執事が大好きなお嬢様は、どうにかして執事に構ってもらいたい。   作:龍宮院奏

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第17話作家は置いてかれ、新たな出会いをする。

「か、書き……きった……」

『うるはら アカ月』の名前がバレてしまい、日菜の通う学校でこの前のサイン会並みにサインした気がする。

 それにしても、みんな気迫が怖い……。サインがそんなに欲しいのかと、当の俺が思ってしまった。

 何故かって、まずは暴動みたいになっているのを整列させて一列に並ばせる。次に、一人一人に少しだけ話しながらサインを書くという工程の繰り返しだったからだ。問題はこの後だった。

 途中で、『あんた、うるはら大先生と話している時間が長すぎ!』と喧嘩が始まったりもした。

 これを止めるのに、サインと名刺を渡して鎮圧しようものなら、『先生の……名刺!』と逆効果だった。これでさらに、暴動は激化。

 暴動を察知して先生たちが慌てて飛んできたが、『あ、あの……サイン下さい……』と良い大人が生徒を放ったらかしてサインが欲しいとねだっていたのだ。

「はぁ……、良いですよ……」

先生の分もサインして、残りの数百名の生徒にサインを終えた頃には、

 

「やっぱりサイン会なんて……しない……」

魂が抜けた、燃えカスの状態だった。

 

 ちなみに、突発的サイン会が行われているのにも関わらず、一番騒ぎそうな日菜は、

「りさちー、薫くん。お昼ご飯食べようよ、まーやちゃんも誘ってきてさ」

「じゃあ私は友希那、誘ってくる」

「なら、先に行くとしようか」

今井と瀬田をお昼に誘って、教室を出て行ってしまった。

 

「え、日菜……。待って、置いて行かないでよ!あ、はいはいサインね。はい、どうぞ。って、日菜〜!」

無情ながらに、日菜への叫びは届かず、サインを只管に書く羽目になっていたのだった。

 

「日菜は……、どこに……?」

体に上手く力が入らずに、フラフラとその場から脱し、廊下に出る。また、どこかで『うるはら先生!』と言われているような気がするけど、今は勘弁願いたい。

 廊下に出ると、独特の雰囲気って云うのだろうか?ふわふわした空気を感じさせる生徒が居た。先程まで、接していた生徒とは大違いだったので、

「あ、あの。氷川が居そうな場所って分かるかな?」

日菜の事を聞いてみた。知らなかったら、それで良いのだけれど。

 

「う〜ん?だいたいなら、予想がつきますよ〜?」

その子は、ゆったりとした口調で答えてくれた。

 

「良かった……、大体でもいいから教えてくれるか?」

幸先の良いスタートで、もし断られたらきっと『私が案内しますよ!』、『いえ、私が案内しますよ』と再びの暴動に巻き込まれていたのだろう。

 

「いいですよ〜」

にっこりと微笑む生徒。

 

「ありがとうな」

こちらも、そんな笑顔を見て元気が出てくる。

 

「いえいえ〜、困ってる人を助けるのは当然ですよ〜」

 やっぱり不思議だ。他の生徒とは何かこう違う感じがしていて、将来凄いことを成し遂げそうなんて、ふと思っているといつの間にか歩き出していたので、慌てて追いかける。

 

「お兄さんは〜、日菜先輩の〜、何なんですか?」

最初に出てくる質問がそれって……、でも女子校に男性が居て日菜の居場所を聞けばそうなるよな。

「唐突だな……」

少し考えてから、

「保護者?みたいな者だ」

「へぇ〜、そうなんですか〜」

「実際はもっと別の言い方が有ると思うだがな……」

例えば、雇われ専属作家兼執事とかな。でも、主に誘拐された人だけどね!

「何だか、不思議ですね〜」

こちらを振り向き、ニヤッとするゆるふわ。勝手にあだ名を付けたが、名前を知らないからイメージで。

「でも〜、さっきは凄い人が集まってましたけど〜。何でですか〜?」

ニヤニヤと笑いながら、後ろ向きに歩くゆるふわ。

「色々有るんだよ……、てか、危ないからちゃんと前を見て歩け」

話している間、一向に前を向こうとしないので、話している俺が終始怖くて仕方がない。

「大丈夫ですよ〜、モカちゃんはこう見えても、運動神経はあるんで……」

 

「おい、危な!」

思っていたとおり、調子に乗って後ろ向きに歩いていたが、突然教室から出てきた生徒とぶつかってしまった。そのせいで、案の定体勢を崩して転びそうになった。

 

「いっと、だから言ったろ……。危ないから、ちゃんと前を見て歩けって」

転んでしまう前に、手を掴んで引き寄せる事で転ぶのを防ぐことが出来た。

 

 防ぐことは出来たが……、何でかあちこちで『キャァー!』とまるでアイドルを見た時とかに聞く黄色い悲鳴が出ているんだが……。その理由は、至極簡単だった。

 

「あっと……、その……」

 

「お兄さん……、意外と大胆だね〜……」

引き寄せる際に、力が入ってしまって抱き寄せる形になってしまっていたのだ。しかも、もう少しで唇が触れ合うのでは無いかと思うくらい近くによっていた。

 この状況を何も知らない人が見たら、カップルがキスする直前の様に見えるのだろう。というかそんなふうに見られていた。

 

 だからゆるふわの顔が、さっきから真っ赤だったんだ。

「あ、いや、その、これは……!」

慌てて手を離し、一人で立たせる。

「大丈夫ですよ〜、モカちゃんを助けてくれる為だったんでしょ〜。だから大丈夫ですよ、お兄さん」

頬がほんのりと赤くなっていたが、先程と同じ様に話しかけてくれたので、

「そ、そうか……。あははは……、気をつけてくれよ」

同じ様に、元通りの状態で話すことにした。

 

 なんとも言えない、微妙な空気で廊下を歩いていると、とある教室でゆるふわは足を止めた。

「あの〜、日菜先輩いらっしゃいますか〜」

ゆるふわは、日菜の後輩なんだな。

「あ、ちょっと待ててね」

近くにいた生徒が、日菜を呼びに行ったようだ。

「ありがとうございま〜す」

ゆるふわが、礼を言う頃には呼んでくれた生徒が日菜と話をしていた。

「じゃあ、モカちゃんはこれにてお役御免だね〜」

「ここまで、連れてきてくれてありがとうな」

何かお礼でもするべきか……、とポケットを漁る。

「お礼だ、やるよ」

先程日菜たちに配っていた、最後のアメだ。

「良いの〜?」

「良いよ、ブルーベリーだけど良いか?」

手渡すと、その場で包み紙を剥がして食べ始めた。

「うん、おいひ〜」

ゆるふわは、本当に(勝手に付けた)あだ名通りに、ふわっとした笑顔を見せる。日菜とはまた違った可愛らしい笑顔で、癒やしだった。

「じゃあ〜、日菜先輩も来たみたいだから。モカちゃんは、帰るね〜」

「本当に、ありがとうな。そう言えば、名前って……」

「青葉モカだよ〜、お兄さん」

ようやく名前を知ることができ、ゆるふわから青葉へと変換する。

「青葉か……、じゃあま」

「モカって呼んでよ〜、せっかく楽しく話したりしたんだから〜」

何故か、名前で呼ぶことを強要された。その時、自分が名乗っていないことに気がつき、

「わっかたよ、モカ。そうそう、俺は漆月朱那だ」

自己紹介をする。

「う〜ん?なら、う〜さん?あ、つっき〜さん」

「何で、そうなるんだよ……」

「漆月の月から、つっき〜さんだよ〜」

どんな呼び方なんだよ、初めてだよ。俺の名前で月から、あだ名をつけるの。

「じゃあつっき〜さん、またね〜」

「おう、またな。モカ」

 何でか女子校に来たら、現役女子高生と友達になるという。

 これって……、犯罪じゃないよね?大丈夫だよね?少々、心臓には、苦しい問題は残っていたが、『青葉モカ』という少女は中々どうして面白かった。

 

「ねぇねぇ、朱那?何で、私の前で堂々と浮気しているのかな?可笑しいな?おかしいな?全く持って、オカシイな?朱那は、私の執事なんだよ?それが、何でこう他の女の子と、親しげにしているのかな?」

モカを見送って教室に入ろうとしたら、瞳がブラックホールによって支配されていた日菜が立っていた。

 これは……、俺にとって絶体絶命?なのでは。

「いや、違うんだよ。あの暴動のようなサイン会を終えたら、お前が教室から居ないから。それで、あの子に廊下で『日菜がどこに居るか』聞いただけだから」

嘘は言っていない。だって、本当に日菜が教室に居ないんだから。

 

「でもさ?何で、名前で呼んでいるのかな?」

周りからは見えないように、足を踏みながらグリグリと動かす。スリッパで多少は痛みが和らいではいるが、上履きで踏まれるのはかなり痛い。

 

「名前で呼べって、そう言われたから……」

声を押し殺し、痛みを耐えしのぐ。

 

「へぇ〜……、でもだからって、イキナリ呼ぶことはナインジャナイノ?」

瞳の暗闇が更に大きくなっていく。

 

「そうだな……、確かに言われたからと言って呼ぶのは不味かったな……。すまん、俺が悪かった」

あんな暴動騒ぎの後で、少し楽に成り立ったかったけど……。考えてみれば、知り合ったばかりであれは不味かったよな。

 

「反省したならいいよ……」

踏んでいた足をどかしてくれた。が、グッと顔を近づけてきて、

 

「ツギハナイヨ……。ほら、みんなの所に行こうよ」

静かな声で、そっと耳打ちで言ってきた。

 

「おぅ……、わかった……」

暗闇に支配されていた瞳が、俺だけをその瞳に映し出しているのが見えた。

 小さく返事をすると、普段通りの光を宿した瞳で接する日菜だったので、同じように普段通り接した。

 腕を引かれて、昼食を食べ、仲良く話していたとされる机をくっつけた所に行く。すると、今井と瀬田が居るのは知っていたのだが……。

「何か……、また人が増えているんだが……」

暴動のサイン会を乗り越え、モカと廊下で黄色い声を上げられ、日菜に浮気と言われて怒られたら、メガネを掛けた優しそうな少女と、謎の威圧感を放つ少女が追加されていた。

 はぁ……、これはまた……どうしたものか……。

 

「あ、モカ。どこ行ってたの?」

黒髪の中に、纏まった赤いメッシュがみえる少女がモカに話しける。

「う〜んとね。飲み物が無くなちゃったから、自販機で買ってきた〜」

「そうなんだ……。急に居なくなってるし、なかなか帰ってこないからさ」

「もしかして、蘭はモカちゃんが居なくて寂しかった〜?」

蘭と呼んだ少女の反応に嬉しくて、つい聞き返してしまう。

「べ、別に寂しくなんか……。あれ、モカ今何食べてるの?」

「バレちゃった〜。実はね〜、人助けをしていたのですよ〜。これはそのお礼です」

人助けという言葉を聞いて蘭は、

「モカが人助けって……」

「むぅ……、信じてないな〜」

「だって……、モカがそういう事するイメージが浮かばないからさ」

ふっと鼻で笑って、信じてくれなかった。

「ふ〜ん。蘭は信じないんだ〜、どうしたら信じてくれるのかな〜?」

モカちゃんは、事実を言っているだけなのにな〜。

「じゃあ、その助けた人を私に紹介してよ。まぁ、遠くから見るだけでも良いけど」

あ、これは……。はっは〜ん、わかっちゃったぞ〜。

「蘭は、モカちゃんがその助けた人にヤキモチ焼いているんだね〜」

「そ、そんなわけ無いじゃん。というか、なんでそうなるわけ」

やっぱり、口では否定していても顔真っ赤だよ。

「モカちゃんには判ってしまうからなのだ〜、じゃあ行こうよ」

蘭の手を取り、日菜先輩の教室に向かうことにした。

 これなら蘭も、モカちゃんがしっかり人助けをした証拠が分かるもん。

「モカ、待ってよ。どこに行くの、自分で歩けるから」

 この時はモカちゃんも、蘭もあの『つっき〜さん』が『うるはら アカ月』とは知りもしなかった。




イキナリのモカちゃん登場!モカちゃんの喋り方が難しいです……。
それにして、何だかんで朱那の適応能力が高いのでは、モカちゃん抱き寄せてるし。
まぁ、その所為でお嬢様に浮気だって言われてしまって……。
次回は、新キャラのオンパレードだと思います。
Roseliaと、Pastel✽Palettes、さらにもう一バンド!最後はどこでしょう?
次回をお楽しみに!
今回も閲覧いただきありがとうございました。
感想などをお待ちしております。

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