ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

28 / 30
第28話 青と赤

 コトブキシティで行われた大会の表彰式、会場内の一番中心にロウが立つ。隣には大粒の涙を流すクロが目に入る。お互い表彰台に立っているので、俯き泣くクロの表情は見えないが、その声が肌に刺さる感じがした。

 

『何故勝ったんだ?』

 

 そんな声がロウにだけ聞こえてくる。目を覚ますと、周りからは称賛する声、大きな拍手、隣では泣く少女。

 

『──自分はこんなことの為に勝ち続けていたのか?』

 

 再び声が聞こえる。

 

 ロウは思う、こんなコンディションの中、ここまでの実力を出せるとは考えすらしなかった。しかし、思い返してみて1つ心当たりがあった。

 

 ポケモンに放った指示は的確だったのだ。

 

 大会を振り返った映像を見てロウは確信する。試合中のロウが、ポケモンへ放つ指示は不気味なほどに正確で、どの指示も勝利へと繋いでいた。その映像を見ていたロウは、自分自身がまるで冷酷非道な勝負師のように見えてきて怖くなった。

 

 しかし、それが自分の唯一の長所でもあった。この長所を肯定、否定することは、ロウには出来なかった。だが、こんな自分にはなりたくないという強い想いがロウにはあった。

 

 ──そして、コトブキシティから旅立つ前日、ロウは不思議な夢を見た。

 

 どこかの澄んだ大空、飛行機から見えるような景色、どこからか声が聞こえた。

 

『正しき野望を持つ者よ、その想い、我に預けてみよ』

 

 そんな声が聞こえた途端、ロウは目が覚めた。

 

「───夢か」

 

 時計を見ると深夜3時を過ぎていて、ロウは無意識に支度を整える。再び床に就くより、朝まで起きていた方が気持ち的に良かったのだ。

 

『会場へ行け』

 

 突然そんな言葉が頭に刺さる。夢で見たのと同じ声。

 

「一体誰なんだ」

 

 しかし、言葉は返ってこない。会場とはおそらく、大会が行われた会場の事だと思い、ロウは夜道を走った。

 

 会場へとやってきたロウは、不自然に開いたままの関係者用の扉を見つける。ここから入れと言っているようなものだった。中へ入り、試合が行われたバトルフィールドの場に足を踏み入れた。そこで待っていたのは、『むげんポケモン』のラティオス。

 

 ロウはそのポケモンを知っていた。

 

『ラティオス』

争いを好まぬ優しい性格、優しい心を持った人間にしか懐かない。高い知能を持ち、人の言葉を理解することが出来たとされる伝説で語られるポケモン。また、見たものや考えたイメージを映像化して相手に見せる能力をも持つポケモンである。

 

 ロウは事の大きさを悟る。

 

「まだ自分は、旅立っていないトレーナーだ、──なのに」

 

 ラティオスはロウを見ても、逃げようとも威嚇しようともしない、捕まえてくれるのを静かに待っているようだった。

 

「───自分は、そこらにいる普通のトレーナーで終わらないと思っていたが、これでは、普通のトレーナーでは終われない」

 

 ロウは、覚悟を決めボールを投げる。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ラティオスというポケモンを手に入れたロウと互角に渡り合うトレーナーはいなかった。ロウは、ジムバッジを4つ集めた頃、全くボールから出すことがなくなったブイゼルを思い出す。

 

「──これから自分はトレーナーの高みを目指す。すまないがここでお別れだ」

 

 ロウは、ブイゼルをコトブキシティの大会で出したのが最後だった。このまま使うことがないのなら野生に返した方がいいというロウなりの考えだった。

 

 ──ジムバッジを8つ集め終えて、ロウはポケモンリーグへの参加資格を得た。そして今まで快勝という言葉しか知らなかったロウは始めて大きな壁と出会っていた。ロウの結果は1回戦敗退、ロウを下した相手はそのまま優勝した。

 

 その相手は例えるなら、得体の知れない怪物。しかし、その相手のバトルスタイルは一言でいうならば自由。ポケモンの潜在能力を全て引き出したような戦い方であった。

 

 その相手とロウの実力には、差はほとんどなかったが、1つだけ大きな違いがあった。それは、一言で表すのなら、ポケモンへ指示する力加減である。均衡した状況時には緊張感を持って、勝負所ではより強き気な声で、ロウを下した彼は、そう指示を放っていたのだ。

 

 これは何を意味するのかというと、ポケモンのパフォーマンスを最大限に発揮するためだ。

 

 正の感情、負の感情が影響で試合を動かすというのは、ありえなくはない。

 

 試合中に耳にする自身に向けられる応援歌と相手に向けられる応援歌、例えば声量が相手に向けられる応援歌の方が大きく聞こえた場合、知らずのうちに自身の実力が発揮できないことがある。

 

 これを言葉で表すなら、アウェー感、場所や雰囲気が自分にとって居づらいという意味。

 

 誰しも、共に戦う仲間より、今から戦う敵勢力の方が団結しているように見えると、勝てるかどうか不安になってしまうだろう。つまり、ロウの敗因は、ラティオスとの絆の強さが相手よりも劣っていたことだ。

 

「──知らない間にラティオスの強さに呑まれていたのか、自分は」

 

 濁りなき事実をロウは認めていた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 ポケモンリーグから数か月の時が経ち、ロウはコトブキシティに戻ってきていた。次に開催されるポケモンリーグに向けてロウは、ラティオスと鍛錬に励んでいた。ラティオスという伝説のポケモンを扱うトレーナー、ロウに多くの人が視線を向けている。街中で伝説のポケモンを持ったトレーナーはとても目立つ。

 

 その中で藍色のスーツを着た中年男性がロウに近づいてきていた。

 

「珍しいポケモンをお持ちで、もし良ければ私たちの捜査に協力してくれませんか?」

 

 彼の名前は、マチエス。"国際警察"と名乗り、悪事に働き、この町に潜んでいるとされるグレイ団を捕えるためにやってきていた。そして、ジムバッジを8つ持つロウに、捜査の協力を頼んでいた。

 

 ロウは躊躇うことなく捜査に協力した。

 

 ──ロウはグレイ団を知らなかった。しかし、危険を顧みず捜査に協力した理由は単なる正義感からではなく、自身の強さに絶対的な自信を持っていたからだ。グレイ団の事を大した組織ではないだろうと思っていたロウは、ぶらぶらと暗く人が寄り付かない裏道を歩き回る。

 

 そして、グレイ団らしき人達を見つけた。マチエスから聞いていた灰色のダウンベストを着ていた怪しげな集団。ロウはこの集団がグレイ団であると確信する。1人、威厳を放ち集団を束ねるリーダー格の女性がいた。ロウは、マチエスから渡されていた通信機のボタンを押した。その時、同時に後姿のリーダー格の女性が振り返り、その顔がロウには見えた。

 

 ───その顔を見たロウ、通信機が手から転げ落ちる。

 

 見間違いではなく、幻覚でもない。紛れもなくその顔はトレーナーズスクール時代、共にバトルをした仲であった少女、クロの顔であった。

 

 そして、その隣には、伝説で語られるポケモン、ラティアスがいた。

 

『ラティアス』

高い知能を持ち、人間の言葉を理解することが出来たとされる伝説で語られるポケモン。他のポケモンや人間の気配に非常に敏感、気配を察知すると直ぐに姿を消す。羽毛はガラスのような物質になっており、これで光を屈折させて姿を隠したり変えたりすることも出来るポケモンである。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。