執事が大好きなお嬢様は、どうにかして執事に構ってもらいたい。 作:龍宮院奏
クリスマスの意味も込めて!
短編で、少しばかり長いですがどうぞ。
番外編 お嬢様は少しは構ってもらいたい。
日菜の専属作家兼執事として雇われて、だいぶ仕事にも馴れてきたとある日の休日。
「今日は一日中お仕事で帰ってこれないから、寂しくなったら連絡してね!それと……、私以外のオンナとなにかシナイデネ……。じゃぁ、行ってきま〜す」
「しないから、ほら行ってらっしゃい」
日菜が仕事の都合で、まる一日家に居ないという日が出来たのだ。
最初は『行きたくない』と駄々をこねていたのだが、俺と氷川姉の説得でどうにかして仕事に行かせた。
どうやったか?俺が今書いている『ロリと暮らす 転生活』の番外編と、新作の読み切りを書いてやると言っておいたのだ。これで三時間の説得が、三秒で終わった。あの時間は何だったの……、と氷川姉と頭を抱えていた。
それにしても、日菜を送り出してから一分も経っていないのだが……。
「静かすぎる……」
いつもはどこかで、何かを弾いているのかギターの音色や、俺の新作が読みたいと部屋で泣きわめいていたので、家の中に日菜の声や物音が無く、静まり返ると逆に違和感にしかならなかった。
しかしながら、やるべき仕事は山のようにある。
先日の『茨姫』との打ち合わせで考えた新キャラの設定づくり、その新キャラをどの様に物語に組み込むのか、今日の昼は何しようか、とか様々なのだ。
「取り敢えず……、新キャラでも考えるか……」
部屋に向かって行く途中、氷川姉の部屋の扉が少しばかり開いていて、そこから流れるギターの音色に興味がわき聞いていた。
「何かようですか?」
扉付近で聞いていたのが氷川姉にバレて、こっちにやって来た。
「いや、偶々通りかかった時に、カッコいいギターの音色だったから。つい聞き入っちゃったんだ、邪魔だったよな」
慌てて部屋の前から立ち去ろうとした時、
「待って下さい」
氷川姉に手首を掴まれて、行くのを止められた。
「貴方、今私のギターを勝手に聞いていたんですよね?」
おっと……、これは怒られるパターンか。顔から既に怒りのオーラが滲み出ているような……。
「であるならば、それ相応の代価を払ってもらわないと」
あれ、怒られないの?というか、なんて言った?
「ですから……、私のギターを勝手に聞いた代価を払って下さい」
「うん、それは分かった。分かったけど、怒ってないの?」
思わず口に出してしまった。
「私にそんなに……、怒ってほしいとでも?」
氷川姉の顔が、新井さんの鬼の形相の様になっていく。でも、氷川姉の方がまだ怖くないかも。
「いえ、怒らないでいただけると」
こういう時は、早めに謝っておいた方が断然良いのだ。
「なら、そう相手を怒らせるような発言は控えて下さい」
「はい……」
女子高生に怒られる、御年23歳の作家……。
「それで、その’’代価’’は何で支払うんだ?まさか……恐喝……」
「しません!私はそんな事しませんから!」
「じゃあ何だ?俺が嫌いなホラー映画を見せて、泣き叫ぶ姿が見たいのか!」
本当にホラー映画無理……、初めて見たやつがトラウマで……。思い出したくない……。
「それは、多分日菜が見たいと思います」
「あ〜、確かにな……」
絶対あいつ、俺の泣き叫ぶ顔見て笑ってくるんだろうな。
「そうか、これじゃないか……。じゃあ何だ?」
「はぁ……、ようやくこれで話せます。そのですね……、私の、か、買い物に……」
「ん?何だ、よく聞こえないんだが……?」
「だから、私の買い物に付き合ってほしいんです!」
「あ、買い物か。良いぞ、どこに行く?商店街?それとも新しく出来たショッピンモール?」
買い物に付き合うだけで、怒られないなら何処にでも着いて行くぜ!
「え、あ……はい。その新しく出来たショッピンモールに……」
あれ?何か顔が赤いが……、まぁそこは女子特有の何かなんだろう。
「了解、それじゃあ準備してくるから。今から30分後位か?」
「それで問題ありません、今から30分後に玄関で」
「あいよ、それじゃ」
時間を決められたので、服などの準備をするために自室に向かった。ちなみに、屋敷内では基本ジャージだ。
「誘ってしまった……」
まさか、こんな事で誘う日が来るだなんて……。でも、これは逆に好都合なのでは。日菜が居ない今なら……。
「はぁ……、私だって……」
集合時間もあるから、時間は無駄に出来ない。
クローゼットの扉を開けると、ハンガーで吊るされいる服が沢山あった。
「折角ですし、何を着ていけば……」
普段は自らが模範となるような服装を心がけているせいか、こういう時どんな服装をすれば良いのか、いまいち解らない。
「仕方ない、こういうのに一番詳しそうなのは……」
自分の行動が日菜にバレしまうかもしれない危険を考え、あまり気乗りはしないのだけれど。
『あ、もしもし?紗夜?どうしたの、電話なんて珍しいけど』
「もしもし今井さんですか。実は少々聞きたいことがありまして……」
同じバンドメンバーで、一番この手に詳しい今井さんにアドバイスを貰うことにした。
「時間には間に合ってるよな」
部屋で特に持ち物という持ち物は無いのだが、財布やスマホ、あと偶発的に思いついたネタをメモする手帳をいれた斜めがけのバックを持って氷川姉が来るの待つ。
「お待たせしましたか?」
氷川姉が来たようで、スマホから顔を上げる……。
「ど、どうかしましたか?」
動きが突然として止まった俺を、不審に思って声を掛けてきた。
「いや……、その綺麗だなって……」
普段は長く艷やかな髪をストレートに肩にかかる位に伸ばしているのが、今日は結っていた。もう一度言うけど、結っていた。
髪を頭の一地番上より少しばかり下の所で結んでいるため、綺麗な首筋が見えていて、健康的な肌の血色の良さが際立ってより綺麗に見えた。
服は淡い青色のロングのワンピースで、腰の辺りをベルトのアクセサリー?を身につけ、少し厚手の上着を上から羽織っていた。
服に関しては、新井さん達に教えてもらっているのだけど……、全然分かりません。
「そ、そうですか……。それは行きますよ」
氷川姉は来て颯爽と靴を履いて、扉を開けて家を出ていってしまった。
「綺麗ですか……ふふ……」
置いていかれない様にと、自分も慌てて靴を履いて玄関の鍵を閉めて氷川姉の後を追いかけた。
電車を乗り継ぎ、新しくできたショッピンモールに着いた。休日であるから、家族で来ているのが多く見えた。
「なぁ、氷川姉よ……」
「何ですか、いきなり?」
到着して早々に氷川姉に、くだらない質問を投げかける。
「何でこういう所はさ、カップルが多いんだ?」
さっきからさ、家族連れが見える中で色んなカップルがイチャコラしているのが目に止まって、腹だたしい思い出いっぱいだった。
「それは映画館などの娯楽施設があったりするからなのでは?」
少し考えてから真面目に答える氷川姉。
「いや、そうなんだけど……。そうなんだけど!だとしても異常だろ、この人数は……」
はぁ……、彼女居ない歴=年齢の俺からしたら羨ましさの極みだ。
「貴方、自分の作品で散々と言っていいほど、恋愛を題材にして書いてませんでしたっけ?」
「うん、それは言わないで……。あれ、基本ゲームとかアニメとかでの、自分のいたい理想みたいなもんだから……」
あれ?今、氷川姉『恋愛を題材に』って、
「氷川姉、お前もしかして俺の本読んでるの?」
頭に過った疑問を口にする。すると、ビクっと肩から跳ね上がった様に見えた。
「な、そんなわ、わけないじゃないですか。日菜が、やたら話しかけてくる内容が『叶恋シリーズ』についてのものでもなければ、今井さん達が『今日のこの空は何色』について話すから、会話を保つために読んだことなんて一度もありませんから」
怒涛のごとく否定の言葉が陳列していったが……、読んでいるで良いんだよな?多分?
「そうか……、読んでないなら今度時間が有る時に読んでくれ……」
氷川姉は否定しているようだし、これ以上は言わないでおこう。
「時間があればですよ……」
何だかんで、素直じゃないかわりに聞いてくれるんだよな、人の話し。
「それで、今日は何処を見て周るんだ?」
「そうですね、今日は楽器屋で新しいエフェクターが入荷したようでそれを見たいと思ってます。それと、幾つかお店を見て周りたいなと」
「なるほど……。それじゃあ、俺はそれに着いて行けば良いんだな」
「荷物などが出た時は、お願いします」
まぁ、執事だからそりゃ荷物持ちとかだもんな。
「そんときは任せておけ」
と軽口を挟みながら、楽器屋を最初に目指した。
楽器屋着いて、新しいエフェクターを見ている最中、あの人はまるで子供の様な反応で楽器を見ていた。
「なぁ、氷川姉。あれ、あのギターカッコいいな!あ、あれもカッコいいぞ!」
何かを落ち着いて見ていると思えば、全く違う楽器を見ていたり、譜面の書かれた本をパラパラと捲ったりしたり、
「全く……、落ち着きが無いんですから」
溜め息をつきながらも、そんなあの人の行動に目がいってしまう。時折、立ち止まって何かを真剣にメモをしているのが見えて、こんな時でも仕事の事を忘れては居ないんだと感心した。
選んだエフェクターを買う前に、お店の人に頼んでギターを借りて弾いてみた。弾いてみると、今までに無い力強い音、歪んでいながら綺麗な音色が出せる物だった。
「これは……、中々に良いですね……」
値は少し張るが、これから節約をしていけば大丈夫だろう。
レジへ向かう前に、一度あの人と合流しようと店内を捜索すると、何かを見つめて立っていた。
「買う物が決まったので、これから買うのですが」
声をかけると、心ここにあらずだったようで、
「あ、あぁ。氷川姉か……、決まったのか。どれを買うんだ?」
一瞬だけ驚いた様子だったが、すぐに何時ものように戻った。
「これを買おうと。とても良い音色がだせて、演奏技術の向上にもなりそうなので」
「そうなのか、じゃあこれで聞いた氷川姉のギターはもっと凄いんだな」
無邪気な笑顔を浮かべて、私の手からエフェクターを取り、
「こういうの、意外と値が張るだろ。だから、今回は俺に買わせてくれ」
そう言って、すぐさまレジに向かって購入してきたのだ。
「ちょ、そんな良いんですか?だって、これは私が使うもので……」
慌てて代金を出そうと財布を取り出そうとすると、
「そうだな……、じゃあ『氷川姉がカッコいいギターを弾いくのが見たい』って事で、俺が必要だから買う。なんて理由はだめか?」
理由を聞いて呆れている自分と、どこか嬉しいと思う自分が存在して複雑な気持ちに思えてきた。
「そんなに私のギターが聞きたいんですか……?」
思わず聞いてしまった。
それを、
「聞きたいな、だってあんなカッコいいのが間近で聞けるんだから!」
回答するのに、考える時間を有さず即決で答えてきたのだ。
「そ、そうですか……。それなら……、有り難く頂きます……」
この人と居ると自分のペースが乱される様な気もするのだけれど、ここまでハッキリと言ってくれると、逆に気持ちが良いくらいだわ。
やっぱり……、この人は……。
「これから暇があれば……弾いてあげるので……」
「楽しみにしてるぜ、氷川姉よ」
この人の笑顔が……。この時少しだけ、私の胸の中で黒い何かが渦巻いていた。
楽器屋で氷川姉のギターのエフェクターを買ったあとは、自由気ままに色んなお店を渡り歩いていた。本屋で立ち読みをしようとして、氷川姉に怒られたりもしたけど。雑貨屋では、真剣に犬の小物を見つめていたりと、普段は厳しい表情が多い氷川姉もやっぱり普通に女ん子だと思えた。
「すまん。俺買うもの有るから、ここら辺で何か見てて」
「分かりました」
氷川姉も雑貨屋で犬の小物以外も見ていたので、その空きを狙って先程見ていた小物と日菜のお土産を買っていく。
日菜のお土産には、日菜がどこか猫っぽいので猫のキーホルダーを買っておいた。
「これで今日の事聞かれても、大丈夫なは……」
「あれ、お譲さん?もしかして、一人?」
「僕たちとさ、折角だからお茶でもどうかな?」
「いいえ、結構です。私は人を待っているので」
氷川姉が所謂ナンパに絡まれていたのだ。
「良いからさ、ちょっとくらい遊ぼうよ」
二人組の男の一人が、掴みかかろうとしたのを、
「おい、家のお嬢様に手を出してんじゃねぇよ……」
自分でも驚くくらい、ドスの効いた低い声で男を威嚇した。
「うんだよ、おじさん。俺たちは手なんか出してないよ?」
「ただ、ご丁寧に誘っているだけなんですけど?おじさん、馬鹿なの?」
男たちはこちらを見て、笑っていた。それでいて、氷川姉の側を離れようとしなかった。
「もう一度だけ言う……、家のお嬢様に手を出してんじゃねぇよ……。この腐れ外道目が」
この『腐れ外道目が』に反応した男たちは、
「うんだと……、このクソジジィが」
「痛い目に遭いたいようだな」
片方の男が殴りかかってきた。が、その拳は空を切るだけであった。
「てめぇ……」
殴ろうとした男は腹のど真ん中を全力の回し蹴りを受け、その場で崩れ落ちていった。
「警告はしたのに……、はぁ……。こんな腐れ外道のせいで、服が汚れるだなんて……」
ズボンについた埃を払い、もう一人の男の方に近づいていく。
「く、来るな……、来るな!」
先程の男が倒れたのを見て、怖くなったのか腰が抜けてへたりこんでいた。
「最初に言っただろ。家のお嬢様に手を出してんじゃねぇよってな」
そう言って、男の顔に寸止めで蹴りを繰り出す。
「分かったら、消えな……」
「ひぃ……」
慌てて倒れた男を背負って逃げ出していった。
「あ〜、ビックリした。大丈夫だったか?というか、何であの場に居ないんだよ」
氷川姉を心配しつつ、少しだけ怒った。
「大丈夫です……、けど今のは……」
普段のだらしない姿や、先程の楽器店での様子では考えられなかった。
「まぁ……、気合だな、気合」
笑って誤魔化しているが、気合であんな風になるものなのかしら。不思議に思っていたが、『ぐぅ〜』と大きなお腹の音が鳴り考えが消えてしまった。
「お腹減ったな……、ご飯食べたいのだが?」
「はぁ……、良いですよ。そんな大きな音を出されて、お店を見ていたら『何も食べさせてないの?』と見られてしまいます」
「そこまで言うのかよ……」
と、しょぼくれてしまった。
「取り敢えず、何処に行きたいんですか?」
「俺の食いたい物でいいのか……?じゃあ、あの店だな」
指を指す方向には、私が一人でポテトを食べに行くお店の別店だった。
「あそこのポテトが何気に好きで、って氷川姉よ、黙って先に行くなよ」
黙って先に行く氷川姉が一瞬こちらをみて、『早く、ポテトが食べたいの!』と訴えてるような気がした。
「そうだ、氷川姉はポテトフライ好きだったな……」
そう思うと、お店のチョイスは間違っては居なかったようだ。
昼食でポテトを食べている氷川姉を見ていて、あまりにも大事そうに食べるので今度家でどうにかして作ることを考えたのであった。
お昼を終えて、『何か見たいは場所はあるか?』と聞かれて、特に思いつくものも無かったので無いと言った。それを聞くと『今度は俺が見たい所に付き合ってくれるか』と言うので、それに着いて行くことにした。
着いて行くと、あまりにも予想外で驚いた。まさか、宝石の工芸品を扱ってるお店にくるなんて。
「これ綺麗だな……」
スノードームの様な小さな置物を見たり、瓶に入った宝石の置物を愛おしそうに眺めていたのだ。
「もしかして、こういうのが好きなのかしら?」
思わず、商品を眺めている執事に声をかける。
「好きだよ……、綺麗だし……。何よりも、見てると心が落ち着くから好きなんだよ……」
「へぇ……、確かに綺麗ですね……」
瓶の置物を手に取ると、『逆さまにすると、景色が変わります』と説明書きの札が有るものを見つけ、逆さまにしてみた。
すると、液体の中に浸かっている小さな宝石の結晶が、ゆっくりと零れ落ちていくのが幻想的であった。
『星の様に自ら光り輝くのではなく、月の様に光を反射してその輝きで魅了してくるのが良いんだ』と後で私に教えてくれた。
ここでもまた、一点をずっと見つめるものが合ったようで、声をかける前にそれを見てみた。
それは星座のマークが刻印された宝石のペンダントだった。どうやら、普段より値段が安いようで買うか悩んで居るようだった。
「うん……、氷川姉よ。他の店も見てみるか?」
と、悩んだ後に買わないでお店を出ていってしまった。
「あの、このペンダント……」
周りはした、周りはしたけれど、全部は見れなかった。というよりは、見きれなかった。服屋で氷川姉と服について勉強したり、電気屋でパソコンを見たりもした。おもちゃ屋に行こうとしたら、ゴミを見るような目をしたので見れなかったけど。
「いや〜、面白かった。意外と良いかもな、お前と出掛けるのも」
「私も楽しかったですよ、以外に可愛いものが好きだということも分かりましたし」
「う、うるさい。お前だって、ペットショップで犬見てはしゃいでたくせに」
「な、見てたんですか!」
電車を乗り継ぎ、駅から家路に着く頃にはだいぶ仲良くなっていた。
「そうそう、これをだな……」
マイバッグから、袋を取り出して中身を確かめて渡す。
「はいよ、何時も何だかんだ協力してくれたり、お前のギターを聞いて元気を貰ってるお礼だ」
ぶっきらぼうだが、面と向かって袋を渡す。
「そんな、エフェクターだって買ってもらったのに……」
遠慮して受けと取ろうとしてくれないので、
「そっか……、じゃあこれは誰か知り合いにあげるか。折角、氷川姉の好きそうな物だったのに……」
わざとらしいが、残念さを滲み出してアピールをした。
「そんな言い方をしたら、貰わないと失礼みたいじゃないですか……」
袋をさっと奪い取ると、中身を確認し。
「これは……!」
案の定、驚いたようで、良い笑顔をしていた。
「執事はな、仕えるお嬢様の笑顔を大切に守るもんなんだよ」
「何カッコつけてるんですか……、全く」
頭を押さえて、ヤレヤレと左右に結んだ髪を揺らした。
いつの間にか、家についてしまったので鍵を開け中に入る。先に氷川姉が入り、後に俺が入る。
靴を脱いで揃えていると、目の前に小さな袋が置かれた。
「主君は、頑張る配下にご褒美をあげるものですよ」
口元に手を当てて、そっと笑みを浮かべながら、
「今日は本当に、楽しかったですよ」
と言い残し、自分の部屋に帰ってしまった。
唖然としながら、置かれた小さな袋を受け取り自分も部屋に戻った。
「何だろうな、アイツから贈り物だなんて……」
小袋を開けて中身を取り出すと、
「な、アイツ……」
宝石の工芸品店で見ていた、星座のマークが刻まれたペンダントだった。それと一緒に、小さな紙が入っていた。
『これからは、『氷川姉』ではなく、『紗夜』と名前で呼んで下さいね。朱那へ
p.s たまには私の事も、構って下さい……。』
「全く……」
手紙を読んで、受け取ったペンダントを身に着け、
「承りました、紗夜お嬢様」
消える声で呟いた。
同じ様に、紗夜の部屋でも朱那からプレゼントを眺めながら、
「まさか……、こんな風に近づけるなんて」
誰に言うのでもなく、一人呟く。
そして、貰った子犬の小さなぬいぐるみを棚に置いた。その棚には、『うるはら アカ月』の本がずらりと並んでいたのだ。
「私がファンで、日菜と同じくらい……、いえ、私の方がアナタを好きなのだから……」
この時の紗夜の目に光はなく、常闇だけが渦巻いていた。
「誰にも……、日菜でさえも……、邪魔はさせない……。いつか、どれだけ時間がかかろうと……、ワタシのモノにするんだから……」
そう、氷川紗夜は漆月朱那・うるはら アカツキのファンであり、その全てを欲する一人であった。
お気に入り登録をして頂いている皆様、
評価をしてくれ頂いている皆様、
そしてこの小説を読んでくれている皆様、
何時も本当にありがとうございます。
思いつきで始まった小説が、こんなに楽しんでいただけるとは思ってもいませんでした。
今回の短編は、一部は本編へと繋がります。
後は、単に紗夜さんとデートがしたかっただけです。
今回も閲覧いただきありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。