ぼっちのヒーローアカデミア   作:江波界司

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比企谷&蛙吹
VS
緑谷&切島!
相手は相性最悪、比企谷に打つ手はあるのか~?
そしてその勝敗は如何に!
CVプレゼントマイク


やはり俺のスタイルはまちがっている。

 俺は弱い。

 比喩ではなく、正しく俺は周囲に劣っている。

 何かを創れるわけでも、モンスターを飼っているわけでも、火や水や風や雷を操れるわけでもない。

 俺は一般人だ。強いて言うなら、異常な程に影が薄い、ただそれだけの人間だ。

 そんな奴が──

 

「うっしゃァ!こいや!」

 

 こんなガチガチの硬化人間に勝てるわけねぇだろ……。

 

 入口を進んだ一本道。陰を落とした空間は薄暗く、しかし互いを認識するのに不都合はない。

 切島は両手の拳をぶつけ合い、甲高い音を上げて気合いを入れていた。

 俺はといえば、ひたすらにやる気がなかった。

 さっきは売り言葉を格安で買っていたが、生憎と専業主夫希望の俺の財布の紐は堅い。だから買い言葉を返すだけで終わっておく。

 はっきり言って、俺に勝ち目はない。なら、わざわざ戦う必要がないともいえる。無駄なんだ、無駄無駄。

 

「……どうしたんだよ、比企谷」

 

 来ないのか、と切島は問う。いや行かねぇよ。

 

「どうもしねぇよ」

「じゃあなんで突っ立ってんだよ」

「俺の勝手だろ」

「そうだけど……ああ、もうどうでもいいや!こねーならこっちから言ったらァ!」

 

 ガキンと効果音が鳴る。体のどこ動かしたらそんな音出んだよ。普通出ねぇよ。

 硬化した両の拳は、俺の肩や顔を狙って飛んでくる。

 だが、当たらない。

 怪我の功名がもう一つあった。担任の先生に感謝だな。

 当たり前だが、切島とイレイザーベッドを比べても身体能力には大きな差がある。イレイザーの攻撃を知ったあとなら、切島のパンチとか止まって見えるわ。流石にそれはない。

 とはいえ、あれだけ打たれたのだ。そりゃ目も慣れる。これくらいの攻撃を躱す程度なら、できなくもない。

 

「くっそ……避けてばっかじゃ、ここは通れねぇぞ!」

「さて、どうだろうな」

 

 実際ここを通る事自体は難しくない。ただその後の展開が少々面倒なのだ。

 俺の肺活量を考えると、切島を躱して奥に進んでもいずれ追い付かれる。そうなれば、最悪の場合爆弾の周辺で二対二。これは避けなければならない。

 その理由一つ目。緑谷の個性が範囲攻撃ができるほど強力なパワー個性であること。

 二つ目。俺のステルスは味方との連携が取りにくいこと。

 三つ目。俺と蛙吹に連携する類の策がそもそもないこと。

 その他諸々の理由で、俺は個性による強行突破は挑めない。

 

「真面目に戦えよ!漢らしくねぇぞ比企谷!」

「俺が女に見えるなら放課後の予定に眼科を勧めるぞ」

 

 煽りながら、俺は先程通過したばかりの入口へと近付いていく。ひたすら後退してるからな。

 急に攻撃は止み、切島は硬化を解いてため息をつく。

 

「さっき、オレを倒すとか言ってたじゃねーかよ」

 

 あー、そういや言ったっけそんなこと。けど約束とかした訳でもないしな。

 ……まぁ、しかし、やる気を見せとかないと都合が悪くなりそうだ。

 

「ああ、んじゃ、やるか」

 

 そう言って俺は息を大きく吸い込む。それを見た切島は、再び硬化して両手を顔の前でクロスさせた。

 息を止め、個性を発動させる。

 俺の姿も、音も、質量すらも切島は感知できない。

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 にも関わらず、切島は突進して来た。

 反応が遅れ、俺は咄嗟に両腕で防御姿勢をとる。

 もちろん躱すことなどできず、切島は俺を突き飛ばした。ただし、本人は気付いていない。

 ……つか、痛い。

 いやマジで痛い。痛い痛い痛い痛い痛いっての!

 何これ超痛いんですけど。ほとんど車に轢かれたのと変わんねぇし、なんなら車のバンパーよりも硬いからこれ!

 骨が折れたのではないかと錯覚する程の痛みに、俺は悶絶して床を転がりまくる。

 多分相当酷い絵面だろう。男子高校生が床を転がりまくるとか、見たくねぇし見られたくねぇ……。

 叫びそうになりながらも必死に痛みに耐えながら、俺は這いよりながら入口を出る。

 そのまま左の方へ曲がり、壁に背を預けながら息を吐いた。

 

「はぁ……はぁ……痛ぇ……」

 

 どうやら折れてはいないらしい。

 着地点が見えなかった分、重心が狂った為に突進の威力が減っていたのだろう。これ、個性使ってなかったらやばかったんじゃね?

 

「襲ってこねー。……ってことは、緑谷の言ってた通りってことか……?」

 

 そんな声が聞こえた。

 襲って、ってのは俺がって意味だろう。となると、あっちは俺が個性を発動させてからの作戦があったってことか。

 緑谷の言う通り……。あいつ、そんな頭いいのか。

 もしかしたら、俺の個性の弱点を一戦目の訓練で見つけたのかもしれない。だとしたらまずい。

 ただでさえ初見以外での弱さに定評のある俺だ。対策されたらいよいよ何もできん。

 そっと、顔を出して様子を伺う。

 切島は周囲を警戒しているらしく、キョロキョロと周りを見ていた。チョコボールの鳥かよ。

 緑谷の言う通り、緑谷の作戦。どういうものだったのか。

 仮に俺のステルスの弱点、見えないながらも攻撃は当たるってとこに気が付いていた場合。さっきの突進は有効だ。俺が逃げるより先に一撃を当ててしまえば、見えなくても関係がないからな。

 だがだとしたら、切島の今の行動はおかしい。

 仮に俺の個性を警戒するのなら、当たらなくとも周りを攻撃しようとするだろう。少なくとも、さっきの仮説を知っていたならそうするはずだ。

 そうしないのは、あくまでも別の仮説で突進をしたから……?

 いや、楽観視はすべきじゃない。安易な考えは捨てよう。もっと現実的な考え方をすべきだ。

 切島に範囲攻撃はない。なら、緑谷が渡せるステルス対策の方法には限りがあるはず。

 それはこうして切島が周りを気にしているのがその証拠と言える。じゃなきゃ、もっと落ち着いて対応できるはずだからな。

 可能性として大きいのは、ある限定的なシュチュエーションでの対応策。目の前で発動した時とか、テープを消して近付いて来た時ってところだろうか。

 少なくとも、さっきの訓練で見せた策は使うべきじゃない。

 ならばと、俺は思考しながら時計を見る。

 制限時間は、残り三分を切ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蛙吹、爆弾の場所分かるか?」

「ええ、見つけたわ。正面入り口から三つ目の道を右折したところね」

 

 通信機を使い、大雑把な場所を把握する。

 時間がないな。作戦を立てるにも、蛙吹と打ち合わせとかしてる場合じゃないし。どうするか。

 俺じゃ切島は倒せない。少なくとも単純な戦闘では無理だ。

 ……じゃあ、他の方法しかないじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──第三者視点──

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲を伺う切島。

 彼に気付かれないように、比企谷は近付く。

 テープを使っての拘束は対策されている可能性がある。ならばと、比企谷は切島の右側に立つと、その耳から小型の器械を引き抜いた。

 

「なっ……」

「これで、緑谷の指示は仰げねぇだろ」

 

 作戦は緑谷が考えている。故にその指示ができなければ切島の反応は多少でも下がるだろう。

 比企谷は切島の背後に現れる。

 咄嗟にとった攻撃をバックステップで避け、比企谷は一歩分道の奥側に移動した。

 

「さっきから、正々堂々戦えよっ!比企谷っ!」

「知るか。そもそも俺の目的はお前と戦うことじゃねぇんだよ」

「は……?」

 

 先程まで倒すなどと言っていた比企谷は、何故か戦うことすら否定した。

 理解できない身代わりに、切島は困惑する。

 

「おま、何言ってんだ?」

「お前の個性は硬化。どう考えても勝てねぇ、考えりゃ分かるだろ」

「弱気だなおい」

「なんなら、俺にとっても蛙吹にとってもお前は脅威だ。なら、話は簡単だろ」

 

 言いながら、ごく自然な動きで比企谷は自分の右耳に手を伸ばす。

 聞き入っている切島に、比企谷は言った。

 

「お前をここで足止めすればいい。何せ、蛙吹には緑谷に勝つ策を教えたからな」

「んだと……?」

「その証拠に、さっきから何の音もしない。緑谷が個性を使っていないってことだろ」

「────っ!」

 

 

 確かに、とビルの静けさにうろたえる切島。

 その動揺を見逃さずに、比企谷は息を吸い込む。

 姿だけでなく気配や音に至るまで、比企谷八幡の情報は認識不能になった。

 虚を突かれた切島は、戸惑いながらも体を硬化させ、突進する。

 緑谷の考えた策。それはステルスの弱点を突いたものだった。

 比企谷の個性は認識できなくするだけであり、存在を消すだけではない。つまり認識できなくとも攻撃はできる。

 今までそこにいた場所に攻撃すれば、回避されない限り有効なはずなのだ。

 攻撃が当たったのか、今は分からない。比企谷が個性を使ったのならば、切島には警戒する以外の選択肢はなかった。

 

「……来ねぇ?」

 

 硬化したまま、切島は構えを解く。

 おかしい。あくまで緑谷の推測ではあるが、比企谷は長時間の個性発動はできなかったはず。

 にも関わらず、比企谷は姿を見せない。緑谷の推測が間違っていたのか。

 いや……。

 

「し、しまった!」

 

 比企谷の狙いは足止め。であるなら、今ここで何もせずに立っているのは比企谷の思惑通りになってしまう。

 今自分がすべきことは──。

 

「緑谷と合流、それが最善っ!」

 

 何をしてくるか分からない比企谷は一先ず無視し、通路を奥に進んで爆弾の置き場を目指す。

 その道中で、切島は比企谷の後ろ姿を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り。

 

「お前をここで足止めすればいい。何せ、蛙吹には緑谷に勝つ策を教えたからな」

「ケロ?」

 

 前置きなく耳へ届いた音声に、蛙吹は驚く。

 意味も目的も分からず、聞き返そうとマイクを操作しようとする。

 

「その証拠に、さっきから何の音もしない。緑谷が個性を使っていないってことだろ?」

「…………」

 

 二言目で、これが自分に言った言葉ではないこと。そして自分に宛てた言葉であることを理解した。

 どういう意味かしら?

 比企谷の言葉を吟味し、その意図を蛙吹は察する。

 

「と言っても、どうするのかしら……?」

 

 壁に引っ付きながら、蛙吹は部屋を眺めて思う。

 爆弾の置かれた部屋。そこには緑谷が仕掛けた策が張り巡らされていた。

 捕縛用のテープを、蜘蛛の巣のように部屋中に展開している。これは緑谷が用意した比企谷と蛙吹の両方に対応できる策である。

 テープに触れれば比企谷の位置が特定でき、機動力に優れた蛙吹も移動範囲が制限される。

 ──これが、最善!

 緑谷が内心で思う一方、蛙吹もまた覚悟を決める。

 ──比企谷ちゃん、信じるわよ。

 四肢に力を入れ、壁から飛び立つ。

 

「来た!」

 

 身構える緑谷。その背後には目的の爆弾がある。

 蛙吹はそれに近付かず、壁を蹴りながら部屋を動き回る。

 移動する度にテープが体に絡まる。テープを巻かれたら即行動禁止。逆に言えば、体に着く分には問題はない。

 でも、これじゃ弱点を増やすのと変わらない。

 緑谷が思うことを百も承知で、蛙吹は行動をやめない。

 この部屋に通じる道は二つ。蛙吹が来た階段につながる道と、入り口につながる道である。

 後者から爆弾へのルートから、意図的にテープを外す。

 そして──

 

「緑谷っ、すまねぇ!比企谷がっ!」

「切島くん!?」

 

 切島が突破されていた。そんな報告はなかったと驚く緑谷。

 そんな彼の隣を通り、息を止めた比企谷は爆弾へと手を伸ばす──。

 

訓練終了(タイムアップ)だ!そこまで!」

 

 オールマイトの声が響く。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 息を吐いた比企谷の手は、届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──比企谷視点──

 

 

 

 

 

 

 届かなかった。

 これで、俺の、俺たちの負けか。

 テープを外しながらこちらに来る蛙吹。ごめん、こんな時どんな顔したらいいのか分からないんですけど。

 

「えっと……」

「お疲れ様、比企谷ちゃん」

「え、お、おう。えっと……?」

 

 てっきり責められるとばかり思ってたんだが。

 思わぬ対応に戸惑う。

 

「とにかく、今は戻りましょ」

「お、おう」

 

 さっきから、俺の語彙力死んでね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイスファイトだった!」

 

 戻って早々、暑苦しい声を張り上げるオールマイト。いや、俺ら戦いましたっけ?

 テンションの高い先生とは対照的に、クラスメイトは静まり返っていた。またこのパターンかよ。

 しかし今回は俺の負けだ。称賛よりもダメ出しの方が多そうだ。

 

 

 

 




次回は解説と日常編。満を持して小町登場!

この作品にヒロインは必要なのだろうか。
小町以外の俺ガイルメンバーは今のところ登場予定はないです。

感想貰えると嬉しいです。

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