ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第4話 黒く塗られた過去

「悪いけど、今話した通り、僕はもう旅をしたくないんだ」

 クオンは、トロナツに一緒に旅をしないかと持ちかけていたが、その理由を聞いて何も言葉を返せないでいた。

 

   * * *

 

 彼が旅をしない理由か、あまりにも報われない話だ。しかし、この違和感はなんだろう。何か自分は返せる言葉を知っているのか。

 

 クオンは、ぬるくなったお茶を飲み干して、立ち上がる。

 

「少し森林の中を散歩してくるよ、ガバイトを頼めるかな?」

「分かった!」

 

 クオンが1人で森林へ向かう理由は、少し頭の中を整理しようと思ったからである。そのまま扉の方に体を向けて、玄関先で振り返る。

 

 ブイゼルとガバイトは、出会ってまだ数分なはずなのに、慣れ親しんだ様子だった。それを見たクオンは、扉を閉めた。

 

 森林の中は、空気が澄んでいて心地よい。読書をしたり、歌いたくなる気持ちになれる。木漏れ日が、自然の美しさを、より加速させている。気を落ち着かせるなら、うってつけの場所である。

 

 クオンは、切り株に座り、目を閉じていると、遠くでポケモンの鳴き声がしていたことに気が付く。音を頼りに進んでいくと、2匹のポケモンが争い、その近くに大きな"きのみ"が落ちていた。

 

 勝負の末、片方のポケモンが力尽きて倒れる。もう片方のポケモンは、雄叫びを上げて"きのみ"に噛り付く。この2匹は、"きのみ"を巡って争っていたのだ。

 

 強い者は得られて、弱い者は得られない。それが野生のポケモンたちの世界である。

 

「──ここは?」

 

 森林を抜けた先には、大きな岩山があった。

 

「ズイのいせき」

 

 辺りを見渡すと、いくつもの洞窟があり、近くの看板にはそう書かれている。

 

 洞窟の中は、奥行きがある空間に、左右に上下の階段、壁には不気味で見たこともない文字が記されている。クオンは、故意に作られた小さな穴を見つけていた。

 

   * * *

 

 『アイツ』と初めて出会ったとき、確かこれくらいの穴の中に潜んでいた。

あの時の出来事は今でも忘れられない。懐かしいな。

 

 無意識のうちにクオンは、小さな穴に頭から潜り込んでいた。ちょっとした興味本位で、足まで中へ入れていく。

 

 胸のあたりで変な音がした。

 

「────!?」

 

 突然、地面が陥没して、広い空洞にクオンは落とされた。

 

『──ポケモンリーグで優勝しよう!』

 

 誰の言葉だろう、どこかで聞いたような。

 

 真っ暗な視界の中で、そんな言葉が鮮明に見えていた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 誰しも、見たくない過去を思い出すことがあるだろう。楽しい過去ではなく、辛い過去をと。一説によると、現状打破するために過去から何かしらの答えを得ようする、無意識な行動だと言われている。

 

 

 ──数年前にある噂が流れていた。

 シンオウ地方の8人ジムリーダーを1匹のポケモンで打ち負かしたトレーナーがいると。その年のポケモンリーグは噂のトレーナーに期待を寄せていたが、結局誰だったのか、今でも分かっていない。

 

『ハクタイシティ』

歴史を感じる町であるが、所々に高層ビルが立ち並び、その言葉は無くなりつつある。各地方まで繋がって、今やシンオウ地方で有名な公共交通機関である『ちかつうろ』が作られ始めたとされている。そしてクオンの出身地である。

 

 ここはハクタイジム、ジムリーダーのアールスは、今日も挑戦者とバトルを行っていた。彼女が使うポケモンは、『くさタイプ』であり、キャッチコピーは、未来に種まく少女。からめ手から攻める戦術を得意としており、大半のポケモンを変化技のみで下している。

 

「エルフーン、コットンガード!」

 

 エルフーンの周りから綿毛が現れ、自身の体に纏わせた。

 挑戦者のポケモンには『やどりぎのタネ』が植え付けられていて、徐々に力を奪っていく。もう勝負はついていた。

 

 挑戦者のポケモンは抗う術はなく、倒れてしまう。

 

「相変わらず、ジムリーダーらしくない戦い方をするものですね」

 

 ──事が終わって、観客席で試合を見ていた1人の男がアールスに話しかけていた。"くさタイプ"の戦い方だが、ジムリーダーとしては、賛否両論が飛び交うものだ。

 

「ウチなんて、まだ可愛い方だよ、『アイツ』に比べたらね」

 

 しかし、こういった一方的に勝てる試合は、例年より多くなく、今年のポケモンリーグはレベルが高くなると予想されていた。

 

 

──その日の夕方、アールスは、ジム入口にある花壇の花々に水やりをしていた。

 

「アールスさん今日の挑戦者は、強かった?」

 

 幼い少年が彼女に話しかけていた。少年の名はクオン、まだポケモンを持てない年齢でありながら、一人前のポケモントレーナーを目指し、努力していた。

 

 その姿をアールスは、普段からよく見ていた。

 

「大した相手じゃなかったよ、それよりクオン、後ろのポケモンはどうしたの?」

 

 クオンの足元にはフカマルが寄り付いていた。

 

「小さな洞穴にいたんだ」

 

 その日の昼頃、クオンは、ハクタイシティの外れにある岩場で遊んでいると、小さな洞穴の中に、1匹のフカマルが身を潜めていた。クオンとフカマルの目が合うと、フカマルは、クオンの後ろをついてきていた。

 

 アールスは、彼の話を聞き、少し頭を抱える。

 

 昔から、野生のフカマルの生息域は、206番道路の"まよいのどうくつ"であり、必ず群れで行動していると言われていた。ハクタイシティの外れにある岩場にいたとは到底考えられるものではない。しかし、アールスは、クオンは嘘をつくような子供ではないと知っていた。

 

 ポケモンの群れで、1匹が追い出されるケースは、大きく分けて2つある。

 群れの掟というものを破るような、ならず者であるか、群れから同種族だと思われなかった個性的なポケモンであるかである。

 

「そのフカマル、触ってもいい?」

 

 もしや、と思ったアールスは、フカマルに手を当てる、ザラザラとした肌触りで確信した。このフカマルの特性は、"すながくれ"ではなく、触れた相手をキズつける『隠れ特性』の"さめはだ"だと。

 

『隠れ特性』

各種族に存在する、通常とは異なる特性を指しており、何らかの突然変異によるものだと言われている。そのため有している個体は少ない。その割合は今でもはっきりしていない。

 

「そのフカマルは、群れからはぐれてしまった迷子だと思うんだ、クオン、しっかりと面倒を見れる?」

 

「──でも、まだ僕は、ポケモンを持ってはいけないんじゃないの?」

 

「ウチが特別に許すよ、ただし、もし何かフカマルのことで困ったことがあったら、教えてね!」

 

 アールスは、クオンにモンスターボールを1つ渡した。クオンは、モンスターボールを受け取り、フカマルを見る。フカマルは、警戒する素振りを見せずに、クオンが投げたモンスターボールに当たっていた。

 

「フカマル、僕と一緒にポケモンリーグで優勝しよう!」

 

 クオンから、夢溢れる言葉が零れだしていた。

 

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