ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第3話 平穏を追い求める 白の主人公

『ズイタウン』

ヨスガシティとトバリシティの道中にある町で、その周辺は放牧地帯で埋め尽くしている。町の西側は、とれたての"きのみ"や搾りたてのモーモーミルクなどが並ぶ市場があり、東側にある森林を抜けると、謎の遺跡がある。

 

 クオンは、ブイゼルを連れたトレーナーに会うために、209番道路を歩いていた。

 

 ──この整えられた道、あと少しか。

 

 朝日が昇り、黒色に染まっていた木々や岩肌に、いつもの色が付き始めた頃、クオンは、ズイタウンに到着した。

 

 ブイゼルを連れた少年を探すために、人通りが多い市場にやってきた。そこはまるで、お祭りの屋台が窮屈に立ち並ぶように、一本道には沢山の店がずらりと、真ん中の道は人で溢れかえっていた。

 

 そんな中、全速力で人と人の間を駆け抜ける少年、店舗の脇で商品である"きのみ"を恥じらいもなく食べる野生ポケモン、誰一人、気にしようとしない。この町では、ごく普通のことらしい。

 

「あら、ブイゼル、今日は何を買いに来たの?」

 

 声がした方向を向くと、店のカウンターに両手でぶら下がるブイゼルがいる。店主がやってきてブイゼルは、カウンターから手を離し、身に着けていた小さい手提げカバンの中から、鉛筆とメモ帳を取り出した。

 地面にメモ帳を置き、ブイゼルが鉛筆を持ち、メモ帳に何かを書き始める。手から鉛筆が離れると、何かを書いたであろう頁を破き、店主に渡していた。

 

「"オレンのみ"が3つね!」

 

 その紙には、カタカナ3文字で『オレン』、数字一文字で『3』と、書いてあった。店主がメモ帳を見ている間に、ブイゼルはカバンの中から小さい袋を取り出す。

 それに気付いた店主が"オレンのみ"とメモ帳をブイゼルに渡して、小さな袋を受け取った。

 

「毎度あり!」

 

 そんな非日常的な光景を目の当たりにしていたクオンは、ある記憶を、ふと思い出す。子供の頃か、あるいは旅をしてて、どこかで聞いた、ある言葉。

 

『ある昔、どこかの学者が言っていた。世の中には、人の言葉を話すポケモン、その種族らしくない行動をみせたりするポケモンが確かに存在していて、その分、ポケモンの本能的な部分が失われていくという』

 

 人の道具である、鉛筆とメモ帳を理解し、文字を書くことが出来るブイゼル。

 ブイゼルが人の言葉を知っているということは、トレーナーは事細かに指示を出せる。そして、ポケモンの言い分もトレーナーは、事細かに知りえるということ。

 ポケモンバトルとは、技と技のぶつかり合いが醍醐味であるが、あのブイゼルは正しく例外で、育て方次第では戦略的なバトルが可能である。

 

『とりあえず一度会ってみたらどうだ?』

 

 クオンは、再びブイゼルに目を向ける。

 

 あの時の中年男性が、にやけながら話していた理由が、分かったような気がした。まずは、あのブイゼルを追いかけよう。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ブイゼルは集落を素通りし、東側にある森林に入っていく。

 クオンは、ブイゼルを見失わないように、森林の中を進んでいくと、人が住む気配がないような古民家にたどり着いた。ブイゼルは、扉を開けて中に入っていく。

 

 クオンは、足を止める。

 

 ──間違いなく、あの家はライフラインが止まっている。例のトレーナーがこの家にいるとは思えないが、ここまで来たからには、確かめる必要がある。

 

 クオンが家の窓から中を覗くと、少年がブイゼルを撫でている様子が伺えた。

 本当に彼が、ブイゼルのトレーナーなのだろうか。

 

「誰?」

 

 少年と目が合って、クオンは咄嗟に窓の下に隠れてしまう。

 逃げようか、潔く謝ろうかと悩んでいると、扉が開く音がした。

 

「見慣れないお客さんみたいだね、ようこそ我が家に、お茶でも飲んで行かれませんか?」

 

 四葉のクローバーが描かれた白いニット帽、首元に黄色いスカーフ、暗い森の中でとても明るい服装に身を包んだ少年がクオンの目の前に立っていた。彼の名前は、トロナツ。

 

 彼が放った声や言葉は、耳から入るというよりは、頭の中に入っていく、不思議と何も言い返せなくなるようなものだった。そして、彼の隣にブイゼルがいた。

 

 

 ───クオンは、家に入り、お茶を飲み、彼に今までの経緯を話した。

 

「マチエスさんの知り合いか!」

 

 ──話を進めていくと、ヨスガシティの飲食店で出会った中年男性は、彼の両親の親族であることが分かった。そして彼と話していくうちにある疑問が浮かんでいた。

 

 家の中を見渡していると、日用品が置いてあった。しかし、どれも2人分あるかないかの数だ。何より、幼い子供のように、無警戒な彼に違和感を感じていた。

 この家には、彼1人で暮らしているのだろうか。

 

 いや、まずは彼にあの事を話してみよう。

 

 

 ──過去を振り返る。現在から数年前の出来事である。

 この家に住む少年、トロナツは、物心ついた時からこの家で自給自足な生活を送っている。月に一度くらいマチエスが様子を見に来てくれている。言わば義親だ。トロナツは、両親のことは何も知らない。

 

 マチエスがトロナツの家にやってきた。いつもならば他愛もない話を始めるのだが、この日のマチエスは違っていた。

 

「いつも思うのだが、両親のことで、俺に聞いたくならないのか?」

 

 マチエスは、トロナツの両親の知り合いである。

 

「ずっと僕のことをほったらかしにしている両親なんて気にならないよ」

 

 そうか、と言うような顔でマチエスは、お茶を口にする。

 

「トロナツは、旅をしようとは思わんのか?」

「旅をしたいけど、時々この家に怪我をしたポケモンがやってくる時があるんだ。ここを離れるわけにはいかないよ」

 

 2人の真剣な話し合いは、ここで終わった。

 

 実を言えばトロナツは、旅をしたかった。しかし、一昔前に森林で怪我をしたポケモンを見かけたことがあった。トロナツは、ポケモンを家に連れてきて介抱したことがあり、それ以来、怪我をしたポケモンが家にやってくるようになった。怪我をしたポケモンがやってきて、手当てをし、ポケモンが元気になると嬉しそうに外へ駆けていく。

 度々トロナツは、その表情を見ると、思い悩む。

 

 旅をしたい、家を離れるわけにはいかない。元気になるポケモンを見るたびに、トロナツの心を締め付けた。

 

 ──数日くらいなら、大丈夫かな。

 

 数日分の食料や貴重品などを紺色の手提げカバンに入れて、ブイゼルと一緒にズイタウンを飛び出した。

 

 果てしなく続いた道、待ち構える多くのトレーナー、見るものが新鮮なものばかりで、気付けばトロナツは考えることをやめていた。

 

「トバリシティ?」

 

 トロナツは、そう書かれた看板を見つけて、我に返る。

「そろそろ帰らないと」

 

 まだ進んでみたいという気持ちを押し殺し、今までやってきた道を重い足取りで歩いていく。ズイタウンまで2日もかかっていた。

 

「雲行きが怪しいな」

 

 その日のズイタウンは、上空に大きな積乱雲があり、雷雨に見舞われていた。

 森林の野生のポケモンたちは大丈夫だろうか、ズイタウンに着いたトロナツは、ぬかるんだ地面を、雷鳴が鳴り響き渡る森林の中を駆けていく。家に近づくと、トロナツとブイゼルは足を止めていた。

 

 家の玄関先で、眠るように倒れているポケモンの姿があった。

 

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