Angel Beats!-Atonement for you- 作:柑橘類さん
因みにですが、今回のお話は遊佐さんの生前を私なりにイメージして作成しました。合わないと思う方は、見ないことを推奨します。それでも良いという方はどうぞ、お楽しみください。また、今回のお話で佐野くんと遊佐さんの距離感がグッと縮まります。
目が覚めた。そこは見覚えがない天井だった。眠っていた間、かなりの生前を思い出した。
「(そうか、俺は人殺しとかやってたから戦闘の経験もあったんだな。だが、俺は一体何のために復讐を果たそうとしていたんだ?)」
そこはモヤがかかって何も分からなかった。とりあえず、身体を起こそうとすると、
「お目覚めですか」
誰かが喋った。それは、遊佐だった。
「あぁ、たった今な」
「なぜここにいるかご存知ですか?」
「知らん」
「では、簡潔にお話しします。貴方は突然倒れたのですよ」
「倒れた?どこでだ?」
「グラウンドです」
「何故だ?」
「そこまでは分かりません」
「........どんな風に倒れたんだ?」
「ご自身の胸を抑えて苦しんでいたようでした」
「胸を抑えて........あぁ、思い出した」
「理由をお聞きしても?」
「お前の顔を見たとき、心臓の鼓動が早くなって呼吸困難になって倒れた」
「何故早くなったのですか?」
「分からん」
「そうですか」
「............」
「............」
暫く沈黙が続いた。俺は意を決して話すことにした。
「遊佐、大事な話がある」
「何ですか?」
「俺の生前についてだ」
「全て思い出したのですか?」
「いや、かなり思い出したというのが正しいかもな」
「聞きましょう」
「あぁ」
俺は話した。自分の名前、男との関わり、裏の仕事等包み隠さず全部話した。遊佐は話し終えるまで何も訊かなかった。
「というわけだ。佐野という苗字は俺の本当の苗字じゃない」
「では、龍也だけが本名なのですね」
「あぁ......」
「なるほど.....。貴重なお話をありがとうございます」
「いや、ただお前には知ってもらいたいと思っただけだ。お前は俺の相棒?みたいな関係だろ?」
「そうですね。では、折角お話してくれたので私の生前もお教えします」
「いいのか?」
「はい。貴方には教えても良いと思っています」
「言いふらすかもしれないぞ?」
「貴方がそんなことをしないと私は知っています」
「ずいぶん買いかぶるんだな」
「正直、私も貴方にここまで信頼している理由は分かりません。恐らく、相棒だからでしょうか?」
この時、遊佐は悪戯っ子のような雰囲気を纏っていた。何か弄ばれてる気がする。
「いけませんか?」
「また心を読んだか....。いや、まぁいい、話してくれ」
「はい。実は、私は男性が大の苦手です」
「なに?じゃあ、こうして俺のそばにいるのもダメなのか?」
「最後まで聞いてください」
「あ、あぁ悪い」
こうして、遊佐の生前が始まった。
****************
私の暮らしは普通だった。どこにでもある普通の家庭で生まれ、すくすくと成長していった。しかし、ある日から私の人生は地獄と変わった。それは、高校に転校してきた男の子の存在であった。彼がこの高校に来てから私の生活は変わった。それまでは、いつもの様に授業を受け、放課後には友達と一緒に帰っていくのが日常だった。しかし、彼が来てからは、友達と帰ることが出来なくなり、一人でいることが多くなった。暫くの間、一人の私に彼が積極的にお話をするようになった。私は人恋しかったのか、彼に気を許すようにった。しかしある日、彼が突然私の身体を求めるようになった。私は嫌になり、そして逃げ出した。彼は追いかけてくる。私は恐怖を感じた。そんな時、一人の男性が彼を殴って私を助けてくれた。私は心からこの男性に惹かれた。やがて、私は男性と恋に落ち、幸せになれると思った。だが、その後にとんでもないことを聞いてしまった。それは、男性と彼が繋がっていたこと。話を聞くと、男性は私を手に入れるために彼を金で雇い、一芝居を打ったということだ。私は疑問を抱き続けていた。
何故?何故?分からない。彼が今まで接してくれたあの態度は全て演技だということ?わざと男性に殴られたということ?どうして?全て彼の計画通りということ?彼は一体何者?
その日から私は男を嫌うようになった。男性はそれを許さなかったからか、無理矢理私を犯した。そして、それを私の弱みとして男性は従わそうとした。私は何もできなかった。それからというもの、私の日常には必ず男性が関わっていた。ある時は知らない男たちに身体を輪姦(まわ)されたり、私を逃さないように家族に教えると脅したりと、私は存在が無くなり、何もかも失った。自分がもう分からない。ただ、もう生きていくのが辛い。
『全ては彼との出会いが原因だ。あいつは必ず殺す。いや、死ぬよりも苦しくしてやりたい。そして男は滅びろ!私の前から消えろ!消えろ!消えろ!』
私の中には、男に対する憎しみしか残っていなかった。それから私は男性をハサミで刺した。
「死ね!死ね!お前たち男のせいで私は全てを失った!あぁぁぁぁぁ!!!」
何度も何度も刺した。男性が息絶えても刺し続けていた。
「消えろ!消えろ!全て消えろ!!」
その時、私の叫び声で慌てて駆け込んだ男性の仲間が死んだ男性の姿を見て、私に拳銃を向けて撃った。私は被弾したが、まだ生きていた。
「き、、え、ろ......き...え、、、ろ............」
最後まで男を憎んだ。そして、二発目を受けて私は死んだ。
****************
「というわけで、私はここに来ました」
「なるほど。想像を絶するほどだった」
「今でも男性に触れるのはダメですが、貴方だけは許せます」
「その理由は.....って、分からないか」
「はい」
遊佐の生前を聞いて俺は驚きを隠せていなかった。男嫌いな上に通信士とは大変だな。
「別にそんなことはありません」
「そうなのか?」
「ここでは、あんなことは二度と起きませんので」
「.........そっか」
「はい」
強いな。
「弱いですよ」
「そうか?俺からしたらその記憶を持っておきながらよく生活できるなと思った」
「いえ、私は弱いです」
「??何故だ?」
「私は、私ではないので」
「んん?意味が分からないぞ?」
「分からなくてもいいです。貴方は早くご自身の記憶を全て取り戻すことに専念してください」
「あ、あぁ分かった」
「はい」
「............これだけは言わせてくれ」
「何ですか?」
「何のことかは分からないが、お前はお前だ。それ以外に何があろうが今ここに存在しているのは遊佐、お前だ。例えそれが偽りだとしても今は今なんだ。だから、自分を否定するのはやめてくれ」
「...........」
「って、何で俺はこんなことを言いたくなったんだ?」
「ふふっ」
「笑うなよ」
「すみません。貴方らしくないセリフだったので」
「くっそ〜〜。あぁ、後もう一つ、お前の笑顔は綺麗だ」
「そう、でしょうか.....」
「俺がここ(心臓)を抑えて倒れるほどだ」
「何を根拠にしているのですか」
「さぁな?だが、今日から俺たちは秘密を共有し合う仲だろ?」
「そうですね」
「なら、宜しくな。相棒」
「....はい、宜しくお願いします。相棒」
「あぁ」
俺は手を差し出した。遊佐は一瞬考えていたのだろうか、おずおずと手を出した。俺たちは握手した。力は込めていないが、その繋がりの硬さは決して崩せないものだと思う。
「お前の手は冷たいな」
「........はい」
遊佐の手は氷のように冷たかった。まるで、生きてはいないような気がしたが、すぐに掻き消した。
「ありがとうございます」
「いや、こっちこそ勝手な考えをして悪いな」
何とも気まずい空気。さっさと動くか。
「遊佐、本部に行こう」
「分かりました」
こうして、俺たちは本部に歩き出した。
****************
本部に入ると殆どのメンバーが揃っていた。
「おっ!佐野〜!大丈夫か!?」
「あぁ、無事だ」
「いきなり倒れたから心配したよ〜!」
「すまない」
「私の筋肉のように強くなりましょう!」
「あ、ありがとう。今度教えてくれ」
「あさはかなり.....」
「それは労ってくれているのか?」
「You are crazy!!! ho--------!!!!」
「お前も椎名と一緒で褒めてくれているのか?」
「はは、まぁ無事でよかったよ」
「音無が一番普通で良かった」
何故か分からないが、俺が倒れたことで皆が心配してくれていた。そりゃそうか、同じ戦線のメンバーだもんな。なんか、こういう仲間がいるのって慣れないなぁ〜。
「はいはい!そこまでにして。佐野くんには訊きたいことが山ほどあるんだから、みんな出ていく!」
ゆりが皆を纏めようとしていた。しかし、皆からは『えぇ〜!!』や『ゆりっぺには人情がないのかぁ〜〜!!』など三者三様あった。しかし、これほど心配されると言うのは何だがくすぐったい。
「貴方の生前を聞けば、その感情は同意できますね」
「さらっと心を読むな。だが、そうだな」
初めての感覚だと思う。あの時は、一人でこなしていたのが大半だったよな。けど、何で俺はあの男にそこまで信頼していたのだろうか?確か、何か『同じところ』があったんだよな。同じところか。分からんな。考えても仕方ない、今に集中しよう。
「うるっさいわね!!貴方たちだってあまり人に聞かれたくない話とかあるでしょ!それを今からするの!はい!解散解散!」
ゆりがキレて理由を説明して皆を納得させた。
「ほら!飯でも食べてこーい!」
ゲシッ!ゲシッ!
そして、乱暴に蹴りながら外に追い出した。何て強引な、あんな方法ありなのか?
「ありです」
「お前には聞いてない」
「さて、話を始めましょう」
「あぁ、概ね何のことか分かるが」
「あら?そうなの?」
「俺が倒れたことだろ」
「ご名答。何があったか教えてくれないかしら」
「一言でなら『記憶がかなり戻った』だ」
「かなり戻った?全てじゃなくて?」
「あぁ、所々モヤがかかってたり、中途半端な所で目が覚めちまったから全部ではないと判断した」
「なるほど。あ、そうそう記憶の内容は訊かないから」
「なに?話してもらうために皆を追い出したんじゃないのか?」
「あたしが貴方の生前を聞いた所で何のメリットがあるのよ?逆にデメリットしかないわ」
「........確かにそうだな。で?何で俺たちだけなんだ?」
「そうね、これはまだ誰にも教えていないことだから貴方たちとあたしの三人だけよ」
「何のことだ?」
「そう言えば、佐野くんは定例会議にいなかったから聞いてないわよね。明日の放課後、ギルド降下作戦を実施するのよ」
「何だそれは?」
「簡単に言うと、あたしたちの武器を製造しているところに行って、新しいのを貯蔵することよ」
「なるほど。そんなのがあるのか.....。で?何のために行くんだ?」
「あたしたちの武器が底を尽きてきたの。だから取りに行くのよ」
「それだけか。皆に教えていない情報はこれのことか?」
「いいえ、違うわ。これは皆に話したわ。ここからがまだ誰にも話していないのよ。で、ギルド降下作戦を無事に終えた後、新たなオペレーションとして、今度は天使の正体を突き詰めようと思うの」
「なるほど。俺たちに教える理由は?」
「貴方たちは当日は作戦メンバーじゃなくて、陽動の援護に回って欲しいの」
「??それじゃあ、俺たちに教える意味がないんじゃないか?」
「貴方たちには、予め作戦内容を事細かく伝えておくわ。そして、あたしと違う視点から考えて欲しいの。天使が何故この世界に存在しているのかを。ほら、佐野くんは頭脳明晰じゃない」
「いや、俺はそう、なのか?」
「だって、戦線メンバーの名簿に載ってる人全員覚えたんでしょ?」
「確かに、竹山以外は全員覚えたなって、何でお前が俺のことを知ってるんだよ?」
「遊佐さんから定期的に報告を貰ってたもの」
「なるほど。お前に隠し事は無理だというのがよく分かった」
「けど安心して、生前の記憶は聞いてないから」
「OK、分かった。して、俺は一度も天使に会ってないんだが?」
「大丈夫よ。貴方はギルド降下作戦で、天使と会うはずよ」
「その根拠は?」
「勘よ」
「ゆり特有の勘ね。こりゃ、当たるな」
「ありがとう。遊佐さんも分かった?」
「はい。佐野さんの支援をすれば良いのですね」
「えぇ、お願いね」
「了解だ。..........一つ聞きたい」
「何かしら?」
「何故俺たちをそこまでしてくれるんだ?」
「貴方たち、パートナーよね?」
「!?何故知ってる?」
「ふふっ、図星みたいね」
「くっ!やられたか」
「まぁ、さっき来た時に倒れた後から何かあったのは間違いないと思って、貴方たちを信頼したのよ。その絆、絶対に切らないでね」
「あぁ、当然だ」
やはり、ゆりには敵わないな。俺の考えの先の先を見ているようで改めてすげーリーダーだと思った。
「頑張ってください」
「ん?何だ?応援してくれてるのか?」
「はい」
「そんじゃ、応えないとな。そうだ、読心術教えてくれよ」
「嫌です」
「即答かよ」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
佐野くんと遊佐さんで相棒。2人の絆は誰よりも深いものです。お互いの生前を知ったもの同士、親密な関係にしていきたいですね。次回は、いよいよギルド降下作戦です。そこで佐野くんと天使が初対面します。一体どうなるのやら。(笑笑)
感想を書いてくださいますと嬉しいです。
では、また次のお話でお会いしましょう。