「は?」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、二戦目、スタァァァトォォォ!」

 

 オールマイトが叫ぶ。

 試合開始の合図である。

 

 お互いに目線で会話し、比企谷はビルの正面から。蛙吹はビルの側面の壁から爆弾を探しに行く。

 

 壁に手を着きながらよじ登る蛙吹。それぞれの窓から、慎重に中を確認していく。

(最上階ね。様子を見る限り、爆弾は無いようだけど……)

 傾向として上階に爆弾が置かれることが多い。それを鑑みて比企谷は蛙吹に上から探すよう指示した。だが結果として、この策は失敗だった。

 

 ビルの入口正面で、息を止めた比企谷は切島と対面した。

(おいおい、普通お前が防衛じゃないのかよ)

 比企谷はため息をつきそうになる。

 これは思っていたよりも相手は厄介だ、と感じたためだ。

 個性を聞く限り、切島の方が爆弾の防衛に向いている。むしろ、緑谷の超パワーはルール上爆弾の周辺では使いにくいはずなのだ。

(そこらへんを無視してまで切島を俺にぶつけて来た辺り、頭がいいか面倒くさがりな相手ってことだな)

 勝手な印象で、比企谷は切島の作戦ではないだろうと考えた。

 

 仕方なく、一度切島から見えないように出入口に隠れると、比企谷は息を整える。

 切島の個性と、比企谷は相性が悪い。最悪ですらある。

 比企谷の個性はトリッキーであれど、素の攻撃力は一般人である。そんな拳で硬化した体を殴ろうものなら、やられるのは殴った比企谷の方だ。

 比企谷は通信機を操作し、蛙吹とコンタクトを取る。

 

「悪い、読みが外れた。こっちに切島が来てる」

「といことは、爆弾の守備は緑谷ちゃんね。どうする?私も一度そっちに向かった方がいいかしら?」

 

 話を聞くと、蛙吹が偵察した感じでは上階に爆弾はないらしい。

 それを聞いた上で、比企谷は思考をまとめる。

 恐らく、相手は比企谷の思考を読んだ動きをしている。であるなら、爆弾は最下層の階にある可能性が高く、緑谷はそこで守っている。

 

「いや、蛙吹はそのまま一階にあるはずの爆弾を目指してくれ。俺は切島を足止めする」

「比企谷ちゃんの方が隠密性は高いと思うけれど」

「緑谷と戦闘になったら、まず俺に勝ち目はねぇ。まだそっちの方が上手くやりあえるだろ」

「……分かったわ」

 

 通信が切れ、比企谷は深呼吸する。

 当初の予定では、蛙吹が撹乱しながら超パワーの緑谷を引き付け、その隙にステルスを使って爆弾を回収するつもりだった。

 問題はいくつかある。

 まず蛙吹は上階にいるため、爆弾のある場所に辿り着き、更に緑谷との戦闘も合わせると制圧に時間がかかること。

 次に、一本道に切島がいること。比企谷の肺活量では一回の個性発動は一分と持たない。ましてその後はもっと時間が短縮される。

 いくらステルスで切島を素通りしても、どの道次の曲がり角までには見つかってしまうのだ。

 正面戦闘は避けられず、個性の相性は最悪。

 故に──。

 

「個性使ってコソコソ逃げると思ってたけど、案外根性あんだな、比企谷」

 

 ゴツリと、硬い拳を突き合わせる切島。

 

「お前くらい倒せないと、今後の俺の未来設計に響くんだよ」

 

 その目の前に、比企谷は姿を見せた。




俺TUEEEEじゃないです。
メンバー選考理由。
緑谷→比企谷の個性への対策力。
切島→比企谷の個性の天敵。
梅雨ちゃん→CV悠木碧。

次回、主人公同士の頭脳戦開始。

感想、誤字報告ありがとうございます。
特に感想、嬉しいです。

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