執事が大好きなお嬢様は、どうにかして執事に構ってもらいたい。 作:龍宮院奏
日菜にかくれんぼを挑んで、今現在仮眠ができる場所を…もとい隠れる場所探していると、大事な事を思い出した。
「制限時間が何時までか言ってなかった……」
早く寝たかったから、すっかり忘れていた。
どうしよう、今更出ていって『日菜、ちょっとタイムね。制限時間なんだけど』って言えないし……。
もしそんな事をしたら、『あ、朱那見つけた!これで今日の残りの間……、ワタシの言うこと何でも聞いてくれるんダヨネ……』って言われてお終いだ。
これは完全にやらかした……、久しぶりにどの選択肢でも死ぬ運命が来るやつ来た……。辛すぎて、愕然と肩を落とす。
「あ〜もうヤケクソだ……、隠れた後にメールでもして伝えるか」
返してもらった携帯を横目に見て、その場から再び隠れる場所を探しに走った。
「どうしよう、朱那の曲選が絶妙すぎる……」
最初に聞いた曲からグッと世界観に引き込まれて、その後から追い打ちを掛けるように、聞いている内にすっと意識が曲の中に溶け込む様な物が次々に流れてくるんだもん。
それに朱那が貸してくれたヘッドホンから流れる音が、良すぎるのが悪い。今まで使っていたのとは雲泥の差。その所為でいつの間にか、一曲のはずが五曲くらい聞いていた。
「このままじゃ、朱那を見つけるのが遅くなっちゃう。って、あれ?」
時計を見て焦り始めたが、携帯を見るとメールが来ていた。すごい…、何時もなら音ですぐ分かるのに……、このヘッドホン人を駄目にする代物だ。
それはともかくメールを開く、送り主は朱那だった。
『件名:すまん、一つ忘れてた
本文:制限時間を設けたけど、ちゃんと言ってなかったから言っておくね。このメールが届いてから、二時間以内に見つけ出せれば日菜の勝ち、出来なきなければ俺の勝ちだから。宜しくお願いします』
朱那が慌てて思い出した様子が、文面を見ただけでよく分かった。でも、これじゃあだいぶ時間が無いな。どうにかして見つけ出さないと……。よく見るとメールは一通だけでなく、もう一通来ていた。
「あれ、まだある」
もう一通のメールを開くと、こちらも朱那だった。
『件名:追伸、どうやった!
本文:俺の携帯にメアドと電話番号とLI○Eを、いつの間に俺の携帯に登録した!それと、お前以外の連絡先消しただろ!あれ、担当編集とか同業者とか居たんだから!仕事、出来なくなるからやめて下さい!』
これには少しばかり、理解できなかった。
「何で……、なんでかな……?ナンデナノカナ?オカシイな〜」
メールの見つめる日菜の目には、今日何度目か判らないブラックホールが宿っていた。
「これは、絶対、ぜ〜ったいに見つけ出して……、オシエコマナイトイケナイノカナ?」
朱那、今お迎えにいくよ〜。必ず時間内に見つけ出して〜、そのカラダとココロにしっかりと刻み込んであげるんだから……。
「ふふ、ふふフフフフ……アハハハ……」
屋敷の中に静かに日菜の笑い声が響いていたが、当の本人は知りもしなかった。
「日菜、ちゃんと俺が送ったメール見たかな?」
ちゃんと連絡が着いたかどうかは、一応心配だった。
それはそれとして、屋敷が迷路のようで迷子状態になった。
どの部屋が良いのかと見て回っているけれど、書斎、キッチン、ベッドルーム、大浴場(旅館のお風呂みたいだった)、和室、リビング等を確認してみたが、いまいち見つかりそうで安心できなかった。
「もう、これは……無理だな……」
溜め息混じりに廊下の壁に寄り掛かった。
その瞬間ガチャン、突如大きな音がし、背中の辺りが軽くなるような気がし……、
「うわぁ〜!何、ナニコレ〜、やだ、まだ死にたくない。まだ、推しのライブが来年も有るんだから!」
寄り掛かった壁が突如開き、何かのコースの上に載せられて、もの凄い勢いで滑り落ちていた。中は、暗闇で何も見えず、掃除があまりされていないのか、埃ぽくって咳きを込む。加速は止まることを知らないようで、どんどんスピードを上げながら降下していく。
「あ〜、もうヤダ〜。せめて……、もう一度だけ推しを拝みたかった……」
自分の死を覚悟し、目を瞑りその瞬間を待った。
が、頭の方から鈍い音と痛みが少し走ったけど、加速は止まり、生きていた。
「痛てて…、良かった…死んでない…」
コースから起き上がり、携帯の明かりをつけて辺りを見回した。
すると、ファンタジーものでありそうな石造りの通路が出来ていた。
「この家…、もはや何でもありかよ…」
あのるんって来たからと言って人を連行・誘拐してくるお嬢様だけでも厄介なのに。
他に道は無いのかと、再度見渡すも見当たらない。ここで助けを待つのも辛いので暗がりの道を進んでいった。途中、罠が仕掛けてあるんじゃないかと、小石を進む道に投げたりしたが、反応も無いので残る問題は携帯のバッテリーがどれだけ保つかの問題だった。
さてと、朱那は一体何処に隠れたのかな〜。指をポキポキと、ブラックホールの瞳を持った日菜は鳴らしながら、各部屋を探し回っていた。
「ここ!、違う……」
ベッドの下、棚の中、机の下、本棚の後ろ、浴場の水の中、畳の下(無いとは思ったけど、念の為に)、いろんな場所を見て回ったけど、全然朱那を感じさせる痕跡がない。匂いがもう少し残っていれば、簡単にわかるのに。分からなくなってきて、まだ見ていない部屋をもう一度考える。
「お姉ちゃんの部屋……」
小さい時、お姉ちゃんと同じ部屋だったな。あの頃は……、感傷に浸ってる場合じゃないよね……。自分に強く言い聞かせて、姉の部屋に向かった。
部屋が別になってから、何年ぶりかに姉の部屋に入った。
「おじゃましま〜す……」
部屋にはお姉ちゃんを感じさせる物が沢山あって、どれもすっごくるんってくる。
「はぁ……、お姉ちゃん……」
歓喜極まって、思わず姉のベッドに飛び込む。枕を抱きしめて、普段姉がこの枕を使って寝ている事を思いながら、枕にのかったお姉ちゃんの残存成分を楽しむ。
「すぅ〜……、はぁ……お姉ちゃんの匂い、懐かしい……」
今も昔も変わらず、優しい感じがする。今はギクシャクしていても、やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだった。
「うん……ありがとう……、お姉ちゃん。元気でたよ……」
もう少しだけでも枕を抱きしめ感じていたかったけれど、自家が刻一刻と迫ってきていたので、中断を迫られた。
「そういえば……、お姉ちゃんとのかくれんぼで……」
昔の記憶が蘇り、今の状況と照らし合わせていった。すると、朱那の居場所に大体の検討がついていきた。まさか、こんな所で、お姉ちゃんに助けられるなんて……、本当に大好き。
心の中で、今は喧嘩して近くて遠い姉にお礼を言って、部屋を元通りに勢いよく飛び出した。
「さぁ〜て、日菜ちゃんのショータイムですよ!」
家の中でのかくれんぼって、隠れる場所が無くて大変ですよね。
まぁ、我らのお嬢様のお家は違いますけど……。
それと朱那の携帯のね、連絡先が日菜の連絡先のみになるという、
一回消されたのを元に戻す、相当面倒くさんだろうな〜。
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