Angel Beats!-Atonement for you- 作:柑橘類さん
CDを作ると宣言してから俺はすぐに土塊の山に向かった。そこに行ってまずは録音機を作り始めた。これがだるくて、小さな部品を色々と用意してからその部品を組み合わせてテレビとかで見たことがある録音機の完成だ。まぁ、いわゆる音響監督が使うようなものだと分かりやすいか。これが完成するのは既に深夜を迎えていた。そんな中、俺は黙々と作業をしている横で遊佐は静かに見ていた。それを見かねて俺は部屋に帰るよう告げた。すると、
「貴方を監視するのが私の役目ですので」
それしか答えない。お前はRPGに登場する村人か!と思った。けど、ただ監視するだけだと暇だから眠くなると思うがそんな仕草は一切見せていない。俺はもう何度目か分からない欠伸をしてるっていうのに。
土塊からガラクタを作っては完成して、また新しいガラクタを作っては完成して、そんなことを続けていた。やがて、日が昇ってきた。
「やっべ、もう朝か。ふわぁ〜〜」
「おはようございます。今ので279回目の欠伸です。そろそろお休みになられてはいかがでしょう?」
「そうだなって、よく俺の欠伸した回数を覚えてるな」
「ただ監視するのも暇なので数えていました」
「まぁ、一通りやりたいことはやったから一度休むか」
「はい、そうしましょう。本日の定例会議には欠席することをお伝えしますね」
「あぁ、頼んだ‥‥‥‥ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、お前も寝るんだよな?」
「いえ、私はこれから通信士としての仕事があるので寝ません」
「いやいやいや、そりゃおかしいだろ。一睡もしてねぇんだからお前も寝ろって」
「大丈夫です。私は普通の人間とは違いますので」
「あ〜もうそういうのいいから。お前はお前だろ。普通の人間って何だよ?全人類の行動全てが同じ時間で同じ場所で同じ見た目で同じやりとりしているのか?100%人類が同じことをしてるのか?そうじゃねーだろ。朝起きるのだって7時の奴がいりゃ9時の奴だっている。朝食も目玉焼きの奴や焼き魚の奴だっている。全員が全員同じなわけない。だからお前だけが普通の人間じゃなくて全部が普通の人間だ。だから今日はもう休もうぜ」
「‥‥‥‥‥‥分かりました。では、ゆりっぺさんに伝えておきます」
それから俺たちは部屋に戻って一眠りすることにした。布団に入るとき、一瞬だけ真っ白に見えた。不思議に思ったが、再び来ることはなく俺は目を閉じた。
*****
「‥‥して、だ‥‥て‥‥?」
「俺は、‥‥‥だから」
「(何だ?生前の記憶か?もっと集中して聞いてみよう)」
俺は、集中するイメージをした。すると、徐々に薄らとだが背景が状況が見えてきた。どうやら二人の人物が会話をしているようであった。一人は男。もう一人は女。恐らく、男は俺のことだろう。だが、女は全く分からない。誰だ?この女は?
「なら、この‥‥‥はどうして私にくれたの?ご両親の大切な物なんでしょ?」
「それは‥‥、」
「前に言ってたよね。『お前は俺と同じよう孤独にならないでほしい』て。あれも嘘なの?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「何か言ってよ!本当なら違うって言ってよ!ねぇ!!」
「俺はただ、自分の‥‥‥‥を満たすためにお前に近づいただけだ。勘違いするな」
「!!?‥‥‥‥‥そう、それが貴方の本性なのね。貴方は私の身体が目当てだったのね。最低ね。さっさと私の前から消えて!!」
それは、口喧嘩だった。俺が女に何か裏切るような行為をしたのはよく分かった。女の方は終始俺に怒りを露わにしている。一体、生前の俺は何をしたのだろうか?もっと見たいと思ったが、どうやらここは自由自在に操れないようでいつの間にか世界が白に染まっていた。これじゃあ、埒が開かないから俺は目を閉じて考えないことにした。
*****
目が覚めるとまだ朝であった。まぁ、仮眠みたいな感じだから短くても2〜3時間は寝てただろ。さて、寝る前は6時だったから今は何時だ?
俺は部屋にある時計を確認すると違和感を感じた。
「は?5時?ついに時を操る力に目覚めたのか?」
「いえ、今は朝の5時です。もっとも、翌日の朝5時です」
「‥‥‥何だって?」
「貴方はあれから丸一日寝ていたんですよ」
マジか。予想以上に疲れてたのかもしれん。丸一日何も食ってないよな。よく眠れたな俺。と思った瞬間、フラグが立ったみたいに俺の腹から凄まじい音が鳴った。うん、素直でよろしい。
「つっても、食堂は開いてない。後2時間は待たないといけない。それは絶対嫌だ。故に俺は空腹を忘れるためにCD作りに行ってくるわ」
「それは構いませんが、お時間になれば私が呼びましょうか?」
「いや、その必要はない。なぜなら、食堂がダメなら購買を使えばいい。というわけで、買ってきてくれ」
「これは‥‥」
俺は遊佐にあるものを渡した。それはポケットの中に入れるとジャラジャラと音が鳴ったり野○英夫さんが描かれた紙切れ、即ち金である。
「それで適当な物を頼む」
「私はパシリということですか?」
「そうだな、パシリだ」
「しかし、戦線でお金を使うことは禁止ですよ」
「いいんだよ。俺の物はいいと思ったら使っていいんだよ」
「ジャ○アンみたいですね」
「おぉ!心の友よー!!」
「気持ち悪いので近づかないでください。それと、後でゆりっぺさんに報告します」
「釣れねぇな〜」
まぁ、別に言われてもいいか。こっちは腹減りすぎて頭がおかしい。だが、今はやるべきことがある。レコード用の準備。前の徹夜で7割は終えたから後はチョチョイのちょいとやるだけだ。次の問題としては、この完成した道具をガルデモの部屋まで持っていくのが非常にだるい。何往復しないといけないのかが分からない。それに、俺一人じゃあそこまで運べるとは思えないから誰か助けが欲しい。誰かいないかなぁ〜?
その時、俺の耳にギターの音が聴こえた。
「〜〜♪」
「これは‥‥‥ガルデモの曲か。こんな朝っぱらから誰がやってんだ?」
俺は音の鳴る方へ向かった。しばらく歩いていると、アスファルトの多い場所に着いた。そこにギターを弾いている少女を見つけた。それは、ピンクの長い髪をして、胡座をかきながらギターを弾き語りをしていた。よく見ると、制服はSSSのものであった。時々ギターを弾きながら止めて気に食わなかったのかもう一度やり直しては止めを繰り返していた。俺はままならないと感じ、思わず話しかけた。
「おい、そう同じとこを何度もやり直すな。最後までやれよ」
「ひぇっ!?誰かいた〜!!あぁ、もしかしてユイにゃんのファンですか〜?ごめんね〜、まだライブ時間じゃないからサインとかは後にしてね」
「いやユイにゃんとか知らねーよ。お前の曲を最後まで聴かせろって言ってんだ」
「えぇ!?ユイにゃんを知らない!?こんな可愛くてキュートでガルデモの大ファンで岩沢さんのモノマネをしてちょっぴり有名なあたし、ユイにゃんをですか!?」
「可愛いとキュートとは一緒じゃねーか。ていうか、お前も戦線のメンバーだろ。幹部ではなさそうだな」
「ん?戦線を知ってるってことは‥‥ていうか!お前はガルデモの護衛である佐野先輩じゃないですか〜!」
始めてあった人に対してお前は中々や奴だな。いや、俺も言えねーな。
「ねぇねぇ!ガルデモのCD作るってマジですか!?」
「お?おぉ、今絶賛制作中だ」
「うわぁ〜!ヤバイヤバイ!!ガルデモの曲をいつでも聴けるとかヤバすぎっしょ!先輩は神ですね!あっ!でも、神ということはあたしたちの敵ということですよね。神にCDを作ってもらうのって、違反なのかな‥‥」
何やら興奮していきなり騒ぎ出した。しかも、俺のことを神とか何とか言ってきたし。俺が神だったらゆりが許さねーよな。こいつも戦線メンバーと同じ、アホなんだな。
「なぁ、お前の名前は何だ?教えてくれよ」
「おぉっとそう言えばそうでしたね!あたしはユイって言います!」
「ユイか。俺は知ってそうだが一応紹介しておく。佐野龍也だ」
「さっちゃん先輩と呼んでいいですか!?」
何でちゃんがついてるのに先輩をつけるんだよ。ということがあってから俺とユイは知り合いになった。お互いの紹介が終えてからは本題であるユイの音楽を聴くことになった。ユイはまだ完璧じゃないと嫌がっていたが、他人の感想を聞く事も完璧に必要なことと告げるとあっさりやってくれた。
「〜〜♪」
「‥‥‥‥」
「〜〜♪‥‥‥っと、どうでしたか!?」
「あぁ、基本はしっかりとできてるな。が、岩沢には足元にも及ばん」
「ぐっ、それは分かってますよ〜。具体的には〜?」
「一言ならお前は岩沢の真似しかしてない。自分らしさが無さすぎる。もっと自分らしく岩沢の曲を歌え。そうすればお前はもっと磨けるはずだ」
「なるほど〜、自分らしくですね、メモメモっと‥‥」
ユイに俺はアドバイスをしていた。まぁ、音楽に精通していたわけじゃないが。本人が何も言わないならいっか。それからは、少しの間ユイと一緒に歌の練習?に付き合っていた。
*****
ユイと別れてからは作業場に戻り、部品作りを始めていた。あれから時間は経ち、日は既に昇りきっていた。時刻は恐らく7時くらいだろう。NPCが食堂に向かっているのが何度か見えた。そろそろ遊佐が戻ってくるかもしれん。
「よく気が付きましたね」
「マジで来たし。狙ってた?」
「いいえ、偶然です」
「そうか、飯にしようか」
「はい」
俺は、作業を一旦終えて、遊佐に買ってもらった食い物をもらった。全部で2000円くらいだったはず。昨日は何も食べてないから終始腹の虫は鳴っていた。今日の食欲はヤバそうだ。
遊佐が買ってきたのは、主にパンが多かった。普通のチョコレートやメイプルが付いている菓子パンや王道のサンドイッチやホットドッグ。それに蒸しケーキやカステラとか、想像以上に水分が持ってかれるのが目に見える。ここで野菜ジュースとか牛乳、もしくはお茶とか飲み物も有れば完璧だがそこはどうだ?
「‥‥‥‥遊佐さん」
「何でしょう?」
「お飲み物はあるのでしょうか?」
「私の独断でお飲み物はこれだけです」
それは、青汁であった。野菜ジュースとかの200mlほどのパックの物が一つ。そう、たった一つだ。菓子パンやサンドイッチなどのパン系は基本的に水分を取るため、非常に喉が渇く。その比率はできれば5:5の半々であると嬉しい。が、今はどう見てもパンが9で飲み物が1というアンバランスな組み合わせとなっている。仮に比率が傾けば、そこは自分が堪えて極力飲む量を減らして食べる量を増やすしかない。しかし、これはキツすぎる。
「俺に何か恨みでもあります?」
「ありますよ。私をパシリにしたことです」
「そこまで気にすること?」
「パシリというのはすごく不名誉なことですから」
‥‥‥‥今後からは、自分で買いに行くとしよう、俺は誓った。
朝食を終えた後、残りの部品作りを再開し、ついに完成した。後は持っていくだけだ。しかし、この量を運ぶのは苦労するから誰か呼ぼう。近くに誰かいるかなぁ〜?ていうか、同じこと言ってるな。おっ、あそこに日向たちがいるぞ。丁度いい、手伝ってもらおう。
「おーい日向ぁー!」
俺が日向たちを呼ぶと驚いているようであった。
「んぉ?誰か呼んだか?」
「あっちから聞こえたぞ」
お、気づいたみたいだ。俺は腕を大きく振り回してどこかを教えた。そして、日向たちがこちらに来て土塊から作った道具を運ぶ手伝いを頼んだ。すると、日向はもちろんと答え、一緒にいた音無と大山も続けて快く返事してくれた。
「助かった。一人じゃ何往復しないといけないか分かんないからな。とりあえず、こいつから運んでくれよ」
「任せろ!ところで、何作ってたんだ?」
「CD」
「マジか!?佐野ってCD作れるのか!?」
「つっても道具だけだ」
「いやいや!それでもスゲーよ!な!音無!?」
「あぁ、物を作れるのはそれ相応の才能といってもいいだろう」
「そうだよ!僕なんか、NPCと同じくらい普通で特徴がないんだよ?」
普通か、それは俺が最も望んでいたものかもしれない。けど、今の俺が悪いわけじゃない。ただ、そう思っただけだった。そんな俺の気持ちはつい口に出ていた。
「寧ろ俺は大山が羨ましい。普通が良かった。生まれて天才とか言われてたけど、両親からは化け物扱い。暗い人生ばっかりだった」
「‥‥‥‥」
「‥‥あーっと、悪いな変な空気にして」
そこからは何も話さず黙々と作業をすることにした。日向たちもあまり深く尋ねることはしなかった。いい奴らだ。そして、最後にこう告げてきた。
「まぁ、辛かった生前だったろ。俺もバカして生きるのが辛くなって悪に手を染めたこともある。けど、その人生が全てクソというわけでは無かった。時には嬉しかったこともあった。佐野はまだ全部思い出していないだけだ。大丈夫、いつか全部思い出した時、それを受け入れるようになるぜ」
「ありがとな」
「おう!んじゃっ、運ぶぜ」
「頼んだ」
男三人による運搬は楽であった。そして、俺の心もどこか変化しているようでもあった。
*****
機材をガルデモの練習部屋に持って行くと、ガルデモメンバーは驚いていた。
「うぉー!何ですかこれ!?」
「録音の機械とか色々だ」
「適当だけどスゲー!!」
「しかも本格的なタイプだよ!しおりん!」
「みゆきち!あたしたちもCDデビューだな!」
「前と同じこと言ってるけどそうだね!」
関根と入江が漫才を始めても俺は無視し、岩沢たちに録音の仕方などの説明をした。
「まず、このパソコンにあるこのギターのアイコンをダブルクリックすれば起動する。そしたら───」
俺は岩沢とひさ子に録音の仕方を教えた。途中、漫才を終えた関根と入江も来たため、再び初めから教えておいた。そして、とりあえずテストをするため、一曲やってもらうことにした。
「よーし、カウントするぞ」
「あぁ、いいぜ」
「それじゃ、3…2…1…」
そこからガルデモの曲が始まった。タイトルは『Crow Song』。名前だけならカラスの歌と思うが歌詞を聴くとそんなことはなかった。
場所は閉店して閉まったお店の前でひたすらギターを弾いたことで指から弦の匂いがするほど。しかし、誰も止まって聴き入ってくれない中でもそいつは歌い続けた。そんな日々を過ごすうちに徐々に人が集まって自分の歌を聴いてもらえるようになる。そこは、シャッターを背に向けた寂れた会場じゃなく、キラキラと星が輝き、歓声が聞こえる、まるでライブ会場にいるようであった。しかし、そんな最高の会場に一匹のカラスが鳴き出し、そいつの歌と張り合った。そいつとカラスはお互いを主張を強めた。どちらかが中断すれば最高の会場に戻れると思っていたが、いつの間にかそいつの歌とカラスの鳴く声が合わさり、一緒に歌っていた。そいつとカラスは互いを認め合い、歌い続けた。まるで、この瞬間こそ最高のライブ会場であるかのように。
俺はそんな風に想像した。
「(誰かの人生そのものを見ている気分だ。)」
やがて、曲が終わり、録音を終えた。そして、今度は編集方法を教えた。
「例えば、岩沢の声が聴きたかったからこのボタンを押すと───」
暫くこういったことを繰り返し全てが終わると、日向たちに礼を言い、帰り際に竹山(クライスト)を呼ぶよう頼んだ。それから数分後に竹山がやってきた。
「僕に何の用があるんですか?」
「お前には、ガルデモの録音を手伝って欲しいんだ」
「それは佐野さんがやればいいじゃないですか」
「いやな?俺はこれから新しい武器やら作戦やらをゆりといっしょに考えなきゃならないんだ。つまり忙しくなるってわけだ。そこでだ、機械に詳しいお前がこれをやってくれたら助かるってことだ」
「僕に得がないですよね?」
「何言ってんだよ。お前がこれを手伝ってくれたらCDを大量に販売できる。するとそれを買おうとするNPCから食券を交換条件にすりゃもうトルネードみたいな天使と死闘を繰り広げることはなくなる。さらには、食事問題も解決ってわけだ。極め付けは、SSSのメンバーはお前のことを見直すはずだ。クライスト竹山最高ー!とか女子にも人気間違いなしだ。な?やってくれよ。クライスト竹山」
俺は竹山に適当なことを告げた。すると、竹山は少し目を閉じ、考えていた。そして、決心したのか了承してくれた。フッ、チョロいな。