──テンガン杯決勝戦、勝ち上がった2人のトレーナーが優勝という栄誉を巡って争い、最後の勝ち負けを決める。外の屋台には人の気配はなく、闘気を高めさせるような夕日が差し込む会場内には、たった2人だけがその時を待つ。──脇役は観客席に集まった。
「──聞きたいことがあるんだけど、そのアブソル、なんというか、得体の知れないオーラを感じるんだ。何なのか知らないか?」
この静けさ、2人だけの空間となり、改めて感じるアブソルの不気味さ、迫力。クオンは、どうしても確かめたかった。
「私は、カンナギタウン出身なんだけど、このアブソルは有名だったの」
「有名?」
「──死ぬ瞬間が分かるって言ったら、貴方は信じる?」
「────!」
その言葉にクオンは凍り付く、これ以上聞かない方がいいと肌で感じていた。
「ココアさん、クオンさん、こちらへ来てください」
──いよいよだ、この試合、絶対に勝ってみせる。
◆ ◇ ◆ ◇
───決勝戦、あと1回勝てば優勝だ、なんて思っているトレーナーは、たどり着けない。例えるならそこは、神聖な領域。あと1勝、ではなく、絶対に勝つ。負けという言葉が存在しない空間。結局は、どちらかが負けるのではあるが。
そんな空間の外側は、例えるなら準決勝とか、それ以下の空間だろう。
──2人、2匹からは、"音が聞こえない空間"、それだけ集中してるとは、また違う。この試合場に、この決勝戦にいることを忘れているのかもしれない。そう、いつものバトルをするように。───そんな中、1つの音が響く。
『───試合開始!!』
──ガバイトが攻めかかる。クオンは"きりさく"を指示し、ガバイトの両方の爪は、白く光る。それに対してアブソルは待つ、暗黒なオーラを放って。
* * *
負ける。その言葉を言ったら、本当にそうなるような気がする。ガバイトを、アブソルを、秒速の思考は、絶やさない。
──ガバイトがアブソルの間合いに入る。ここが最初の分かれ道。
その攻撃は、アブソルの顔面を掠れる。
「アブソル、"つじぎり"」
ガバイトは反応する、片方の爪にアブソルの角が当たる。しかし、ガバイトはそのまま吹き飛ばされた。空中で体の向きを変え、受け身を取る。
アブソルは、その場を全く動いていない。その行動にクオンの顔が強張る。追撃をあえてしないのかと。
「アブソル、"つるぎのまい"」
攻撃力が増し、アブソルは少しずつガバイトに近寄っている。攻めてくる相手に隙あれば反撃する動きだった。
「ガバイト、"りゅうせいぐん"」
「アブソル、"ストーンエッジ"」
アブソルは足を止め、空を見て構えた。──自身へ向かってくる隕石が当たる、その一歩手前でアブソルは技を出す。地中から刃のように尖った多くの岩が現れて、無数の隕石を容易く砕く。
「アブソル、"サイコカッター"」
アブソルは、目の前に白紫の刃のようなものを出し、放つ。尖った岩を貫通させ、ガバイトへ向かわせた。辛うじてガバイトは避ける。まともに受けていれば、大きなダメージでは済まされないだろう。
───クオンは、アブソルを見つめた。
本当に攻めてこないのが唯一の救いだ、技の威力と気迫は、今までバトルした相手の中でも、群を抜いて強い。俺はこの怪物に勝てるのか。
「──いや、俺じゃないな、"俺たち"か」
クオンは、ガバイトに"ドラゴンクローを指示する。臆することなくガバイトは、一気にアブソルへと近づき、渾身の力で両腕を振り下ろす。───ガバイトの攻撃は、地面へと刺さる。ここが狩り時、そう言わんばかりにアブソルが、"つじぎり"を構えていた。
「まだ負けていない!」
ガバイトは、爪が地面へ刺さっていながらも、両腕の勢いは止めていなかった。
爪が地面から抜け、ガバイトは空中で宙返りをしていて、アブソルの角は空を切る。ガバイトの視点では、地面が上にあり、アブソルの背中が目の前に見えていた。ガバイトは、"ドラゴンクロー"をアブソルに食らわせた。
──今大会、初めてアブソルが倒れた。この時、本当に試合場は静かになる。アブソルが攻撃を受けることは、誰も予想していなかったのだろう。
急いでアブソルから距離を取っていたガバイトは、様子を伺う。
──試合場が静かになっていたのは、もう1つ理由があった。
そこまで大きなダメージではないはずなのに、アブソルは状態異常になったかのように、酷くふらついていて、肩で息をしていた。
「アブソル、とりあえず目を瞑って! "つじぎり"を構えていて!」
焦った様子でココアは指示を出す。バトルはまだ続いている。
「ガバイト、攻め立てろ!」
"きりさく"を構え、アブソルへ近づく。間合いに入りガバイトは、光る爪で攻撃する。クオンからは、ガバイトがアブソルに攻撃を当ててるように見えていた。
──攻撃を終えたガバイトは、アブソルから一気に距離を取る。ガバイトの表情は、どこか違っていて、あの攻撃が当たっていなかったのかとクオンは考えていた時。アブソルが角を大きく振りかぶって、低い衝撃音を会場に響かせていた。
「──技の威力、回避力が上がってるのか」
クオンは、一回見ただけで分かっていた。今まで力を抑えていたことに恐怖さえ感じた。しかし、それは勝敗には関係ない。
クオンは、ある言葉を思い出していた。
『このアブソルは大人しい性格で持久戦が苦手だけど、相手の動きを読むことは、とても優れているから──』
───この言葉が本当なら、勝機がある。
「攻め続けろ! ガバイト!」
クオンの声を聞き取り、ガバイトの動きは鋭くなる。逆にアブソルは、閉じていた目を開き、歯を食いしばりながら攻撃を受け流し始めていた。
「ガバイト、"ドラゴンクロー"!!」
ガバイト渾身の"ドラゴンクロー"は、アブソルの体を吹き飛ばした。
『──アブソル、戦闘不能!!』
優勝者が今、決まる。
「───勝ったのか?」
会場の空に、大きな花火が打ち上げられて、クオンは目を覚ます。花火の音と同じくらいに観客席からは、盛大な拍手喝采が聞こえていた。優勝したという実感が湧いてくる。この喜びを隠しきれない。クオンはしばらく、試合場で立ち尽くしていた。
「優勝、おめでとう」
ココアがそう告げた。
朝から分かってた、感じていた、アブソルに勝てる気がしないと。──それは嘘じゃないか。
面白くない夢を見ていたんだなと、クオンは思っていた。