執事が大好きなお嬢様は、どうにかして執事に構ってもらいたい。 作:龍宮院奏
氷川日菜という、名前しか知らない誘拐ファン(誘拐してまで、俺の作品が読みたいファン)の専属の作家になることを約束したわけなのだが…。
「あのさ氷川…?」
ため息混じりにある事を尋ねる。
「日菜で良いよ。氷川だと、家の家族みんなのことを呼んじゃうから」
「あぁ、そっか。じゃあ、日菜幾つか聞きたいんだけど?」
「うん?何、朱那?」
って、俺まで名前呼びかよ。俺のほうが歳上なんだぞ、でも雇い主だから仕方ないのかな。
「俺を誘拐する時に側に居た、担当編集さんの新井さんはどうした?」
起きた時も、新井さんが居なかったから。もしあのままあそこで寝ていたままなら、多分凍死しかけているだろうし。
「……」
すると、日菜は急に黙り込んでしまった。
「あの〜、どうしたんだ?日菜」
日菜の肩に手を掛けようとした瞬間、手首をガッ!と掴まれ、
「何であの人の名前がいまでてくるのかな?」
「え、それはだってあの人は担当編集だからさ」
「でもいまは、ワタシのセンゾクのサッカでしょ……」
「確かにそういう事になったが」
「じゃあ、ワタシイガイノナマエヲダサナイデ……」
先程見せた夜空に輝く一等星の様な笑顔から、全てを飲み込むブラックホールの様な目で見つめてきた。
段々と手を、握る力も強くなってきていて、さっき迄拘束されていたから余計に痛む。
「痛い、痛い…。だって、俺の専属の担当編集だから。あの人が居ないと、進まない仕事も有るし」
それを言うと、今度は足を踏んできた。これはマジで痛い…。
「ダカラ、ナンデ?朱那は、ワタシのセンゾクのサッカでしょ……。だから、他の仕事はイイデショ……」
踏んでいる足を、グリグリと動かしてくる。
「っ、そんなことしたら。『ロリと暮らす 転生活』の続き二度と書かないぞ」
この言葉に日菜はビクッ!と反応し、
「嫌だ〜、嫌だ、嫌だ、嫌だ!続き読みたい、読みたい〜」
とブラックホールをお帰りさせて、元に戻った。
「じゃあ、新井さんがどうなったか教えて。言っとくけど、『ロリと暮らす 転生活』のキャラの衣装の一部は、新井さんがデザインしてくれてるんだから」
「え、嘘でしょ!あんなるんって、きゅんってくる洋服を!?」
「そうだよ、俺じゃレパートリーが追いつかなくて。それに、俺がロリータ服をお店に見に行ったら……」
「あぁ、確かにすぐにお巡りさん来ちゃうもんね。あははは」
言いたいことを言ってくれて感謝するが、笑うなよ……。結構、悩んでんでいるんだから。
それはそうと、本題の新井さんは、
「アノ人なら、今アノ人の自宅で寝ているはずだよ。大丈夫だよ、ちゃんとあの場に残さずに帰したから」
冗談混じりで、そんな事を言っているが、普通にやっていることは犯罪だからな。
誰だよ、ここのお嬢様の躾をしたの。全く…、でも新井さんが無事で居る事が分かって少し安心した。
「はぁ……、良かった」
「むぅ……」
やっぱり日菜は、頬を膨らませふてくれされていた。
何でまだ怒ってるんだか、さっぱりだった。
「あ、後あの、執事っていうのは……」
「日菜!こんな朝早くから一体何をしているのって……」
部屋の扉が勢いよく開き、日菜によく似た少女が現れた。今この時点で見分けを付けるとするなら、日菜はショートカットの髪型。この突然現れた少女は、腰まで髪が伸びたロングヘアーという事。
お互いの視線がぶつかり合い、『誰だ、コイツ』みたいな視線が互いに飛び交う。
「なぁ、日菜。誰?」
「日菜、この不審な男は一体誰なの?」
おぉ、言っている事も被ってきた。以外に通じ合えそうな気がしてきた。
「お姉ちゃん!おはよう!」
「お姉ちゃん!?おい、日菜。どういう事だ、お前」
日菜と先ほど現れた少女の顔を見比べるのを繰り返す。
「言われてみたら、面影はそっくりだな……。てことは姉妹か?」
「うん、双子の姉妹だよ」
日菜は嬉しそうに話しているが、姉と言われて少女はどこか苦しげだった。
「それで、日菜。改めて聞くは、この不審な男は誰?」
扉の方からようやくこちらに向かって歩き始めた。
「この人はね、前に私が話していた『執事』に成ってくれる人だよ」
やはり姉が居るのが嬉しいのか、テンションが高い。
「まだそんな事を言って……、大体こんな木の枝の方が、まだ頑丈そうに見えるこの男が?」
日菜とも、俺とも距離を少しおいた所から、俺を観察してきた。
ちょっと聞きづてならないな……、俺が木の枝以下の頑丈さだと。
「おい、日菜の姉ちゃんだったか。お前、初対面の男に対して言うことが、まずはそれか……?」
「では、どのようにしろと言いたいのですか?私としては、見ず知らずの男性が、自分の家で、自分の妹と朝早く話し込んでいるの見ているのですよ。訳が分からないのに、どうしろと?」
相変わらず、綺麗な顔に似合わず鋭い睨みを聞かせてくる。
まるで、『消え失せろ』と言わんばかりに。
「あ、お姉ちゃん……」
日菜は、姉の味方に付くべきか、俺のフォローに回るかであたふたしていた。
しかし、それもすぐに収まった。ぐぅ〜、と日菜のお腹が鳴ったのだ。
「そう言えば、朝ごはんまだ食べてなかった……」
お腹を擦る日菜。それを見て、
「そう言えば、俺も昨日の昼から何も食べてない……」
自分の腹の状態を思い出す。
「ねぇねぇ、朱那。何か朝ごはん作って、執事でしょ。ねぇ〜、ねぇ〜」
腕を掴み、千切れそうな程に振りまわしてきた。俺の体は、おもちゃじゃ無いから。
「わかった、わかった。じゃあ何か簡単に作るから、キッチンに案内しろ」
「執事が、そんな口調で良いの?」
「何でそう執事にこだわるんだよ、良いだろ別に。俺はお前の『専属の作家』なんだから」
「……」
今、一瞬だけ『専属の作家』に反応したような。
「それでも、今は執事だから。もっと丁寧に聞いてみてよね」
「はぁ……分かりました。それでは……、お嬢様、キッチンまで案内してもらいたいのですが?」
今まで見たきたアニメの執事を思い出して、それぽっくやってみた。
「ぷっ、それが……。ぷぷぷ、まぁ今回は、あははは!面白いよ、朱那それは反則」
お腹を抱えて笑い始めた。
「何だよ、ちゃんとやっただろ。ほら、早くキッチンに案内してくれ」
結構頑張ってやったんだから……、恥ずかしい……。
「はぁ……、面白かった。それじゃ、面白いものも見れたことだし。こっちだよ」
日菜に連れられて、部屋を後にした。
「おい、氷川姉。お前も来いよ」
「何で私まで……?」
「だって心配だろ、お前が知らない男が妹とご飯食べていたら」
「そんな事……ある訳無いわ……」
少し声が震えていた。
「まぁ、来るも来ないも、氷川姉お前の自由だから。ただ、来るなら料理が冷める前に来いよ」
それを言い残し、日菜のあとを追うように部屋を出た。
「全く何なんの……」
でも日菜に何かあったら…、結局心の底では心配でついて行く氷川姉だった。
今回は氷川姉・紗夜さんも出てきて、何かちょっと怖かったですけど。
まぁ、普通に考えたら怖いですよね…。
それと、少しばかり日菜をヤンデレ…ぽくしてみました。
やっぱり独占欲は人一倍強いのかな?
そんなわけで、今回も閲覧いただきありがとうございました。