ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第4章 ハクタイシティ 終わりの始まり編
第24話 藍色のスーツの男


 ──自転車を降りて、光が差す方へ歩く。薄暗い建物の中を抜け出すと、目の前には高い建物がいくつも立ち並ぶ。2つの建物の間はやや広く、都会だとは言いにくくい。古風な家もあちこちに残り、どこか中途半端のように見えていた。

 

 クオンたち3人は、ハクタイシティにやってきていた。

 

『ハクタイシティ』

歴史を感じる町であるが、所々に高層ビルが立ち並び、その言葉は無くなりつつある。各地方まで繋がって、今やシンオウ地方で有名な公共交通機関である『ちかつうろ』が作られ始めたとされている。そしてクオンの出身地である。

 

 クオンたちがハクタイシティに来た目的は2つ。クオンがジムリーダーとバトルをする為、アトリエがヒノキア博士に会う為だ。クオンたちは、先にヒノキア博士に会いに行くことになる。

 

 ヒノキア博士がいるとされる家は、アトリエしか知らない。クオンたちは、アトリエの後を追う。とある一軒家にやってきて、アトリエが扉を開けて中へと入る。外へと戻ってきたアトリエは、曇らせた表情で2人にこう言った。

 

「この家にもういないみたい!」

 

 中で行われていた研究は既に終わっていて、ヒノキア博士はハクタイシティを観光しているらしかった。彼らの話によれば、ヒノキア博士は数日後にハクタイシティを離れると話していたという。その話は2日前の出来事であった。つまり、今のハクタイシティに博士がいるかどうかは微妙な所である。

 

「どうしよう、先にジムに行く?」

「いや、別に急いでいるわけじゃないから、観光ついでに博士を探そうよ」

 

 既に諦めかけていたアトリエは納得して、クオンたち3人は街中を歩き始めていた。

 

「あれ、あの人」

 

 クオンが声を上げた。視線の先に立っていた人物は、藍色のスーツを着た中年男性。

 

「マチエス叔父さん!」

 

 トロナツも気付き、その名を呼んでいた。マチエスは、声に気付いたようで3人の方を向く。その近くで、菫色のスーツを着た少女らしき人物も3人を見ていた。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 トロナツの話によれば、マチエスは"国際警察"という秩序を守るために日夜捜査をする組織に属しているらしい。隣にいる少女はエルフィー、彼女はマチエスの部下のようだ。彼らは表向きにはフリージャーナリストとして活躍していて"国際警察"という素性を隠していた。この町にやってきたのも理由があった。

 

「──どうしても人員不足で、この町にいるトレーナーたちにも手伝ってもらっているのだが、君たちも手伝ってくれないか?」

 

 そう言いマチエスは、服のポケットから1枚の写真を出していた。──クオンは写真を見て凍り付く。

 

「グレイ団という悪い組織があってな、そこから抜け出した幹部がこの町に潜んでいるという情報があって探しているんだ」

 

 ──その写真の人物はかつてハクタイシティのジムリーダーを、たった1匹のポケモンで倒しつくした男、ロウだった。

 

   * * *

 

 どうして彼が、いや、そんなことは会ってから確かめれば分かることだが、そんなに悪い奴だったのかと思ってしまう。

 

 クオンは、ポケモンリーグに出場していた人物が、まさか悪い組織に所属していたとは考えすらしなかったのだ。そしてグレイ団という組織が、とても脅威で大きなものだと改めて感じさせていた。

 

「僕たちも手伝うよ!」

 

 トロナツが、マチエスにそう言う。元々ヒノキア博士を探すために街中を歩き回るつもりでいたので、ついでに例の人物も探せる。助かるとマチエスは、写真と通信機をそれぞれ3人に渡していた。

 

 この通信機は、写真の人物を見つけた時に、マチエスに知らせるという役割として他のトレーナーにそれぞれ渡している。そして、写真の人物を捕えた場合、この通信機から特徴的な音が鳴るようだ。これでマチエスは、数多くのトレーナーと情報共有をしていたのだ。しかし、写真の人物は、まだ見つからない。

 

「念のために言うが、他のトレーナーたちには私が"国際警察"だってことは言ってないから、言わないでほしい」

「分かったよ!」

 

 マチエスたちと別れて、3人は街中を歩き始めていた。ポケモンセンターにやってくると例の写真を持っていた少女が壁に寄りかかって立っていた。少女の名前は、ソノルナ。

 

「──アイツ、"キッサキの一族"だろ、先越されないように手を組んで写真の男を探そうぜ」

「そうだな」

 

 同じくクオンたちの近くで少女を見ていたトレーナーたちが小声でそう話していた。

 

「───ある意味、可哀そうだね。"キッサキの一族"と"ナギサの一族"のトレーナーは」

 

 アトリエは静かにそう呟いた。

 

『キッサキの一族、ナギサの一族』

シンオウ地方が誇る二大ジムリーダーの町で育ったトレーナーのことを言い、そこの出身のトレーナーは他と比べて圧倒的に強い、近年になり2つの出身者と他の出身者のトレーナーの差が広がり過ぎて、その町出身のトレーナーが、他のトレーナーを差別したり、他のトレーナーが、その町出身のトレーナーを差別化したりで、問題視されていたりする。

 

「正直、関わるのはやめた方がいいよ、クオン」

 

 アトリエからそう言われたが、クオンは少し迷いつつも少女へと向かい、声をかける。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

「二手に別れて、例の男を探さない?」

 

 トロナツが皆に向かって話した。そして、4人で話し合って、トロナツとアトリエ、クオンとソノルナで別れることになる。トロナツ組は博士を探しつつ、クオン組はいつでもジム戦へ行けるようにという理由で決めていた。

 

 ソノルナも本来の目的はハクタイジム。彼女は、ジムバッジを3つ保持していた。彼女曰く、同期と比べて遅い方だと自信がないように話す。

 

「じゃあ、私たちは東側の方で探しているねー!」

 

 トロナツとアトリエは、クオンたちから見て、遠くにいてそのまま走り去っていた。

 

「──俺らは南側の方を探すか」

 

 南側にはジムがある。マチエスから貰っている通信機からは、もし捕えた場合に音が鳴る。そうなれば、2人は一息つきジム戦に臨めるだろう。だがクオンは違う気持ちであった。

 

 先日捕まえたコジョフーとのバトルの練習もしなくてはいけなかったが、そういう気持ちではない。幼いころに見た、異端な試合。それはまだ記憶の中から少しも離れていない。クオンはロウとバトルをする覚悟でいた。

 

 そして、クオンにはもう1つ、離れない気持ちがあった。

 

(ここの建物完成していたのか)

 

 クオンは、1つの高層ビルから目が離れなかった。ハクタイティの所々では大規模な工事などが順調に進んでいる。田舎から都会へと変わる街中というものは意外と実感できない。例えるなら自然が少なくなる。そんなイメージだ。町の人々も日頃、空の上から見ているわけでなないので、いつの間にか建物の工事が行われていて、気付けば終わっているという繰り返しだ。

 

 都会とは、自然が少ないということを指すのだろうか。田舎とは、自然が多いということを指すのだろうか。では今の都会でも田舎でもないハクタイシティはどう言うのだろうか、はっきり言って自然の多さ少なさは、関係ないのである。

 

「──貴方って、"金剛石の集い"、"白真珠の集い"、という2つのグループを知っていたりする?」

「なにそれ、知らないけど」

 

 ソノルナが急にそんなことを言った。しかし、クオンは何処かで聞いたことがある言葉であった。それは昔にバトルをしたトレーナーが放っていた言葉だった。その前後の言葉もあったのだが、覚えていない。

 

 ───2人はジム前にやってくる。クオンは通信機が鳴っていないか少し気にした。顔を上げるとジムの入口には見覚えのあるトレーナーが立っていた。

 

 青無地の帽子を被り、黄色のスカジャンを着た小柄な少年、そのトレーナーの名前はセトントだ。

 


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