とある一室。高級ながらもどこか無機質な雰囲気を漂わせるその部屋で、一人の少年がディスプレイに向かっていた。
彼の名は明智吾郎。
世間で『探偵王子』と持て囃される、よくよく聞いてみるとダサい上に米○町近辺で体は子供頭脳は大人な少年に踏み台役にされそうな渾名を持った少年だ。死神(ニュクスではない)になるのとどっちがマシかは微妙なところ。
そんな彼の正体は、正義感溢れる探偵どころか、自分の目的の為なら何でも利用し、利用価値があるかだけで人を選び、必要とあれば犯人の人から借りた真っ黒タイツ姿で闊歩して、人が死ぬと分かった上で躊躇いなく引き金をパーン!しちゃう、ちょっと自己中心的でアヴェンジャーチックな思春期の青少年である。
何となく誰かに罵倒されたような気がした明智少年は、コーヒーなんぞ啜りつつも気にしない事にした。きっと今まで利用してきた誰かが、謂れのない恨み事とか言ったんだろう。その程度の事を気にしていては、探偵王子なアヴェンジャーなどやっていられないのである。
彼はいつになく、自分が興奮している事を自覚していた。
目的を果たす為にあらゆるものを偽り、利用してきたが、それがようやく実ろうとしている。望みがもうすぐ叶うと思うと、人知れず興奮して、ちょっとだけオッキしてしまうのも仕方ないだろう。あのハゲにそんな性的興奮を覚えるなんて絶対嫌だが。
とは言え、目的の為には大嫌いな奴とお近づきになる必要もある。そいつの役に立ってやっていると思うと、少なくないストレスが溜まるのも事実だ。そろそろ発散してスッキリしておきたい。体調管理は大事だ。探偵王子が円形脱毛症とか、笑い者にしかならない。
彼がディスプレイに向かっているのは、AV鑑賞でスッキリ…じゃなかった、情報収集である。探偵王子たるもの、世間の流れに敏感でなければならない。ちょっとだけ自己中心的な彼は、それ以上に努力家だった。ただ、他の犠牲を全く気にしてないだけで。
そんな彼は、SNSの利用だって朝飯前。色々なところから情報を集めていると、ふと気になる呟きが見つかった。
「拡散希望」と書かれた、何の変哲もない呟きだ。写真が幾つかと、動画が一つ。
普段であれば、全く気にしなかっただろう。どうせ何処かのレベルが低い馬鹿が、自己顕示欲に駆られて自撮りでもしたんだろう。そこからバカッターとして炎上するまでワンセットだ。
しかし、繰り返すが彼はちょっとだけ興奮、もとい昂揚して浮かれていた。カフェインが効き過ぎたのかもしれない。ちょっとー、このコーヒー濃すぎるんだけど。誰が淹れたの? あ、僕か。なんて考えがよぎるくらいに。
特に深い意味はなかった。またもコーヒーを啜りつつ、「バカを嘲笑ってやろう」くらいの軽い気持ちで、その画像を開いた。
ディスプレイが真っ黒になるくらい噴いた。爆笑した。
次いで挙げられてきたコメントで笑い死にするところだった。気管にコーヒーが入って死にそう。
ちょっとこれは目的達成の邪魔になっちゃうかもしれないなーと思いながらも、浮かれた上にストレスが溜まっていた事もあり、その場の衝動に任せて彼は自分の持てる伝手を全て使って拡散しまくった。
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時はちょっと戻り、場所は変わって。
夜が更け真っ暗になった道を、一人の少年が歩いている。一見どこにでもいる少年で、わかめのようにモジャモジャ頭だが、どこぞの踏み台野郎ではない。むしろ、弱気を助ける為に鉄火場に真正面から飛び込んでいく主人公の風格を持っている。
そんな彼の本性は、本人は知ってか知らずか100を超える人格を内包し、それを状況に応じて自由自在に変化させられる…素質を持つトリックスター、ユニバースに至る者、集合的無意識の接続者…。の卵である。恐らく本人それを言えば、なんのこっちゃいの一言でしかないが。あと片手じゃ数えられないくらいの女性と同時に付き合う気がする。……なんだ、筆者のSSにしちゃ少ないな。
そして、彼は今正に人生の岐路に立っていた。 家に帰ろうと歩いていたところ、道端で言い争う声が聞こえてくる。
道を覗いてみると、酔っぱらったスキンヘッドの、人相の悪い男が、強引に女性を車に連れ込もうとしていたのだ。車は暗がりでも高級車と分かる。これはどう考えても面倒事。
さぁ、どうするか。行くべきか、行かざるべきか。
行かなければ自分は安全だが、あの女性がどうなるか分からない。自分は後味の悪い選択をしたとして、暫く心にニキビのよーなしこりが残るだろう。
行けば自分は危険だが、女性は助かるかもしれない。だがあの男の様子はまともではないし、ひょっとしたらナイフとか振り回されて刺されるかもしれない。
さぁ、どうする?
義を見てせざるは勇無きなり。
あれこれ考えるより先に、『獅子のごとき勇気』を持ち、『神と称えられる優しさ』湛え、ちょっと『魔法を疑うような器用さ』でスマホを警察を呼べるよう密かに操作しながら、『道を歩けば一目惚れさせるニコポな主人公』のようにカッコよく、女性の前に飛び出した。ははーん、さてはお前2周目、いや3周目だな?
勢い余ってハゲに激突し、ちょっと頭に怪我をさせてしまったけど仕方ない。髪の毛は頭を保護する役割もあるのだ。剃ってっているのが悪い。いや坊さんを悪く言うつもりはないのだが。マタカミノハナシシテル.そもそも女性を拉致監強姦しようとする変質者が相手なのだ。遠慮も容赦も油断も要らない。変質者を相手に必要なのは人権ではない、正当防衛だ。
ハゲは生意気にも怒ったらしく、自分の行為を棚上げして何やら喚き散らしている。
ケーサツがどーの、自分を誰だと思っているだの。こりゃ本当に精神的にアカン人種のようだ。きっと社会に揉まれ過ぎて、勘違いしちゃったのだろう。高級車使える程偉くなったのに、勘違いしちゃった上にこの有様とは可哀そうに。田舎のおっかさんより心が広い彼としては、さっさとこの窮屈な世界から色んな意味で解放して終わらせてあげるのが慈悲だと判断した。
思い立ったら即行動。
ミーミルの泉に目ン玉投げ込んだ王様を神様のように頭がよく……いややっぱ訂正、そんなペルソナも内面にあるけど、神の知恵何てろくでもねーわ…ともかく機転が利く彼は、瞬時に頭を巡らせ、取るべき手段を模索する。
ここで問題だ!
女性は助かり、自分は無事で感謝され、目の前のハゲは社会的重圧から解き放たれて、ストレスで絶滅した毛根が復活してくるような、そんなステキアイデアは?
3択。一つだけ選びなさい。
①人間ステータス激高の彼は突如素晴らしいアイデアをひらめく。
②警察がきて有耶無耶になる
③このまま放り出して帰る。
答え ①
誰かが脳裏に囁いたかのように、ピキーーーz___ン!とニュータイプ張りに閃いた。
ちょっとドメスティックでバイオレンスな手段だったが、彼はいざ事あらば人型をした相手にも躊躇いなく刃物や呪詛を叩きつけ、自分の数倍はあるバケモノも平然と殴りつける、怪盗っつーよりガンギマリした薩摩隼人かスタンド使いみたいな人種だった。ははーん、さてはお前産まれる世界を間違えたな? …そうでもないか。
そして、彼の認識ではこれから行う行為は慈悲である。サイコパスかな?
彼は思いっきり息を吸い込み、未だ喚き続けるハゲに向かって大声をあげながら踏み込んだ。
「こっち来るな変質者ーーーーーー!!!!!!」
振り上げた右足に、なんとも言えない感触。響き渡る断末魔。男として終わらせた事を実感する。やっている自分も辛いが、これも君の為なのだ。
痙攣して泡を吹き、どこからとは言わないが血が流れている変質者を見下ろした。
そしてドン引きしている横の彼女を放置して、ズボンを脱がす。パンツも脱がす。血はどうでもいいが、女の子の体に触れた事もないのに何が悲しくてこんな変態ハゲを剥かなきゃならんのか。
くっさい匂いを、彼を解き放ってやらねばならないという義務感から押し殺し、ズボンもパンツも処分。どこにどうやったかは聞くな。
そして写メ。流れるようにうp。拡散希望。コメントに『自称偉い人が下半身丸出しで路上で襲ってきたから蹴り潰した』『精神イッちゃってる人だと思う。裁判になったら証拠に使うからばら蒔きプリーズ』。
これで良し。バカッター扱いされようが色々規約違反扱いされようが、証拠は消えない。炎上歓迎。騒げ騒げ。
あっという間に集まるリツィート。批判的な内容も沢山あったが気にしない。幾ら何でも反応が早すぎで、誰かが何か仕掛けたんじゃないかと思えてきた。
『こいつ議員の〇〇じゃね?』なんて呟きまで出る始末。ちなみに隣の被害者の女性も、しっかり呟きで『確かに〇〇です。私は秘書をやっているのですが、この人に無理矢理車に連れ込まれそうになりました』などと書き込んでいる。いいぞ、煽れ煽れ。
その後警察のお世話になったが、正当防衛を主張した。認められた。
近所の人からも、女性と男性が揉めるような声が聞こえたと証言を得られたようだ。
背後関係がどうなっているのかは未だによく分からないが、女性の証言もあったし、何より目の前に実際に転がっていたのは、路上で下半身裸になってるハゲの怪しすぎるおっさんだ。これが偉くて凄い人だとしても、まずタイーホするよ。警察病院に担ぎ込まれたと聞いたが。
裁判沙汰にもなり、騒ぎが大きくなりすぎて転校する羽目にもなったが、とりあえず後悔はない。助けた女性はお礼を言ってくれたし。ハゲはまだ目を覚ましていないそうだが、なんか今までの悪行が色々噴出して、お偉いさん達がお祭り騒ぎ(ただし自宅を比叡山キャンプファイアー)しているとか。ていうか、酔っぱらって夜道で女性を連れ込もうとした挙句、抵抗されてるハゲが本当にお偉いさんだったことにビックリだ。最初からそういう商売の人を相手に、頼んだうえですれば問題も起こらなかったらなかったろうに。…そもそもスキンヘッドって、議員になれるのか? 髪型に規制はないと言われればそれまでだけど。
きっと、今までやってきた事に良心が耐え兼ね、ヤケになってあんな事に走ってしまったんだろう。或いは、誰かが止めてくれるのを期待したか。
目を覚ました時には、きっと社会的色々な物から解き放たれているに違いない。何も残っていないとも言うが。
どうもタマが二つとも潰れてるらしいし、男性ホルモン的なのも減って、闘争心とか野心とかも無くなるだろう。悪行と猥褻物陳列罪をしっかりと塀の中で償ってから、その後は何処かの僻地で静かな暮らしを送ってほしい。
ところで、転校が迫って来た時期、なんか※な人が『君のおかげで僕の計画が台無しになったよ。反響が大きすぎて、炎上どころか大噴火だった』って笑いながら話しかけてきたんだけど、何なんだろうか。何のことだって聞いても説明してくれないし。
気にする程の事でもないけど、ちょくちょく刺々しい感じがする。一体何をしてしまったんだろう。
…いやそれよりも、転校先の学校はどんな所だろうか。
どんな所に行っても、結局自分は自分のままで生きるしかないのだけども。
激しいトラブルがあるかもしれない。その代わり凄い喜びがあるかもしれない。それでも平穏な、植物のようにいられる学校がいい。
尤も、『お前は植物は植物でもムービーに出てくる植物怪獣の類だ」とよく言われるのだけど。解せぬ。