ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第10話 それぞれの意思

 ブイゼルの目の前に、ワカシャモが現れていた。避ける暇もなくブイゼルは、真正面から攻撃を受けてしまう。ワカシャモの異常な素早さの変動にトロナツは、あることを疑った。

 

「──隠れ特性か」

 

 セトントのワカシャモの特性は『かそく』で、時間が進むほど自身の素早さが上がっていく。急にブイゼルの目の前に現れたのは、単に素早さが上がっていたからだ。

 

「もう素早さ勝負では勝ち目はないよ!」

 

 自信満々でセトントは、トロナツに言葉をぶつける。やってみなくては分からない。心の中でトロナツは思った。

 

 ブイゼルは辛うじて体勢を立て直していて、トロナツは"でんこうせっか"を指示。それを見ていたセトントがワカシャモに"カウンター"を指示。それにブイゼルは気付き、咄嗟にワカシャモの間合いから遠ざかる。

 

『カウンター』という技は、相手の物理技を受け、受けたダメージを2倍にして反撃する技。もしブイゼルが攻撃を受けていたら、決着がついていたかもしれない。トロナツは冷や汗をかく。

 

   * * *

 

 これではっきりしたことがある。ワカシャモが単調な攻め方だったのは、持久戦の構えだからか、分が悪いかな。

 

「ブイゼル、どうする?」

 

 一呼吸置き、トロナツはブイゼルに問いかける。ブイゼルはその場で足ふみをしていた。分かった、というような顔でトロナツは前を向いた。

 

「ブイゼル、"あまごい"」

 

 ブイゼルが両手を空へ挙げた。すると会場の空には、黒い雲が広がる。

 

『あまごい』という技は、戦う場の天候を雨にする技であり、"みずタイプ"の技の威力が上がって、"ほのおタイプ"の技の威力が下がる。そして、この天候により特定のポケモンが強くなれる。

 

 セトントが空を見上げていると、何か光った多くのものが地面へと向かっていた。会場は土砂降りになり、足元の地面は既に、少し柔らかい。

 

 ──セトントは気付く、ブイゼルの姿がいない。

 

「"すいすい"か!」

 

 ブイゼルの特性、『すいすい』は、天候が雨の時に素早さが倍になる。『かそく』で素早くなっていたワカシャモと、"あまごい"の影響で素早さが増したブイゼル、視界が悪い雨の中で、バトルは短期決戦に導かれるだろう。

 

 セトントがブイゼルを探していると、足元に何かの違和感を感じる。そこにはブイゼルがちょこんと立っていた。

 

「ワカシャモ! 後ろだ!」

 

 セトントは、ワカシャモにブイゼルが後ろにいると伝えた。その瞬間、ブイゼルは何を思ったのか、ワカシャモの背後にさっと回ると、悪戯をするように、振り返るワカシャモの顔に"みずでっぽう"を浴びせる。

 

 ──2匹は同時に間合いを取り、必死に息を整えようとしている。次の一手が勝負所、トロナツは、そう見極める。

 

「ワカシャモ、"きあいだま"!」

 

 両腕を広く構え、その間からは、自身の体と同じくらいの大きさの"きあいだま"を見せる。まるで太陽のように、この雨天を消し去るようにと。

 

 それをワカシャモは、ブイゼルへ放り投げる。迫りくる"きあいだま"をブイゼルが、しばし見つめる。何を思ったのか、ブイゼルは横方向に走りだそうとしたが、足の力が抜けて、その場に倒れてしまった。

 

『ブイゼル、戦闘不能!』

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 トロナツが負けて、セトントが勝ち、3回戦進出が決定した。カイズ、クオンは無事に勝ち上がり、負けて落ち込んでいるトロナツを見て、この時2人は、励ますことが出来なかった。

 

 明日、カイズはセトントと戦うことになる。明日、この大会の優勝者が決まってしまう。しんみりとした空気の中、3人はポケモンセンターに向かうため、夜道を歩く。

 

「──遅いぞ、どこ歩き回っていたんだよ!」

 

 ポケモンセンターの入口には、コノミとフウトが3人を待っていたようだった。

 

「良ければ、一緒に反省会しない?」

 

 断る理由もなくクオンたちは頷く、中に入り5人は1つのテーブルに囲んで座る。まず最初に、勝っていたカイズがあれこれとダメ出しをされていた。

 

「そういえば、気になることがあるんだけど、トロナツの試合、話していいか?」

 

 間を置いてフウトが話し出す。内容は試合最後の一手、何故トロナツがワカシャモの"きあいだま"を"さきどり"しなかったかだ。

 

「俺だったら、"さきどり"一択だけどな」

 

 フウトは頭を傾げて話す。他3人も否定はしなかった。

 

「──あまりバトルとか慣れてなくて指示が遅れてしまったんだ」

 

 現時点で言うならば、その試合が今大会中で最もハイレベルな試合だ。トロナツが状況に追いつけなくなり、指示が遅れるのも無理もない事だった。

 

「──まあ、いいけどさ、それより一番言いたかったのはコノミ!」

「だから、反省する箇所なんてないよ! 完全に格上だったから」

 

 前回優勝者を下し、次の試合も快勝し、3回戦に進出した『ココア』のトレーナーの話になる。

 

「フウトも優勝は諦めなって、私だってあのトレーナーに勝ちたいけど、もう一度戦っても勝てる気がしないんだからさ」

「単純に力が強いんだったら、テクニックだよテクニック!」

「それでも勝てる気がしないんだって」

「なら、皆でそのトレーナーの試合を見てみようぜ」

 

 ポケモンセンターには複数のパソコンが置かれている。主にポケモンを預けたり引き取ったり、己や相手のトレーナーの実績を調べたりすることが出来る。そして、テンガン杯が開催されている期間中だけだが、大会全ての試合の映像を見ることが出来るのだ。5人は早速、彼女の試合を探す。コノミとココアの試合を見つけた。

 

「──派手にやられてんな」

 

 フウトが苦言する。

 

 2回戦の試合も同じようなものだ。相手トレーナーのピジョットが"ブレイブバード"でアブソルに接近し、それを避けたアブソルが横から反撃。

 

「───これって、狙ってやってるんじゃないかな?」

 

 映像を見ていたトロナツが密かに声を上げていた。

 

「どういうこと?」

 

 コノミがそう話す。

 

「ラグラージやピジョットも技を出し終えて、"最も力が入っていない瞬間"を狙らわれていて、もしかしたらアブソルは無駄のない動きで相手の虚を突く攻撃を行っているだけじゃないかな?」

 

 トロナツの話を聞いて、クオンは少し考える。──もしそれが本当だったら、虚を突いた攻撃以外はどうするのか、クオンも然り全員が考え始めていた。

 

「その通りだよ」

 

 少し離れたところから声がしていた。声がした方向には、ココアがいた。

 

「このアブソルは大人しい性格で持久戦が苦手だけど、相手の動きを読むことは、とても優れているから、そういった戦い方にしている」

 

 言い終えるとココアは、テーブルの上に置かれたコーヒーであろうものを口にしていた。

 

「どうして、そんな面倒な戦い方にするんだ?」

 

 ──誰しもが口を閉ざす中でカイズが声を上げた。

 

「トレーナーが考える理想の勝ち方より、ポケモンが考える理想の勝ち方を描くことが、ポケモンを最大限に活かす方法だと、私は思っているから」

 

 ココアはそう言うと、席を立ちどこかへ去っていった。

 

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