執事が大好きなお嬢様は、どうにかして執事に構ってもらいたい。   作:龍宮院奏

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第19話作家は二人のお嬢様の運命を繋ぎ合わせる。

「じゃあ、その人の所に行くなら。私も連れて行ってよね」

日菜の宣言を理解するのに、一体どれだけの時間を有したのだろうか。実際は、ほんの数十秒だけど。

「遠回しに俺に死を選べと言っているのか……?」

日菜はアイツに会ったことが無いからそんな事を言えるが、ただでさえ厄介なのに……。

「悪いことは言わない、やめておけ……。というか、やめてくれ……」

「何で、どうして連れて行ってくれないの?」

止めようと、それでも付いて来ようとする。

「理由は2つ。まず、お前がアイツと喧嘩してみろ。俺は金輪際仕事は出来なくなる」

「何で仕事が出来なくなるの?」

「アイツに神的イラストを描いてもらえなくなるから……」

アイツのイラストが無いと……。

 

「でも……、もし朱那が作家を辞めても家で執事として働けば……」

そんな日菜の提案を遮るように、湧き上がる怒りを押し殺し睨みつける。

 

「俺は作家なんだよ……。本来の仕事は物語を生み出していくこと、それが俺の仕事であり誇りなんだよ。それを簡単に辞めたくないんだよ……」

静かに、ただ思いを呟く。俺の思いは譲れないんだと。

 一度深呼吸をして、気を沈めて次の理由を話す。

「次に、アイツは滅多に人に会おうとしない。何故か、自分の興味を示したもの以外は邪魔なんだと」

「どういう事?」

「『作品を描くのに、有象無象の音が聞こえるだけで集中できない』、『好きなもの以外が、私の世界に入ると吐き気がする』って言ってるが、簡略すると『仕事の邪魔が入るから、人と関わりたくない』、『嫌いな物があると、仕事に集中できない』と俺は解釈してる」

仕事は完璧で、誰もを魅了する作品を描ける。その反面で好き嫌いが激しく、徹底的なまでに人を物事を選別していく。

「何で人嫌いなのに朱那には会うの?」

日菜の質問の意味が理解できなかった。理解した、自分ではそう思えるもはっきりと答えは出てこなかった。

「仕事の関係だから?」

唯一思いついた答えがコレだった。もし他に理由が有るとしても、それはアイツの気まぐれな心に聞かないと分からない。

「絶対なんかある……」

信じていないようで、じっと見つめてくる日菜。

 きっとこのまま話し合いを続けても、お互いに引く気は無いのだから意味がないか……。なら、聞くしか無いか……。

 

「この学校って、屋上に入ることは出来るか?」

 あまりにも、先程の重苦しい会話とはかけ離れた会話に唖然とする。

 

「あるけど……」

「じゃあそこで、電話して聞いてみるよ。それでアイツの許可が降りれば付いて来てもいいけど、駄目なら家に帰ること」

一度は行く前に連絡をする必要は有ったのだ、だからその時に聞いてしまえば良いだろう。

「分かった。ちゃんと電話で聞いてくれるなら、結果はちゃんと認めるから」

日菜も、ようやく納得してくれたようで掴んでいた手を離してくれた。

 

「あ、そうだ。お前達も来るか?もし日菜が行くってなったら?」

この提案は、少しだけ無理があったかな?かなり無理があったの方かな?

 

「「「「え?」」」」

全員が驚きの声を上げる。

「だって……、漆月さん今あれだけ揉めてたのに」

「自分たちが行ったら、やっぱり迷惑なのでは……?」

今井と大和は遠慮していたが、湊と瀬田は黙っていた。

「向こうにしては、大変迷惑この上ないのだけれど……」

「なら、尚の事私達は行かないほうが……」

今井が最もな事を言ってくる。

 

「俺がアイツと何かあった時、日菜を一人にしておくのも不安なんだ……」

要するに、日菜の……。

「待ってよ!朱那さ……、それって……」

俺が今から何を言うのか察したのか、慌てて口を塞ごうとをする。

「ストレートに言えば、監視役。オブラートに包んで言えば、保護者役が欲しいんだ……」

口を塞がれる前に、何とか言うことが出来た。あ〜、悪かったって。だから、胸の辺りをポカポカ殴るな。

「どういう事ですか?」

大和が不思議と言わんばかりの表情で尋ねる。

「繰り返すようだが、俺とアイツが何かあった時、例えば喧嘩だの、部屋の掃除だの、飯を作ったりだの。何だかんだで日菜にかまけてられない時にだな」

日菜の頭を撫で回しながら言うと、張り詰めていた空気が和らぎだし、全員の顔に笑みが溢れる。

「でも、喧嘩とか分かるんですけど……後半は……」

笑いを押さえながら今井が質問する。

「あぁ、それはだな……。もし行くことになったら分かるよ……」

苦笑混じりに言うと、およそ予想がついたようで何も言わずに頷いてくれた。

 

 話を続けていたら、予鈴が鳴ってから時間が立ってしまっていたようだった。時計を見て、みんな慌てて動き始めた。

「じゃあ日菜、ちゃんと聞いてくるから。授業、真面目に受けるんだぞ」

「分かってるもん、寝ないで授業受けます〜。るんっ!て来れば……」

「おっと、最後は聞き捨てならないぞ〜」

授業を寝てサボろうとする困ったお嬢様の両頬を、手でむぅっと押さえつける。頬が唇の方によって、見事なアヒル口お嬢様の完成。

「むぅ〜、はばして〜」

口元を押さえてるから、ちゃんと喋れなくて変な喋り方だな。

「じゃあ、ちゃんと授業に参加して来なさい」

「ぶぅ〜だ、しゅにゃのぶぅ〜だ」

反省する気も内容で、アヒル口で反抗を続ける。

「言っておくが、今井から後で聞くからな、瀬田にも。嘘着いたら、連れてかないからな」

「私に聞くんですか?」

「待ってくださいよ、そんな……」

責任重大な任務を言い渡され、慌てる今井と瀬田。

「協力してくれたら、美味いもん奢ってやる。何でも良いぞ、お菓子でも、レストランのフルコースでも」

「日菜が授業を受けているの見張るだけで、そんなに奢ってくれるんですか?」

「心の懐が大きい人だ……儚い……」

提案に多少は揺らいでいるようだった。

「ちょふぉ!りひゃちぃ〜、かおりゅくんまで〜」

これには日菜も、しょんぼりしていた。

「ハッハッハ〜、これが売れっ子作家の力なのだ〜!」

大人気もなく高笑いをしてしまう。

 

「あの〜……、時間大丈夫ですか?皆さん?」

大和が青ざめた顔で指をとある方へに向けていた。指差すを方には、教室の壁に掛けられた時計で……。

 

「友希那、次の授業の開始時刻って……」

今井が当たって欲しくないと願うように、湊に尋ねてる。

 

「たしか……、今から一分後のはずよ?」

湊は慌てることもなく落ち着いているが……、答えを聞いた残りのみんなは凄い勢いで荷物を纏め、机を元の位置に戻し始めた。

 その早さ何と、目測15秒!女子高生って、どこかの『俺は天の道を行く』さんよりも早いのでは?と思うほどに。それにしてもだ、湊よ。お前も見てないで、動きなさいよ。

 

「よし、片付いた」

片付けを終えた今井が額を拭う。

 

「ほら日菜、教室行くよ!」

今井に手を引かれる日菜。

「え〜、嫌だ〜。あ、ちょっと待ってよ!」

今もなお授業を受ける気がないようなので、日菜が引っ張られると同時に顔から手を離した。

「薫は反対側を持って、これじゃ日菜がまた暴れるから!」

何かスーパーとかでよく見る、オモチャが欲しいけど買ってくれないから駄々をこねるも、母親に連れて行かれる……。

「全く世話の焼ける子猫ちゃんだ……」

瀬田の方も日菜の教室への連行を手伝っているが、明らかに日菜が暴れるせいで大変な事に成っているが……。

 

「ほら、湊さん。自分たちも行くっすよ」

「仕方ないわね」

こちらも大和に言われて、嫌そうに動き始めていた。

 

 教室から出た瞬間にチャイムが鳴り響いた。廊下に出ていたので、日菜が最後まで抵抗しているのが見えたけれど、

「気のせいにしておこう……」

考えると頭が痛くなりそうなので、屋上を目指すことにした。

 学校の見取り図が書かれた紙が無いかと廊下を歩いていると、先程のサイン会・暴動で顔を覚えられたらしく、扉の窓から顔が見えたのだろうか、毎度どこかを通る度に悲鳴が聞こえてくる。

「はぁ……、やっぱり来るんじゃなかった……」

溜め息が溢れるも、それもまた悲鳴で掻き消された。

 やっとの思いで屋上に続く階段を発見し、静かに過ごせることに安堵していた。扉を開けて屋上に入る、風が吹き初め肌寒かったが落ち着く。

 授業の邪魔にならないように、そっと扉を締めて給水塔の辺りに腰を掛けて、

『あら、アカ月先生じゃない。どうしたのかしら、今になって?』

俺の《別のお嬢様》に電話を掛けるとワンコールで繋がった。でも、声の様子からして、メチャメチャ不機嫌そうだった。

「あの、まずは謝らせて欲しいのだけれど……」

『嫌よ。貴方、自分の立場が理解ってるのかしら?何さらっと、どこぞの小娘の執事になってるのよ』

「……、ごめんなさい」

『そんな言葉で許してもらえるとでも、随分と軽く見られたものね』

素直な謝罪がさらに怒りの導火線に着火したらしく、

『大体ね、私という高貴なる存在が居ながら、何でそう……』

怒りは静まるどころを知らないようで、ずっと怒られ続ける。返事をしたら怒られるかなと思って返事をしなければ、それはそれで怒られて……。もはや理不尽だった……。

『はぁ……、まだ言いたいことは有るけど。それは会って直接言うわ、で、何の用なの?』

ようやく話を聞いてくれるのか……、でも後で怒られるんだ……。

「いや、出来なかったキャラの打ち合わせをしたいなと……」

最初から言いたかったことをようやく言えた。

『……、私が嫌だと言ったら?』

以外に即座に断られると思っていたのだが、少し間を置いてから返事が来た。

「何でも言うこと聞くのでお願いします。後、雇い主のお嬢様も連れていきたいです……」

『ほう……、頭を下げてお願いしておきながら、他の小娘を連れていきたいですって……』

向こうの怒りが、電話越しでも分かるくらいに強くなってきている。

『……、良いでしょう』

以外過ぎる反応に耳を疑ったが、

『但し、何もなしに承諾する気は無いけれど。今から言う条件を飲みなさい……』

やはりそう簡単には上手くいかず、でも条件付きでもまだ良かった……。良かったのだけれど……。

 

 放課後、長い屋上生活を終えて日菜に電話を掛けようとしたその時、

「朱那〜!ちゃんと授業受けたよ!私頑張ったよ!ねぇ、褒めて褒めて」

扉が開いて僅かコンマ数秒で抱きつき、抱きついた勢いで倒れ込んでしまった。自由過ぎる行動に、日菜の前世は猫なのかと思えてくる……。頭痛い……、お腹痛い……。

「偉い、偉い……。よく頑張りました」

退いてくれる様子が無いので、とりあえず頭を撫でる。

「ふぁ……、気持ちぃ……」

「変な声を出すな……」

こんな所、他の奴らに見られたら誤解を……。

 

 突き刺さる視線が降り注ぐと思ったら、無情にも今井達が居たのだった。

「えっと……、お邪魔しました……」

開けた扉を閉めて、その場で見たものを忘れようと離れようとするので、

 

「ち、違うんだ!これは、日菜が!」

誤解を解こうとするも、日菜が抱きついて離れない。

 

「漆月さん、お幸せに……」

何か悟りを開いた様に、満面の笑顔を浮かべて帰ってしまった。

 

 扉が無情にも閉まり、再び日菜との二人きりになる。

「なぁ……、日菜……。お前の所為で、社会的に死にそうなんだけど……」

諦めて日菜を抱き寄せ、頭を少し雑に撫でる。

「日菜ちゃん知らな〜い。朱那は私の執事だから、私は朱那にこうして抱きついても良いの」

幸せそうに抱きつきながら、マーキングされるかの様に顔を擦り付けてくる。

「そんなものか」

「そういうもの」

何故か笑いが溢れ、日菜を抱きしめ、朱那抱きしめる。

「連絡の結果……、聞きたいか?」

「聞きたい。どうなの?どうなの?」

「条件付きで許しが出たよ、時間に来ないと俺に明日は無いって言われたけど」

「やった〜!これで朱那が浮気してないか、ちゃんと確認できる!」

一体どれだけ心配なんだよ……。

「じゃあ行くか?」

「うん、行く」

日菜が俺の上から動き、体が開放される。

 夕暮れに照らされる屋上を後にして、これからもう一人の『お嬢様』に会いに向かうのだった。




お久しぶりです。
他の連載作品を書いていたり、別の案件で短編を書いたりしていました。
遅くなって、すみません。
しばらくぶりに書いたので……、どうですかね?雰囲気変わってますか?
短編がバトル物で、日常系のタッチを思い出すのに時間が掛かりそうです。
頑張って、今までの感覚を取り戻し!今まで以上のクオリティを出したいと思います!
今回もご閲覧いただきありがとうございます。
感想などがあれば、お待ちしております。

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