全滅の刃   作:秋町海莉

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前回の後書きに反し、三日連続投稿をしてしまいました。
今回は原作にはない、オリジナル展開ですのでお楽しみください。


参話 桃太郎・壱

 最終選別から三日が過ぎた晩。寝床に付こうと布団に潜り込んだ時である。一羽の鴉が俺に話しかけてきた。と言うよりも、一方的に仕事を押し付けてきたと言う方が正しいであろう。

 

「南南西! 南南西! 次の場所は南南西!」

 

 甲高い、悲鳴にも似た声で叫ぶ鴉を俺は睨み付けた。腰に刀を差していれば、今すぐにでも斬り殺していたのだが・・・。全くもって残念である。

 それにしても、この鴉はどうやって黙らせたらいいのだろうか。

 

「おい、鴉。うるさいぞ」

 

 俺は強気な口調で言い、拳を振り上げた。だがしかし、鴉は逃げ出そうともせず同じことを叫び続けている。どうしても俺に任務をさせたいようだ。

 

「分かった、分かった。分かったから、もう少し小さな声で話してくれ」

 

 もし、鴉の声で家族が起きたりすれば・・・・・・。想像しただけで悪寒が走る。俺の家庭は色々と複雑なのだ。上下関係とか。

 まあ、結局は静かになってくれればいい。それに限る。

 

「南南西の町に向かえ~。そこでは、鬼殺隊を名乗る鬼がいる~」

 

 鬼殺隊を名乗る鬼? 随分、知力に富んだ鬼がいるもんだな。もしかして、十二鬼月の下弦あたりか?

 

「鏡音雷鬼~。早く向かえ~」

「え? 今すぐ? 今すぐいかなきゃダメなのか?」

 

 俺の問いに鴉は頷き、また叫び始めた。

 

「南南西! 南南西! 鏡音雷鬼~! 早く行け~! 早く終わらせて、次の任務に向かえ~!」

 

 おいおい、鬼殺隊ってのはここまで任務を強要するもんなのか? それにこの鴉。最初よりも、声量上げやがった。

 本当に家族が起きちまう。

 

「い、今すぐ行けばいいんだな! 分かった! 今すぐ行く! 今すぐ行くから黙ってくれ!」

 

 俺は布団から飛び出し、箪笥(タンス)から隊服を取り出した。つい昨日、この鴉によって届けられたものである。

 

「早くしろ~! 鏡音雷鬼~、早くしろ~!」

 

 家族が目を覚ます事を恐れながら、俺は隊服へと着替えた。時折、障子越しに確認してはいるが、怖いものは怖いのである。

 

「よし、出来た! 出来たから、本当に静かにしてくれ!」

 

 俺はこの時、とある事を誓った。

 次、この鴉が夜中に騒いだら焼き鳥にして家族に喰わせてやろう。

 

――――――――

 

「到着~。到着~」

 

 約5時間もの時間をかけ、南南西の町とやらに到着した。深夜4時という事もあり、町は静寂に包まれている。

 

「おい、五月(いつき)。こんな深夜で大丈夫なのか? 俺は暗闇でもはっきりと見える超視力なんて持ってないんだが?」

 

 町に向かう5時間の間、暇つぶしとして鴉に名を付けた。姓を蝿鴉(はえからす)、名を五月と言う。うるさいの漢字表記である、五月蝿いから漢字を拝借させてもらった名だ。この鴉には、ぴったりの名前だろう。

 

「ももたろさーん! ももたろさーん!」

 

 突然、五月が誰かの名を呼び始めた。もしや、桃太郎とかいう名前にでもなりたかったのだろうか。

 

「おい、五月。誰だよ、桃太郎って」

「ももたろさーん! ももたろさーん!」

 

 本気で五月に対する殺意が湧いてきた。今すぐ切り刻んでやりたい気分だ。

 イライラとする心を抑え、俺は町を見回した。一見、俺の町とはなんら変わりないのだが・・・。本当に鬼が現れるのだろうか?

 

「おいおい、誰だよ全く。こんな時間に俺の名前を呼ぶ奴はー」

 

 背後から若い男の声が聞こえてきた。

 俺は慌てて振り返り、刀を構える。

 

「・・・・・・え? 動物?」

 

 俺の前に現れた男の後ろには、三匹の動物がいる。犬、猿、雉の三匹である。この三匹と言えば、童話『桃太郎』の家来の三匹であるが・・・。何か違う。その、何というか。

 人間のような体格をしているのだ。

 

「おいおい、どうかしたか? 俺達の身体何か変か?」

 

 猿が頭を掻きながら言う。手足や胴体の長い猿は元から人間のような体格をしているが、赤い顔と尻、それに尻尾だけは隠す事など出来ない。こいつは、紛れもない猿だ。

 

「まさか、僕達が動物に見えたりなんて、してないですよね?」

 

 犬が鼻をひくひくさせながら言う。明るい茶色の髪は犬の耳のように尖っており、犬の牙も生えている。確かに、一見小柄な美少年と言う風にも見えるのだが、やはりこいつは犬である。

 

「まさかのまさか、私達が鬼だなんて思ってないわよねぇ」

 

 雉が腕を上下に振りながら言った。鳥類特融の趾をしており、腕からは薄っすらと緑色の毛が生えている。何度目を擦ろうが、頭を叩こうが、雉に関してはただの擬人化途中の雉としか言いようがない。正直言って気持ち悪い。

 

「で? 何で、俺の名を叫んでたんだ?」

 

 男は太い筋肉質な腕を組み、目を細める。物言いからして、俺が叫んでいたと思っているようだ。そこまで、俺は常識知らずに見えるかな・・・・・・。

 俺は兎に角、答えることにした。

 

「いやなんだ、この町の茶菓子がうまいと聞いてな。その名前が『ももたろさん』というそうなんだ」

 

 何とも俺は嘘が下手のようだ。茶菓子の名を夜中に叫ぶ非常識人とでも思われたであろう。

 

「ああ、それなら『神野』っつう茶菓子店で売ってるぜ。あの建物を右に行った先にある、でかい店だ」

 

 いやいや、まさか本当に売ってるのかよ。まあ、名前からして桃の茶菓子という事は安易に想像できる。どうでもいいが。

 正直、今すぐにでも首を刎ね飛ばしてやりたいのだが、鬼殺隊に入った手前だ。一般市民という可能性がある者を殺すのは隊律違反になってしまう。鬼殺隊とは、なんとも面倒なものである。

 

「悪いな、助かった。ありがとう、桃太郎・・・でいいのか?」

「ああ、桃太郎で構わねえ」

 

 桃太郎は何とも気さくな奴だ。雰囲気が、どことなく竈門に似ているように感じる。

 

「俺は鏡音雷鬼だ。よろしく頼む」

「ああ!」

 

 俺と桃太郎は固く握手を交わす。

 

「取り敢えず、今日は宿屋に泊まるといい。こんな時間に店は開いてないからな」

 

 俺は桃太郎に続いて宿屋に向かう事にした




次回は柱を一人登場させる予定です。
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