ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第20話 始まる争い

 想像以上に危険だった内容にならず者たちは慄く。博物館に火をつけるなどテロ行為と変わらない。

 

「もう一度確認したい。本当に俺たちに罪を押し付けたりしないんだな?」

「──疑うのなら好きな時に逃げればいい、それでも俺は困らない」

「──そうか、それは良かった」

 

 作戦を理解して尚、サメは逃げることを選ばなかった。

 

 ───そして運命の日の朝が、今迎える。

 

 ポケモンセンターから、3人が化石博物館に向かっていた。

 

「──眠たそうだね、アトリエ」

 

 大きく欠伸をしていたアトリエを見てトロナツは声を出す。

 

「そりゃあねー! これで2回目の徹夜だから」

 

 夜な夜な小説を書き進めているとはいえ、何度も大きな欠伸をしながら街中を歩くアトリエ、ある意味、見習いたいなと2人は思う。化石博物館で復元されたポケモンが待っている。3人は、それらを楽しみに向かっている最中だった。アトリエは再び大きな欠伸をした。

 

「2匹は来ているかなー?」

「まだ来ていないんじゃないか?」

 

 クオンはそう答えていたが、3人は知らない。2匹が"日中には"来ないことを。

 

「──来たね! 復元したポケモンは、あっちの部屋にいるよ」

 

 低木の手入れをしていたノネトが指を差す方の部屋へと向かい、扉を開けるとコールマとタテトプスの姿があった。

 

 タテトプスはこちらへやってきて、顔を摺り寄せる。おそらくそうやって物を見分けているのだろう。その瞳は眩しく、好奇心で満たされているようだった。廊下に出ても展示物に近づいては、1つ1つ顔で摺り寄せている。大して変わらないのにと思いながらタテトプスの後ろをクオンたちは歩く。

 

 薄暗い博物館内を歩いていると、大広間へやってくる。その奥の方からまぶしい光がさしていた。

 

「──タテトプス、そっちに行ってはいけないよ」

 

コールマは突然叫ぶ。タテトプスが向かおうとしていた先は、博物館の出入り口だった。

 

「──そうだ、コールマ、2匹見かけたか?」

「そういえば、見かけていませんね」

 

 そろそろ来ていいはずの時間になっても2匹は現れない。

 

「自分たちで探してきてみましょうか?」

「──いや、いいよ、時々だけど夜にやってくることもあるんだ」

「それじゃあ、夕方頃にまた来ようか!」

 

 アトリエの意見に賛成し、トロナツとクオンは、一旦博物館を出て行くことにした。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 時刻は夕方頃、207番道路のならず者の集まりの場所にとある男がやってくる。灰色のダウンベストを着て、白色と黒の中折れハットをかぶった男性がならず者の前に立っていた。彼の名前はクウノトリ。

 

「彼が今回の指揮官さ、主に博物館内や外の状況を知らせてくれる」

「どうも、初めまして、クウノトリと申します。博物館内とその近くにある監視カメラにハッキングするのには少し手間がかかりました」

 

 そして、クウノトリは作戦の内容を話す。

 

 深夜0時、その時刻に作戦が実行される。まずはサメたちが捕獲したポケモンを使い、博物館入口から堂々と入り暴れまわる。これはあくまでも陽動で、相手側にはそう悟らせてはいけない。

 

 サメたちが暴れまわっている最中に、ヒューマが裏口から侵入し、"赤いひみつのコハク"を奪う。そして博物館に火をつけて、その隙に逃げるという作戦だ。

 

「それにしても思ったが、お前たちが"赤いひみつのコハク"に拘る理由が分からないな」

 

 サメはそう言葉を呟かせる。はっきり言ってしまえば、"赤いひみつのコハク"は親プテラの血が樹脂と混ざり、その中に子プテラが入っているだけのもの。サメはグレイ団という組織自体が、そこまで欲する理由が思い浮かべられなかった。

 

「もしそれを知りたいのならグレイ団に入るんだな」

 

 上口調でクウノトリが答えていた。

 

 ───既に日が暮れて寝静まり始める時刻のクロガネシティ、化石博物館前に3人がやってきていた。館内へ入ると副館長のコールマが待っていたようで、3人は1つの部屋に案内された。その部屋ではタテトプスが気を休めていた。

 

「ノネトさんは、どこにいらっしゃるのですか?」

 

 クオンがコールマに尋ねていて、1人違う部屋で資料を見ながらゆっくりしていますと言葉を返していた。そしてコールマは、まだ2匹はやって来ていないとも言った。

 

「今日は遅いですので、ここに泊まっていってください」

 

 気付けば時計の針はどちらも一番上を指していて、その言葉に甘え、クオンたちは博物館に泊まることにしていた。せかせかとコールマは3人を泊める部屋へと案内しようとしていると、入口の方から騒々しい音が聞こえてきていた。それは数人程度が喚いたような音ではなく、例えるなら機動隊が突入したような音であった。

 

 コールマと3人は急いで入口へと向かった。そこでは数えきれないほどの目を光らせたポケモンたちと目つきの悪い人たちが複数人立っていた。その後ろから大柄の男、サメがポケモンと人をかき分けて、前へ立つ。

 

「ここにはジムリーダーがいるって聞いてよお、ちょっと暇なら遊んでくれよ!」

 

 サメはそう言い終えると、目を光らせたポケモンたちは、暴れ動き始める。3人は迷わず自身のポケモンを繰り出す。

 

「──アーケオス、頼みました!」

 

 いつの間にか、コールマはアーケオスを繰り出していた。

 

「ガバイト! "ドラゴンクロー"!」

 

 暴れ動く1匹のポケモンに技が当たる。しばらくしてクオンはあることに気付いていた。

 

  * * *

 

 少し交戦をして分かったことがある。数は多いけど、1匹1匹は大して強くない。時間をかければ全滅できる。

 

 そんなクオンの策略は、サメの一手で白紙に戻される。

 

「出てこい! クリムガン、"ダストシュート"だ」

 

 投げ入れられたボールから、クリムガンが現れ、不気味な色の塊を飛ばしていた。

 

 その攻撃は交戦していたアトリエのドーブルに当たる。

 

「ブイゼル! ドーブルの助けに行って!」

 

 ドーブルが倒れた瞬間、目を光らせたポケモンの多くが、ドーブルへ向かう様子を見せていて、トロナツの咄嗟の判断でドーブルは軽傷で済んでいた。

 

(薄々気付いていたが、このポケモンたち獰猛な割に、団結しているのか)

 

 単体で動くのと、複数体で動くのでは、全く脅威が違う。こちらのポケモンはたった4匹、そして今やられた1匹に敵ポケモンたちが集中している。つまり他3匹はドーブルを守りながら敵ポケモンたちを倒さなくてはいけない。そして他にも不安要素はあった。それは強さが分からないクリムガンである。クオンとガバイトはサメの前に立つ。

 

「トロナツ、そこを頼めるか! 俺はクリムガンの相手をする!」

 

 しかし、トロナツは集中しているのか返事はしなかった。少し気になりクオンは、トロナツの方を向いた。

 

 ───トロナツの近くには、ロコンとコジョフーがいた。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

「──なんだろうな、この集中できない気持ちは」

 

 博物館の入口から遠く離れたとある資料室にノネトがいた。肩の荷を下ろして椅子に腰掛けたノネトの目先のテーブルの上には資料本が積み重なっている。今日は何か違う気がする。ノネトはそう考えていた。テーブルの上に置いてあるカバンの中にあったボールが動く音がノネトには聞こえた。

 

「何かを感じたのか、相棒」

 

 急いでボールが入るカバンを持ち、ノネトは部屋を出て、ある場所に向かっていた。

 


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