アイドル部短編集   作:F.ヴィンケル

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深夜のテンションで書きました。
本当申し訳ないです。
寛大な心で見て頂けると幸いです。
罵倒されても、それはそれで←


Never Knows Best

「見渡す限り青一面の空」

 

空を見上げて、少女はくるりと回る。

 

「誰も居ない屋上に、学園一の美少女」

 

透き通る様な銀髪を空中で泳がせながら、彼女は私の前に躍り出る。

 

「そんな良い女が吸ってる煙草はNever Knows Bestかな?」

「ただの電子タバコ…にゃん」

 

私のとってつけた様な「にゃん」に、彼女…夜桜たまは私に笑いかけた。

 

「おかしいわね、学内は全面禁煙の筈よ。花京院ちえりさん?」

 

恐ろしく整った綺麗な顔立ちに、同性でも胸の鼓動が加速してしまいそうな優しい笑顔。

そんな〝胡散臭い〟笑顔を他所見に、私は電子タバコを口から離して煙を吐く。

吐き出した煙はゆらゆらと虚空を登った。

 

「学園のアイドルのこんな場面見たら、皆んな卒倒するだろうね」

「授業バックれて屋上でサボろうとしてるカリスマ生徒会長様がよく言う」

 

憎まれ口に憎まれ口を返すと、夜桜たまは私の隣に腰を下ろした。

 

「あら?私は体調が悪いから少し休んで戻る予定よ?」

「休憩するなら保健室なのではー?」

「保健室でしか休んではいけない、と言う規則はないかなー?」

「屁理屈ばかり言う悪い子はここかにゃん」

「あうっ」

 

軽くチョップすると、たまちゃんは大袈裟なリアクションを取りながら、よよよっと私から距離を取った。

 

「酷い…DVよ…!!」

「驚いた。ちえりはたまちゃんと籍を入れた覚えはないが」

「結婚しよう」

「まだ、引退するつもりはないにゃん」

 

笑顔で即答すると、たまちゃんはキリッとした表情から打って変わって絶望した表情に変わる。

そのギャップに耐えきれず、私は思わず吹き出してしまった。

 

「にゃ、にゃはっ…たまちゃんそれはずるいにゃ…くくっ…」

「ちえりちゃんの負けー!いぇい!ジュース奢りね」

 

たまちゃんは悲しそうな顔を崩さずに、器用に嬉しい声を出しながらガッツポーズをとる。

それがまたツボに入り、私はしばらく声を押し殺しながら笑った。

 

「しかし大丈夫なの?いくら〝目〟や〝耳〟がないからって堂々とサボって煙って」

 

私が大きく深呼吸をして落ち着くと、たまちゃんが首を傾げながら問いかけてきた。

いちいち仕草が可愛いのが腹立つ。

 

「たまちゃん…。煙って言い方おっさん臭い」

「うるさい、黙れ」

「怖い怖い。大丈夫だよ。大胆な方が、意外とバレないものよ」

「そう言うものかしら」

 

半信半疑な顔でそう言うと、たまちゃんは私から電子タバコを奪い、軽く吸って煙を吐き出す。

 

「チョコレートの味がする」

「チョコレートフレーバーにゃん」

「初めて吸ったけど、煙草って言うより、味付きの煙を食べてる気分」

「ちえりちゃんは未成年故、煙草はダメにゃん。というかたまちゃん吸ったことあるの?」

「いや、私も吸った事はないけど、雀荘とかでよく吸う匂いはもっと重い感じだから」

「あー」

 

納得しながら頷く。

文武両道、容姿端麗。教師生徒からも信頼が厚い、我らが生徒会長が所属しているのは、麻雀部である。

彼女は麻雀が大好きだ。

しかもプロ顔負けの強さ。

しかし、麻雀部は人数不足の閑古鳥状態だった。

まぁ、原因はたまちゃん本人のせいなのだが…。

 

彼女は普段は先ほど述べた通り、完璧超人の優等生だ。

余りにも恐れ多くて、一般の生徒が入部しない、というか近寄ってこない。

だから、大体彼女は部室では無く、普通の麻雀を打つ事が多い。

ちなみに私も仮部員だったりする。

あまりに、可愛そうだったので、名前を貸してあげたのだ。

優しいちえりちゃんとかわいいぞ!

 

「ところでたまちゃん」

「んー?」

 

スパスパと煙で遊びながら、話半分に返事をする彼女。

吸える回数が決まってるのだから余り無駄打ちしないでほしい。

 

「さっきのねばーなんたらって、煙草の銘柄かなんかにゃん?」

「Never Knows Best?」

「そうそれ。ネバーノウズベスト?」

「あー、そんなものかなぁ」

 

記憶力が良い彼女にしては珍しく曖昧な返答に、私は疑問の表情をたまちゃんに向ける。

彼女はこちらを見るわけでもなく、青い空を見上げて、煙を吐いていた。

私も特に何も言わずに空を見上げる。

 

「ちえりちゃん…。『人』ってさ…、何が正しいか、何が悪いのか。悩んで生きてるよね」

 

たまちゃんは何気なく、当たり前の言葉を溢す。

恐らく彼女の中ではまだ整理がついてないのだろう。

うまく言葉で表現できない、ぎこちない喋り方であった。

 

「悩んでさ、悩んで悩んで悩んで出た答え。それが自分にとっての正しさで、他人にとっての間違えだった時」

 

ちらりと隣に目線を向けると、空を見上げながら呟く彼女の声は、少し震えていた。

上手く髪に隠れて、彼女の瞳は見えない。

 

「ちえりちゃんならどうする?」

 

空を見ていた彼女の視線と、彼女を見ていた私の視線が交差する。

ゆらゆらと彷徨う、彼女の瞳。

今にも折れそうな、今にも消えてしまいそうな表情。

ちえりには彼女が何に悩んでいるのかは解らない。

私は馬鹿だから、彼女の苦悩を理解する事が出来ない。

 

だから私は答える。

 

「そんなもの、知らないにゃん」

「え?」

「それはたまちゃんが悩んで答えを出さなきゃいけない問題だよ。だから、ちえりからは何もアドバイスは出来ないし、答えの提示出来ない」

 

それは逃げになるから。

 

私は立ち上がると、惚けた彼女から電子タバコを奪い取る。

最後に一回だけ吸って、大きく吐き出しながら、屋上の出口に向かう。

 

「ただ、私なら。ちえりなら、ちえりが正しいと思った道を進むよ。たとえ周りに反対されようが、悪だと罵られようが知るか。それが私の選んだ道だ。まぁ、ただ…」

 

一度言葉を止めて振り返ると、たまちゃんは泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。

 

だから私は答えてあげる(笑ってあげる)

 

「本当に間違っていたら、たまちゃんが、アイドル部のみんなが止めてくれるでしょ?

だから、たまちゃんも安心して間違えるといいよ。そしたらちえりちゃんが可愛さドバドバで止めてあげるから」

 

ちえりの今日一番の、とびきりの笑顔で(答え)

 

「それじゃ、ごきげんよう。Dear My Friend(夜桜たま)?」

 

たまちゃんは驚いた顔して固まっていたが、私はそれを無視して踵を返すと、ひらひらと手を振りながら、授業終了のチャイムを聞きながら屋上を退出した。

 

 

ーーーー

 

「アドバイス…してんじゃん…」

 

チャイムの音を聞き流しながら、彼女が出て行った扉を見つめる。

 

「そっか…簡単な事だったよね…」

 

静かに目を閉じる。

視界を閉じても瞼に焼き付いた、最後に見せてくれた、〝彼女が私にだけ魅せてくれた〟とびきりの笑顔。

 

(何を怖がっていたのだろうか)

 

例え私が全ての『人』から嫌われてしまっても、少なくとも〝彼女達〟は私のそばにいてくれるだろう。

 

(ならば、答えは決まっている)

 

例え私がどんな失敗をしても、彼女…花京院ちえり(私の素敵な友人)は私を救ってくれるだろう。

そしてきっと馬鹿だなぁと笑い話にしてくれる。

 

私は再び空を見上げる。

 

青空は心なしか、先ほどよりも綺麗に見えた。

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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