残ったポケモンは互いに1体、しかし現時点ではアールスが圧倒的に有利であった。"くさタイプ"の他に、"ドラゴンタイプ"の技を無効化する"フェアリータイプ"というものをエルフーンは持っている。更に"フェアリータイプ"の技は"ドラゴンタイプ"には"こうかはばつぐん"で、ガバイトが持つ技の1つの"あなをほる"は、"くさタイプ"のエルフーンには"こうかはいまひとつ"だ。
ガバイトが持つ技でまともにエルフーンに与えられる技は"きりさく"のみ。
この勝負、クオンが勝つことは絶望的であった。
「エルフーン、"ぼうふう"!」
ガバイトの周囲から強烈な風が襲い掛かった。
「エルフーン、"エナジーボール"!」
続けざまにアールスは指示を放つ。体勢を立て直すガバイトに緑色で輝く塊が向かう。難なく避けるが、とあることにクオンは気付く。
エルフーンの技を放つ速度は、ガバイトの倍くらいあり、攻め入る隙がなかったのだ。
「エルフーン、"マジカルシャイン"!」
クオンは、急に眩しくなったと思っていると、バトルフィールドを輝かせるように、多くの光が現れた。全ては避けきれない、そう判断したクオンはある指示をする。
「突っ込め! ガバイト!」
──この瞬間、ガバイトは少し嬉しそうな表情をしていた。
ガバイトはエルフーンに攻めに入った。そうはさせないとエルフーンの"マジカルシャイン"が牙をむく。ガバイトはその攻撃を軽く受けていても、足だけは止めない。そして、エルフーンの間合いにガバイトが入った。
「一撃で決めろ! "きりさく"!!」
"マジカルシャイン"が地面に当たった衝撃でバトルフィールドは、煙に包まれていた。2匹のポケモンはこの煙の中にいる。徐々に少なくなる煙、クオンとアールスはその時を待つ。
『──エルフーン、戦闘不能!』
このバトルの勝者はクオン。
◆ ◇ ◆ ◇
───ジムの入口でクオンはアールスから受け取ったジムバッジを眺める。
「──おめでとう! クオン」
アトリエとトロナツがやってきた。
そんな雰囲気の中、3人の元にある人物が近づいていた。
「先程のバトルは見事だった!」
声をかけた人物、それはヒノキア博士であった。彼はクオンのバトルセンスを高く評価し、ポケモン図鑑を懐から出していた。
「実はポケモン図鑑を完成させてくれるトレーナーを探していて、もし良ければだが、協力してくれないか!」
そんな博士に一言に、クオンは首を横に振っていた。
「俺よりも、適任のトレーナーがいます」
そう言ってクオンはトロナツの方を向いた。
「トロナツはポケモン博士を目指しています。渡すなら彼に」
その言葉を聞き、ヒノキア博士は少し黙る。何を思ったのか懐から2つのポケモン図鑑を出した。
「いいか、これは大人の気まぐれだ。ある条件を呑んでくれるのなら、君たち全員にポケモン図鑑を渡してもいい!」
「──その条件って」
「そこにいる彼女の新しい小説を貰いたいだけだ」
この瞬間、ヒノキア博士は最初から3人にポケモン図鑑を渡すつもりでいたのだとクオンは気付いた。おそらく、ヒノキア博士の一番の目的はアトリエの小説が見たかったのであると。
「──そんなことでいいのなら」
アトリエはクロガネシティで書いていた小説をヒノキア博士に渡していた。
───ヒノキア博士と別れた3人は次の目的地のことで話し合う。
「これからコトブキシティへ向かう」
コトブキシティでは近く大会が開かれる。クオンはソノルナとそこで再び会う約束をしていた。
「バトルの約束?」
「まあな」
コトブキシティに向かうため3人はその道中にあるソノオタウンに向かうことになっていた。
◆ ◇ ◆ ◇
───ハクタイシティにある伝説のポケモンの像。その近くにマチエスとエルフィーがいる。
「──3人、"ハクタイのもり"の方面に行くってことは、ソノオタウンへ向かうね」
旅立った3人を見ていたエルフィーがマチエスへ告げる。
「あの3人なら問題ない。それにその町で依頼をこなすグレイ団の中には私たちの仲間がいる」
「あの少年の事? 彼ってよく知らないけどそんなに強いの?」
「知らないのか、1つの年のポケモンリーグの大半を優勝した怪物だぞ」
「──あんな少年が、人って見かけによらないものだね」
───ある年だけ、全世界が注目するチャンピオンリーグが開かれなかった。その理由は公にされていないが、各地方で開かれるポケモンリーグ、その大半を優勝で飾ったポケモントレーナーが存在した。正に彗星の如く現れた1人のトレーナー。彼はそのままシンオウ地方のチャンピオンに勝利したが、それでは飽き足らず、チャンピオンの座を直ぐに辞退した。そしてたどり着いた場所こそ。