今回は展開が本当に早いのでお気をつけて。
静まり返った宴会場で一人、酒を楽しむ桃太郎。酒器いっぱいに注がれた日本酒を流し込み、大きな音を立てて机に置いた。
「カァァ!!! やっぱり酒だよな!」
顔を赤く染めた桃太郎は、また酒器に酒を注ぎ始めた。酒瓶片手に一人酒とは、なんとも悲しい絵面である。
「一人酒か? 桃太郎」
背後から突然話しかけられた所為か、桃太郎は手元を狂わせ、畳の上へと酒を溢す。年季のはいった畳に酒が染み込み、シミとなる。
「あーあ、おいおい。どうしてくれんだよ!」
声を荒げ、桃太郎は振り返った。不満を少しも隠そうとはせず我を通す桃太郎に、一つ称賛の声が上げる。
「私を前にして臆さないとはな、気に入ったぞ。桃太郎」
桃太郎の額に激痛が走った。瞳孔を震わせながらも桃太郎は上を見る。
「嘘、だろ?」
色白の細い枝のような指が、桃太郎の額を貫通していた。驚きの状況に理解の追い付かない桃太郎。声の主は言葉を続けた。
「私の血を大量に送り込んだ。これで、お前も私の配下となる」
声の主、鬼舞辻無惨は額から指を引き抜き、双眸を細める。
「う、うが。あ、あう!」
小刻みに揺れ悲鳴を漏らす桃太郎ではあるが、着実かつ迅速に無惨の血に順応していた。そんな桃太郎に関心するように無惨は笑みを浮かべ、指に付いた桃太郎の血を舐める。
数秒後、桃太郎は無惨の血に順応することができた。
無惨は満足げに桃太郎を見つめ、言葉を発する。
「さあ、桃太郎。私の為に鬼を喰らえ」
桃太郎は一度、深く息を吸い、絞り出すように言葉を返した。
「・・・お任せくださいませ。無残様」
ーーーーーーーー
突然、宿屋から強烈な威圧を感じた。十二鬼月にも匹敵するであろう威圧に、俺と無一郎は目を見開いた。
「・・・今の、何だ?」
「何が起きたの?」
俺と無一郎の言葉が重なると同時に、周りの鬼達の頭が勢いよく破裂する。蹴鞠の玉が割れるような派手な音が連続的に鳴り響いた。
「やっぱ、こいつらは不必要な存在だったぜ」
感情のない笑い声を漏らし、その男は現れた。赤い日輪刀を肩に担いだ男を一睨し、無一郎は地面を蹴る。
「ありがとう、探す手間が省けたよ」
無一郎の刃が男の首を捉えた。鋭い切っ先が月光を反射し、無一郎は呟く。
「霞の呼吸、壱ノ型。垂天遠霞」
無一郎の姿が俺の視界から消えた。男の。桃太郎の表情も驚愕のものへと変わり果て、次に無一郎の姿を視界に捉えたときには。
「・・・嘘だろ」
桃太郎の頭は宙を舞っていた。無一郎の繰り出した突き技によるものだろう。
「君、そんな風格のわりに随分弱いんだね」
無一郎は音もなく刀を鞘へとしまう。桃太郎は顔面を蒼白させ、何かブツブツ呟き出す。無一郎は踵を返し、桃太郎へと背を向けた。
その時、俺はとある異変に気付く。
「消滅。しない」
鬼の死を断定する判断材料として、体の消滅は最もであろう。体全身が塵となって空へと舞い上がることによって、鬼の死が確定する。つまり、桃太郎は。この鬼は。
「まだ・・・。死んでない」
桃太郎は不敵な笑みを浮かべ、自信の頭を破裂させた。気付くと、桃太郎の胴体には既に元通りの頭が。あまりの驚きに俺は刀を落としそうになるも、何とか堪え、桃太郎に向かって駆け出した。今すぐ桃太郎の動きを止めないと、無一郎が危ない。
「鏡の呼吸、拾ノ型!
俺の刀の刀身がうねり出した。小刻みに伸縮を繰り返した末、刃は勢いよく伸びる。真っ直ぐ一直線に刃は伸びていき、桃太郎の頭を突き抜けた。
「雷鬼! やはり、貴様は鬼殺隊だったか!」
怒りで真っ赤に染まった桃太郎の顔が、脳裏に浮かんだ茹蛸と重なる。咄嗟に噴き出すのを堪えた所為か、全集中の呼吸・常中が途切れてしまった。
トクン、と心臓が跳ね上がり、体中に電流が走る。体中の内臓や筋肉、細胞に至るまでの全てが膨張し始めた。心臓の鼓動が徐々に速度を増し始め、俺の体に異変を与える。
「霞の呼吸、弐ノ型。八重霞」
そんな中、無一郎は桃太郎目掛けて攻撃を放った。桃太郎は頭を切り離して攻撃をかわし、すぐさま体勢を立て直す。無一郎は覇気のない表情から一変、鬼の滅殺だけを目的とするような鋭い表情になる。
俺は刀を地面へと落とし、理性を保ち続けるべく歯を喰いしばった。
今の俺は確実に危ない。理性を失い、誰彼構わず斬り殺してしまうかもしれない。それだけは絶対ダメだ。してはいけない。ダメなんだ。
「桃の呼吸、壱ノ型。桃離抜頭!」
「霞の呼吸、肆ノ型。移流斬り!」
桃太郎の刀と無一郎の刀が勢いよくぶつかった。甲高い音と共に両者刀が弾かれ、大勢が崩れる。今斬り込めば、確実に桃太郎の首を斬り落とせる。桃太郎も、頭を外しての回避は間に合わないはずだ。
俺は悦びだけを求める存在。全てを滅し、殺す最強の存在。こんなところで、止まるわけがあるか。
俺は素早く刀を拾い、眼を見開いた。
「鏡の呼吸、漆ノ型」
俺の振り下ろした刀は空を斬り、一陣の小さな竜巻を起こす。
「
小さな竜巻はゆらゆらと揺れ、人間へと姿を変え始めた。竜巻はいつしか幻影と変化し、俺の分身体を生み出した。幻鏡複写こそ、鏡の呼吸最強とも言える型であろう。
「「鏡の呼吸、霞ノ型」」
俺と分身体は姿勢を低め、桃太郎の間合いへと入った。
「「霞空粉鏡・肆」」
斜めに斬り上げた二本の刀が桃太郎の首を刎ね飛ばした。桃太郎の頭は唖然とした表情のまま地面に落ち、消滅を開始する。つまりは、死の確定である。
俺と無一郎は深く息を吐いて地面に倒れ込んだ。羽織が汚れることなど一切気にも留めず俺は仰向けになり、藍色の空に浮かんだ満月へと手を伸ばす。初の任務完了に悦びを噛みしめ、俺は言葉を吐き出した。
「全テ、壊シテヤル」
初の無惨様登場と桃太郎の鬼化のシーン、桃太郎が典型的なダメ人間過ぎました。
そしてたった一話で殺される桃太郎・・・、正直生死に関してはまだ悩んでます。
(PS 桃太郎のイキリト発言には書いてる僕も寒気を感じました)