ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第16話 ロコンとコジョフー

 クオンたちの目の前に現れた男性は、小さい羽根飾りがある茶色のハットを被り、明るめなベージュのスーツを着た背が高く若い男であった。彼の名前は、ノネト。考古学者であり、今はここの博物館の"館長代理"として勤めていた。

 

「この化石は、太古の時代で断崖にしか生えなかった、"きのみ"の一種で、一部のポケモンだけが食べていた珍しい"きのみ"だよ!」

 

 1つのガラスケースの中にある化石を見ていた2人を見て、ノネトは、はきはきとした口調で語りだしていた。

 

「一部のポケモン?」

 

 トロナツは、声を出す。

 

「プテラさ、彼らは空を飛び回っている際に、この"きのみ"を見つけては食べていたと言われているんだ」

 

 プテラとは太古の時代に生きていたポケモンで、平和とは決して言えない激しい時代の中、他とは違い空を飛び回ることで勝ち抜いてきた頂点捕食者としてのポケモンであると言われている。

 

「今暇してて、もし良ければ案内しようか?」

 

 真剣な眼差しで化石を見ている2人を見て、何を思ったのかノネトがそういった提案を持ち掛けていた。今の時間帯はお昼ごろであり、博物館の中は、人がいるとは言えなかった。2人がその言葉に甘える。図書室から出て、ノネトは2人の前を歩き始めていた。

 

「これは、何かのポケモンの骨の化石。これは、とある植物の葉っぱの化石」

 

 多くの展示物を指差してノネトは、すらすらと話し続ける。もっと詳しく説明しながら進んでいくのかと2人は思っていた。それよりも、何の化石なのか直ぐに分かるノネトの言葉に只々2人は耳を傾けていた。

 

「──急に難しいことを言うけども、2人は、どうして太古の時代に生きていたポケモンが絶滅したと思っている?」

 

 太古の時代に生きていたポケモンなどは、何らかの理由によって殆ど絶滅したことが分かっていた。有力な仮説として、地球外から大きな隕石が地に降りてきて、その衝撃による地球規模の大災害によるものだと言われている。

 

「私はね、太古の時代に生きていたポケモンが強すぎたからだと思っている」

 

 強き者は弱き者を助けなくてはいけない。悪役は必ず正義の味方に負ける。そんな言葉がある。強さを追い求め続けた昔のポケモンたちは、天災によって負けたのだとノネトは語った。

 

「人は太古の時代に生きていたポケモンに見習う箇所が多くあると私は、思っている。考古学者になったのも、それが原動力さ!」

 

 3人は長い廊下を抜けて、2階西側のある大部屋にやってくる。大きな展示物の近くで、入口で会っていた副館長のコールマと、灰色のダウンベストを着て、大きめの黒いニット帽をかぶった背の高い男が何か話し合っていた。

 

「──簡潔に言うと、あの"赤いひみつのコハク"は、この博物館にふさわしくないような代物だと言っているんですよ」

 

 ニット帽を被る男がそう話していた。

 

「それを決めるのは貴方でも、わたくしでも、ここの館長でもありません。ここへやってくる1人1人だとわたくしは思いますが」

「私たち、グレイ団の技術があれば、この"赤いひみつのコハク"を復元しなくとも、どのようなプテラになり得るのか、少し時間を頂ければ素晴らしい結果を保証しますよ」

「博物館の全ての展示物は、いくらの額を出そうとも売買に出すつもりはありません」

 

 言い争っているのを見ていたノネトは、急いでコールマの元へ駆け寄った。クオンやトロナツもその背中を追いかけた。

 

「───それほど大事なものでしたら、盗まれないように気を付けてください」

 

 男は捨て台詞を吐き博物館から去っていった。先程の男はヒューマと名乗り、"赤いひみつのコハク"をいくらかで譲ってほしいと、無理やりな交渉をしていたとコールマは話した。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

「──これが"赤いひみつのコハク"」

 

 クオンとトロナツは目の前にある展示物を眺めていた。

 

 本来"琥珀"とは樹木の樹脂が土砂などに埋もれ、長い年月を経て化石化したものである。当初は只でさえ大きな生物が入った琥珀でさえ珍しく、赤色の琥珀などあり得ないと言われるが、1つの仮説によって学者たちは黙り込んだ。

 

 この赤色は、樹脂と血が混ざった色ではないかと。

 

 つまりだ、これだけ小さなプテラが化石になっていて、その樹脂に血が混ざっているということは、その血を流したものは、小さなプテラを捕食しなかった者ということ。小さなプテラの生みの親という結論に至っていた。

 

 ──これが"赤いひみつのコハク"の真実である。

 

「そういえばコールマ、あの2匹は?」

「いつもの河原で遊んでいますよ」

 

 コールマとノネトが大部屋にあった非常口の扉を開けて外へ出ていく。2匹という言葉が気になり、クオンたちも後を追いかける。扉の直ぐ向こうには緩やかな下り坂があり、その先に、大きな川石が沢山ある小川が見えていた。そして、ずぶ濡れになりながら水遊びをしているロコンと、1つの川石の上で瞑想をするコジョフーの2匹がいた。

 

「風邪をひきますよ、ロコン」

 

 心配そうな顔をしてコールマがロコンに呼びかける。コールマと目が合っていたロコンは、急に振り返り小川の真ん中へ向かい、"みずタイプ"と思わせるような泳ぎを見せつける。すると瞑想をしていたコジョフーが立ち上がりロコンへ叱咤していた。

 

「あの2匹は?」

 

 トロナツは、ノネトに問いかけた。

 

 2匹は博物館へよく遊びに来ている野生のポケモンで、前の館長と親しい関係であったらしい。それだけ昔からここへ遊びに来ているポケモンだとノネトは言う。

 

 小川からロコンが渋々と上がっていて、小川の中にある川石の上にいたコジョフーは、一飛びでコールマの元へやってくる。

 

「それにしても、水を嫌がらないロコンって珍しいですね」

 

 クオンは思ったことを話していた。

 

「前までは、水を見ても喜ぶような奴じゃなかったんだけどな」

 

 いつの間にか泳ぐのが好きになっていたとノネトは話す。昔は水を嫌がる素振りはなかったが泳ぐほどではなかったらしい。どういった理由で泳ぐことが好きになったのかもノネトは分からないと話していた。

 

「──そういえば明日、2匹と207番道路へ行って、化石掘りしに行こうと思っていたけど、専用の道具が3つほど余っているんだ! 2人とも良ければ友達1人誘って、一緒に来てみないか?」

 

 ノネトが2人にそう話していて、2人も断る理由はなかった。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 夕方になり、博物館内は電気が付き始めていた。ロコンとコジョフーはどうやら帰るようだった。

 

「あの2匹ってクロガネゲートが住処?」

 

 西の方角へ帰っていく2匹を見てクオンは呟く。ロコンとコジョフーは207番道路にしかいないポケモンだと昔、アールスに聞いた記憶がある。──記憶違いか、あるいは生息地が少し変わったのかと思い、クオンは、それ以上考えることはなかった。

 

 ──2人はポケモンセンターへ戻ってくる。1つテーブルにはアトリエがいて、おそらくずっとその席で鉛筆を走らせていたと言わんばかりに、テーブルの上の原稿は、びっしりと文字が敷き詰められていた。しかし、左端だけは、何度も書き直したような跡があり、黒ずんでいて文字が書かれていなかった。

 

「久しぶりにすらすらと書けてたけど、大事な場面で頭が真っ白になってしまったよ」

 

 アトリエが書いていた小説の物語。

 

 太古の時代に生きるポケモンたちの群れは、1つの洞穴に住んでいて、その中で1匹のポケモンが生まれる。生まれたばかりのポケモンは、外へ出たがるが、ある程度の強さがないと外へ出られない決まりがあり、生まれたばかりのポケモンは、強くなるため、日々鍛錬に励む。しかし、ある日に空が赤く染まり、他のポケモンたちは外へ出て様子を見に行くが、生まれたばかりのポケモンは、まだ外へ出ることは出来ない。空は暗くなっていて、生まれたばかりのポケモンは眠る。起きると誰もいなく、光が差している場所を掘っていくと、広大な大地が広がっていた、そんな物語である。

 


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