「かしこみかしこみかしこみもーす!!」
いろはが叫びながら勢いよく手を合わせると、彼女の身体が薄い光に包まれる。
【
彼女の能力は名前通り、本人さえ〝何が出るかわからない〟完全にランダム仕様。
まさしく彼女が好きそうな能力だ。
かなり使い勝手が悪い力だが、当たれば無類の強さを発揮する。
「お?これは?」
あずきは注意深く観察する。
いろはの能力は確かに使い勝手は悪いが、ランダムが故に対策が取れない。
初見で対応しなければならないのに、初見殺しもあるのだ。
しかも、彼女の様子的に恐らく〝当たり〟を引いた。
あずきは内心舌打ちをする。
「いっくよー!!あずきちぃ!!」
いろははその場で元気よく腕を振り回す。
その様子を平然を装いながらあずきは頷く。
「はい、いつでもどうぞ」
「それじゃぁーーーー」
ぶんぶんと回していた手を止め、ギリギリと背後に腕を絞りながら腕を上げる。
まるで野球のアンダースローの投げる前のような格好だ。
刹那、あずきの脳内に警報が鳴り響く。
即座に自分の脳天気さに後悔すると同時に、いろはが咆哮と共に勢いよく腕を振り上げた。
「っとべぇ!!」
瞬間、あずきの華奢な身体は地面に叩きつけられた。
ーーーーーー
【怪力乱神】
いろはが今回引いた能力は大当たりであった。
〝彼女自身理解できていない、理解できない能力〟
今も拳を振り上げたのに対して、あずきは地面に〝叩きつけられた〟のだ。
ー理解不能ー
故に、防御も回避も、はたまた反撃さえも許さない。
恐らく今まで引いてきた中では一番〝当たり〟の能力だ。
しかし、しかしだ。
金剛いろは外面笑顔を出しながら、内面では高揚を抑えて、冷静に思考する。
相手はあの〝木曽あずき〟だ。
この程度で終わる訳がない。
〝木曽あずき〟がこの程度で倒れるわけがない。
いろはあずきに攻撃が入った瞬間に、既に次の行動に移っていた。
あずきに注意を払いながら、姿勢を正すと合掌をし、静かに目を瞑る。
「毘沙門天」
いろはの透き通るような声響く。
発声と共に右手を出すと、突如虚空から巨大な槍を持つ手が現れ、現れたのは槍に、炎が纏わり付き、倒れたあずきを串刺しにする。
本来は〝炎〟は出現しない。
恐らくは、能力の影響だろう。
「十一面観音」
続け様に、一歩踏み出し軽く腕を払う。
今度は水で出来た平手が上空からあずきを押し潰し、発動したーーの能力が身体ごと、周り一帯を切り裂く。
「如意輪観音」
流れる様に、両手を広げる。
すると、水で出来たら手は霧散し、鋼の様な四本の腕が現れる。
四本の腕は、まるで虫を潰すかの如く、あずきを交互に叩き潰し、最後に二本の腕が現れて、彼女の身体を宙に掬い上げる。
「不動明王」
いろはが地から天へと突き上げるように右手を振り上げると、無防備に空中に挙げられたあずきの身体を、紅蓮に輝く倶利伽羅剣が一閃。
遅れて、灼熱の轟音を上げて彼女を包み込む。
「愛染明王」
天女の如く、いろはがくるりと一回転する。
灼熱の炎を中心に蓮の華が開き、炎と共にあずきを包見込み、眩く光を放つ。
「聖観音」
また一歩踏み出す。
同時に蓮の華の上に巨大な仏の足が出現し、彼女を華ごと地面へと踏みつけた。
「阿弥陀如来」
法界定印の形で鳩尾の前で合わせる。
踏みつけられ地面から浄化の光の柱が、雲を割り、天へと昇る。
「弥勒菩薩」
右手を思惟手の形しに、左手を下に向け、手の平を前に向けると、いろはの身体を神々しい光が包み、後光を放ち始める。
その姿は、まさに仏の化身。
否、金剛いろは〝神仏〟へと昇華した。
「文殊菩薩」
彼女の頭で結んでいた、〝護符で作った〟2つ結びのリボンが解け、黄金の髪が宙を舞う。
静かに左足を半歩だす。
半身の姿勢で両手を上に挙げると、光が集約して、〝敵〟を穿つ剣となる。
「諸行無常ーー参る」
開眼した瞳は、穢れを赦さぬ黄金。
言葉と共に大きく右脚を踏み込みながら、光の剣と柱が激突する。
瞬間
閃光
虚無
世界は浄化する
浄土の空間
黄金に輝くは1人の巫女
永遠にも続く一瞬
「南無阿弥陀仏」
黄金の鐘の音に、世界は動き出す。
世界に色が、音が、感覚が戻る。
静かに合掌し、〝神〟は〝少女〟へと戻っていた。
ーーーー
「はぁ…」
深く、深く溜め息を吐き、いろははボリボリと頭をかきながら瞳を開く。
元に戻った、エメラルドの様な黄緑の瞳を濁しながら、顔を歪めて正面を見据える。
「あー……」
予想はしていた。だからこそ、最大の火力で、最高の状態で放った奥義。
そこに【
「いやまぁ、わかってたけどー」
そこに佇むは、紫の少女。
「あずきちさー」
最初に対面した時と〝同じ姿〟でこちらを見る、紫の少女。
「無傷って…あんた…」
いろはの投げやり言葉に、紫の少女は表情を変えず、軽く両手を肩の高さに上げて応える。
少女どころか、いろはが穿ち、無に返した空間すらも〝元に戻っている〟。
「【
そう呟くと、あずきの足元に人の頭のサイズはあろう、特大のネジが出現した。
あずきはその上に器用に乗ると、両手を広げてバランスを取る。
すると、どう言うことかネジが回転を始め、その上に乗ってるあずきも両手を広げたままゆっくりと回転を始めた。
「わー!!卑怯だチートだインチキだぁああ!!」
「いや、金剛さんこそ神社のくせに仏の力って…」
「いーじゃん!!お寺も神社も似たようなものでしょ!?」
「いや駄目ですよ。そんなので何故仏様の力使えるんですか」
「カッコいいから頑張ったら出来たー」
「…あなたの方がよっぽどチートですよ」
くるくる回りながら、呆れた顔をするあずきに、いろはは訳がわからないと顔を傾げた。
「あーあ、結局詰まるところも、詰まるとこ」
「…!?」
いろはが言おうとする言葉を瞬時に理解して、あずきにとっては珍しく慌てて止めようとする。
しかし、一足早くいろはは言葉を紡いでしまう。
「また勝てなかった」
「………あう」
台詞をとられたあずきは、ネジで回転しながら器用に落ち込む。
そんなあずきの心情など露知らず、いろははそろりそろりと近寄ると、「隙ありっ」とあずきを抱きかかえた。
「お腹減ったからラーメン行こうぜぇ!!あずきちぃ!!」
「あれ程の力を使ってお腹減ったで済むのは羨ましいです。普通半年は動けないですよ。いろはさんの奢りですね」
「えーなんでさ!?」
「自分の胸に聞いてください」
「えーわかんないっ、あずきちに勝てねーくそー」
そう言いながらも全く気にしてなさそうな笑顔で、あずきを下ろして、「早く、早くー!!」と元気よく手を引っ張るいろは。
紫の少女はため息を吐きながら、そっと聞こえない様に呟く。
「私も勝てませんよ…いろはさんには」
自然に引っ張られている手を、ほんの少しだけ握り返すのだった。
前を向く少女に、見えない様に微笑みながら。