ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第11話 先へと進む決意

 旅するトレーナーには欠かせないポケモンセンター、手持ちのポケモンを回復できる他に、トレーナーが寝泊まりできる施設でもある。その部屋数は──言わないでおこう。

 

 明日に備えてクオンたち5人は、ポケモンセンターに宿泊していた。偶然にもクオンとトロナツは同じ部屋になる。部屋の中は、左右には2段ベッド、向かい側は大きな窓と、こじんまりとした部屋であったが、一度に多くのトレーナーが泊まることを踏まえると十分な大きさだ。本来4人であろう部屋を2人で使うのだから、少しだけ広く感じる。

 

「今日は疲れたし、早めに寝るよ、おやすみ」

 

 荷物を2段ベットの下へ置き、トロナツは下段のベッドに入る。クオンも電気を消し、床に入った。

 

『ラグラージやピジョットも技を出し終えて、"最も力が入っていない瞬間"──』

 

 ──あの言葉、どうしても引っかかる。トロナツは、確信していて言ったのだろうか。もしそうなら、本人に確かめてみるか。

 

「───トロナツ、あの試合わざと負けたのか?」

 

 クオンは、気になっていたことをぶつけていた。

 

「わざと負けたんじゃないよ、本当に勝てなかったんだ」

「嘘はつかないでくれ、お前ならあの状況で"さきどり"くらい指示できるだろ」

 

 そんなクオンの一言に、トロナツはしばらく黙り込んだ。

 

「──あの時、余計なことを考えていたんだ、嘘はついていないよ」

 

 実はトロナツは、優勝に執着していなかった。必死に勝とうとするトレーナーをあざ笑うかのように勝ち進む、そんな自分が嫌になりながら、予選を突破してしまい深く悩んでいたとクオンに打ち明ける。

 

「───今でも、思うよ、もっと早く負けていたらなって」

「実力があるんだから、勝ってていいだろ」

「僕のことは、気にしなくていいよ、負けたんだからね。大人しく観客席で試合を眺めているよ」

 

 トロナツは、それ以降のクオンの問いに答えることがなかった。クオンは少し苛立ちながら、別のことを考えることにしていた。

 

   * * *

 

 ココア、迫がある言葉は、ロウに似ている。旅をしている以上、いつかどこかで出会うだろう。そして俺はロウに勝ちたい、ここで躓いてるようでは、一生勝てないな。

 

 ──勝とう、優勝しようこの大会で。

 

 クオンから決意の言葉が零れた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 ──鳥ポケモンだろうか、羽ばたく音が部屋に聞こえてきていた。クオンは、目を覚まし、カーテンを開けると、心地の良い日差しが肌に刺さった。

 

 太陽のように自分の沈んでいた気持ちを浮き上がらせてくれる、元気が湧いてくる。

 

 まぶしい朝日に照らされて、目を覚ましたのか、クオンの後ろからガバイトがよろよろと歩いてきた。

 

「おはよう、ガバイト」

 

 ──支度を整えてクオンは、ふと窓からぼんやりと映った会場を見ていた。今日で優勝者が決まってしまうのかと考えて、隣にいるガバイトを見ると、目が合う。

 

「絶対に優勝しよう」

 

 クオンは、そう言いたくなった。

 

「おはよう! クオン」

 

 ポケモンセンターの入口でトロナツとカイズが待っていた。

 

「俺、優勝目指そうかな」

 

 会場に向かっている途中、クオンが呟く。

 

「俺は優勝しか、眼中になかったから、ライバルだな」

 

 その呟きを聞いて直ぐにカイズが突っかかっていた。

 

「そうだな!」

「そういえば、昨日買い過ぎて"ゴンべの満腹焼き"が2箱開けてないんだけど、良ければ2人食うか?」

「──買い過ぎだよ」

 

 そんなツッコミを入れつつ賑やかな会話をして3人は会場へと向かっていた。

 

『───いよいよ3回戦が始まるぞ、この日まで勝ち残った8人は持てる力を発揮してくれよ!』

 

 この日もジムリーダーのユウバは、観客席から冷ややかな視線を向けられながら、堂々とマイクに向かって声を出す。

 

「じゃあ、言ってくるよ」

 

 クオンが試合場へ向かっていた。それを見送ったカイズが"チョコナナ"を食べながらセトントを睨む。セトントはというと、準決勝の相手になると思われるココアを見ていて、カイズを見ようとしていない。

 

「このやろう」

 

 カイズの口から火の粉が飛ぶ。

 

「セトントさん、カイズさん、こちらに来てください」

 

 カイズは手に持っていた数本の"チョコナナ"を一気に平らげ、絶対に勝つと心に誓い、試合場へと向かう。セトントはワカシャモを、カイズはレアコイルをボールから出した。

 

『──試合開始!!』

 

「レアコイル! "エレキフィールド"だ!!」

 

 レアコイルがいる地面から微量の電流がフィールドを駆け巡っていた。エレキフィールドとは『でんきタイプ』の技の威力を上げる効果を持つ。カイズは火力戦を狙っているのかと、セトントは警戒する。

 

「ワカシャモ、"きあいだま"!」

「レアコイル、"でんじほう"!!」

 

 互いに巨大な塊を目の前に出し、それを放つ。大きさは互角であったが、『でんきタイプ』であったレアコイルの"でんじほう"はワカシャモの"きあいだま"を容易く消し去る。

 

「ワカシャモ、"まもる"」

 

 攻撃を防ぎ、ワカシャモは攻め立てる。

 

「レアコイル、"ほうでん"!」

 

 レアコイルの周りに電流が走り、ワカシャモは少し掠った。明らかにカイズは持久戦を狙っていた。この試合、快勝することしか考えていなかったセトントは、予期しない苦戦を強いられて、少し腹を立てていた。

 

「ワカシャモ! 再び攻め込め」

 

 ワカシャモの特性、『かそく』の素早さを踏まえて、セトントは速めに指示を放つ。

 

「レアコイル、"ほうでん"!」

 しかし、ワカシャモは高く飛び上がる。"ほうでん"の範囲から外れていて、セトントが"ほのおのパンチ"を指示する。

 

「レアコイル、"でんじほう"!!」

 

 空中で身動きの取れないワカシャモに"でんじほう"を放つが、ワカシャモの少し隣を通り過ぎる。地面へ足をつけると同時にワカシャモは、レアコイルに燃える拳を振り下ろした。

 

「手間を取らせやがって!」

 

 セトントは、倒れこんだレアコイルを見て勝利を確信する。気を落ち着かせるために目を閉じ、深呼吸をした。セトントが目を開けると、ワカシャモが倒れている。

 

『ワカシャモ、戦闘不能!』

 

 彼には何が起きたのか分からなかったが、冷静に物事を整理し、1つの可能性が浮かび上がる。

 

「──"でんじほう"」

 

 そう、ワカシャモを通り越して、上空へ飛んで行った"でんじほう"の勢いが弱まり、落下してきた位置が偶然にもワカシャモの頭上だったのだ。

 

 ───試合が終わって、2人が会場内に戻った。

 

「──今回は、引き分けにしよう! "でんじほう"がたまたま当たって勝っただけだし」

 

 落ち込むセトントに、戸惑う様子を見せながらカイズが声をかけた。

 

「何が引き分けだ! あの時に攻撃していれば僕の勝ち、負けは負けだ!」

 

 セトントは、そんな言葉を言い残し、会場の外へ走り去っていった。

 


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