ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第5話 孤高のトレーナー ロウ

クオンがフカマルを捕まえてから、数か月の時が流れた。

 

 今日もアールスは、ジム戦で挑戦者に快勝を続けていた。ここ最近、手ごたえのある挑戦者とバトルをしていない。

 

「アールスさん、今日もバトル!」

 

 観客席で試合を見ていたクオンは、アールスにバトルを申し込む。

 

 フカマルなどの『ドラゴンタイプ』は、闘争本能が高く、駆け出しのトレーナーには向いてない。トレーナーの言うことを聞かなくなる事があるからだ。アールスは、クオンにトレーナーとしての知識を教えるのと同時に、フカマルの闘争本能とぶつかり合うことにしていた。

 

 アールスが使うポケモンはエルフーン、手加減をしなければフカマルは何も出来ずに、倒されてしまうだろう。それが分からないのか、諦めきれないのか、いつも全力で向かっていく。

 

「今日はもう終わり、また明日やろう!」

 

 気付けば外は赤く染まり、アールスは、ジム入口の花壇の花々に水やりをしなくてはいけない。彼女は、少し浮かない表情で花々を見つめる。

 

「ジムリーダーの方ですか? ジムに挑戦したいのですが」

 

 長い黒髪で紺色のロングコートを着た、さわやかな笑顔の青少年が話しかける。彼の名前は、ロウ。この年のポケモンリーグに出場した1人のトレーナーである。

 

 クオンは、アールスとその青少年がジムの中に入っていくところを、遠くで見ていた。今からバトルが始まるんだと分かったクオンは、急いでジムの中に入り、観客席に腰を下ろす。それが、忘れることが出来ない一試合になるとは知らずに。

 

 アールスは、チコリータを繰り出す。対してロウの投げたボールから出てきたポケモンは、ラティオス。"普通とは違い"伝説の中で語られる1匹のポケモンであった。

 

「ラティオス、"りゅうのはどう"」

 

 突然、アールスの目の前で爆発が起きた。観客席からは混乱した声が聞こえ、アールスはまさかと考える。煙がなくなると、チコリータは倒れていた。

 

 ───技が見えなかった。

 

 この時、アールスは悟った。

 

 アールスは、次にエルフーンを繰り出した。

 

 ロウは、ラティオスというポケモンを使う余裕からなのか、さわやかな笑顔を崩さずにエルフーンを見つめる。

 

「"マジカルシャイン"!」

 

 ラティオスの頭上に夥しい数の光を敷き詰める。いつも見ているエルフーンのマジカルシャインとは違う、相手を食らいつくす憎悪に満ちた攻撃のようだった。

 

「ラティオス、"サイコキネシス"」

 

 向かってきていた無数の光は、時を止めたのかと思わせるほど、ピタッと静止する。ラティオスが力む様子を見せていると、光が同じ場所に集まりだす。大きな光の塊へと変わると、エルフーンに凄まじい速度で襲い掛かい、大きな閃光を生み出した。

 

 光が弱まり、辛うじてエルフーンが立つ姿が見えた。ロウは、迷いなくラティオスに何か指示をする。

 

「待って、降参するよ!」

 

 これ以上のバトルは無意味だと判断し、アールスは負けを認めた。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ロウはバッジを受け取り、空を見上げていた。

 

「なんで、そんなに強いの?」

 

 その背中を見上げるように、見つめていたクオンが話しかける。

 

「簡単なことさ、ポケモンに必要なものは、飴と鞭だけ」

 

 ジムバッジを服のポケットに入れて、ロウは振り返る。

 

「自分が良いと思う行動をしていたら褒めて、自分が悪いと思う行動をしていたら然って、自分が当然と思う行動をしていたら何もしない。つまらない愛情は、ポケモンを駄目にさせてしまう不味い飴だ。少年も気をつけなさい」

 

「どういうこと?」

 

 しかし、ロウはそのまま何も言わずに、町から去っていった。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 気が付くとクオンは、何もない真っ暗な空間に立っていた。ここは夢の中なのだろうか、家に帰ってからの記憶が曖昧であった。

 

『勝てない!』

 

 どこからか、小さい子供の声が聞こえる。

 

 ───強い絆を持っていたとしても、強くなることはできない。

 バトルにどれだけ情熱を注いだとしても、感情を殺し、相手のポケモンと自分のポケモンを正確に見極めて、指示を与えるトレーナーに。

 

 こんな苦しそうに声を放つ小さい子供は、誰なんだ。

 

『そんなことないよ!!』

 

 どこかで聞き覚えのある声が聞こえてきた。クオンは目を覚ますと、トロナツとブイゼル、目の前にはガバイトがいた。

 

「急にガバイトが飛び出していったから、追いかけてきたんだ」

 

 トロナツの話によれば、ガバイトが洞窟の中から、クオンを背負って現れたという。ガバイトは何か感じて、ここへ来たのだろうか。

 

 クオンは、ガバイトと目を合わせた。

 

「ガバイト、お前に言いたいことがあるんだ。一緒に、ポケモンリーグで優勝を目指さないか?」

 

 ガバイトの瞳が少し光り、クオンの胸にゆっくりと飛び込んでいた。実際そういった気持ちだったかは、分からない。しかし、クオンの目から涙が溢れ出ていた。

 

 この日は、雲ひとつない神々しいくらいの夕焼け色の空であった。クオンはトロナツを見て口を開かせた。

 

「トロナツ、もう一度言うけど、一緒に旅をしないか?」

 

 今だから言える。人は過去には戻れないし、変えられない。でも過去を乗り越えるチャンスは未来にいくつも置いてある。少なくとも俺はそう思う。

 

「もし、トロナツがポケモンドクターになれば、もっと多くのポケモンたちを救えると思う。お互いの夢の為に、俺はトロナツと旅をしたい!」

 

「──僕も言おうと思っていたんだ、ブイゼルもガバイトと凄く仲良しになっちゃったし、いいよ!」

 

 どこまでも強さを追い求める、『黒の主人公』と、どこまでも平穏を追い求める『白の主人公』が出会い、認め合う。これは、考え方が全く違う2人が染め上げる物語。

 

 黒と白の2色から染め上げ始める、1色のモノクローム。

 

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