執事が大好きなお嬢様は、どうにかして執事に構ってもらいたい。   作:龍宮院奏

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第18話作家は意味を読み解き、再度疑われる。

 モカに案内してもらったおかげで、日菜とは無事……とは言えないが合流できた。合流は出来たのだが、さらに増えている……。

「日菜、先に一つ確認しておきたいんだが……」

重要な事があるので、先にはっきりさせておこう。

「何かな?」

「新しく来ている二人は、俺の本職の事を知ってるんだよな……。あと、名前も……?」

ゼンマイで動く人形の様に首を回して、日菜の方を向く。

「うん、知ってるよ。ていうか、さっきの暴動でこっちのクラスでも大騒ぎだったよ」

「大変でしたよ……、クラスのみんなが一斉に消えていきましたから」

今井の顔を見ると、クラスの輩が出ていくの遭遇したかのようで疲れ切った顔をしていた。

「子猫ちゃんたちがあんなにも必死になるなんて……、あぁ儚い……」

瀬田の方は……、

「日菜、何で瀬田は『儚い』って言ってるんだ?」

疲れた頭では理解が追いつかなくて、思わず日菜に聞いてしまう。

「う〜んとね、これは薫くんの普通だから。気にしなくていいよ」

「なっ!」

「そうか……、じゃあ俺は疲れたから休ませてくれ……」

瀬田がまたも自分だけ反応が冷たいことに残念がっていたが、今の俺にはお前にかまける程の余裕が無いのだ……。

 日菜が座っていたとさせる席に座らせてもらう。すると、何の迷いもなく日菜が膝の上に乗ってきた。

「なぁ、お嬢様?これは一体どういうことだい?」

優しく、本当に優しく問いかける。

「だって、朱那が私の席に座るんだもん。だから私の席の上に居る、朱那の上に座るってだけだよ?」

そうだよな、席が他にないもんな。それじゃあ仕方ないな。

「わぁった、じゃあそこな……」

もう突っ込みを入れるのが面倒だから、日菜の好きにさせよう。

 

「「「「いや、駄目でしょ!」」」」

残りのみんなから、ちゃんと俺の代わりにツッコミが出てきた。偉いぞ、偉いぞ〜。

 

「ほら、日菜さん。漆月さんも疲れてるんですから、席は自分が借りてくるんでそっちに座りましょうよ」

初めて見るメガネの女の子が、日菜を注意しつつ俺を気遣ってくれていた。何あの子、超優しい。

「え〜、いやだ〜。だって、朱那が良いって言うんだよ〜」

膝の上で足をバタつかせて、降りる気は無いようだった。

「でも、さすがに……」

あ、ちょっとあの子が表情が暗めに……。

「じゃあ、日菜。こうしよう、席を借りてきて並べて座ろうか」

「ぶぅ……、朱那がいいって言ったのに……」

文句を言いながら、椅子を取りに行く日菜。

「ありがとうな、何か俺のこと気にしてくれて」

メガネの子に声を掛ける。

「あ、いえ、自分がちょっと気になってしまって……。大丈夫でしたか?」

遠慮気味に言うのを見て、ますます良い子だなと思う。

「日菜の友達だよね?俺は、漆月朱那」

「自分は大和麻弥って言います」

大和か……、おし覚えた。

「大和は、日菜とクラス違うけど友達なんだな」

最初に日菜に連れて行かされた?教室には居なかったから。

「クラスは違いますけど」

「ま〜やちゃんは、私と同じPastel*Paletteのメンバーだよ」

椅子を借りて帰ってきた日菜が会話に割って入ってきた。

 椅子を置いて座るやいなや、すぐさま近くによってきた。

「じゃあ、アイドル二人目か……。この学校どうなってるの、アイドルがいて、宝○みたいなのが居て……。次は何だ?」

「最初の方は分かるけど、他にはとくに居ないよ」

渾身のボケが、一瞬にして崩れ去っていた。現実ではそう奇跡が起きないことくらい判ってる。

 でも、目の前にアイドルが二人居るけど。

 しかしながら、アイドルが居て、宝○が居てだと、

「今井や、その隣の子も何かやってるのか?」

まさか、異国のご令嬢!身に纏う空気が違うし……。

「私達は普通の学生ですよ。でも、この子のお父さんは元は有名なバンドのボーカルをしてましたけど」

「へぇ……、やっぱり凄いのが居るんだな……」

親が元バンドなら、音楽系に特化してるのかな。

「じゃあ、やっぱり音楽で何かやってるのか?えっと……」

名前を聞いていなかったので、口ごもっていると、

 

「湊友希那よ」

今井の隣に座る子が、自ら名乗ってくれた。

 

「湊は、何かやっているのか?」

「別に、貴方に話すことでは無いと思うのだけれど」

おっと、これは手厳しい。確かに、初対面の男だからプライベートの事は話したくないよな。

「そうだな、話したくないなら別に構わないけど。知り合いでバンドやってるところあったから、話になると思ったのに」

「何ですって?」

おぉ、食いついた。

 この手のタイプは、自分の大事なものに関連する者の話をすれば、自然と向こうが話してくれるもんだ。根拠は、経験則だけどな。

 

「今はまだ未完成だって言ってるけど、あれは相当凄いバンドになると思うだよな〜」

あまり挑発はしたくないが、これで掛かってくれ……。

 

「私達Roseliaを超えるとでも言いたいのかしら?」

「ちょっと、友希那」

立ち上がる湊を、抑えようとする今井。が、見事に目的は果たせた。

「Roseliaって言うんだな、湊のバンドは」

「しまっ……」

話さないと言っていたのに、自分からその名前を出してしまい慌てて口を紡ぐ。

「朱那、やり方が何か詐欺師だよ」

「おい、こら。普通にそこは『言葉を巧みに使っている』で良いの」

時々お嬢様は手厳しいんだから。まぁ、それは良いとして。

「Roselia……、Roselia……。Roseで薔薇と、Liaか……」

湊が口にしたバンド名を聞いて、少しだけその意味を考えてみた。

 Roseが薔薇なら、繋がるのは花の名前のはずだから……。

「Roseで薔薇、LiaはCamalliaから抜いたんだろうな。ちなみに、Camlliaは椿だな」

 

「……」

 

 名前を聞いて大まかな意味を予想してみたのだが……、何でそんな驚いた目で見てるんだ?それに急に黙らないでほしいんだけど……。お兄さん、怖いんだけど。

 

「俺、もしかして間違えてた?」

恐る恐る口を開くと、湊が答えをくれた。

 

「当たっているわ……、貴方の答えで当たっているわ……」

驚きで肩を小刻みに震わせていた。

 

「はぁ〜、良かった。当たっていたか」

安心して、ほっと胸をなでおろす。

 

「でも、何で分かったのかしら?」

湊が俺の回答への道筋を聞いてきた。

 

「作家をナメるな……、こちとら日々ネタを探してるんだよ……。花言葉とか、雪の結晶の名前とか、神話の類を日々研究してるんだよ。だから、記憶の棚に類似する言葉を引っ張り出して、検索をかけただけだ」

本当は昔見てた特撮のヒーローで、頭の中に地球の記憶が詰まったキャラが居てそれを真似しようとしているだけなんだが。

 

「「「「「凄すぎ(る)《るわ》……」」」」」

一気に俺に視線が集まってくる。

「日菜、君の執事は本当に凄いな……」

瀬田に褒められると、顔が良い分何かムカっとするが、悪い気はしない。

「日菜さんが連れてきた人だから、多分凄い人だと思ってましたけど。こんなに凄いんだんて!」

大和は目を輝かして見つめてくる。この子には今度何か奢っても良いかな、と密か思ってしまった。

「そんなに褒めるな……、日々研究をしてるって言っても、ほんの少しだけからな」

あくまでも、キャラの設定づくりの際に必要で調べているに過ぎないんだから。

「本当に、真剣にそれに向き合ってやってるやつには到底敵わないよ……」

消えるような声で呟く。

「それでも……、そうやって仕事の為だからって、色んな知識を学んでいるのは凄いと思いますよ」

優しく、温かい微笑みを見せる大和。

「そう言ってくれると、頑張れるね……」

こうして偶にで良い、影で頑張りを認めてもらえるのが嬉しいな。

 日菜達と話をしていたら、昼休みの終わりを告げる予鈴鳴り響いた。鐘の音を聞いて席を立ち、

「それじゃ、俺は先に帰らせてもらうわ。この後も、別の人の所に呼び出しくらってるから」

教室を出ようとする。

「え〜、もう帰っちゃうの。まだ居てよ〜、ねぇお願いだから」

教室の扉に向かおうとした数秒で、日菜が早速駄々をこね始めた。

「どこに行くの?時間は?時間があるなら、私と居ようよ」

「いや、日菜。私達だって授業があるんだから」

「じゃあ授業参観みたいに、後ろの方で見ててくれれば良いから」

「日菜さん……、さすがにそれは不味いですよ……」

みんなで日菜を止めようとするが、一向に俺を離してくれる気配がない。

「はぁ……」

思わず深い溜め息が出てくる。

 このまま残って遅れれば、確定路線で怒られる上に何されるか解らないし。かと言って、日菜を置いって行って授業をちゃんと受けなかったらな……。頭を悩ませに悩ませていると、

 

「だって朱那を行かせたら、何かまた浮気しそうな気がするし……」

 

 悩んでいた内容が、白紙状態になるような発言をしてきた。

 

「だから何で浮気になるんだよ」

確かに、これから行く所は俺の専属のイラストレーターさんの家ですよ。一応、女性です。

「何かよく分からないけど、感じるんだもん……。行かせたら、浮気するって……」

「どんな感だよ!当たるのか、その感は?」

日菜の感がそんなに当たるはずは無いとしんじ……。

「日菜の感って、中々当たるよね」

「そうね、前にリサに『自動販売機でジュースを買ったら、当たってもう一本出るよ』と言った日には、当たっていたもの」

「そういえば、『彩ちゃん、今日は遅刻してくると思う』て言った時に、本当に彩さん遅刻してきました」

「確かに、日菜が『今日は良いこと有るよ』と言ってくれた日には、千聖が調理実習で作ったクッキーをくれた事があったよ」

嘘でしょ……、何でそんなみんなの未来が当たってるの?え、どうゆこと?エスパー的な?

 

「てことは、日菜が『浮気』って言うんだから……。漆月さんが会うのって」

今井さん、それ以上は言わないでほしいな。君は、きっと優しいから言わないでくれるよね?

 

「同業者で女の人の所ですよね」

うん……、ありがとう。ちゃんとフラグを崩してくれたね。

 

 今井がまんまと言い当てるので、日菜の顔を直視できない。ぷいっと、顔をそらしていると腕をガッシリと掴まれていた。

 

「ねぇ?何で、ワタシの方をミてくれないの?」

背中をぞくりと、不穏な空気が駆け巡る感覚がする。

 

「質問してるんだよ?ワタシは、朱那にシ・ツ・モ・ンしているんだよ?」

怖すぎて顔を見れないけれど、今絶対日菜の目がブラックホールに占拠されいるよ。そして何よりも、手が痛いんですけど。力がだんだんと、入って!痛いたいい!

 

「分かったから、話すよ。イラストレーターの所に行くの、歳は俺と同い年の……女の人だ……」

 

「ふ〜ん……、やっぱり浮気だ……」

 

「待ってよ、これだけは言っておくぞ。アイツと俺にそんな関係はまず無い。多分、この世界が宇宙人の侵略で襲われても、エイリアンを狩るために現れた地球外生命体に遭遇して殺されかけても、そんな関係になることは在りえないから!」

キッパリと断言した。本当に仕事での関係以外に何も無いんだから。

 

「じゃあ、その人の所に行くなら。私も連れて行ってよね」




『茨姫』を出そう、出そうと思ってはいるんです……。
けどタイミングが合わなくて、本当にごめんなさい。
今回は前回の後半で見せた日菜のヤンデレモードが大分と色濃く出てきました。
朱那は一体何度日菜ちゃんに浮気を疑われるのだか……。
そのうち、監禁されて大変な目に遭いそうですね。
今回も閲覧いただきありがとうございました。
感想などお待ちしております。

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