執事が大好きなお嬢様は、どうにかして執事に構ってもらいたい。 作:龍宮院奏
会議室の前の廊下で溜め息をついて蹲っていたが、どうにもならないので会議室に一度戻った。
「その様子じゃ、電話の相手は『茨姫』ですか?」
僕の顔を見て、少し楽しそうに笑う新井さん。
「違いますよ、『雇い主』の方です……」
苦笑混じり答えると、一気に新井さんの顔に笑顔が無くなった。
「何だそっちですか、『茨姫』だったら良かったのに」
「僕からしたら、どっちも怖いし、どっちも嫌です」
「まぁ、確かに『茨姫』は先生にとって怖いかもしれないですけど……。あんなに良い人は居ないのにな〜……」
「本当に怖いですよ……」
新井さんが、あの後続けて何か言っていたようだが聞き取れなかった。
「それで『JK雇い主』何て?」
「誤解をうむ言い方はやめてくださいよ!えっとですね」
反論を述べるも、新井さんの冗談だと割り切って先程の内容を話した。
「へぇ〜『プリント』ね。まぁ、その話が本当なら届けたほうが良いと思いますよ」
これで日菜にバレた趣味を、友達に言われなくてすむ。
「でも、その前に先生。お・し・ご・と、してもらわないと、怒っちゃいますよ」
もうすぐ30歳を迎える人が、そんな事してもイタイ人になるだっ。
「せんせい?今〜、とっても悪いこと考えてましたよね〜」
「考えてませんよ、本当に考えてませんよ。だから、握りこぶしを作らないでください。お願い、お腹はやめ、ぼふ!」
結局、約束の時間の15分前まで、次回作の打ち合わせとお説教が繰り広げられました。
「日菜の部屋の机……」
編集部のビルから、弾丸の如くとにかく走って氷川邸へと帰ってきた。靴も玄関で先で脱いだままにし、日菜の部屋へに向かっていく。
「これか……」
日菜が言っていたとおり、机の上には一枚のプリントが置いてあった。
「残り時間は……、8分かよ!」
スマホで時間を確認すると、11時52分で残り時間も僅かだった。ついでに、羽丘女子学園のルートを調べる。
「ここから10分かよ……」
以外に近いと言うべきか、遠いと言うべきかの境のような地点に日菜の通う学校があった。が、問題は時間だった。
「今から走っても……、てか体が持たないし……」
朝から慣れない掃除や、編集部への全力疾走出勤で体は疲れ切っていた。
「そうだ……」
自室に戻り《最終兵器》を取り出し、それに全てを託した。
「ねぇ、日菜。さっき電話してたけど、その相手はもしや」
「そうだよ〜、私の執事だよ!」
そう答えると、りさち〜は呆れたように、
「学校であんまり連絡とってると先生にばれるよ、それに執事さんも本職で忙しいだろうし」
頬杖を付きながら言ってきた。
「でも、会ってみたいでしょ」
りさち〜、私が話をしてる時、顔がゆでだこみたいに真っ赤だったし。絶対会わせたら、るんって!くる反応を見せてくれるんだろうな。
「うんと……、気になる……。こんな怪しげ仕事を請け負った、その人がどんな人か見てみたい……」
「僕もぜひ会ってみたいな、日菜にこんな素敵な笑顔させる執事君に」
「薫も会ってみたいの?」
「あぁ、きっととても素晴らしい人なんだろう」
普段よりか、薫くんの華やかさが増しているような気がした。でも、これでみんな会いたいって分かったことだし、
「大丈夫だよ、お昼頃には。え〜と、12時にはちゃんと会えるから」
時計を見ながら、待ち遠しく思いながら知らせる。
すると、二人の動きが同時に止まってしまった。
「ひ、日菜……、今なんて言ったの……?」
「だから、12時には私の大好きな執事に会えるよって」
「こ、こね、子猫ちゃん……。わ、わる、悪い冗談はよしてくれよ……」
「え、本当だよ?ほら、電話の履歴」
電話の履歴を二人に見せると、再び机にうつ伏してしまった。
「そうだった……、日菜はこういう子だった……」
「全く……、君という子猫ちゃんは……」
そんなにビックリしたのかな?でも、これで朱那と学校でも会えるんだ。
「残りの時間が待ち遠しいな〜」
鼻歌を交えながら、窓の外を眺めて待ちわびていた。
「はぁ……、はぁ……」
羽丘女子学園、高い進学率を誇る有名私立高校。普通に考えれば、こんな場所に関わる事は無かっただろうに。
「繋がれ……、繋がれ……」
『あ、もしもし朱那?今何処?』
あっさりと日菜の携帯に繋がった。
「今、学校の門の前に居るんだが」
『あ、じゃあ今から迎えに行くね」
「ちょ、待った」
『ツー、ツー』
電話が一方的に切られてしまった。それにしても、校舎が大きな……。
「おい、そこのお前。さっきから何してる?」
最悪の自体が起こってしまった、警備員らしき人物がこちらに向かってきた。
「あ、え〜と。僕は、ここの生徒さんに用事がありまして……」
「大抵の変質者はみんな同じことを言うんだ」
カシャン、手首にかけて冷たいものが掛けられてしまった。
「何で手錠掛けてるんですか!僕は、正真正銘ちゃんとした理由があって……」
門の柱の部分にもう片方の手錠を繋がれ、残りの方を腕に繋がれて逮捕されて応援を要請された犯罪者のような絵面になってしまった。
「今、先生を呼んだから。それから警察に行って、罪を認めてこいよ」
警備員が先程から、トランシーバー話をしていると思ったらそういう事か……。
「お前か、学校の前で怪しげな視線を向ける不審者は」
「あ、終わった……」
何かもう、絶対自分の意思は曲げません、見たいな男の先生が来ちゃったよ。
「あ、先生。後は宜しくお願いします」
門の柱に繋がっていた手錠を、今来た先生に付け替えられてしまった。
「さぁ、ゆっくりと話し合いをしようじゃないか」
そんな喧嘩をする前の準備運動みたいに、指を鳴らしながら言われても説得力がないよ……。
「日菜、助けて……」
思わず、最後の希望を込めて呟いた。
「あ、朱那〜。ごめんね、階段が混んでて遅れちゃっ……た。って……、先生。何してるんですか……?」
まさか願いが通じるだなんて、でも……あれ完全に瞳から光がグッドバイしてるんですけど!
「氷川か。不審人物を職員室で警察が来るまで置いておくために連れて行くんだ。だから、そこを退きなさい」
「それは出来ないですよ……、ていうか?何でワタシの家の執事に手を出してるんですか……」
おっと、これは見ないようにしよう。黒いオーラが、具現化して見えるんだけど。
「何?この不信人物が、氷川の家の者だと?」
「そうですよ……、だから早く、朱那を離して下さい……」
「にわかには信じがたいが……、なら一度職員室まで着いて来い」
「朱那を開放してくれるのであれば……」
こうして、俺は先生に引きづられて、日菜と一緒に職員室で話し合いが行われた。
結果から言ってしまうと、校長と教頭と生活指導の先生(手錠で繋いでいた先生)と日菜と俺の話し合いとなり。
「次からは、保護者の名札を付けて来て下さい」と注意されて、学校に入ることが許された。
「朱那、手のところ大丈夫?痛くない?」
「大丈夫だよ……、でも何時までおんぶしていれば良いの……」
保護者証明の名札を受け取り、プリントも届け終わったので帰ろうとすると、いきなり背中に乗ってきたのだった。
何度も降ろそうとしたのだが、『時間を免除したぶんだよ』と実は警備員に捕まっていた時に時間が来てしまっていたらしい。が、そこは日菜の広い心で許してもらった。
まぁ、その代償がこれだ。
「私の教室まで!」
「嘘だろ……、それで教室何階なんだよ?」
文句を言いながらも、バラされずに済んだので従うことにしていた。
「3階だよ」
「この、この状態で……3階かよ……」
体は限界寸前を通り越して、馬鹿になりかけているのに。
「こら、ジタバタしない!おこっちるでしょが!」
「わ〜、朱那が怒った〜。でも早く〜、お昼の時間無くなちゃうよ〜」
足を腹の辺りに絡ませながら、耳元で息をフーっと吹きかける。
「うんぎゃ〜、畜生が!やってやら〜!」
加速を付けて階段を駆け上がっていく、それにして女子校だから女子しか居ないな。当たり前だが。今どきの子は、メッシュとか入れるんだ……カッコいいな。
「は〜い、よそ見しないでね……」
絡める足で腹を圧迫してきて苦しい。
「悪かったから……」
と走行している間に、三階には着いたのだが。
「教室はどっちだ?」
「こっちだよ」
日菜の指差す方へ、足を早めながら進んでいく。これで……、ようやく終わる……。
日菜に扉を開けて教室に入ると、まず最初から視線が一気に集まってきた。が、それを気にすることもなく、
「りさち〜、ほら私の執事だよ〜」
クラスメイトで仲の良い友人に手を振っていた、『近づいて』と言わんばかりに指差すので歩いていく。
「ま、まさか……、本当に呼んだの……」
ほら、りさち〜さん?固まってるよ。
「少し席を離れている内に、何をそんな……」
今度は、謎のイケメンが現れたぞ。あ、こっちも固まった。
「なぁ、日菜?もう降りてくれも良いでしょ……」
「うん、だいぶ満足したから降りるね」
日菜が背中から降りてくれたので、ようやく楽になれた。これで、疑問に思っていたことをようやく聞ける。
「でだ、何だあのイケメン!おい、某女の人が凄くカッコいい舞台の所の人が居るぞ!」
女子校だと、女子の中で進化したイケメンが現れるのか、と馬鹿な発想に至った俺だった。
今回は日菜ちゃんもしっかり登場!
若干、反骨赤メッシュさんが出ていたような……。
それそうと、やっぱり薫さんを見てると毎回宝○劇場の人にしか見えないですが……。
今回も閲覧いただきありがとうございました。
感想などお待ちしております。
番外編を明日に出そうと思います。