ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第29話 願い続けた一試合

 ロウはその場を去っていた。深い理由はなく、あのリーダー格の女性はクロに間違いはなかった。しかし、今尚間違いであってほしいと願い続ける自分がいた。

 

 事が済んでから"国際警察"のマチエスに聞かされたことだが、目撃者の証言を照らし合わせて、グレイ団は異変に察知したのか町から去っていったようだった。

 

「──ラティアス」

 

 ラティアスの他のポケモンや人間の気配に非常に敏感という能力を上手く利用すれば、"国際警察"がこの町でうろついていることを知るのは容易なもの。そして何故クロがトレーナーズスクールで優秀な成績で卒業していながら、グレイ団という組織に属しているのかロウは気になって仕方がなかった。彼女のことは忘れようという考えもあった。ロウは当時、彼女とのバトルで数多く打ち負かした過去を思い返す。

 

 旅立つ前まで彼女に敗北を味合わせ、そこからもし自信を無くし、グレイ団に入ったとするならば、少なからず自身にも非がある。しかし、グレイ団に入った原因はロウのせいではない。彼女の意思でグレイ団に入ったとロウは考えた。

 

 ───トレーナーズスクール時代、誰よりも正義感が強く負けず嫌いだったクロを思い出し、そんな彼女が悪に屈するのかという考えもロウにはあった。

 

「グレイ団は、どのような組織なのですか?」

 

 ──ロウはマチエスにそう質問を投げかけた。

 

『グレイ団』

シンオウ地方の元研究施設、グレイ研究施設の元関係者たちが作り上げたと言われる組織。組織の主な目的は不明。上の立場の者から出される"依頼"を下の立場の者がこなすと評価がもらえ、その数に応じて各団員のランク付け行われる徹底した成果主義の組織だとされる。

 団員には多くの少年や少女がいて、グレイボールで捕獲されてしまった大切な自身のポケモンを取り返そうとするポケモントレーナーを上手く唆し、強引にグレイ団に入らせるという所業をしているとされている。

 

「───こういったとんでもない組織なんだ、いくら伝説のポケモンを持っていたとしても過信はしないほうがいい」

 

 何度も念を押すようにマチエスは、ロウにグレイ団の危険性を事細かに伝えていた。

 

 しかし、ロウはマチエスの話した中にあったある言葉が頭から離れないでいた。それこそ、団員に少年や少女がいる理由だ。クロは自身のポケモンを取り返そうとして、グレイ団に入ってしまったんだとロウは確信した。

 

 ───グレイ団に入り、クロのポケモンを取り返す。それがロウがグレイ団に入った目的であった。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「──ここまでが、自分がグレイ団に入った理由だ」

 

 アトリエとトロナツに向け、淡々と話し続けていたロウは、ようやく口を閉ざす。2人もまたロウの過去を知り、言葉を失っていた。

 

「そして、グレイ団を抜けた理由はクロのポケモンを取り返せなかったから。詳しくは言えない」

「──それを私たちが知って、貴方には何か得することはあるの?」

 

 アトリエはロウに言葉をぶつける。グレイ団に入っていた理由を知ったとはいえ、考えてみればロウが得することといえば、2人を安堵させることぐらいだ。アトリエはグレイ団に入った理由を鮮明に話すロウの本当の目的を確かめようとしていたのだ。

 

「───グレイボールが無くならない限り、グレイ団は壊滅しない。自分が言いたかったことは、そのブイゼルをグレイ団から全力で守れ」

 

 険しい表情でロウは声を出した。ロウが言いたかったことは、そういうことだった。

 

「ラティオス、"サイコキネシス"を解け、用事は済んだ」

 

 ようやく、宙に浮かび身動きの取れなかったアトリエとトロナツの足が地面へと着いた。

 

「次に会うときは、ブイゼルの力を借りたい。先にそう言っておく」

 

 ロウは溶け始めていた玄関の氷を砕き、薄暗い森の中に消えていった。少し経ち、マチエスとエルフィーがやってきていた。クオンとソノルナも近くにいた。

 

「──無事か!」

「うん、大丈夫!」

 

 トロナツとアトリエは、この古びた洋館で起こったことを話した。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「──クオン、ジム戦頑張って!」

 

 事が全て終わり、翌日の朝、クオンはジムに挑戦する。トロナツたちは急いで観客席に向かっていた。多くはないが間もなく始まる試合を眺めようと、人々が既に座っていた。

 

「アトリエ、あの人ってもしかして」

 

 その人々の中には、白い衣服を身にまとい、頭に赤いバンダナを巻いた高身長の若い男性がいた。彼こそアトリエが今まで探し回っていたヒノキア博士だった。

 

『──試合開始!!』

 

 ジムリーダーアールスと、挑戦者のクオンの試合が今、始まった。使用ポケモンは2体、ポケモンの交代は挑戦者のみ認められる。これがジム戦での基本的なルールだ。

 

 バトルフィールドには、チコリータとコジョフー。戦う2人にとっては待ちに待った試合。互いに無意識ながらポケモンへの指示を躊躇っていた。

 

「──手加減はしないよ! クオン!」

 

 アールスはチコリータに"やどりぎのたね"を指示。瞬く間にコジョフーの周りから蔓のようなものが現れ、襲い掛かる。コジョフーの体に蔓が纏わりつく。

 

「コジョフー、"はっけい"!」

 

 臆することなくコジョフーはチコリータへ攻めに入る。それを見たアールスは静かに笑う。

 

「チコリータ、"カウンター"!」

 

 "はっけい"を正面から受けきったチコリータは、コジョフーの懐に渾身の一撃を入れた。大きく吹っ飛ばされるも、コジョフーは受け身を取った。

 

「コジョフー、"ドレインパンチ"!」

 

 コジョフーは拳に力を入れる。そして体勢を低くし、瞬きする間にチコリータの間合いに入っていた。不意を突かれたチコリータは、まともに攻撃を受ける。

 

 しかし、技を放ち終えた後にコジョフーが倒れた。体に纏わりついていた"やどりぎのたね"が残り少なかったコジョフーの体力を吸いつくしたのだ。クオンはコジョフーをボールへ戻す。

 

「──俺の指示が甘かった。すまないコジョフー」

 

 クオンはもう1つのボールをバトルフィールドに投げ入れた。ボールから現れたのはガバイト。

 

「ガバイト、ドラゴンクロー!」

 

 風の如く、ガバイトはチコリータの間合いに入り、技を放つ。

 

 チコリータが倒れ、アールスはボールへ戻す。そして、1つのボールを手に乗せて見つめていた。

 

「──本当はこのポケモンは、"からめ手から攻める戦術"を得意とする種族なのだけど、そういう性格じゃないんだよねウチのは」

 

 アールスが持つボールの中のポケモンはエルフーン。アールスの切り札のポケモンだ。

 

「今日は最初っから全力で飛ばしていくよ! エルフーン!!」

 


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