綿飴なんて、祭りの時ぐらいにしかお目にかかる機会がない。
どんな食べ物なのか親に聞いてみると、フワフワした、雲のようなお菓子だと説明を受ける。
袋にパンパンに詰まったその姿と、いかにも子供の好奇心をくすぐるその文言に、興奮しながらおねだりをする。
その食い付きっぷりに満足したように笑みを浮かべると、今まさに雲を錬成しているおじちゃんに、綿飴一つと注文が飛んだ。
近付いて見ると、おじちゃんの手元がよく見えない。
仕方なく少し引いたところでチョンと背伸び。
グアングアンと、とても雲を作り出す装置としては恐ろしい音を奏でるドーナツ型の機械。
割られた割り箸は魔法の杖。
クルクルと回すと、何処からともなく現れた白い雲が巻き付いていく。
目の前で繰り広げられた衝撃の光景に、開いた口が塞がらない。
横から押しつけられた柔らかい物に正気を取り戻し、あれ、あれと指差して事の重大さを訴えるが、一度店に視線をやって、首を傾げられた。
言葉足らずな自分が、この時ばかりは恨めかしい。
必死に自分の知っている知識をフル動員して、何がスゴくてヤバいのか全身を使って訴え続ける。
ただその必死の訴えも、目の前に現れた白い塊によって、遥か彼方に追いやられてしまった。
お菓子にしては規格外の大きさ。
お菓子は夕食の後と相場が決まっていたが、ご飯の前でも食べ切れるかわからないその量に目を見開く。
綿飴を支える棒の部分を落とさないでねと渡されると、見た目に反して非常に軽い。
一瞬、自分が力持ちになったのかと錯覚して、まるで世界でも征服したように天高く綿飴を掲げて見るが、触ると以外や以外、ゴワゴワと今までのイメージとの違いにショックを受けた。
衝撃の事実に打ちひしがれていると、一つ頂戴と頭上から声が掛かる。
あまりの大きさに何処から手をつけて良いか見当が付かず、かといってこの巨大なお菓子を独り占めしたいそんな気持ちが板挟み。
結局、減ったのが見えづらい下の方を差し出すことで事なきをえた。
そんな気持ちを察したのか、小さく千切られた綿菓子が口の中に消えていった。
何でそんな面倒なことをするのか。
折角目の前に溢れるほどばかりあるのに、どうせなら口一杯に頬張ればいいのに。
見本を見せてやると、これまでの人生でもっとも開かれた口に、骨付き肉にでもかぶりつくように堂々正面を削り取った。
噛みちぎって甘い甘いと数度咀嚼すると、顔をしかめてしまう。
口の周りがベトベトする。
後、食べたところが黄色く点々となって汚い。
うへ〜と綿菓子を遠ざけると、洗ってきなさいと取り上げられた。
言われずともそうするさ、なんて捨て台詞を吐くこともなく、一直線に水道の蛇口に向かってゾンビのようにかけて行った。
きれいになった口周りを拭き取って、再び手中に収まった綿飴に冷めた表情で向き直ると、親の食べ方を思い出した。
汚くなったところをさらって、口に運んだ。
甘い、あと……消えちゃった?
一番賢い食べ方に、親の偉大さを思い知り、そのあとは仲良く食べ進めるのだった。
きれいになった割り箸の片っ方を見つめる。
クルクルと宙に掲げて回して見るが、どうやら修行が足りないようだ。