Angel Beats!-Atonement for you- 作:柑橘類さん
球技大会から数日が経ち、俺と遊佐はガルデモの練習部屋に訪れていた。それは、CD作りがどうなったかを確認しにきたからだ。部屋に入るとそこは沢山のCDが積まれており、ざっと見た所500枚ぐらいはあると思った。
「出来上がったのか?」
「ん?何だ佐野か。丁度いい、この後のことを聞きたかったんだよ」
「CDをどう売るかか?」
「そうそう、で?どう売るんだよ?」
「食堂に売店があるだろ?その隣に新しく出店すればいいだろ。確か、チャーに頼んでリアカーを作ってれたのを運んだと思うが」
俺は見つけたリアカーに大量のCDを傷つけないよう慎重に載せていった。そして、竹山と偶然出会った高松と一緒に食堂に向かい、着いてからは宣伝をした。
「はい、こちらガルデモのCDでーす。今なら3種類の食券でCD 1枚交換でーす。ただし、同じ食券しかない場合は、6枚で交換できまーす。さぁ、買った買ったー」
「今まで聴いてきたCrow Songはもちろん!他にも新曲も追加していますよ!!これを逃すと一生後悔しますので!是非!!交換しましょう!!」
「その調子でどんどん宣伝してくれ」
販売を開始してからすぐに大勢の人の波が来て、騒がしくなっていた。ある程度交換している中、俺は唐突にある記憶が脳裏をよぎった。
それは、俺がどこかの屋上みたいな場所でタバコを吸っていた。記憶はそれだけだった。
「(タバコ?なんか関係あるのかもしれないな。ちょっと探してくるか)」
「わりぃ、ちょっと売るの二人で頼むわ」
「佐野さん?どこに行くのですか?」
「ちょっと小腹が空いたから購買に」
「戦線でお金を使うことは違反ですよ!」
「じゃあ、内緒にしてくれよ」
「あ、ちょっと!」
俺は一旦離れて購買の方へ向かった。そこで、おばちゃんに話しかけて正直に言った。
「おばちゃん、タバコってある?」
「タバコ?あんた、まさか吸ってんのかい?」
「いや、それは分かんねーけど、実は俺、今記憶喪失でさ、よく夢でタバコ吸ってる姿を見るんだよ。だからさ、実際に吸ってみたら何か分かるかもしれねーなと思って聞いてんだ」
「そうかい‥‥‥‥‥、やってもいいけど、一つあたしのお願いを聞いてくれんか?」
「俺にできることならいいぞ」
「なら、放課後グラウンド近くの大階段に来てくれ。そこであたしの話し相手になっておくれ」
「オーケー、放課後の大階段だな。じゃ、よろしく」
「あぁ、ついでにパンとか買ってくかい?」
「それもそうか、じゃあサンドイッチ頂戴」
「はいよ」
俺は購買のおばちゃんにサンドイッチ代を払い、その場を去った。それからは再びCD売りに戻り、手伝った。そして、全てのCDが売れたことで撤収し、竹山と高松に集めた食券をゆりに報告と一緒に渡して貰うよう頼んだ。
そして、時は流れ放課後。俺はおばちゃんに言われた通り大階段の前に待っていた。暫くするとおばちゃんがやってきて俺に手を振ってくれた。
「ちゃんと来てくれたんだね」
「お願いだもんな。それに、俺の頼みでもあるし、すっぽかすことに利点はない」
「ふふっ、それじゃあ、これをやろう」
おばちゃんはポケットからタバコケースを取り出し、一本俺に渡した。
「火はこれだよ」
俺は渡されたマッチを受け取り、シュッと擦って火を点け、咥えているタバコの先に点火させた。その動作はどこか手慣れている感じだった。
「俺が言うのも何だが、普通高校生がタバコを吸うことにとやかく言われると思ってたわ」
「‥‥ふぅ〜、あたしは別に子どものしたいことを止める真似はしないだけでね。例えば、自殺をしようとする子がいたとしよう。その子が止めるなと言えば本当に止めないし、やっぱり死にたくないから止めてほしいと言えば本気で止めるよ。あたしは子どもの意思に沿って動いているんだ。昔話になるだがね───」
おばちゃんは自分の昔を話し始めた。
自分には旦那と二人の息子がいたらしい。ある日、おばちゃんがまだこの学園に来ていなかった頃、おばちゃんは近所の奥さん達とお茶会をするため家族と離れていた。本当ならそのお茶会に家族全員で参加しようとしていたが、旦那が『たまには一人でゆっくりしてこい。子ども達は俺と一緒にどこかに出かけてくるよ』と言ってくれたことでおばちゃんは同意した。そして、お茶会を楽しんでから数時間後に電話が来た。それは病院からであった。何事か聞くと旦那と息子二人が交通事故に遭ったとの連絡だった。おばちゃんは急いで病院に向かったが時は既に遅く、三人は亡くなっていた。その時、おばちゃんは酷く後悔した。自分が一人になったからだと。やはり皆んな一緒にいれば良かったと何度思ったが分からなかった。それから暫く泣き続けた。
どれほど時間が経ったのかは分からないがおばちゃんは生きる気力が無くなりかけていた。その時、自分が死ねば旦那と息子二人に会えるではないかと思った。そして、ビルの屋上に行き、柵を越え、あと一歩出せばその場に踏めるところはなく、大きく下の方に地面があるのであった。いざ、踏み出そうとした時、不意に声が聞こえた。
『おかあさん、まだぼくたちのところにくるのははやいよ』
『ぼくたちはおかあさんのえがおがみたいんだ』
『お前の笑顔はいつも元気になる。だから、もっと沢山の人にお前の笑顔を見てほしい。今は死なないでくれ』
それは、旦那と子どもたちの声だった。初めは幻聴かと思っていたが、いつの間にか涙が溢れていた。おばちゃんは彼らの想いを無碍にしてはいけないと誓った。それからおばちゃんは、この学園に来て、沢山の子どもたちに笑顔を見せている。
「なるほど、あんたも大変な人生を送ってるんだな」
「そんなことないさ。あたしは沢山の人、まぁここで言うと子どもたちだけどね。あの子たちに笑顔を見せているだけだよ。ただね、何人もあんたみたいに変わった子がいたよ。初めはあたしも説教したりしたけど、その子たちは家庭での暴力であったり、周りからの嫌がらせとか結構精神的にやられている子が多くてね。もう、楽になりたいって感じるんだ。だから、タバコを吸おうが薬物に手を出すことには反対はしない。けど、あたしはこれだけ言ってるよ。『最後まで生き抜くことを誓いなさいっ』てね。だからあんたも、死ぬことが全て解決と思わないことさ」
「‥‥‥あぁ、肝に銘じとくよ」
おばちゃんは話し終えたのか、タバコの箱を置いて学園を去った。いつの間にか、俺が吸っていたタバコは短くなり吸えそうになかった。俺は置いていった箱を取り一本口に咥え、マッチを擦って再び火をつけた。目の前は雲ひとつない空に夕日が輝いていた。
「‥‥‥ふぅ〜、綺麗な夕日だな」
「お味はいかがですか?」
誰かが声をかけた。その声は知っている。これまで何度も共に行動をし、相棒的な存在である人物だ。彼女は俺の横に立ち伺った。
「ん〜?可もなく不可もなくただ煙が出る葉っぱを吸ってる気分」
「それは、どういうものでしょうか?」
「さぁ?生前の俺はこれを吸って何を考えてたんだろうな」
「タバコには気分を和らげる効果があると聞きます。それではないでしょうか?」
「かもな」
それからは何も発さずただ時間が流れ、二人揃って次第に落ちていく夕日を眺め続けた。俺のタバコは徐々に燃えて灰になり、支えることができなくなるほど大きくなると静かに地面に落ちていく。そして口に咥え、それを吸う。
*****
日は完全に沈み、当たりは月明かりのみで暗くなっていた。俺は立ち上がり、ずっとそばにいた遊佐と一緒にここから去った。
「お前、待たなくても良かったぞ?」
「いえ、夕日が沈む姿がとても素敵だったのでつい見入っていました。決して佐野さんを待っていたわけではありません」
「あっそ」
「それより、お腹が空きませんか?」
「そうだな、飯にしよう」
「はい」
今日はたらふく食べたい気分だ。