ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第21話 止まらぬ惨劇

 ノネトはある大部屋にやってくる。月の光が差している薄暗い大部屋の中央には大きな展示物、見覚えのある男が立っていた。その人物は前にここで副館長のコールマと口論をしていた男。

 

「───それほど大事なものでしたら、盗まれないように気を付けてください。まさか、その言葉が宣戦布告を意味していたとは流石に思わなかったよ、ヒューマさん」

「──それでは、私から返す言葉は要らないですね」

 

 そう言ってヒューマは、灰色のボールからルカリオを繰り出す。ノネトは、カバンの中からボールを取り出し、投げ入れる。その中からプテラが現れていた。

 

「クロガネシティ、"いわタイプ"のジムリーダーとしての強さ、とくと眺めよ!」

「──ルカリオ! "はどうだん"!」

 

 飛び回るプテラに対して、ルカリオは構えに入った。

 

「──先手で"はどうだん"か」

 

 ノネトは"はどうだん"の汎用性の高さをよく知っている。普通に打ち放ったり、放つ軌道に変化をつけて攪乱したり、目の前で破裂させて、近距離の攻撃にもなり得る技だ。

 

 ───しかし、ヒューマのルカリオはどれにも当てはまらない。"はどうだん"の大きさはルカリオの体を大きく超えている。ノネトは、言葉を失う。

 

 ──世界的に有名だった技の研究家が放った一言に過ぎないが、その一言は数十年、覆ることがなく、常識になりつつあった。

 

『"はどうだん"の大きさには上限がある。自身の体より大きくはなれない』

 

 これにより大きな"はどうだん"を作ることは不可能だと今まで言われてきたが、ノネトの目の前には、その一言の例外に入っているポケモンが立っているのだ。

 

「何故だ!」

 

 1つ言葉を放ち、ノネトはプテラに距離をとるように指示した。ルカリオはしっかりと狙ったような目でプテラに"はどうだん"を当てる。

 

「ルカリオ、コメットパンチ!」

 

 地に落ちて立ち上がれないままだったプテラに、ルカリオは近づき拳を振り下ろす。

 

「こんな簡単に勝てるとは、正直思っていなかったよ!」

 

 倒れたプテラ、ヒューマは薄笑いで話す。

 

「プテラはチャレンジャーと戦ったから、疲れていたんだよ」

 

 ノネトはそう答える。

 

「──無駄な勝負だったよ、ありがたく"赤いひみつのコハク"は貰っていくよ」

 

 捨て台詞を残し、ヒューマが大きな展示物の前に立つ。ガラスケースの中にあったのは、ごく普通の"ひみつのコハク"であった。ヒューマは動揺し、後ろを向く。

 

「──本当にとんだ茶番だったよ、さっきの勝負は!」

「───何をした?」

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 ──数分前、化石博物館入口では、クオンたちとならず者たちが交戦していた。サメのクリムガン、クオンのガバイトの"ドラゴンクロー"がぶつかり合う、そして両者距離を取る。牙を向け威嚇するクリムガンに対して、ガバイトは両腕をピクリとも動かさず構えていて、相手をしかと見つめてる。

 

 このガバイトは何か違うと、サメは感じていた。

 

 ───コジョフーとロコンは、トロナツへゆっくりと近づく、いや正確にはドーブルへ近づいていたのだ。異変に気付いたトロナツは2匹を見つめる。

 

「どうして」

 

 トロナツはそう呟く。コールマもアーケオスに指示を出しつつ、遠くから2匹の異変を感じ取っていた。

 

 敵ポケモンの数が多くなり、避けることに必死になったブイゼルは、天井へ向けて"みずでっぽう"を放つ。大きなシャンデリアが平らな場所に落ちてくる。その周辺にいたズバットとゴルバットはその眩しい光に驚き、多くのポケモンを巻き込み大混乱になっていた。

 

 戦いの最中、サメはそのブイゼルの行動をよく見ていた。

 

(あのブイゼル、あの状況でよく天井からシャンデリアを落とすっていう発想が出てくるもんだな)

 

 サメはブイゼルの行動に感心していた。

 

 ここにいる大半のポケモンは、この出来事に混乱していて、ここが攻め時と言わんばかりにコールマのアーケオスは次々とポケモンを倒していく。コールマの姿を見て、トロナツは何もしていない自分が嫌になっていた。

 

「敵ポケモンが混乱した今、攻め時です!」

「──分かってる。辛いけど今は2匹を倒すしか方法がないんだ!」

 

 前を向き、トロナツはブイゼルに"さきどり"を指示する。

 

 向かってきて技を出そうとするコジョフーのであろう先取った技をブイゼルは、使った。

 

 ブイゼルはコジョフーを掴み、手から衝撃波を放つ。コジョフーは吹き飛ばされ、後ろにいたロコンと勢いよくぶつかった。2匹は倒れたままで動かなかった。トロナツが2匹へ急いで駆け寄ると、見たことがない傷があった。戦う前から既に弱っていたんだとトロナツはこの時に気付いた。

 

「──そろそろ決着をつけようか!」

 

 サメがクオンに対してそう叫ぶ。クオンは何も言わなかった。

 

「クリムガン、"ダストシュート"!」

「ガバイト、"ドラゴンクロー"!」

 

 ガバイトは最短でクリムガンへ向かっていく、そう最短で。クリムガンの"ダストシュート"を正面から受け、クリムガンの間合いに入っていた。

 

「なんだと!!」

 

 油断していたクリムガンにガバイトは渾身のドラゴンクローをぶつけた。倒れたクリムガンをサメはボールに戻していた。

 

「ガバイト、いくら耐性があるからって無茶し過ぎだ!」

 

 クオンはガバイトに少し叱る。あの一手はクオンも予想出来ていなかった。

 

 ──そんな中央ホールに1つ、電話の音が鳴る。コールマが子機電話のようなものを服のポケットから取り出す。電話の相手には、何度も相槌を打ち、電話切る。

 

「ヒューマはノネトと2階西側の大部屋にいます。もう争う必要はありません!」

 

 コールマは突然大声で言った。

 

 ───2階西側、"赤いひみつのコハク"が展示される大部屋で、誰かと電話をしているノネトがいた。

 

「──コールマ! やはりここへ来ていたよ!」

 

 ヒューマからは、携帯電話で誰かと話をするノネトが見えている。電話を切りノネトは少し笑いながらヒューマを見る。

 

「どうして知っているのか、教えてあげるよ。あんたのお仲間が教えてくれたのさ!」

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 ───夕方頃、化石博物館に大柄の男がやってきていた。そしてノネトとコールマに深夜起こることを全て話してくれたという。中央ホールで、あえての交戦、全てはヒューマをここに誘い出すノネトの作戦だったのだ。ヒューマは片方の固くした拳をゆっくりと開かせる。

 

「──じゃあ、この作戦も知っているんだな」

 

 ヒューマは近くにあった植物を指差して、ルカリオに"ブレイズキック"と指示をした。炎を纏ったルカリオの片足が1つの植物に当たると、植物は勢いよく燃えた。瞬く間に近くの植物に火が移る。博物館内には所狭しと植物が置かれている、勿論全て火に弱い。

 

 このままでは博物館は燃えてしまう、ノネトにはそれが分かっていた。だが、ノネトはプテラの他にポケモンを持っていなく、ヒューマを止める手立てがない。

 

「───疑うのなら好きな時に逃げればいい、この約束を破っていなくて安心したよ、サメ」

 

 ゆっくりとヒューマがそう呟く。ノネトは少しの間、呆然とする。遠くから聞こえてくるヒューマの指示を出す声を只々何度か聞いていた。

 

「──とりあえず、火を止めないとな!」

 

 ノネトは火が回ってない非常口の扉を開けて外へ出る。足を止めずに暗い街中へと消えていく。

 


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