ポケットモンスター モノクローム   作:ラフィオル

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第2章 ヨスガシティ テンガン杯編
第6話 テンガン杯


 人は成長する。しかし、どんなに努力をしても、成長を実感できない人は存在する。努力が足りないのか、気持ちの問題なのか、そんな簡単なことではないのか。もしかしたら、もっと簡単なところに、答えはあるのかもしれない。

 

 

 クオンとトロナツは、旅の道中にある、ヨスガシティにやってきた。2人は、ポケモンセンターの中へ入り、ソファーに座る。

 

 ──改めて言おう、この物語は『ここから』始まる。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

「この町にジムがあるけど、ハクタイジムを目指すの?」

 

 トロナツがクオンに話しかける。

 

 2人が目指す目的地は、ハクタイシティである。今いるヨスガシティを出て、テンガン山の反対側にあるクロガネシティを経由して、ハクタイシティへ到着する。ジムバッジを集めるのなら、非効率な順番であったが、クオンは、目的地を変える気はない。

 

「1番最初のバッジは、ハクタイジムって昔から決めていたから。それに、この町のジムは、バッジを4つ以上持つトレーナーしか受け付けないし」

 

 ジムリーダーは、相手トレーナーの所得バッジ数を確認し、そのトレーナーのレベルにあったポケモンを出さなくてはいけない。定められたルールの中で、他より優れた成績を残している地方の中のジムリーダーは、そういった特別な扱いを受ける。

 過去に優れた成績を残していたジムリーダーが、多くの駆け出しのトレーナーを打ち負かし、負けた駆け出しのトレーナーの殆どが、早い段階で挫折する事案が発生した。それ以降、ジムリーダには、このようなルールが設けられている。

 

 この日のポケモンセンターの中は、いつもより賑やかだった。クオンは、窓を見てポケモンセンターの裏手にあるバトルフィールドでも、多くのトレーナーで溢れていたことに気付いていた。

 

 ──何かあるのかと、クオンは考える。

 

 トロナツは、壁の掲示板に大きく貼られていたポスターを見つめる。

 

 大きな文字で『テンガン杯』と書かれてあり、数日後にこの町で大規模な大会があるようだ。使用できるポケモンは1匹のみ、テンガン山から近い5つの町の出身者が参加でき、偶然にもクオンとトロナツは、その条件を満たしている。

 

「クオン、この大会に参加してみない?」

 

 クオンは、トロナツが見ていた掲示板の前に立つ。

 

   * * *

 

 急いでハクタイジムに向かうつもりはない。トロナツのブイゼルの実力も見てみたし、参加してみよう。

 

 クオンは、実力があると言えど、今までトレーナーからバトルを申し込まれる程度である。こういう大会などでは、ポケモンの実力差より、トレーナーの実力差が影響しやすい。目立ったポケモンが、多くのトレーナーに対策されるからだ。

 

 ポケモンセンターやバトルフィールドに、トレーナーで溢れかえっていた理由は、1匹しか参加できない大会である為。多くのトレーナたちは、自身のポケモンに、タイプ相性などで有利なポケモンを、使いそうなトレーナーを把握していたのだ。

 

「お前! あの時のガバイト使いのトレーナーか!」

 

 赤いパーカを着て、頭に赤い鉢巻を巻いた少し太めの少年が、2人に声をかけていた。彼の名前はカイズ、この間のラクとクオンのバトルを見ていた群衆の1人だと話す。彼もこの大会に参加している1人で、ある悩みがあった。

 

「迷惑じゃないなら教えて欲しいんだ! 強くなる秘訣を!」

 

 カイズは、この大会に参加しているトレーナーの中に1人、負けたくないトレーナーがいる。トレーナーの名前はセトント。カイズとセトントはライバルである。しかしカイズは、彼とのバトルで一度も勝ったことがなかった。

 

「大会で戦うことになるか、分からないんじゃないのか」

 

 クオンは、そう言葉を返す。

 

 大規模な大会となると、100人以上のトレーナーが集まってくる。大勢の参加者の中でカイズとセトントが対戦相手となる確率は、とても少ない。

 

「セトントは絶対に予選を通過してくる。だから俺も予選を突破する実力が欲しいんだ!」

 

 クオンは、カイズのあまりに軽率な言動に、顔をしかめる。空気を読むことを知らないのだろうか。本選に出場できるトレーナーは、たった32人である。カイズが予選を通過すれば、セトントと巡り合う確率は、確かに高い。──もしカイズの言葉が本当なら、セトントというトレーナーは相当の実力を持っている。

 

 ───2人の会話はそこから続かなかった。

 

「とりあえず、バトルしてみようよ!」

 

 トロナツは、二人にそう言う。強さを教える教えないの前に、カイズの実力を確かめなくてはいけない。クオンは、頭の中で状況を整理する。

 

 カイズがそんな悩みを打ち明けるということは、自身が予選を突破できる実力があるからだとクオンは解釈していた。

 

「トロナツも来るのか?」

 

 後からついて来ようとしているトロナツに気付き、クオンが尋ねる。

 

「2人の試合を観戦しようかなって」

 3人は、ポケモンセンターの裏手にあるバトルフィールドに向かっていた。丁度良く、使われていないバトルフィールドが1つあった。

 

 クオンとカイズは、そのバトルフィールドを挟んで向かい合う。トロナツは、外側にある所々に置かれたベンチの中で、バトルフィールドの真ん中の辺りのベンチに座った。

 

 トロナツが紺色の手提げカバンの中からボールを出し、ブイゼルを繰り出した。

 

「今から、ガバイトがバトルをするんだ!」

 

 トロナツの言葉を理解しているのか、ブイゼルはこくりと頷き、ベンチに座りバトルフィールドを眺める。

 

 ガバイトがバトルフィールドに立つ、カイズのボールからは、レアコイルが現れる。レアコイルのタイプは、『でんき、はがねタイプ』であり、ガバイトのタイプは、『ドラゴン、じめんタイプ』である。タイプ相性では、ガバイトが有利であった。

 

 しかし、それくらいの判断材料で、ガバイトが勝つとは誰も言えない。それがポケモンバトルの面白さでもある。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 ガバイトが動いた、レアコイルに目線を向けて、一気に距離を詰めている。

 

「レアコイル! "ラスターカノン"で迎え撃つよ!」

 

 それに気づいたガバイトは、フィールド中央で足を止める。クオンは、ガバイトに"りゅうせいぐん"を指示していて、放たれた"ラスターカノン"をガバイトは、難なく避ける。"ラスターカノン"は地面へと当たり、ガバイトは煙の中に消えた。

 

 ガバイトが煙の中に消える。ラクとの試合で見せていた『この光景』は、カイズの心を震わせていた。

 

   * * *

 

 改めて思い知らされたよ、あのガバイトの素早さ、そしてレアコイルと煙の距離感、横から見ているのと、正面で見るのでは、全く緊張感が違う。

 

 ──焦って、下手な指示を出してしまいそうだ。

 

「レアコイル、降りてくる"りゅうせいぐん"を避けろ!」

 

 レアコイルは落ちてくる隕石を避ける、煙が消えるとガバイトはいない、カイズの高揚感は高まる。"りゅうせいぐん"で凸凹としたフィールドは、ガバイトが隠れられる大きさの窪みはいくつもあった。ガバイトは、どこからやってくるのか。

 

 ───レアコイルの足元にある小石が揺れていた。この時、誰も気づいていない。一番最初に気付いたのは、レアコイルだった。

 

 直ぐ下の地面に何かの気配を察したが、もうその考えは遅く、地面を突き破りガバイトが現れ、レアコイルに渾身の一撃を与えていた。

 

「勝負ありかな」

 

 ブイゼルと試合を見ていたトロナツが、密かに呟いた。

 

 攻撃を受けたレアコイルは地面へゆっくりと落ち、動く気配がなかった。今のガバイトの技は『あなをほる』でカイズはその指示を放った声を聞いていない。

 

「どこで、その指示を放っていたんだ?」

 

 カイズは薄々気付いてはいたが、クオンにそう言葉を放つ。

 

「"りゅうせいぐん"がレアコイルに落ちてきた時、その指示をガバイトに言った」

 

 そう、カイズが聞き逃しても、仕方がない。ガバイトが放った"りゅうせいぐん"は、次の指示を相手に聞かせないためだけの技でしかなかった。

 

 カイズは、レアコイルをボールに戻し、頭の鉢巻を取っていた。

 

「セトントもこれくらいの実力がある、やっぱりこの差は簡単には埋まらないんだな」

 

 言い終えたカイズはその場で自信を無くし、うつけたように立ち尽くしていた。クオンは返せる言葉が見つからなく焦る。

 

「次は、僕がクオンと戦ってみようかな」

 

 カイズの隣には、トロナツとブイゼルがいた。

 


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