全滅の刃   作:秋町海莉

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壱話 最終選別・前編

 高鳴る鼓動。痺れる全身。体が熱に犯されるのを感じ、無意識にも日輪刀を引き抜いた。鈍色に光る切っ先を前に笑みを浮かべ、一度左右に斬り払う。ビュン、ビュン、と音を立てて斬り払っていると、今すぐ何者かを斬り殺したくなってしまう。鬼でも人間でも、誰でもいい。早く首を斬り落としたい。そう、舌なめずりをした時だった。

 

「た、助けてくれよぉ」

 

 剣士とは思えない情けない声が聞こえてきた。声の聞こえてきた方向へと目を向けてみると、金色の派手な髪をした少年の姿が。もういい、彼奴にしよう。あの派手な髪色の少年でいいだろう。そんな事を考えながら、俺は少年へと足を向けた。

 

「む、無理だぁ。無理だよぉ。誰かぁ。誰か助けてくれよぉ」

 

 俺は少年の言葉に疑問を抱いた。助けてくれ、と言ったのか。もしや、あの少年は今まさに鬼に喰われようとしている? そうとなれば話は別だ。俺も一応は鬼殺隊の最終選別に挑戦した剣士の端くれ。鬼と人間、どちらを選ぶかと聞かれれば、俺は鬼を選ぶに決まっている。人間に罪はないのだからな。幸いにも、少年を喰おうとしている鬼は十二鬼月とやらではない、ただの雑魚鬼である。

 刀を一度握り直し、舌なめずりをする。そして、壱ノ型の構えをした。

 

「鏡の呼吸、壱ノ型」

 

 刀身を地面へと下ろし、雑魚鬼を一睨する。

 

鏡面双極(きょうめんそうきょく)

 

 刀を鬼の首目掛けて勢いよく振り上げた。神々しい輝きを放ち、刀は鬼の身体を縦に斬り飛ばした。

 

「う、うあ? いつの間に」

 

 鬼の右半身と左半身の口が同時に動く。何とも気持ちが悪い。その為、というわけでもないのだが、弐度目の攻撃を打ち込んだ。今度はしっかりと、首を刎ね飛ばした。

 

「弱過ぎる。弱過ぎるぞ、この鬼は。もっと手応えのある鬼を殺したい」

 

 刀に付いた不潔な血を振り払い、鞘へとしまう。派手な髪色の少年と言えば、あまりの恐怖に腰が抜けているようだ。口を大きく開けたまま、何も言わない。命を救ってやったと言うのに、無礼な少年だ。だが、頬や服に付いた砂埃から見ても、少年はなかなかの手練れであろう。

 

「俺が直々に助けてやったんだ。死ぬんじゃねぇぞ、少年」

 

 俺は鋭く言い放つと、少年を一瞥することなく駆け出した。

 

――――――――

 

 面白そうな鬼を見つけた。体全身を長い数十本の腕で覆った異形の鬼だ。名付けるなら、そうだな。手鬼、だろうか。

 

「鱗滝が殺したようなもんだぁ」

 

 ぬめりのある声を上げ、手鬼は不気味な笑みを浮かべた。手鬼の前に立つ少年は怒りで打ち震え、もう一人の座り込んだ少年は顔面蒼白になっている。

 ああ、可哀想だ。あの少年は何とも可哀想だ。早く俺が斬ってやろう。手鬼を殺してやろう。それはまさに、塵の如き扱いで。俺が斬り捨ててやろう。

 音を立てることなく地面を蹴り、異常な速度で手鬼の間合いに入る。手鬼の視線は未だに少年へと向けられており、俺の存在になどは気付いていない。

 何たる弱さだ。こいつに生きる価値はないな。

 

「鏡の呼吸、弐ノ型」

 

 刀を素早く引き抜き、強く柄を握り締めた。

 

残面鏡(ざんめんきょう)

 

 斜め、横、縦と順に刀を振り下ろした。手鬼の体を覆っていた無数の腕が一瞬にして切り刻まれ、手鬼の貧相な体が露わとなる。

 

「き、君は!」

 

 少年の声が聞こえたので、俺は一瞥する。目を凝らしてみると、少年の額には大きな火傷があった。

 

「気にするな。この鬼は弱い」

 

 宙で飛んだまま刀をしまい、手鬼へと視線を戻す。すると、いつの間にか腕の復元が異様な速度で進んでいた。すぐに首を斬ればよかっただろうか。まあいい。

 

「俺がお前の頭を掴みつぶしてやる」

 

 手鬼の腕が俺に向かって伸びて来る。だが所詮、十二鬼月でもない雑魚だ。もしかすれば、手鬼は俺の成長の糧にもならないかもしれない。それなら早めに殺した方がいいな。時間の無駄だ。

 俺は右腕に力を込め、拳を握り締めた。

 

「手鬼術、手鬼!」

 

 俺の右腕が勢いよく伸び、手鬼の腕を突き抜けて行く。俺の腕はどんどん伸びて行き、遂にはあの手鬼の首に風穴を開けた。

 とどめだ。

 

「鏡の呼吸、参ノ型。鬼鏡音雷(ききょうおんらい)

 

 音よりも、雷よりも速い速度で手鬼の首を突き刺した。プチン、という音と共に手鬼の首は潰れ、丸い頭は地面へと落ちる。誰も、俺の刀を引き抜く瞬間など見えなかっただろう。

 地面に着地し、刀に付いた血を振り払う。

 

「お、俺の首が、斬られただと? それにお前、今の術・・・」

 

 手鬼の体が少しずつ消えて行く。真っ黒な灰となり、宙に舞い始める。何とも滑稽な姿である。

 その時、額に痣の付いた少年が手鬼へと駆け寄っていくのが見えた。憐れむ様にして手鬼を見つめるその瞳は、炎よりも温かい。そして少年は、手鬼の角ばった手を両手で覆い瞳を閉じた。

 

「・・・・・・お前、名を何という」

 

 人間は鬼を憎むものではないのか? 鬼に顔見知った者を喰われたことは無いのか? お前は、先程まで怒りを露わにしていたではないか。

 額に痣の付いた少年は手鬼の手から手を離し、俺へと視線を向ける。

 

「竈門炭治郎。育手、鱗滝左近次の弟子だ」

 

 鱗滝左近次と言えば、元水柱で有名な男である。そんな鱗滝が育手になっている事も知らなかった。それに、こいつが。竈門炭治郎が鱗滝の弟子だと? 一体、どういう事だ・・・。

 いや、分からない事を考えても無駄なだけか。それに、あまり興味を感じないしな。

 取り敢えず、俺は名を名乗ることにした。

 

「俺は鏡音雷鬼(かがみねらいき)だ。師はいない」

 

 必要最低限の自己紹介を済ませた頃には手鬼の姿は消え去っていた。座り込んだ少年も消え、辺りは静寂に包まれる。

 

「竈門、俺は先に進む。お前は少し休息でも取れ。じゃあな」

 

 俺は刀を鞘へとしまい、一つ小さな溜息を吐いた。

 地面を蹴り、走り出す。走り出す直前、竈門が何か言いかけていたが何を言おうとしていたのだろうか。

 ・・・まあ、竈門が最終選別を突破した時にでも聞けばいいか。

 そんな事を考えながら、俺は走り続けた。




好きな鬼滅キャラ、コメントで教えてくれると嬉しいです。
ちなみに僕は煉獄さん推しです。
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