クオンがフカマルを捕まえてから、数か月の時が流れた。
今日もアールスは、ジム戦で挑戦者に快勝を続けていた。ここ最近、手ごたえのある挑戦者とバトルをしていない。
「アールスさん、今日もバトル!」
観客席で試合を見ていたクオンは、アールスにバトルを申し込む。
フカマルなどの『ドラゴンタイプ』は、闘争本能が高く、駆け出しのトレーナーには向いてない。トレーナーの言うことを聞かなくなる事があるからだ。アールスは、クオンにトレーナーとしての知識を教えるのと同時に、フカマルの闘争本能とぶつかり合うことにしていた。
アールスが使うポケモンはエルフーン、手加減をしなければフカマルは何も出来ずに、倒されてしまうだろう。それが分からないのか、諦めきれないのか、いつも全力で向かっていく。
「今日はもう終わり、また明日やろう!」
気付けば外は赤く染まり、アールスは、ジム入口の花壇の花々に水やりをしなくてはいけない。彼女は、少し浮かない表情で花々を見つめる。
「ジムリーダーの方ですか? ジムに挑戦したいのですが」
長い黒髪で紺色のロングコートを着た、さわやかな笑顔の青少年が話しかける。彼の名前は、ロウ。この年のポケモンリーグに出場した1人のトレーナーである。
クオンは、アールスとその青少年がジムの中に入っていくところを、遠くで見ていた。今からバトルが始まるんだと分かったクオンは、急いでジムの中に入り、観客席に腰を下ろす。それが、忘れることが出来ない一試合になるとは知らずに。
アールスは、チコリータを繰り出す。対してロウの投げたボールから出てきたポケモンは、ラティオス。"普通とは違い"伝説の中で語られる1匹のポケモンであった。
「ラティオス、"りゅうのはどう"」
突然、アールスの目の前で爆発が起きた。観客席からは混乱した声が聞こえ、アールスはまさかと考える。煙がなくなると、チコリータは倒れていた。
───技が見えなかった。
この時、アールスは悟った。
アールスは、次にエルフーンを繰り出した。
ロウは、ラティオスというポケモンを使う余裕からなのか、さわやかな笑顔を崩さずにエルフーンを見つめる。
「"マジカルシャイン"!」
ラティオスの頭上に夥しい数の光を敷き詰める。いつも見ているエルフーンのマジカルシャインとは違う、相手を食らいつくす憎悪に満ちた攻撃のようだった。
「ラティオス、"サイコキネシス"」
向かってきていた無数の光は、時を止めたのかと思わせるほど、ピタッと静止する。ラティオスが力む様子を見せていると、光が同じ場所に集まりだす。大きな光の塊へと変わると、エルフーンに凄まじい速度で襲い掛かい、大きな閃光を生み出した。
光が弱まり、辛うじてエルフーンが立つ姿が見えた。ロウは、迷いなくラティオスに何か指示をする。
「待って、降参するよ!」
これ以上のバトルは無意味だと判断し、アールスは負けを認めた。
◆ ◇ ◆ ◇
ロウはバッジを受け取り、空を見上げていた。
「なんで、そんなに強いの?」
その背中を見上げるように、見つめていたクオンが話しかける。
「簡単なことさ、ポケモンに必要なものは、飴と鞭だけ」
ジムバッジを服のポケットに入れて、ロウは振り返る。
「自分が良いと思う行動をしていたら褒めて、自分が悪いと思う行動をしていたら然って、自分が当然と思う行動をしていたら何もしない。つまらない愛情は、ポケモンを駄目にさせてしまう不味い飴だ。少年も気をつけなさい」
「どういうこと?」
しかし、ロウはそのまま何も言わずに、町から去っていった。
◆ ◇ ◆ ◇
気が付くとクオンは、何もない真っ暗な空間に立っていた。ここは夢の中なのだろうか、家に帰ってからの記憶が曖昧であった。
『勝てない!』
どこからか、小さい子供の声が聞こえる。
───強い絆を持っていたとしても、強くなることはできない。
バトルにどれだけ情熱を注いだとしても、感情を殺し、相手のポケモンと自分のポケモンを正確に見極めて、指示を与えるトレーナーに。
こんな苦しそうに声を放つ小さい子供は、誰なんだ。
『そんなことないよ!!』
どこかで聞き覚えのある声が聞こえてきた。クオンは目を覚ますと、トロナツとブイゼル、目の前にはガバイトがいた。
「急にガバイトが飛び出していったから、追いかけてきたんだ」
トロナツの話によれば、ガバイトが洞窟の中から、クオンを背負って現れたという。ガバイトは何か感じて、ここへ来たのだろうか。
クオンは、ガバイトと目を合わせた。
「ガバイト、お前に言いたいことがあるんだ。一緒に、ポケモンリーグで優勝を目指さないか?」
ガバイトの瞳が少し光り、クオンの胸にゆっくりと飛び込んでいた。実際そういった気持ちだったかは、分からない。しかし、クオンの目から涙が溢れ出ていた。
この日は、雲ひとつない神々しいくらいの夕焼け色の空であった。クオンはトロナツを見て口を開かせた。
「トロナツ、もう一度言うけど、一緒に旅をしないか?」
今だから言える。人は過去には戻れないし、変えられない。でも過去を乗り越えるチャンスは未来にいくつも置いてある。少なくとも俺はそう思う。
「もし、トロナツがポケモンドクターになれば、もっと多くのポケモンたちを救えると思う。お互いの夢の為に、俺はトロナツと旅をしたい!」
「──僕も言おうと思っていたんだ、ブイゼルもガバイトと凄く仲良しになっちゃったし、いいよ!」
どこまでも強さを追い求める、『黒の主人公』と、どこまでも平穏を追い求める『白の主人公』が出会い、認め合う。これは、考え方が全く違う2人が染め上げる物語。
黒と白の2色から染め上げ始める、1色のモノクローム。