執事が大好きなお嬢様は、どうにかして執事に構ってもらいたい。   作:龍宮院奏

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作者が少々疲れていたせいか、聞いていたドラマCDの影響か……。
ともあれ、かくれんぼ最終決戦です。
今回は少しばかり、シリアス?と長めです。


第11話作家とお嬢様はかくれんぼで戦うようです。(後編)

 扉の向こう側、自分が歩いてきた道から異様な空気を感じて慌てて、本棚が並べてある二階に忍び込んだが……。

『気のせいだったか……』

日菜への恐怖心がピークに達して、何も無いのに居るように錯覚したようだった。

「この本……知ってるやつだ……」

ふとして、すぐ側にあった本棚の一番下の段から、和訳されたとある洋書を発見した。

「これ、中学の時に読んでたっけ……」

懐かしいな、中学時代から漫画やアニメが好きで、誰も友達居なかったけ……。部屋で漫画読んで、ラノベとかネットで小説漁って……。そう言えば、中学に書いていた作品、何処に隠したんだっけ。

「親に隠れて沢山読んだな……。おかげで、今こうして作家として仕事できて居るんだけど……」

ページを捲っている内に、眠気が襲ってきて……眠ってしまった。でも、これはこれで結果オーライ……。

 

「アハハハ〜、アーット!」

相変わらず暗くて、何処に向かっているのか分からないすべり台の速さは健在だった。それに、すべり台のあちこちから朱那の匂いがしてくる。あれ?もう終わちゃったの?昔はもっと長い気がしたんだけどな。

「でも、コレからが本当のお祭りナンダモンネ……」

本当にわかり易く、匂いが残ってて何をしてたのか一目瞭然だもん。

「フンフフ〜ン」

鼻歌交じりに、スキップをしながら暗がりの地下道を進んでいった。

 

『や〜い、キモオタ!死ねよ』

『お前なんか、所詮は画面の中の絵に幻想抱いてるだけだろ』

『うわぁ〜、マジ引くわ……』

『つか、学校でエロ本読むなよ』

『コイツ、小説とか言って水着の女の子の絵が書かれたの読んでる』

『はぁ〜?嘘でしょ……、うっわ!本当だ!』

『変態』

『変態のキモオタ野郎』

四方八方から、何処に行こうと言われる言葉。物を隠されたり、服を引っ張ってきたり、殴られたり、シャーペンを刺されたり……。

 けど、一番辛かったのは、大好きな物を目の前で壊されることだった。

 

「うるさい…、五月蝿い…、煩い!」

消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ!

「消えろ!って、夢か……」

汗ばんだ手をズボンで拭いて、頬を叩くと頬の方も少しばかり湿っていた。

「それにしても……。もう関係ないだろ……」

昔の思い出に感化されたのか、夢まであの頃のままだった。何で思い出したくない時代を、あんな記憶無くてもいいのに……、何で消えないんだよ……。

「何で……、きえ……、ないんだよ……」

思い出すだけで、辛くて、苦しくて、死にたくなるような思い出は残って、楽しい思い出は消えていくんだよ……。

「最悪だ……」

ギュッと下唇を噛み締めた。力が強かったのか、口の中で鉄臭い味が広がっていく。

「こんな……こんな世界なんて……、消えて……無くなれば良いんだ……」

そうだ……、そうだよ……。あいつらが、アイツらが全員消えれば……。胸の中で黒いモヤモヤが蹲って、消えない中でもう一度眠りについた。

 

「そうそう、この道で迷ってたんだよね」

鼻歌交じりに意気揚々と進んでいくと、微かに光が道にそうように伸びていた。

「や〜っと、ミーツケータ!」

隠れる気があるのかな?こんな暗がりで光がさしていたら、不審に思って確認するのが当たり前でしょうが。

「朱那のうっかりさん」

さ〜て、朱那の元へ直行!を仕掛けようと扉に近づくと……。

 

「うぅぅ……」

朱那の声だけど……、魘されてるの……?

 

「うぅぅぅ……、うるさい……、五月蝿い……、煩い!」

誰に向かって怒ってるんだろう?

 

「お願いだから……、もうやめてくれ……」

泣いてるの……、朱那の悲鳴に似た声が聞こえてくる。

 

「消えろ!って夢か……」

何か朱那にとって、とても嫌なものに対してものなのだろう。その後も何かを言っていたが、上手く聞き取れない。

 

「こんな……こんな世界なんて……、消えて……無くなれば良いんだ……」

消えて無くなりそうな、今にも霞んで消えてしまいそうな声で確かにそう言った。

 朱那の声が、それからパッタリと聞こえなくなってきたので、ゆっくりと扉を開けて部屋の中に入った。

「何にも変わってない……。あの頃と同じまま……」

部屋中の壁に沿って並べられた本棚、重厚な紙の背表紙でびっしりと埋め尽くされているのも。少し暗くて、湿気を少し含んだようなじっとりとした空気も……。

「本当に変わらないんだ……」

部屋一面を見渡していると、あの頃には無かった物が置いてあった。

「こんなギター?置いてあったけ?」

それにしても、このギター何かの色に似ている気がするんだけど……?何だろう?すっごく身近に有るもののような?

「お姉ちゃんのギターなのかな?」

もしもお姉ちゃんのギターなら、勝手に触って怒られたら怖いからそっとしておこう……。

 ギターを横目に、改めて目的の人物の匂いを辿っていく。

「ご主人様をあんまり困らせないで欲しいな〜」

梯子の所から感じた朱那の匂いを辿って、二階に上がっていくと床で寝そべって眠っいた。

「ミ〜・ツ・ケ〜・タ、これで今日の残りの時間は……ワタシのイイナリ……」

どうしよう、最高に、最高にるんって来たんだけど!

「うぅぅ……、あ、ぁぁ……」

「朱那?」

また魘されてる……、苦しそうな顔して。

 何かを掴もうとするように見えた手に、私の手を重ねる。

「大丈夫……、朱那のご主人様が迎えに来たよ……」

「うぅぅ……」

重ねた手が包まれていく、次第に落ち着いてきたのか呼吸が整っていくのが分かる。

「そうだよ……、安心して良いんだよ……」

小さい子をあやしているみたいで、ちょっとこれ楽しいかも。

 それにしても、こんな辛そうな表情をするだなんて……。何があったんだろう……。

 朱那が落ち着いたようで、ようやく「すぅ〜……」と寝息を立てて眠てしまっていた。

「寝顔が、こんな無防備な顔が、今私の目の前で」

どうしよう、写真に収めたい。けど、撮ったら起きてきちゃいそうだし……。

「そうだ!こうして目に焼き付けておけば良いんだ……」

同じ様に隣に寝そべり、そのままギュッと抱きしめる。

「これで…起きても…にげら…」

あれ……、私も眠たくなって……。朱那の体温が高いのか、温かくて気持ちいい……。

 

 黒くて、黒くて、黒以外に何も無い場所?空間なのか?何処かを歩いていた。何を目指しているのか、何を求めているのか分からずに歩いていた。どれだけ歩いて来たのだろうか、体のあちこちが軋み始めた。一度休んで、また歩き出そう。立ち止まって、ふと後ろに何もないと思いながら振り返る。

 するとそこには、大きな、大きくて、黒い何か、黒い形の無い何かがあった。それを見て、何と言葉にして良いのか解らないのほどの恐怖を覚えた。なぜ、恐怖だったのか。とにかくその場から走った、走って、走り続けて、その黒い何か逃げるように。

 けど、何処まで走っても、走り続けても追いかけてくる。すると、突如として落とし穴に落ちたように、落下し始めた。

「うげぇ……」

何処か落ちた先で、底に着いたのか衝撃で体に痛みが走る。痛みと共に、何かが体の上に重くのしかかるような……。

「重い……」

重いのに、温かい?それに……、甘い匂いがする……。ふんわりと感じた甘い匂いが、目覚めかけた意識を朦朧とさせて、眠らせてしまった。

 落ちた先で立ち上がり、また何処かへ歩きだしていた。今度は、小さなゆらゆらと揺らめく光の方へ……。

 

「があぅ……、あぐぅ……」

「痛い……、噛まな……いで……」

首に方から、耳の方にかけて……、何かに噛まれたりしているような気がする。

「うぎゃぁ……あぁ……」

猫か?猫に噛まれてるのか…?どこから、入ってきたんだろう?この辺に居るのか……。

 朦朧としている意識が、目覚まそうと眠気と戦い始めた。戦う中でも変わらず、

「あぎゅ……」

変わらず耳の方を噛まれていた。吐息が耳にかかって、思わずビクッとして目が覚めた。

「この家に猫なんて居たのか……」

瞼をこすって、重たさを感じる胸元の方を見ると、一番見つかりたくない人がそこに居た。

「あ……、逃げないと……」

慌てて逃げようと体勢を変えようとしたが、ガッチリと片手を握りしめて、体の上にまるで掛け布団の様に乗っかっていたのだ。

 何で、何でだ……。だって、俺普通に寝ていたはずなのに……。てか、起こしたほうが良いの?どうすれば良いの?こんな経験したこと無いから、読んできたラノベにすら無かったぞこんなシチュエーション!

 一人悶々と、これからどうしようか考えを錯綜させていると、

「う、うぅぅ……。ふわぁぁぁ……」

起きてしまった。そして、目の前に居るお嬢様に対して、

「あ、起きちゃった?」

言葉がもはや思い浮かばなかった。

 それに対してのお嬢様の反応は、

「あれ……、お菓子の国……。まだ、食べかけ……」

完全に寝ぼけていた。それにしても、案外ファンタジーな夢見るんだな……。寝ぼけて、寝返りをしようとしたのを見逃さずに日菜を下ろそうとするが、

「まだ食べる……」

繋いでいない方の手を背中に回して、より一層密着してきた。

「……、これは」

密着されてまず分かったのは、先程の甘い匂いは日菜の髪の毛から香るものだった。次に、日菜の行動に耐えられそうも無いことに気がついた。もう、完全に耳なんて食べられてるし……、日菜の唇でずっと甘噛みされてるし……。

「もう、限界……」

結局、それから日菜が目覚めるまで更に時間をようした。ちゃんと目覚めた頃には、日菜の唾液で耳がベタベタになっていた。

 が、それを日菜は、

「これは朱那がワタシのモノだっていう、マーキングだよ」

ニコニコと、小悪魔を思わせる笑みを浮かべて言ってきた。

「そうだ、朱那。これを良い忘れてた」

「うん?何だ?」

「朱那のこと、時間内に見つけられたから……」

スマホに見つけた時に撮ったであろう写真を見せられ、

「この勝負は、私の勝ちということで……。今日の残りの時間は、ワタシのモノだね〜」

数時間ぶりにみた、日菜のブラックホールの瞳を見て思わず、

「盛大に…、フラグ回収したか……」

今度日菜と何かで勝負する時は、何かを賭けることはやめておこう。そう心に誓ったのであった。




今回でようやく、朱那と日菜のかくれんぼ対決に幕が閉じました。
まぁ、盛大に見栄を張っておいて、最後は捕まるという。
結構、あっさりとね。あれだけ、日菜がスタンガンとか持ってきたのに……。
それから、朱那の夢に関しては一部作者の実体験です……。本当に辛かった……。
でも今は、こうして小説を連載して、多くの人に読んで貰って、評価も、お気に入り登録も、して頂いて。本当に幸せです。
今回も閲覧いただきありがとうございました。
感想などお待ちしております。

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