全滅の刃   作:秋町海莉

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弐話 最終選別・後編

 最終選別が始まり四日が過ぎた。あれから、竈門や派手な髪色の少年とは出会っていない。手鬼のような異形の鬼も他にはおらず、手応えの無い雑魚鬼ばかりだ。というか、山頂を過ぎた辺りから鬼の数が異様に減っている。誰かが狩り尽くしてしまったのだろうか。

 そんな事を考えていると、巨木の影からまた鬼が姿を現した。何の変哲もない、通常の雑魚鬼である。

 

「・・・・・・邪魔だ」

 

 型を使うことなく鬼の首が斬れた。鬼は短い悲鳴を上げて倒れたようだが、鬼の体は視界の外なのでどうでもいい。俺は兎に角、斬り殺せたらそれでいいのだ。

 

「よくも俺の仲間を殺ってくれたな!」

 

 木の葉の揺れる音と共に、一匹の鬼が降り立った。背中には巨大な翼が生えている。名付けるなら、翼鬼だろう。まあ、そんな事はどうでもいい。漸く、手応えのありそうな鬼が出てきたのだ。じっくり時間をかけて、痛めつけてやろう。

 俺は刀を引き抜き、切っ先を翼鬼へと向けた。翼鬼は目を赤く染め、勢い良く飛び上がった。

 

「ふはははははっ。人間を70人以上喰った俺に勝てるわけないだろ!」

 

 遥か上空から響く翼鬼の笑い声。何とも不快だ。苛つく。もういい、一太刀で殺してやる。

 刀を構え、俺は翼鬼を追うようにして勢い良く飛び上がった。

 

「無駄だ! お前のような人間が、俺のように飛べるわけないだろ!」

 

 腹を抱え、空中で転げ回る翼鬼。やはり、この鬼は頭が悪いようだな。相手の実力が分からないような鬼は、この先生きていけないぞ。

 

「血鬼術、翼鬼!」

 

 背中の違和感と共に、翼が生えた。白い、清らかな色をした翼である。

 

「う、嘘だろ。人間が、血鬼術?」

 

 動揺を露わにした翼鬼が、何とも滑稽だ。不意にも、俺は気持ちの悪い笑みを浮かべる。

 

「鏡の呼吸、肆の型」

 

 急激な速度で翼鬼へと接近し、俺は刀を振り上げた。禍々しいまでの威圧を放ち、翼鬼の首を凝視する。

 

鏡力壊落(きょうりょくかいらく)!」

 

 翼鬼を越えた時、俺は翼鬼の脳天めがけ刀を振り下ろした。風を切る轟音が空に吸い込まれ、翼鬼は恐怖で顔を蒼く染めた。

 

「う、うああああああああああああ!」

 

 大きな悲鳴を上げ、目の端にはうっすらと涙を浮かべている。何とも貧弱だ。何とも軟弱だ。この程度の鬼で70人以上喰っているという真実が理解できない。

 そして、振り下ろされた俺の刀は。

 

「・・・・・・は?」

 

 呆気なくも空を斬っていた。

 おかしい。おかしいだろ。何故だ? 何故、俺の刀は空を斬った?

 慌てて、俺は周囲を見回した。

 

「アイツか」

 

 一人の男を見つけた。上半身裸で猪の被り物をした男である。何やら高らかに笑い声を上げ、日本の刃毀れした刀を振り回している。

 

「やったぜ、やったぜ。俺が先に斬ってやった!」

 

 木の枝の上で子供のように飛び跳ねる猪男に俺は腹を立てる。アイツだ。アイツの所為だ。アイツの所為で俺の刀は空を斬ったんだ。それなら。

 

「殺してやる!」

 

 目を血走らせ、俺は猪男目掛け急降下した。俺自身が一発の弾丸となり、逆風を突き抜けて行く。俺は刀の切っ先を猪男に向けた。どうやら、猪男はまだ気付いていないようだ。

 

「鏡の呼吸、伍の型! 弾丸白銀境(だんがんはくぎんきょう)!」

 

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 

「殺す!」

 

 俺がそう叫んだ時、猪男はこちらを見つめていた。刀の切っ先は地面に向けられている為、反応したところでもう遅いだろう。心臓を突き刺せば終わる。

 

「っ!」

 

 俺の刀は猪男の左胸を突き抜けていた。猪男は吐血し、膝をつく。心臓を刺されたのだ。死んで当然である。

 俺は猪男の動きが止まるのを見届け、ゆっくりと刀を引き抜いた。刀の血を振り払い、鞘にしまう。猪男は、被り物の口元から血を流し、倒れ込んだ。

 

「お前は、俺の邪魔をした。恨むなら、自分を恨め」

 

 俺はそう言い残し、その場を後にした。

 

――――――――

 

 最終選別が始めり、遂に七日が過ぎた。あの二人の話が本当なら、今この場にいる剣士全員が鬼殺隊の一員になるようだ。

 見たところ、俺を含めて今のところ五人か。桃色の着物を着た少女、鼻の上に傷のついた目つきの悪い少年、派手な髪色をした少年、そして竈門炭治郎。予想よりも遥かに数が多い。

 

「あ、雷鬼じゃないか!」

 

 竈門は俺を見るなり、手を大きく振りながら駆け寄ってきた。頬や水色の袴には土埃が目立っている。竈門も竈門で頑張っていたという事か。

 

「竈門、お前も生き残ったか」

「ああ! 雷鬼も生き残ったようで良かった!」

 

 目つきの悪い少年は、和気藹々とした空気を漂わせる俺と竈門を一瞥し舌打ちをした。派手な髪色をした少年は、「死ぬ。絶対死ぬ」と呟いている。桃色の着物を着た女は蝶と戯れていた。こんな奴らが生き残ったて、鬼殺隊は本当に大丈夫なのだろうか。

 その時、説明をしていた例の二人組が姿を現す。

 

「「お帰りなさいませ」」

 

 仏頂面で言う二人に目つきの悪い少年が言葉を投げかける。

 

「で、俺はこれからどうすりゃいい?」

 

 目つきの悪い少年は一拍とって言葉を付け足す。

 

「刀は?」

 

 刀を欲しがる少年を前に、二人はこう答えた。

 

「まずは、隊服を支給させていただきます」

「体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます」

「階級は十段階ございま」

「ま、待ちやがれ!」

 

 誰かが説明を遮った。だがしかし、この声は竈門のものでも、少年二人のものではない。ましてや、あの少女のものではないだろう。

 俺達は、声の聞こえてきた後方を振り向く。

 

「俺がまだいるだろうが」

 

 何とびっくり。振り向いてみると、そこには殺したはずの猪男がいた。体中に傷が付いている中、左胸の刺し傷が特に目立っている。俺が付けたものでる

 

「おお。おお! 猪男、生きていたか!」

 

 満面の笑みで言う俺を目にし、猪男は胸を張ってこう言った。

 

「俺は体が柔軟なんだよ。心臓の位置をずらす事なんて造作もねぇ」

 

 心臓の位置をずらした? そんな芸当、人間に出来るのか?

 俺は試しに心臓をずらしてみる。が、特に柔軟というわけでもない俺に出来るはずがない。

 そんな俺と猪男の会話を終わらせるように、手を叩く音が響いた。そして、二人は説明を再び始める。

 

「階級は十段階ございます」

「甲」

「乙」

「丙」

「丁」

「戊」

「己」

「庚」

「辛」

「壬」

「癸」

「今現在皆様は、一番下の、癸でございます」

 

 成程。新入りである俺達は、強制的に一番下の階級になるのか。

 関心を見せる俺とは別に、とある物に執着を見せる少年が呟く。

 

「刀は?」

 

 目つきの悪い少年は、刀好きか何かなのだろうか。ここまで執着心を見せる程だ。名の高い愛好家なのだろう。だがしかし、そんな愛好家の少年の気を二人が分かるはずがない。

 

「本日は、刀を作る鋼、玉鋼を選んでいたただきますが、刀が出来上がるまで十日から十五日かかります」

 

 と、冷たく答える。案の定、それには少年も溜息を漏らし「なんだよ」と呟きを漏らした。

 

「その前に」

 

 二人が二度手を叩くと、鴉の声が聞こえてきた。六羽の鴉が姿を現し、それぞれの腕に留まった。派手な髪色の少年だけは、鴉が逃げてしまったようだ。まあどうでもいいが。

 

「今から皆様に、鎹鴉を付けさせていただきます」

「鎹、鴉?」

 

 竈門が首を傾げた。

 

「鎹鴉は、主に連絡用の鴉でございます」

「鴉? これ、どう見ても雀じゃね?」

 

 派手な髪色の少年が唖然とした表情で二人を見つめた。だが、それを遮るようにしてとある少年が叫ぶ。

 

「ふざけんじゃねぇ!」

 

 目つきの悪い少年である。少年は、鴉の留まった右腕を振り払い、二人へと近づき始めた。

 

「どうでもいいんだよ! 鴉なんて!」

 

 少年は白髪の少女の髪を掴み、言葉を続けた。

 

「刀だよ。刀。今すぐ刀寄越せ。鬼殺隊の刀。色変わりの刀!」

 

 どうやらこの少年は学習能力がないようだ。先程、刀は十日から十五日かかると言われたというのに。もうその事を忘れている。阿保にも程があるだろう。

 だがしかし、俺はその現状を笑って見過ごす程、腐ってはいない。

 

「おいおい少年。手を離してやれよ」

 

 優しい口調で話しかける俺を、横目で睨み付ける少年。だがしかし、俺が笑みを崩す事は無い。

 

「離さないって言うなら、お前の腕を斬るぞ?」

 

 刀に手をかけ、俺は脅しをかけてみる。

 

「やってみろよ」

 

 俺は刀を振り下ろした。

 

「いっ」

 

 無くなった右腕を押さえ、少年は数歩後退った。少年の右腕が地面に転がり、竈門達がそろって顔を顰めた。あの桃色の着物を着た少女だけがまだ笑っている。

 

「お話は済みましたか?」

 

 黒髪の少女はそう言うと、机にかかった紫色の布を取った。机の上には、幾つもの玉鋼が置いてある。

 

「では、こちらから、玉鋼を選んでくださいませ」

 

 二人はそういう物の、俺には同じものに見えて仕方ない。

 

「鬼を滅殺し、己の身を守る鋼は、ご自身で選ぶのです」

 

 そんな二人の言葉を遮るようにして派手な髪色の少年が呟く。

 

「多分、すぐに死にますよ。俺は」

 

 何とも場を乱す一言である。だが、竈門達は玉鋼選びに夢中の為、どうやら聞こえていないようだ。

 玉鋼を凝視する竈門達を余所に、俺はひっそりと手を上げた。

 

「俺に玉鋼は必要ない。この刀で充分だ」

「俺も同じだ。この刀があればどうでもいい!」

 

 猪男が俺の意見に賛同した。

 

「分かりました」

「それでは、お二人はお先にお帰りください」

 

 そう答えた後、二人は声を合わせて頭を下げた。

 

「「いってらっしゃいませ」」




前回よりもだいぶ話が長くなってしまい、本当にすみません。
ですが、二日連続投稿に関しては褒めてください。
次回も、三日連続とはいきませんが、できるだけ早く投稿するのでお楽しみに。
(PS 文章に関しては目を瞑って下さい
   それと、伊之助ファン、玄弥ファンの皆様、すみませんでした)

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